誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中   作:覚絵テネ

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オープニング(後編)

 羅刹は普段、目を覚ますと大体一二時から十四時だ。

 意識がはっきりしないうちから、昨夜やっていたゲームを起動する。どれだけアラームをセットしても起きれないのに、タイトル画コールが響いた瞬間意識が明瞭になる。

 ローディング時間などを駆使して、両手足の包帯を換える。皮膚が弱っていて、微量だが慢性的に出血しているのだ。デスゲームで何度も手足を繋ぎ直された代償だ。他に洗濯や最低限の掃除が済むと、ゲーム部屋に入る。音響、グラフィック、全て最新鋭。イタリアから買い付けた甘いりんご酒を氷と共にグラスに開けて、一五〇万のゲーミングチェアに腰掛けてゲームの世界に入り込む。ゲーム、ゲーム、ああゲーム!素晴らしきかな我ゲーム人生!......しかし、やはり画面越しでは刺激が足りない。この無意味な人生を塗り潰してはくれない。

 

「だからこんなところに来ちゃったんだよね。」

 

 冷たい風が頬を刺した瞬間、羅刹の目はぱっちりと開いた。無法地帯の空気に体が反応している――二ヶ月に一度の「ハレの日」。百回目のデスゲームだ。素早く体を起こす。空は曇天。黒い雲の間から、ふわふわと雪が降っている。薄手のワンピースしか来ていない体にはやや毒だった。

 だが、羅刹の注意を引いたのは別の異変だった。

 側頭部の耳がない。代わりに、頭頂部に何かがある。指で探ると、白く長い毛がこぼれ落ち、軽く引っ張ると視界の端に大きな影が見えた。ウサギの耳――いや、神経まで繋がった本物の獣耳だ。元の耳にしていたピアスが、律儀に移植されている。羅刹はくすりと笑う。倫理的におかしい人体改造も、見方を変えれば金をかけてもらった証。むしろ歓迎すべきサプライズだった。

 次にズシリと重いものが手に触れた。鍋の蓋。

 最低限状態を確認すると、猫のように背を丸め、反動で跳び上がる。両目をぐるぐると動かし、周囲の情報を常人の数十倍の速度で吸収しながらとにかく駆け出す。解けた包帯が雪風にたなびく。ワクワクが止まらなかった。このゲームではどんなモノが見られるのか。

 行きの車の中でルールの書かれた紙をもらったはずだ。思い出すのは走りながらでいい。

 

・ステージはとある北の孤島

・制限時間は七十二時間。五人まで減らなきゃ全員負けで運営に処刑される

・左手のスマートウォッチで近くの補給ポイントとプレイヤーの位置を確認可能

!!!大きな耳は引っこ抜かれないように注意!!!

 

 単純単純、要するに全員殺せばいいのだ.......いや、もうちょっと慎重に進めなきゃダメか。

 左手を見ると、黒いスマートウォッチが装着されていた。頑丈な金属製で、外すなら腕ごと切り落とす覚悟が必要だろう。画面の中心に光る◯は、自身の位置。時折、ちらりと他の点が現れては消える。数分ごとに他のプレイヤーの位置を知らせる仕様だろう。動かない■は補給ポイント。武器や物資が眠っているはずだ。

 補給ポイントへ向け、死角だらけの森の中に躊躇なく突入する。さっき表示された敵影は全部覚えている。カモシカのように、道の段差を全く意に介さず走り抜ける。鬱蒼とした森の中に、真っ白なコンクリの箱があった。腰を入れてうんしょ、と蓋をずらす。

 思い描いていた通りのものがそこにはあった。缶詰がいくつか。ボトル一つほどの飲み水。防寒着が一着……そしてピンク色の弾薬と銃弾が一つずつ。

 見覚えがあった。銃器は別ゲーム間で流用されているからだ。識別名:「ムーンスレイヤー」のものだ。この銃のベースはバレットM82。五〇口径の対物ライフルで、圧倒的な超射程と破壊力に加え、着弾時に星空のような青い煙と閃光が発生する。

 強力な武器だが、肝心の銃器は見当たらない。良い初動とは言えないが、今手に入れたリソースを一人占めするのは、おそらく正しくない。

 そういうわけで、首だけ曲げて今背後から奇襲をかけようとしている赤髪の少女に話しかける。

 

「このゲームには定石がある。それ以外にも色々教えてあげられるよ?」

 

 寒さで顔が真っ赤に染め上がり、体の動きも硬い。瞳は警戒心で細かく震えている。足音を殺そうとした結果逆に目立ってしまっている、初心者丸出しの赤毛の女の子だった。

 声をかけるとガクガクと崩れ落ちる。緊張が限界に達したのか、羅刹が怖がられているだけか。後者だったら嫌だなあ。威圧感のある年寄りにはなりたくないものだ。




人に好かれる年寄りになりたいものです

上手な文章ではないと思いますが……
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