誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中   作:覚絵テネ

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いくら遅れたって間に合うのがヒーロー
彼女は致命的に間に合わない


悪鬼羅刹、その本領

 迅速にホテルの正面玄関を潜ると、倒れた片割れと、立つこともままならずよろけているしているラットがいた。

 

 隙を伺う暇も無かった。玄関のセメントを踏み台に、豹のように跳躍。庭先に居るバステトに拳を叩きつける。大きく飛び退って回避。羅刹は地面に激突した拳をバネに、さらに蹴りを叩き込む。しっかりクロスブロックされた足はしかし、バステトの胃を圧迫する。

 どこをどうすれば人が動かなくなるのか。その一点にだけは羅刹は世界の誰よりも詳しい。

 

「………っ!?」

 

 ダメージを受けたバステトは大きく後ろへ飛び、姿が見えなくなる。足音も風の音にかき消される。その中で、あえて羅刹は動かない。

 

 (私がキミなら……)

 羅刹はノールックで背後にガラスを研いだクナイを投げた。当たったか分かる前から、スケート選手のように回転して蹴りを空中に置く。

 

「ぎっ!?」予想通り、バステトが蹴りを置いた位置に突っ込んでくる。なぜ読めた、というふうに目を見開く。

 

(……だよな、チーターに、正面から挑む度胸はない!格の違いを……知ってもらう!)

 

 バステトはクリーンヒットをもらいながらも、倒れることはしなかった。眼をつむりながらもうさ耳をかばって後ずさろうとする。羅刹はその片腕をつかみ、頭部を守るもう片方の腕を絶えず攻撃する。

 

 回り込んだほうが効率よくガードを崩せそうか?いや、絶えず殴り続けなければ体勢を立て直される。

 

 とにかく思考の隙を与えない。バステトの腕が下がってきた一瞬、いけるか、と思った。

 

 しかし、慣性を無視しているとしか思えない動きでバステトが後ろへ下がる。崩れた姿勢なのに、凄まじい速度でゴキブリのように遠ざかっていく。チーターにしかできない動きだ。観客からするとシュールな光景かもしれないが、命がけの羅刹からすると笑えない。

 

 耳を澄ましてじっと待つが、次の襲撃の気配はない。

 

 (次は何処から……いや、逃げるか!?)

 

 今はペースを握れているが、仕切り直されるとどうなるかわからない。羅刹は一歩踏み出して、その直後に直感で失策を悟った。手遅れになった直後に忠告することに定評のある、羅刹のカン見た時、岩かと思った。地面に這いつくばる黒い塊……それが両手を広げておそいかかってきた。

 

 頭のブロックが間に合わない。今度は羅刹の悶える番だった。

 

「っ!!ぎ、ぎっぎが、ぎあああ、あ?!!!!?」

 

 片方の耳は守り抜いた。命も意識も繋いだ。それでも、これはまずい。滝のように汗が流れて、鼓動のペースが倍以上になった。視界が絶えず明滅し、その度に時がスキップされる。

 

「はは……終わりですかー?ふふふ、あなたも並みのプレイヤーと同じでしたねー。」

 

 バステトは必死に後ずさり、頭を守る羅刹の後ろへ回り込み、膝裏をけりこむ。凄まじい速度で打ち込まれた一撃は、即座に関節を砕き立てなくする。ついで、肩を文字通りえぐる一撃。そして、レバーに腰の入った一撃。

 

「………か………」

 

 文字通り、肝臓が体内で砕け散る。

 

「苦しむ様も雅ですがー。終わりにしてあげましょうか。」

 

 バステトはアームブロックの隙間から耳をもぎ取ろうとする。羅刹の守りは脆く、簡単にもぎ取ってしまえそうだったが、何故かするりと外れた。何故だ、しっかり五指で掴んだはずで……

 

(……あ?)

 

 指が、4本しかなかった。羅刹の口中から、白魚のような指が覗いている。

 

(片耳をもぎ取った、あの時……食いちぎられ……。噓でしょう、自分が死ぬか否かの場面で防御に徹するんじゃなく、反撃の手立てを...!)

(どんな時でも勝ち筋を追求する。それがゲーマーなんだよ、バカヤロー。)

 

 痛覚遮断が仇になった。羅刹が最後の力で、蛇のように巻き付く。それだけなら脅威じゃない。ライフルを握りしめたラットさえいなければ。

 

「あ、はなっ……」

 

 バステトは身をよじるが、照準から逃れられない。

 

(私は……このゲームで!勝つためにここにいる!)

 

 羅刹と出会って、少しだけ変わった。感化されていた。初めて、掛け値無しに憧れられる人と出会った。それが殺人者、デスゲームのゲーマーだなんて、両親が聴けばなくかもしれない。

 

(知るもんか、それが私の人生だ!)

 

 不意に、この世の全てが俯瞰したように遠いことに思える。あらゆる現象がスローモーションになり、汗の雫が1時間書けて落下していく。

 

 (今だ!)

 

 言葉にするまでもない確信があり、銃声が鳴り響いた。バステトの頭を星空のような煙が覆う。

 

 ラットはムーンスレイヤーを握ったまま、バステトが膝をついて地面へ倒れる様を見つめていた。

 

 決着だった。

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