誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中   作:覚絵テネ

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会話の内容悩んだんですが、つまんねーオタクが久しぶりに集まって話すとやっぱりこういう感じになるのかなって


TSおじさん、かつての親友に置いていかれて咽び泣く

 羅刹には親友……いやそう言っていいのだろうか。一方的な思いかもしれない。友達?知己?少なくとも、『たまに会う知人』以上の関係性の人間が……ああいや自分からあまり距離を取りすぎるのもあれだから、友人と言って良いのだろう。

 

 ええと、断言してしまうと、友人。(もしかしたら親友?)彼は学生時代からの腐れ縁。お互いガチなオタクだった。本性を顕にするとパブリック・エネミーに認定されるタイプの。

 

 彼とはアニメやゲームを共に楽しんだりする一方で、人生の無意味さや世に蔓延る大人たちの邪悪さについて喧々諤々議論を交わしていた。羅刹は極端な思想の持ち主だが、彼はさらにその上を行った。

 彼の反出生主義とか特定コンテンツに対する嫌悪感などは、羅刹には正直ちょっとついていけなかった。(私がいなかったらテロとかしそうだな、コイツ。)とか思っていた。でも、それでこそものぐさな羅刹が彼との縁を繋ぎ続けたのだろう。

 

『彼みたいな人間も居るのだから、自分だってこの世に存在していていいのだ。』羅刹はそう思っていた。

 

☆(朝7時、但し一睡もしていない)

 

 99回目のゲームの後、発熱が耐えなかった。鎮痛剤と肝臓を助ける薬を交互に飲み、ASMRを聞きながらどうにか寝て苦痛を和らげようのすると日々を送っていた。

 

 ずっと寝ていたいのだが、痰や下痢が定期的に訪れてきて寝床を出ずにはいられない。ため息と共に布団を出る。手足からの出血は激しくなり、布団に人形のピンクのシミが出来ている。(孤独死は嫌だなあ。)そう思いつつ洗面所に痰を吐く。血の混じったそれを早々に洗い流す。

 

 布団に戻るのが嫌で、シャワーを浴びてから窓際に腰掛けた。アパートの庭でアパートの住人たちがバーベキューをしている。

 

 (みんな、楽しそうだなぁ。)

 

 このアパートはお節介な人が多く、無愛想な羅刹にも話しかけてくれる人は結構いた。管理人さんなんかは99回目のゲームが終わった時のように、未だに話しかけてくれる。…でも、それを邪険にし続けた末が今の孤独だ。家から出るなり、ふらつかせる重力の正体だ。

 

 この不幸ははっきり言って、羅刹自身の自業自得だと思う。「殺、して」汚い言葉でアドレナリンを分泌して希死念慮を躱す。「殺してくれ、殺してくれ、殺してくれ、嫌だよ、誰か頭を撃ち抜いてくれ、できるだけ残虐に殺してくれ、跡形も残らないようにしてくれ……。」

 

 精神が限界に近いことを感じた。救いを求めてスマホを見る。そこに一件の通知が届いていた。冒頭に話した……親友……?友人以上と会う予定があったのだ。もう5時間後ではないかすっかり忘れていた。羅刹の希死念慮はいったん閉じ込められて、顔を洗わなければと思う。

 

 好きな人と会える、となると即座にスイッチが切り替わる……長所かつ短所だ、と羅刹は思った。

 

 ☆

 

 鎮痛剤と血止めを規定量の3倍かき込むとなんとか動けるようになった。すぐに体をきれいにして、メイクも努力。バチバチ地雷系の格好で出陣しようかと思ったけど、あいつは悪目立ちしたくないか。娘がお父さんと出かけるような……紫髪を纏めて、ブラウンで統一したガーリー系のコーデで行こう。

 

 目標は凶都の神業区、忌迄皮駅でスマホをいじっていた。散々進めたのだが、TSは結局しなかった。大人しめの顔に似合わないツーブロック、インスタのインフルエンサーのコーデを丸コピーしたのであろう、高そうだが絶妙に合っていない服。それでこそ我が友だった。

 

 だだだ、と歩み、飛び抱きつく。

 

「やあやあ久しぶり、人間のクズ!逢いたかったぜー!」

 

「うおっ!?おまえ、勘弁してくれよ……」

 

 親友……千代田文夫は邪険に振り払う。恒例の流れだ。こんな美少女なんだから一回くらい喜んでくれてもいいのに。美少女なんかいくらでもいる?ああそう……

 

「ごめんごめん、電車がイキスギちゃって。」

 

「あー、ふたりともイキスギだから気にしないで。……で、何するんだっけ今日は。」

 

「何でもいいよ?サイゼ行く?」

 

「いや、この年になっておっさん二人でサイゼ……いやまあいいですけど。」

 

 文夫はマップアプリを開いて歩き出す。

 

「ええと、どこ線から来たんだっけ。」

 

「あ?マップアプリから来たんだから覚えてないよー!」

 

「そうか。」

 

 沈黙。あれ、どういうテンポで会話してたっけ?まあ最初からジョーカーを切ってしまうか。闇オークションでめちゃくちゃ高値が付いてたやつ。文夫が好きだったな、と思って落札したのだ。

 

「そうそう、これ見てくれよ!旧作のフロッピー!めちゃくちゃプレミア付いてる奴だぜー!」

 

「お、おお。やりますねぇ。」

 

「やりますやります!最近のネカフェはどんなカセットでも読み込んでくれるからな。食い終わったら早速プレイしようぜ!」

 

 羅刹は文夫が嬉々として食いついてくるものだと思っていた。資本主義を初めこの世の全てを憎んでいた彼が、この作品については唯一混じり気のない好意を示したからだ。だが、文夫は少し悩むふりをした。

 

「うーん、やりませんねぇ。」

 

「あら……………………そっか。」

 

 話している間にサイゼに付いていた。店員さんを呼び止めようと文夫が掲げた左手。その薬指には銀色のリングが嵌っていた。羅刹はつばをゴクリと飲み込んだ。手前側に座った文夫にからかうような声を掛ける。

 

「おいおい、レディに向こうまで歩かせんのかよー?」お前はレディじゃねえだろ、という突っ込みを期待した。加えて、ウィットに飛んだ皮肉も。けれど文夫はあまりに軽く頭を下げた。

 

「ああすまん。お客さんは上座に座らせろって、上長に言われてるんだ。15も下の上長だけどな。」

 

「上………長…………?」簡単な割に飲み込めない言葉だった。だってまるで、働いているようではないか。

 

「ああ、言わなかったっけ。私、就職したんだよ。」

 

「………結婚も?」

 

「まあ、ね。家の近所に弁当屋さんがあって、その女将さんが未亡人で……」

 

「へ、へぇ……昔はロ□□ンでシ□りまくってたくせに。」

 

「ああ、昔は……はは、そうだったか?」

 

 羅刹は顔の温度が急上昇するのを自覚した。それでも平静を装い、注文だけ済ますと文夫の顔を見る。彼の顔はすっかり学生時代にあった毒気が抜けていた。うだつは上がらなさそうだけど、真面目で仕事をきっちりこなしそうなサラリーマンに見えた。

 

千田(羅刹)はさ、好きな人とかいないのか?いや、その体になった以上いい女の人を見つけて、というのは難しいか。最近はTS同士のマチアプもあるらしいじゃないか。」

 

「……おじさんたち、昔話さなかったっけ。自分の子孫を残すことに興味がない俺達は、きっと生命として欠陥品に違いないって。」

 

「はは。」

 

 文夫は少し笑う。

 続く言葉に、羅刹は残酷な答えを期待した。

 

『お前この年になって独身なんてなんか変じゃないか。いや、多少異常性を持っていても適正な努力を重ねれば結婚くらいできるんじゃないか。なあ、踏ん張りが足りないんだよ、俺みたいに努力してみろ。』

 文夫が吐くのが、そういうコンプレックスまみれの答えならまだよかった。

 

「意外とな、そういう奴がぽんと恋に落ちるんだ。いや、俺もそうだった。」

 

 何処までも優しい答えだった。共感を示し、相手を傷つけず、社会的に望ましい道を進める。立場あるな社会人の振る舞いだった。

 

「あと……ああ早めに行っておくとさ、もうあんまりゲームゲーム、って感じじゃないんだ。多少無理しても働かないと。妻とは、お互い高齢だけど子供が欲しい、って話になってるから。ほら、無責任な父親にはなりたくない。」

 

 模範的な振る舞いだった。争いが発生するのは同レベルまでだ。羅刹が攻撃できない程度に、大人の振る舞いだった。未熟でガキっぽくて、反骨的で破綻者な羅刹を肯定してくれる千代田文夫はもういなかった。

 

「だからさ、その、旧作のやつ……お前ならゲーム好きな友達も沢山いるだろう。そいつらと遊んでやってくれ。」

 

 その一言を境に、羅刹は自分の意識をシャットアウトさせた。運ばれてきた料理を食う間、毒にも薬にもならない世間話をして解散した。神社観光に誘われたが、無理だった。ほんとうに耐えられない。

 

 羅刹は理解しなければならなかった。

 

 かつての親友が、もう遠い所に行ってしまった。

 自分(らせつ)という、家族が居らず、立場もない、背負うべきもののない異常者はもう世界にたった一人なのだ。

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