誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中   作:覚絵テネ

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満足死、再トライアル!


 目を覚ますと知らない天井。

 

 こういう展開になるたび異世界転生の可能性を希望してしまうが、現実とは努力した分しか良くならない。逆はいくらでもあるが。

 絶望に満ちたデスゲームの幕開けだ。

 

 起き上がると固いベッドの上。シーツや毛布には刺繍がしてあって、なんとなく由緒ありそうな感じ。けれどそれに覆われているベッドの方が安物だ。部屋を見渡すと、中世の安アパート、という言葉が思い浮かぶ。

 

 小さな衣装棚と水垢のついた鏡、足の一本欠けた椅子。剥き出しになった木の壁。デスゲーム運営も資金難の時代なのか、はたまた貧乏臭さまで含めて演出なのか。世の中モラルから逸脱した分だけ金を稼げると言う仕組みに見えて、そうでもないらしい。

 

 ベッドから降りて鏡を見つめる。今回の衣装は中世農民のようだった。ところどころ解れたチュニックワンピースに、黄ばんだ頭巾。流石に許せないセンスだ。頭巾を捨て、ワンピースの膝から下を千切り取り、ミニスカ風にすると見られるようになった。

 

「相変わらずおじさんの顔面つえー……これ捨て置く奴ホントバカだよな。……ん?」

 

 ドアを2回ノックする音がした。見ればドアノブには鍵が付いていなかった。すわ奇襲か、とも思ったがそのつもりならノックをするはずもない。

 

「……どうぞ?」

 

 キィ…………と遠慮がちにドアを開けたのは緑色のメイドさんだった。十字架を所々モチーフにあしらった給仕服は見事な仕上がり。でも、世のフィクションに闊歩する完璧で瀟洒なメイドからは程遠い。

 

 若いのに老人みたいな猫背で、下手くそな愛想笑い。オドオド、という擬音が頭の上に描いているようだった。

 

 見かけも、たぶん美少女の範疇には入るんだろうし、素材は良い。………けれど、"世の中の美少女"が要領よく踏まえているポイントを見逃しているというか。何処か垢抜けない印象がある。

 

(多分、こっち側の……マトモに生きられない人間だ。)

 

「……あっ、ええ、へへへ……ども...。これ、デスゲームなんですよね?ええ、ええ、ええと、殺し合ったらいいですか?」

 

 とんでもないことを抜かす。殺人はできるだけ避けたいものだというのに。

 

「ちょっと待って?多分なんかキミ勘違いしてるから。」 

 

「え、ええっ!?これデスゲームじゃないんですか!?」

 

「いや、デスゲームだけど。ルールがまだ……」 

 

「やっぱりデスゲームじゃないですかぁぁぁ!!」

 

 涙目でぶんぶんと拳を振り回す緑の少女に、羅刹はぽかんと口を開けるしかなかった。パニックなのを考慮しても、思い込みが強いタイプ。たぶん拍子抜けするくらい簡単に殺れるだろう。

 

 どうやって諌めるものか考えていると、再びドアが開く。

 

「おっ」今度こそ、『メイド』で検索すれば一番先にでてきそうな、白を貴重としたフリフリのエプロンを纏った女性だった。肌も服も一切白で統一されているので、全く機械的な雰囲気。しかし顔には見覚えがある。

 

「GMだ。」

 

『お二人とも、元気に目が覚めたようで何よりです。しかし、昼間の私的な殺傷は禁じられていますので、ほどほどに。』

 

「げ、げーむますたー?お二人は知り合いなんです?」

 

「そうだよ。あ、安心してね。おじさんたちは別に組んでるとかじゃないから。」

「は、はあ……」

 

 100回目のバトロワと違い、複雑なゲームではこのようなGMが出現し、解説や進行を務める。基本的に中立だが、プレイヤーと違って人体強化改造を公に許されており、手出しできない強さだ。

 

 このGMも華奢な少女に見えるが、実際は同じ重さの核爆弾より危険な存在と思ってもらったほうがいい。

 

『ルールの説明は後ほどいたしますので、こちらをどうぞ。』

 

GMはそう言って小さな紙片を差し出す。

 

「ん。」

『タンザ様もこちらを。』

 

「あ、どうもです……」緑の少女が腰を低くして受け取るのを見て、悪戯心が湧いた。

 

「見して見して。なんて書いてるの?」

 

「へ?ええっとですね……」

 

『ブチ転がしますよ羅刹様?タンザ様、それらけして他の方には見せませんように。溶水性ですので、読んだら飲み込んでくださいね。』

 

「ちぇっケチ。」

 

『みなさまお揃いですので、どうぞこちらへ。』

 

 大人しくついていく。廊下は打って変わって豪奢な空間だった。赤く毛の長い絨毯が敷かれ、等間隔で金の燭台で蝋燭が燃えている。妙なことといえば窓が一切ない。客室や分岐路があったが、ひとまず大人しくついていく。

 

「あのメイドさん、絶対に人間じゃないですよ本能でわかります……さては、彼女を殺さなきゃいけないんですか!?」

 

 緑メイド...タンザはガチに言っているようだ。

 

「……多分違うと思うし、初心者丸出しだと狙われやすくなるから気をつけて。」

 

 この建物はどうやら2階建てのようだ。

 階段を降りた先には2m近くの扉があった。

 

 ぎぎぎぎ、とGMが扉を開く。

 その先に在るは円卓と7人の少女。他プレイヤーたちだろう。来ている服は探偵、執事、お嬢様などの西洋中世風コス。写真に取りたいくらいには美しい絵面だった。向かいにいる瞳孔が縦に長い女を見てうげ、となる。

 

「おやおや、羅刹様ー?また巡り会えるとは、きっと神の差配にてー。」

 

 前回殺し損ねたバステトだった。ピンピンしてやがる。それ以外にも、見覚えのあるプレイヤーがゴロゴロしている。

 

「……魔境マッチか。」

 

 たまにある。猛者揃いのマッチだ。普通、経験者は半分くらいしか紛れ込まないのだが、今回初心者はタンザだけのようだ。

 

「ええ、ええ!殆どの方が3回超えているようでー。」

 

 3回越えか。ちょっと面倒だな。

 

 デスゲーム参加者のほとんどは1回目で死ぬ。生きるか死ぬかの瀬戸際にあって初心者への配慮など存在しないからだ。だから羅刹だけは初心者に力を貸すようにしている。

 2回目を戦い抜くには、ちゃんと実力が必要だ。1回目を運だけで乗り切ったものはここで振るい落とされる。

 3回目には、逆に運が必要だ。そういう目に見えない力は確かにある。

 

 この3回を普通の人間は乗り越えられない。逆にいえば、3回を乗り越えれば人間を超えている。3回クリアも100回クリアも大した差はない、と羅刹は思っている。つまりこれから挑むのは、ほぼ同格同士のマッチ。

 

「おじさん、緊張しちゃうなー。」

「フン……100回超えに言われると光栄だ。」茶髪の少女が苦笑する。

「もしかして、本人だけは興味がなかったのかい?10年ぶりに100回超えが出たって、デスゲーム界隈はここ数日お祭り騒ぎだったのに。」

 

 羅刹の知らない所で、何か盛り上がってたらしい。

 でももう羅刹はゲーム自体に大した関心がない。

 

「どうだろ?最近、何事にも関心がなくてねー。」

 

「良いから早く座ってくださいよぉ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 急かしたのは、白髪で我儘ボディの少女だった。両手を大きく振って催促する。あまり待たせるのも悪いので早速腰掛けよう。

 

「ん……」

 

 円卓にある九脚の椅子は、透明なアクリル板で360度覆われて、独立したスペースになっている。空気穴と出入り口はあるが、遠隔で封鎖できるようになっている。

 

 嫌な予感を感じつつもアクリル板の中に入り、腰掛ける。すると即座に出入り口が閉じられる。強く押してみても開かない。

 なるほど、密閉空間に閉じ込められたわけだ。

 

 GMが神妙な口調で。

 

『皆様、席につかれましたか。ときに、人狼という怪物をご存知でしょうか。』

 

 第一声を聞いて、「やはり」と思った。

 羅刹だけではなく、ほとんどのプレイヤーに動揺はなかった。タンザちゃんの「なんですかそれ!」は無視しよう。

 

 多分、初心者キャリーとかやれるゲームじゃない。全力で生き抜かないと即、首に縄がかかる。

 

『人狼は人の姿をしてその中に紛れ、一夜に一人ずつ人間を殺してゆく怪物でございます。和解の余地はなく、殺すしかございません。そして……この中に、人狼がいます。皆様にはそれを見つけ、一日一人……〈投票〉で処刑して頂きます。詳細なルールはお手元の羊皮紙から確認ください。』

 

 人狼ゲームか。

 

 目の前の机には引き出しがあり、その中には金縁の太ペンと、2枚の紙が入っていた。片方は白紙。もう片方は、典型的な人狼のルールが記されている。慣れているなら読み飛ばしても問題はないだろうが.....

 

〈配役〉

 村人(3)……〈白陣営〉。何の能力も持たず、それゆえ議論に貢献できる。

 騎士(1)……〈白陣営〉。夜間に自分以外のプレイヤーを一人指定する。そのプレイヤーは人狼の〈襲撃〉を無効化する。

 占い師(1)……〈白陣営〉。夜間にプレイヤーを一人指定する。そのプレイヤーが人狼か否か知ることができる。

 霊能者(1)……〈白陣営〉。処刑が起こった日の夜能力が発動。処刑されたプレイヤーが人狼か否か知ることができる。

 狂人(1)……〈黒陣営〉。何の能力も持たないが、人狼が勝利すると自分も勝利となる。

 人狼(2)……〈黒陣営〉。夜間にプレイヤーを一人指定して、〈襲撃〉状態にする。〈襲撃〉状態のプレイヤーは自分の身を守ることができない。

 

 ルールに続き、参加者の名前が記されている。合計9名。

 

『議論時間は限られておりますが、皆様方の叡智を以てすれば、必ず人狼は見つかるでしょう。騎士など、この場に適したタレントの持ち主もいらっしゃるようで……』

 

 真っ先に注目が集まったのは、金髪の少女だった。彼女の首から下は軽装のプレートアーマーを纏っていて、まさしく〈騎士〉という様相だ。

 

『しかし、油断大敵。人狼たちも一夜に一人〈襲撃〉を通じて殺害することができます。人狼と村人が同数になれば、その時点で村人の負けとさせていただきます。』

 

 ルールを聞き終わった少女たちはあくびを噛み殺し、今か今かとその時を待ち侘びる。勘違いしないでほしい。

 

 これは多少手の込んだリアル脱出ゲーム、などではない。人の死をエンタメにする狂った組織と、狂った観客による正真正銘のデスゲーム。このゲームの結果如何では、少女たちはギロチンで斬首されるかもしれないし、丸焼きにされるかもしれないし、プレス機で肉襦袢にされるかもしれない。泣いても熱出して懇願しても、帰してはもらえない。逃げられない。

 

 そんな取り返しのつかないは火蓋が切られる。

 

『では、1日目の議論開始です。』

 

 それと同時に、少女たちの口角は上がる。

 

 絶望的な末路を予感してなお、腹の底からの衝動に抗われずにはいられない。狂ったゲームに相応しい、狂ったプレイヤーたち。

 

(……わっかいなあ)それに羅刹はちょっと、もうついていけないものを感じるのだった。

 

〈ルール〉

・一人が発声できる時間は決まっている。全員が発言時間を使い果たすとその日の議論は終了である。

・毎日昼に生存者全員で議論して、一人処刑を選ばなくてはならない(処刑は運営が執行する)。

・昼間は館全域暴力禁止。また、議論の場は〈セーフエリア〉。〈セーフエリア〉では処刑を除いてプレイヤーが死亡することはない。夜間は解禁されるが、人狼以外は自室に閉じこもらなくてはならない。

・人狼は毎夜一人を指定し、その部屋の鍵を無力化することができる。




応援してくださった皆様のおかげで2部開始までなんとか投稿できました!
最後までがんばります!

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