誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中 作:覚絵テネ
初日をどう切り抜けるか。それは人狼ゲームにおける最大の命題の一つとも言える。
日が経つに従って情報が集まるゲームの性質上、初日の処刑先はどうしても運が絡む。上級者にとっては最大の関門と言える。らむねとタンザを除いた熟練者たちにとってそれは暗黙の了解だった。
デスゲーム参加者なんて揃いも揃って自分の命を軽んじている訳だが、そういう連中は得てして相対的に他人の命を重く見るなんてことはしない。
むしろ、自分を卑下しただけ他人を軽んじる。
「今日はらむねくんで良いんじゃないか?」遠回しなエドウィンからの死刑宣告。
(………え?)
らむねは一瞬、自分の耳が狂ったのかと思った。エドウィンの言葉に続いて、他の少女らが一斉に筆を走らせる。
(まずい、今すぐ、何か状況を変える言葉を......)
とは思うのだが、喉が引きつって反論できない。
処刑の対象が……………自分?これまで上手に息を潜めていた、つもりでいたのに。誰かに『それはおかしい』と言って欲しかった。
しかし熟練プレイヤー達は投票用紙が破れるくらいに勢いで名前を書き始めた。それは斜めになったり震えた文字だとしても、『らむね』の三文字が記されていくのがはっきりとわかる。
(なんで?私は息を潜めていただけなのに。)
身に覚えのない攻撃に、頭が真っ白になる。円卓のプレイヤーたちを順々に見るが、何をするべきか咄嗟には分からない。らむねは驚きを越えた怒りが膨れ上がるのを感じた。
「記し終わりましたら、引き出しをお締めくださ___」
「待って!おかしいでしょおおおおお!?ひよ太郎さんか、凪羽さんが怪しいって流れだったろうがぁ!?なんで私なのよ!?」他のプレイヤーとを隔てる透明の仕切りをバンバンと叩く。
グラサージュが嘲笑の目で彼女を見た。
「確かに、二人が怪しく見えますですなあ。日数を重ねればもっと怪しくなるかもねぇ。」
「でしょ!?だったら……」
「でも。でも。でもですよぉ、
「…………はぁ?」
砂時計を見る。発言時間が有り余ってるのはタンザとらむねだけだった。
「そ、そんなの...何言っていいか分からないし...。」
「そんなあなたに比べて、ひよ太郎も凪羽も発言は落としてましたよお。なら、日数を重ねれば、より怪しむこともできるし、白くなるかもしれないぃ。」
「…………」らむねは口を開けなかった。理屈を認めてしまったから。
「だったら、黙って息を潜めるだけの役立たずなあなたを吊るのが一番合理的。違いますぅ?」
悪趣味なヤツ、と凪羽がグラサージュを睨む。けど否定はしなかったし、何なら既に投票を済ませていた。
「そういうことだよ。タンザ君は明日以降、もうちょっと口を開いてくれると嬉しいが。」エドウィンが腕を組んで告げる。
「......え、えっ」タンザは背をアクリルに押しつけて震えていた。
「明日には羅刹吊りてえけど。キミの言の葉は、村人にとって
「キミがおじさんにそこまで時間使う意味わからないな...。」
「ボクは分かってる。君が黒だってね。」
吐き捨てるかきりに、羅刹が頭を掻いて反論の言葉を――
「おいコラアアアアア!?私を置いてけぼりにしてんじゃねえええええ!!!」
腕を円卓を叩きつける。骨が逝ったような、強烈な振動だった。そんなことに関わらずらむねは絶叫する。
「うるせぇ!うるせぇ!うるせぇんだよ!分かってるよ!私が一番役立たずだった。そんなの言われる前に分かってるのに言うなよ!イライラするんだよぉ!」
それは本当に感情だけの叫びだった。論理の欠片もなく、従って場を覆す力を持ちえない。
「だいたいテメェら理不尽だ!やり慣れた連中だけで盛り上がりやがって!………私、ゲームなんかできなかったんだよ!それなのに遊び呆けてきた連中が玄人ぶって、威張りやがって!」
☆カメラ:タンザ
タンザは命の重みとやらを図りかねていた。無理もない。
あえて再確認すると、
(どうせ………結果変わらない___けど……………たった1%だって……生き死に……関わる権利、私なんかに………ある………?)
覚悟は決めたはずだった。タンザには夢がある。そのためなら他人はもちろん、自分の命を捨てる覚悟もした。しかし、土壇場で気づく___タンザは、自分で思っている以上に冷酷さが欠けていた。自分の命は捨てられても、他人の命は奪えなかった。
「まもなく、制限時間です。投票しないプレイヤーは処刑対象に__「タンザくん」」
GMの宣告をエドウィンが断ち切る。燃えるような紅い眼で睨みつけ、熱を帯びて語る。
「俺を信じろ。君の咎は俺が背負う。だから、投票しろ。らむねに。」
「――――――――」
エドウィンの言葉を受けても動けないタンザに、らむねが追い討ちのように絶叫する。
「だいたいテメェら理不尽だ!やり慣れた連中だけで盛り上がりやがって!………私、ゲームなんかできなかったんだよ!それなのに遊び呆けてきた連中が玄人ぶって、威張りやがって!」
悲痛な叫びだった。タンザはそれが嘘ではないと確信してしまう。
タンザはらむねに向き直った。彼女を殺すのを正当化できるように、必死に言葉を探る。
すると、 らむねが笑った。
「って、何真に受けてんだ☆...気にしないでいいよ。これも私の望み通り。好き放題やろうとした!生きた証を刻んだ!それだけで現代人の99パーには勝ったから!」
タンザには彼女の言ってることが理解できない。でも、ただの強がりではなさそうだと言うことだけはわかった。
「でも、悪く思うなら……私の生きた証を、もう一つ刻んでくれないかな。」
らむねはタンザだけにそっと囁く。
「――――――」
「――え?」タンザの目が大きく開かれる。
「――どう使うもお前次第。無駄にしたくないなら、さっさと書けよ!オラァ、らむねはらむねに投票するぜ☆」
タンザは震える手で投票用紙を取り……「書け!」恫喝に従って、らむねの名前を書いた。
無駄死にを避けられたGMは一息ついて、手元の端末を見ながら結果を読み上げる。
「そこまで...投票結果を確認願います。らむね様8票。羅刹様1票。」
「多数決により、まもなく処刑を執行します。」
プシュ、とタイヤに穴があいたような音が響いた。アクリル板の空気穴が塞がれる。らむねの席のスペースからシャワーヘッドのような装置が現れ、無色の霧が溢れる。
無害そうだが...らむねは咄嗟に立ち上がって吸い込まないようにする。しかし空気中に拡散した毒素の影響か、らむねは机の上に崩れ落ちた。
「ひっ...しび、痺れる...これ、シャレになんないってえ...。やっべ、やっぱ死にたくなくなってきた。」
「遺言は選んだ方がいいですよぉ。なんなら辞世の句を私が考えてあげますですよぉ?」
「うっせ自分の心配してろ。」
グラサージュは唇に青く装飾した爪を当て、啜り泣くらむねを追撃する。らむねは気丈に反撃した。
他の熟練者たちも必要以上の慈悲は見せない。彼らの中でらむねの死はすっかり納得ずくで、関心が薄いようだった。
「ら、らむねさん...待って、私が助けてあげますから...」
唯一行動を起こそうとしているのはタンザだった。背後の扉を何度も叩き、手では開かないと分かったら頭を叩きつけてこじつけようとする。
(何その真っ青な顔。見ている私の方が不安になるくらい。)
らむねははあ、と息を吐く。
「私、アンタが嫌い。」
「へ?」
「弱くて醜くて、最低限の覚悟すら決まってなくて、なのに私より生き延びて。嫌いな要素しかない。」
らむねの顔色は悪いものの、さっきまでの気圧されるような死への絶望はない。安らかな納得ずくの顔がそこにはあって、それ以外のものはなかった。
「いや、タンザ以外も嫌いだけど。初心者保護しなさいよ。……でも、やっぱりダントツでタンザが嫌いだわ。」
タンザは俯いて言うことを受け止めていた。返す言葉もない、というのはまさしくこのことだ。
「……でも、だからこそ。アンタが勝ったらどうなるんだろうって思わせてくれる。」
「………え。」
「――――勝ちなさいよ!」
「は、はい!」
ケッ、と他のプレイヤーにガンを飛ばすと、らむねはふらついて椅子に座った。
眠るようにらむねは息を引き取った。死者に白粉を塗るように、毒霧は吹き付けられ続けた。
☆
(......どうでもいいけど、白紙投票は自投票扱いなんだ。)
羅刹は一つ検証を済ませた。