誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中 作:覚絵テネ
おそらく、羅刹が一方的に四人を制圧している。助けはこない。
「……っ!」
もしや、とバステトは自分に起きていることを推察した。片割れとラットは最初から囮なのでは。バステトをホテルから引きずり出し、残った四人を殺戮するための。そして保険を確保する。確実に数の利を確保する。そうなればバステトを仕留める必要はなくなる。まるで徐々に解体されていく猛獣のような感覚だった。
(何を考えてるか知らないけど、弱みには付け込ませてもらう!)
(えーい、こいつをさっさと対処すればいい話なのでー!)
片割れに飛びかかる。アゴへの一撃で脳が揺れたままだが、運動性能は健在。空気が灼けるくらいのスピードで手を伸ばす。
「ちっ……」
しかし、片割れは両拳を頭上に掲げ、触手のようにゆらめく構えでブロック。そのままバステトの右頬にカウンターパンチを叩き込む。羅刹直伝のこのゲームに最適な防御法。
「ーーーっ!」
二連続、攻撃がバステトにヒット。キレイな顔に容赦なく打ち込む。バステトはさらに脳を揺らされながらも、距離をとっての仕切り直しを許されない。何処からか銃が彼女を見つめているのを感じる。
☆
「バステトの攻略法…いや、弱点だね。まず〈銃弾回避〉。異常な反射神経と動体視力のせいでおじさんたちの予測込みのものとは別物。でも、視界内の銃弾しか対処できないと思う。狙撃手の位置がわからなきゃ、相当集中しないとダメだろーね。」
☆
思った通り、バステトは踏みとどまり、片割れとインファイトを続ける。
(だよね、狙撃を避けるなら私と密着するしかない!)
ウサミミめがけ、空気を割く異音が何度も響く。本来なら反応できないスピードだが、ガードを貫通するには至らない。かといってボディーを狙っても、片割れの強靭なタフネスは多少のダメージはものともせずカウンターを打ち込んでくる。
☆
「あと、スピードはあるけどパワーはそんなに。密着すれば押し込めるはず。」
☆
ラットは、なんとか戦いに脳を移し替える事に成功していた。風向きを補正し、バステトに狙いを付ける。アドレナリンが致死量寸前まで放出されていた。その狙いに寸分の狂いもない。一瞬でもバステトが距離を取れば、その瞬間に引き金を引く。
((やれる……やれるぞ!))二人の心は良くも悪くも一致していた。
バステトが縛りをやめ、背中に隠していた銃を抜こうとする。柄に手をかけようとして、躊躇ったその瞬間だった。突然空中から現れた拳がバステトの腕をえぐった。パワーの込められた一撃は、左関節を粉砕する。
(……な……今のは。ああ、わたくしのことを良く知っておられますね!?)
あえて、ゆっくりの一撃だった。
これまでの高速戦闘にくらべれば、亀のようにスローモーションな一撃。虫やカエルのような、動体に対しては異常な感覚を発揮するが……逆に、スローモーションなナメクジすら捉えることはできない。
(やれる!!)傭兵の、獣じみた勘がそう嘯いた。
踏み込んで命中した拳に力を入れる。吹き飛ばされたバステトの体が錐揉みしながら大きく浮く。狙い過たずラットが狙いを定める。引き金を引く、その一瞬前。
暗雲の中から、雷光が轟いた。地面に落ちた訳では無く、1パスカルの影響力もない。しかし、雷鳴とともに地上を大きく照らし、同時に爆音が席巻して雪を舞い上げた。
「悔しいですがー。……たしかに、技を磨くのも重要でしたね。それが
バステトの〈ねこだまし〉。両手の皮膚が破けるくらいの強度の合唱は、もはや閃光弾に等しい。チートとは違う技術。集中しすぎたラットの目が裏返り、数秒の失神状態に入る。片割れは舌を噛んで耐えた……が。
(……これは、耳、三半規管、が。)
顎に施した改造が仇になった。ねこだましの衝撃が、脳を揺らし、平衡感覚を奪う。銃弾は、あちらの方へ飛んでいって地響きを立てる。ダウンの隙に、片割れの耳が引っこ抜かれた。口が悲鳴を叫ぶ中で、意識の真相は何処か穏やかだった。自分は元から、こういう生き方しかできない人間なのだから。悔いがあるとするなら。
(あなたが、勝て。)
歩み出したばかりの
☆
途中からダメな感じがしていた。キルペースを上げられない。銃声とウサ耳の抜ける音が重なり、羅刹は作戦失敗を予感した。そしてその動揺のせいか、手が払われて頬に一発重いのをくらった。意識が一瞬白くなる。追撃に対し、羅刹の体は反射的に飛び退った。九九回のゲームが生み出した防衛反応。意識を失うと自動的に後退するように体に染み付いている。しかし、その隙は追撃に繋げるには致命的だった。その間に取り巻き三人は四散して、複雑極まりないホテルを逃げていく。狭い空間に音が反射して、一度視界から出られると追跡は不可能だった。
「ひーーー」
取り巻きの一人がエレベーターに乗り込んだ。羅刹の爪の先で鉄の扉が閉じられる。戦果はたった一人の首だった。
(……まあいいよ。どうせバステトを倒せば済む話だ。やってやる。)