誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中 作:覚絵テネ
ラットが死に、残り生存人数は5人。終了条件は満たされた。
ゲームが終わると、そこからドラマチックなことは起きなかった。
島を覆っていた毒雪は予想通り止んでいた。終了時間が来てしばらく、船舶が着き、作業服を着た清掃スタッフが上陸する。そこらじゅうの死体を袋に詰めて回収し、血液には特殊な薬剤をかけて蒸発させる。
その様子を横目に羅刹はスタッフにタンカで運ばれ、岬に停泊した船に運び込まれた。そのまま手術室へ案内され、傷ついた体のパーツをすげかえ、脳神経に絡みついていたウサ耳を除去してもらう。
脳に関連する作業ばかりは、流石に全身麻酔が必要な様だった。注射された瞬間に羅刹はほぼ失神した。
そして気がつけば帰りのハイエースの中。
同乗しているのは、前回のゲーム後に治療してくれた新人さんとは違い、その上司さんだった。
猛烈に嫌な予感がする。
一般的に考えてみよう。
部下でなく上司が取引先に出るとはどういうことだ。
詫びなくてはならない失態があるってことだ。
「……こんにちは。また後遺症があるってことですか?」
「はい。」
「あーまあ、脳に改造されるの久しぶりでしたからね。しゃーないですよ。」
「症状聞く前から許さないでくださいよ。そう言うとこ心配...いや、私たちが言う筋合いではありませんか。」
おどろくべきことに、九九回のゲームで、後遺症が残ったことはただの一回しかない。自身の身体をベッドして戰うポーカーで四肢を無くした時以来か。あの時以来、手足の関節から常に微量の出血をするようになった。
「肝機能に問題が。移植を図ったが、拒絶反応が起こってな。やむなく元々の粉々になった肝臓をバケツから引っ張り出して穴を埋めた。」
「……腕落ちました?」
「……申し開きの仕様もありません。」
「はは。三〇と何回目です?臓器を失うにしたって。ここまでノーミスで乗り切った運営さんを責めませんよ。」
言っても、責める気はなかった。ここまで身体を杜撰に扱っておいて傷ついて文句は言えない。欠損を負うことは考えなかった。不自由な体になるならそこで死ねばいいと考えたからだ。
「で、どんな障がいが起きてるんです?」
「酒と煙草を吸わないでください。次の日ぐらいに死ぬ。」
「えっ。……わたし、酒を飲むのが休日の生きがいなんですけど。」
「………。」
「あ、無理ですか。分かりました。大丈夫ですよ。」
「申し訳ない……」
お酒が飲めなくなって大丈夫……な理由はない。ただ、羅刹は相手に謝られると即座に許してしまう。
ハイエースの後部座席に死体があった。背丈が誰かに似ているような気がして、お顔を見せてもらおうかと思ったが、辞めた。
午後一時には自宅のアパートへ着いた。階段の手すりに手をかけたところで、元気そうな茶髪の女性と目が合った。二十代前半くらい。
「
「......っす」
「そういえば、あたしカレー作りすぎちゃってですね!よかったら貰ってくれませんか!?」
羅刹の腹がくうくうと鳴った。
「.......あっ、いえ、もう食べてきたんで...。」
「りょーかいですっ!」
この人がやたら親切なのはアパートの大家さんだから。羅刹は彼女が嫌いな訳では無いし手料理にもむしろ興味がある。
ただ、デスゲーム以外で距離を詰められるのが苦手なのだ。
ここからは何でもない退屈な日常。百回目の勝利だからと言って、変わりはしないようだった。最初、『生還』はもっと壮大なものだと思っているから、その落差には驚かされた。
階段を登りながら、宅配アプリで遅めの昼食を注文。ドライバーを確認。既に何度か配達してくれた人だった。方法は対面での受け取りを選択。
玄関から上がり、靴を脱ぎ捨てる。
たっかいゲーミングチェアに座り、ゲーム機とスマホのソシャゲを起動する。
家賃二〇万でここに住んでいる。
このアパートは変わった運営方針で、なんと家賃を払わなくてもいいらしい。実際1円も払わずに二〇年以上住み着いてるやつもいるらしい。その代わりに洗濯とか炊事を当番制でやらなければならないが。
羅刹は人と関わりたい時と関わりたくない時の落差が激しい。関わりたくない時無言で当番をスキップするため、定期的に困惑する大家さんに札束を押し付けている。
当番だって何だって、もっと積極的にやれば、何か人生とか変わったのだろうか?……やめよう、羅刹はゲーム以外続けられない人間だ。
視線を画面に戻す。
画面が明るく光り、キャラクター選択の音が部屋に響く。いつものキャラを選び、デイリーミッションを淡々とこなした。別に何かすごいことをしたわけでもないのに、一挙動のたびに敵がバタバタと倒れ、味方キャラクターが主人公を褒め、派手なエフェクトが鳴り響いて報酬系を刺激する。だが、羅刹の目は虚ろで、手元の動きは雑だった。たまにゲームにも集中できない日があるが、今日がそうだった。
「…ゲームすらめんどくさーって、人間として終わってんなあ。」
窓の外から、子供の笑い声が響いてきて、音量をますます上げる。やはり、ゲームは遊ぶ相手も楽しくないと。――片割れとラット、あの二人とならこのゲームも面白くなっただろう。
ラット。彼女に殺されたかった。それならきっと納得できる終わりになっただろうに。全く、死時を逃した。
ため息をついていると、昼食の宅配が来た。「毎度です」の一言を聞くため、対面で受け取りをする。
デスゲーム1 BADEND
これで一旦一区切りです!
希死念慮を抱く子が好きなのですが、希死念慮というか死滅願望バリバリになってるなと
もうちょっと続くのでお付き合いいただけるとうれしいです!