誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中   作:覚絵テネ

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幕間
昼間から公園で鳩に餌をやっているおじさん(見た目は美少女なので正義)


 公園にある謎のでっけぇツボみたいな遊具の中。

 そこに少女がいた。じめじめしているところが好きなのだろうか。

 

「開けようかー、少女?」

 

 羅刹は他人に気さくに話しかけるような質ではない。しかし、物影でビール瓶を開けようと苦戦していた(想像される年齢にはあえて触れまい、この作品は中学生の飲酒やタトゥーを推奨しないので)少女は何処か目を引かれるものがあった。

 

 具体的には、右腕の入れ墨。

 童顔に似合わない、隻腕の西洋龍。加えてビール瓶を小枝で開けようとする姿。何かギャップに惹かれ、つい声をかけてしまったのだ。

 

 羅刹は整形や入れ墨に抵抗はない。自分だってTSとかいう人体改造の尖兵なわけだし。だが、こんな幼い……小学生くらいの子が入れているのは、ちょっと、その、飲み込みにくいものがあった。

 

 まあでも、今さら説経する立場でもない。

 

「瓶を開けるなら、栓抜きの代わりにしても10円玉とかじゃないかなー?枝は欠けるしきついかなーとおじ…おね……おじ……思うワケ。」

 

「……お願い……します。」少女はそう言いながらビール瓶と小枝を差し出してくる。

 

「ああ、枝は大丈夫。おじ……私が開けるならね。」

 

 羅刹の右腕が一瞬ブレたかと思うと、次の瞬間には瓶の蓋だけをもぎ取っていた。少女は多少面くらったようだが、すぐに礼を言い、そしてビール瓶を差し出してきた。

 

「……よければ……」

 

「いや、キミで楽しんで。」

 

「いえ、私はやっぱり……やめときます……。子供だし……」

 

 やっぱり良心が咎めたのか、強引に押し付けて少女は去っていった。

 

「見た目通りの女の子なんだ。まあ、背伸びするべきところとそうじゃないところがあるよね。そこを見極められるのは偉いぜい。」

 

 外国製のラベルが付いた320mlを、羅刹は一息に飲み干した。

 

「うっわぁ……」

「うっわあとはなんだい。」

 

少女が遠目にドン引きするのを見て、羅刹はやっちまったと思った。互いに、また会うことになるとはその時は思わなかった。

 

 

 羅刹の済む頭狂都。ヤクザが実権を握っていて、治安が絶望的に悪い。引っ越し初日に抗争に巻き込まれ、攫われ沈めかけられたのは良い思い出。誰にも等しく牙を剥くこの街にも、例外はある。ある病院と、その裏手の公園だった。街の支配者はここに思い入れがあるらしく、ここで蛮行淫行を働く輩はすぐどこかへ連れていかれる。

 

 羅刹はそこのベンチに座り、微動だにしないようにしていた。手足アルコール不足でプルプルと震えている。

 その様子を小学校高学年くらいの少女、タナバがスケッチしている。年の為、TSしていない天然の少女だ。あのビール瓶を羅刹に渡した少女。

 

 しゃ、しゃ。どこか神聖ささえある筆の音が響く。鍛冶にせよ茶摘みにせよ何事も極めれば史上の美を帯びるというが、その類だった。この音を聞いていると、アルコール不足の脳が僅かに安らいだ。

 

 それより、今書いてもらっている自画像だ。羅刹は彼女に時折、自画像の作成を依頼している。彼女が絵を描いていると知ったのはあの少しあとのことだ。

 

 しかし、タナバの描く絵は、彼女にしか出せないものがある気がする。

 

「『選び屋』志望なんだっけ。絵を選ぶにしても、ある程度の画才がないとダメなんだっけ。」

 

 今の時代、ゲームにしても絵にしても、あらゆるエンタメは飽和している。そこで流行ったのが選び屋。過去の作品を掘り起こしてチョイスする仕事だ。

 

「いえ、私はイラストレーター志望なんです。手とペンで書くという意味で。」

 

「ああ、古臭い絵には興味がない!ってタイプ?」

 

「そうですか?私は素敵な絵がいっぱいあると思いますが。」

 

「あれれ。じゃあ、何で態々自分で書いてるの?」

 

「はぁ。」少女は本当によく分からない、という顔だった。

 

「不合理で、非合理で、報われないだろ?」

 

 さあっ、さあっとペンを走らせる。ペン尻は殆ど動いていないのに、躍動感ある線が刻まれていく。

 

 「好きだからです、が。」

 

 さ、と最後の一筆が引かれた。

 

 スケッチブックが裏返しになり、空を見つめる羅刹が描かれている。その胸には現実にはないダガーが刺さっている。羅刹の希望だ。

 効果戦とか特殊な色使いとか、明らかに瞳を引くものはない。はない。黒の濃淡や顔の配置だけで、その瞳に秘められた愁いや、その先にある儚い末路を思い浮かばせる。

 

 これこそまさに芸術ってやつなのだろう。

 儚げに見えるのは、酒がなくて顔色と精神が終わってるだけだが。

 

「だいぶ盛ってもらったね。」

 

「思うままに書いただけです。お姉さんは筆が乗る。また描きたいですね、2つの意味で。」タナバはニタリと笑う。

 

「はいはい。また描いてくれよね。」

 

 スケッチブックを受け取ると、交換に小包を彼女に渡す。デスゲームに参加してる羅刹にとっても安い金額じゃない。が、どうせ泡銭だし。

 

「ありがとうございます、現代にゴッホを求めるお姉さん。」

 

「そんなんじゃないんだけどナー。おじさんだし。」 

 

 やっぱり、素敵だな。何かが好きで、打ち込める人って。

 死ぬ理由を探し続けている羅刹とは大違いだ。

 

「将来、簡単に依頼できなくなるだろうからねー。『推せるときに推せ、そして作品を供給してもらえ』ってやつだ。それこそゴッホみたいな大芸術家に……」

 

「それはありませんね。100%。」

 

「そんなに強く否定することある?あ、落としたよ?」

 

 少女の指からペンが零れ落ちる。それを拾おうともしない。いや、拾えないのか。白魚のような指は開いたまま、痙攣している。

 

「大丈夫?」

 

「あたしの指、10歳になるまでに動かなくなるんです。コップを持ち上げたり、簡単な操作はできそうなんですけど。筋ジストロフィーって言うんですけど。だから、志望止まりなんです。」

 

「……それは何とかならないの?治療手段は?」

 

 それは、きっと悲惨な話で。

 

「あることはあるんですけど、めちゃくちゃお金がかかるんですよね。」

 

(金なら、いくらでも出せる)と羅刹は言おうとした。

 

「姉ちゃんが稼いでくれてるんですけど。」

 

(………おじさんが出してあげようか?)という声をすんで抑え込んで正解だと感じた。

 

(バカか?何様だお前は。あ、パパ活おじさんってやつか?人の妹に気色悪い執着をするな。踏み込むな。)

 

 お前は当事者なんかじゃない。彼女を支えるのは、彼女の家族だけにある権利で資格。何一つ作ってこなかったお前なんかが出しゃばる問題じゃない。

 

「あの人ずっと泣きそうな顔してるんですよ。無茶な金額ですし、もう良いって___」

 

「………そっか。キミの為に頑張ってくれる人がいるんだ。」

 

 絞り出した声は震え、体温が上がってブワッと冷や汗が出てきた。ああ、そうだよな。お前を頼ってくれる人なんて、この世にたった一人だって居ると思っているのか。

 

 今更誰かの大切になろうなんて図々しい。

 

「お姉ちゃんは……きっと、キミを支えられることを誇りに思っているよ。素直に甘えてあげなー?」 

 

 それだけ言うと、返答も待たずに踵を返した。

 

 背後で、迎えの人が来ていた。きっと彼女の好きなお姉さんだろう。帰った部屋には何もいない。せっかく金があるのだし、たっけぇアロワナでも買おうかと思った。予算はある。けれど確実に飼い主の責任が果たせない。

 

 さて、どう金を浪費するか。そして、さっさと終わらせよう。101回目、蛇足のゲームを通じて。

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