誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中 作:覚絵テネ
タンザは責められるとすぐに事で泣いてしまう。掃除したはずの場所にごみが残っていたり、備品を汚されたり、強く注意されたり。心にヒビが入るほど辛いわけでもないのにどうしても涙が溢れてしまう。
でも祖祖父が死んだとき泣かなかった。大往生だったというのも、たいして親しくない人だったというのもあるだろう。それにしたって涙の一滴すら出なくて、むしろ葬式に参列するときは奇妙な義務感さえあった。
ひょっとして自分はすごく利己的人間ではないかと思っていた。……幸い……そうでもなかったらしい。
☆
「……いつまで……この時間を続けるんですか....!!」
らむねの処刑は、彼女が動かなくなっても続けられた。とっくに痙攣すらしなくなった体に、出口を失った白い毒霧が立ち込め続ける。タンザの睨みが聞いた訳ではないだろうが、GMは鈴のなるような声で宣言する。
『手順は定められております。『10分間の毒霧吸引』……ちょうど10分経過いたしましたので、毒霧を吸引、処刑を終了いたします。』
GMの言葉が終わると同時に、全員の背後にある扉が解錠され、らむねの目の前にある装置から毒霧が吸引される。
タンザは毒の残留など意に介さず駆け寄る。
『吸引されぬようお気をつけて...』
突っ伏していた彼女の肩を掴むと、その冷たさに愕然とする。無機物?氷?いや、もっと冷たい、触れた瞬間指が凍結したと錯覚するような寒さ。怯まず肩を掴んで起こし、その表情を垣間見て――――
目も口も安らかな表情で固定され、肌は霧が染み込んだのか、徹底的なくらいに美白されている。それは一般的な死体が持つグロテスクさとは真逆にある――しかし、生きていない、と瞬時に悟ってしまう美しさだ。
確信を振り払うように、タンザはらむねを地面に倒すと、心臓マッサージを始めた。衝撃が体内を圧迫し、緩んだ口腔から、残留していた白い毒霧が漏れる。一瞬怯んだが、それでも人工呼吸を行う。杜撰で、力任せの動き。わずかな毒を吸入し、タンザの顔色が悪くなる。それでも夢中で、死人の心配蘇生を試みる。
タンザは気絶する直前、らむねが起き上がった――――
「あっ、よか...」
――――というのは、もちろん錯覚で、意識を失い倒れゆくタンザとらむねの顔が急接近しただけだった。
☆
目を覚ますと、半裸の羅刹が覆い被さっていた。中世風の白いフリル付きコルセットとショーツ姿で、長い指がタンザの服の下をまさぐっている。肌のあちこちに入ったヒビのような傷跡と、それを覆い隠す大量の包帯がなければやらしい気持ちになっただろうか。絶対に否だ。
羅刹は目が合うと口をもにゃもにゃと動かして……
「……あ……これは……」
考えるより先に平手が飛んだ。パチン、と小気味よい音が響き、羅刹がもんどり打って倒れる。スレンダーな四肢が投げ出される。その様子を見ていたかきりが吹き出した。
「……あ……いきなり触られたものですから……つい。」
ハッとして周囲を見ると、他の女の子も皆下着だった。
代表してエドウィンが口を開く。
「すまない、タンザ。順を追って話すと、館を探索中に武器庫が見つかったんだ。」
「……ブキコ。」なんとも非現実的な響き。
「一回の、玄関にむかって左にある。そこの武器は皆で数え管理することに決まったが、その後に一応身体検査を……ということになった。キミからも同意を取れればと思ったのだが、すまないね。」
「あ、そういうことだったんですね……すみません、いきなり殴って……」
「いいよいいよー。あ、みんな。銃身をバラして体内に隠してでもなきゃ大丈夫だよー。」……どこまで探られたんだ?
「それより、武器庫って。……銃……とかです……?」
「ああうん。ゲリラ戦くらいならやれそうな装備が貯蓄されていた。」
「な、なんで……」
「おそらくだが、人狼が使うためだろうな。ルールを見るに、人狼が指定すればそれでポチッと対象が死ぬわけじゃない。人狼自身が犠牲者を殺さないといけないと思う。」
「……ゲーム性としては宇宙人狼に近いかな。キミは見るからに文化資本のない無産階級って感じだが、遊んだことはある?」
通りすがりに嫌味をいっていくかきりに、タンザは不用意に口を開かなかった。
「めぼしい施設は武器庫と……あと植物園、地下墓地?自分で見て回るといいよ。」
☆
少し歩くと、建築物の構造がわかった。
2階建て。1階と2階は螺旋階段が唯一の通路になっていて、共に十字の通路に部屋がくっついている形だ。2階は北、東、西にそれぞれ3部屋ずつ個室がある。南には、植物園があるようだ。
一階にある施設は4つ。これも東西南北にそれぞれ配置されている。まず、議論を行った円卓の広間。武器庫。食卓。墓地。時間的に一箇所しか探索できなさそうだ。
▷広間 ▷食卓 ▷墓地 ▶武器庫
身体検査が終わると、プレイヤーたちは館内の探索に奔走していた。手慣れた様子で何かギミックは無いかと器物破損を重ねて回る。高そうな壺などの調度品を文字通りゲーム感覚で割っていく姿は、小市民のタンザを慄かせた。
「ここに居るやつはもう金なんてどーでもいいんだ。キミは随分と物欲しそうな顔をしているけどね」と金の燭台を叩き割りながらかきりが言っていた。
調和したクラシックな洋館は、見る見る盗賊が荒らした後みたいになっていく。目を背けるように、タンザは大体の間取りを把握しつつ、武器庫へと向かう。
地下。分厚い鉛の扉をくぐった先には、四方の壁に大量の武器が据え付けられていた。長剣や弓矢に加え、火縄銃。
目についたのは小さめの大砲。
「これは【ハンドキャノン】ッ!!!14世紀イタリア、かたくななる宗教とルネサンスの華が咲く時代に生まれた、鉄砲のオリジンとでも言うべき兵器なのだ!!!!ま、沢山の火薬が必要な割に威力は低く次弾装填にも5分近く要する……骨董品以外の価値はない、ボク様は悲しいぜ!」
中に居た(何故か手錠をかけられた)ひよ太郎が解説してくれた。その後ろには凪羽、羅刹。
「べ、勉強になり……それより………何処から聞きましょう。何故縛られてるんです?」
「ハッハー、これかい!?ボク様は天才科学者!賞金なんて二の次!運営の持つ謎技術のために参加しているのさ!あのGMの体内が気になってね!解体しようとしたところ、丁重極まりなく無力化、ペナルティを課されたというわけさ!ハーッハッハ!」
「ともあれ、タンザちゃんが気になってるのは、多分オラたちが何でこんなトコに要るかっちゅうことじゃねーかーぁ?」
「あ……そうですね。」
「おめぇが気絶してる間に話し合った結果なぁ、護身と武器のトレーサビリティを天秤にかけ……ひとりひとつ部屋に武器を持ち帰るっちゅうことになった。んで、オラたち三人で勝手に武器を持ち帰る奴がいないか監視してんだ。おめぇも武器一つ選ぶんだ!」
「な。なるほど。」
多分合理的で、問題があるようには感じない。
「...じゃあ、銃を...」
「悪いね。誰がどれを使ったか分かりやすいようにするため、それぞれ持ち帰る武器は別種類にしてもらってるんだ。タンザは悪いが、残ったのはこれだけだ。」
渡されたのは、刃渡りが片腕くらいのナイフだった。切れ味は悪くなさそうだ。
「じゃあ、全員に一つ武器が渡ったところで...。」
「待て待て、ソレはボク様にやらせるのだ!!」
羅刹が持ち上げた缶を、ひよ太郎が奪い取った。そして並々と入ったその中身をぶちまける。「うわっ...な、何を...」残った武器に、ショッキングピンクの、ドロドロとした液体が降りかかった。
「触れるなよ?これはボク様が作った、名付けて『スライム液』!一度つくと絶対に剥がれない!落ちない!もし不正に武器に触れた奴がいれば、分かるということだ!」
「効果については実証済みだぞ〜。オラの腕についたまま、洗っても洗っても落ちなくなっちまった!」
なるほど、ゲームのプロの皆様は色々やっておられるようだ。
タンザはナイフを鞘に収めると、ポケットに収める。
「........どうやって作ったんです.....」
「......これ説明するの何度目....ああいや!今こそ教えよう!ひよ太郎様流『スライム液』の作り方...」
声を張り上げていると、ゴーン、ゴーンと鐘の音が響いた。
洋館の各地に設置されたスピーカーから、GMの声が聞こえてくる。
『食事のご用意ができました。ぜひ皆々様、食堂にお集まりください。』
☆
『本ゲームでは朝夕二回、
テーブルには、見たこともないような豪勢な食事たちが銀の皿に盛られていた。
黒に近い紫と明るい緑。鮮やかな切り身が交互に並べられた蛸とそら豆のマリネ。四種の香辛料とソースを重ねがけされた、一口ごとに全く違う味覚が刺激される北京ダック。金目鯛は生クリームと四種類の緑黄色野菜のポタージュを合わせたソースが被さり、上品な味わい。
凪羽は脇目もふらず咀嚼していた。かきりはさっさと食べ終わりを宣言し、ソフトクリームやソフトドリンクを流し込んでいる。バステトは脂っぽい料理に異常な量の塩やソースをかけ、涙ながらに食べている。
「羅刹様の拵えたる美味……大地の恩惠の極みにてー」
「はは、おじさん達は生活習慣病には無縁なのが残念だねー」
「はて、羅刹様がわたくしの健康を気づかってくださっている……」
「いや、早く死ねばいいのにって意味だよ?」
「羅刹さん、バステトさんに対しては異様に当たりが強いですねぇ。何か因縁でもぉ?」
「あーまあ……ナントカって事があったんだ。」
グラサージュと凪羽がその様子を見ながら適度に談笑していた。
タンザはGMに紅茶を勧められたが、持ち上げたきり手もつけられずに居た。心にヒビが入っていて、何か飲んだりすればそこから亀裂が入って体が壊れそうな予感がした。
壁に寄りかかっているとグラサージュが皿を近づけてくる。元々猫背のタンザからは暴力的な胸部装甲が目線の高さにあって、なおさら圧迫感があった。
「うふふ、美少女の死に様を肴にした飯は格別ですねぇ。タンザさんもいかがですかぁ?」
……なんで、そんな酷いことを言うんだ。もう死んだらむねに。
胃液がせり上がってくる。むかむかする。これをどうすればいい。吐けばいいのか?行方のわからない思いで立ち上がる。衝動的な行いだった。ティーカップを振り上げ、中身をグラサージュにかけ...
「お"あっっっっつ!?!?」途中で、近寄っていた包帯女――羅刹に降りかかる。
「え……っ!あなたにかけるつもりは……」
「あらあら、悪辣な世界に慣れさせてあげようという配慮でしたのにぃ。いいですかタンザさあん?死者を見たらガッツポーズをするんですよお。先に死んだ者たちに比べれば、私達はどんなに劣等で、惨めで、邪悪でも、勝者なんですから。………あ、タオルです。それでは私はこれで。」
羅刹はごしごしと紅茶を吹くと、タンザによりかかった。
「気にしないでね、おじさんの痛覚大体壊れてるから。」手のひらにはチキンのようなものが握られている。
「鴨のコンフィ。低温の油で三時間揚げるとね、世にも柔らかく、旨みと水分を完璧に残した肉が出来上がるんだよ。」
「親切心ですか?これから殺し合う相手に……いりません。」
「トラブルがあって飯を食えなくなる可能性もあるよ?……みんなキミが思ってるより呑気でも冷酷でもなく、必死なんだよ。そう考えるのがオススメ。」
「………」
コンフィはあらゆる理性を跳ね除けて腹を鳴らさせるパワーがあり、他のことを考えなければならないと思った。
「みなさん、慣れてらっしゃるみたいですね。」
何回目からその良心をなくしたんだ、という皮肉も混じっていた。
「まあ、この村は10回以上はプレイしてるやつ多いね。ラムネはあの様子だと4、5回しかプレイしてないのかな?」
「……なんで、皆さん…………こんなゲームを何回も…………?」
億万長者にでもなりたいのか、はたまた病気の家族でもいるのか?そういう共感可能な答えをタンザクは期待した。
「理由なんてものはないよ?面白いゲームだから。そんだけ。」
「……一歩……間違えれば、らむねさんみたいに……」
「死ぬね。でも、死にたくない人間がいるってことはその逆も居るってことだよ?」
「いかれてます。もっといえば、穢らわしい。」
「あはは。そういう人間は生きてちゃいけないか?」
「…………」
「ま、殺人大好きのジャンキーや死の恐怖を求めるギャンブラーばかりじゃない。良い奴でいたいタイプも多いよ。ほら、あいつも話しかけたそうにしてる。曲者だから気をつけなよ。」
指さした方にはエドウィンが居た。
「俺は、そこまで感傷的な理由ではないがね。戦略上の……」
こほんと咳払いするエドウィンの肩を叩き、羅刹は食堂を去る。
「ま、おじさんは今回あんまり意地悪しない。頑張って悪巧みしな、『五〇回目』?」
エドウィンはすれ違う際にそう言われると、深くため息を吐いた。
外見と声のギャップからイロモノ扱いされがちだが、彼女はデスゲーム内でもトッププレイヤーの部類に入る。
その見識眼と老獪な立ち回りで、多くの実力派プレイヤーたちを惨殺してきた。
羅刹の不調も見た瞬間に把握している。
(羅刹さん、貴方もそろそろ寿命か?……安心しろ、俺がしっかり葬り去ってやる。)
挑戦心ではなく、確信に近い決意だった。
エドウィン。これまでのゲームにおける直接殺害数187人。人を油断させる衣を纏い、カルマを溜め込んだ魔人が動き出す。
☆
見れば見るほど幼児のような顔だった。もちもちした肢体。瞼や頬は皮膚が薄いせいか、熟した梅のような赤みがさしている。彼女の喉から深みあるバリトンが流れるのは逆に落ち着かない。
「マフィンが美味しかったのでもってこようとしたが、忘れてしまったよ。もしかしたらそれで君の心を開けたのかもしれないのにな。」
「……」
「俺の人生はこれの繰り返しだ。気づくこと、覚えるべきことが覚えられない。構造的欠陥というやつだね。常人ができないことに耐えられなくてそのことを忘れたくて、俺はここにいるのかもしれない。」
タンザの友人にも似た悩みを抱えるものがいる。
交流すまい、とする決心が早速揺らいだ。
「……それは、治療とかあるんじゃないですか?友達がやってましたよ。」
「おお。その子は強いね。自分の欠損を認めるのは勇気のいることだよ。俺は未だに、できる気がしない。」
「……それはかわいそうに。飲み物でもほしいんですか?」
「……ははっ。ああ、本題に入ったほうがいいか?……どうあれ、俺達は協力しなければ。このままでは議論の場で喋れないキミを吊ろうという話しになりかねない。だから、初日黙ってしまったとしても明日以降は不器用でも積極的に発言するべきだ……ということを言いたいんだ。過酷だろうがね。」
「………。」これまで理解できない害悪だったエドウィンが、そうでなくなるのを感じる。
「さもないと、二人とも疑われて処刑されるかもしれない。……ここは協力関係と……」
一瞬、差し出された手を握ろうかと思った。しかし結局は強くはたいて、突き放した。
「来るな!私は!妹の治療費を探すためにここに来た!どんな理由がアあろうと、アンタらみたいなデスゲームを好きでプレイする異常者とは違う!」
「………素敵な願いだ。是非とも叶うことを祈ろう。」
☆
『間もなく夜時間です。それぞれの部屋にお戻りを。』
探索も目立った成果は上がらなかった。タンザはGMの声に急かされるように、与えられた私室に戻る。落ち着け、これからやるべきことを考えよう。テーブルの上には、人狼ゲームに関する指南書があった。これを読めば知識量は彼女らに追いつけるはずだ。
「おー、おめぇ勉強熱心だなぁ!」
背後からいきなりかけられた声に、タンザは文字通り飛び上がった。勢いよく転倒したが、抱きとめてくれる人がいた。ノックもなしにドアは開け放たれていた。清流のような青髪をツインテールにまとめている少女、凪羽だ。落ち着いた色のワンピースと対比になって、その笑顔は眩しいくらいだった。
「わりぃわりぃ!……いや、もう夜時間が始まるからさ。おめぇ、不安そうだったからな。にひひ、ちょっとしたプレゼントだ。ミモザ・プディカ……つまりおじぎ草だ。」
茶色の、土のついた鉢植えを机の上にごとりと置く。「こうやって突いてやると萎むんだ。まるでお辞儀してるみたいだろ?おめぇみてぇだと思ってなぁ!」2つの意味で信じられないことに、タンザは彼女から『気遣い』や『優しさ』のようなものを感じた。
それがかえって怖い。受け入れたら、自分もこの世界の住人になってしまいそうで。
「………出ていってください!」
「へ?」
「出ていってください!!!!」
「わ、悪かったな……」
凪羽が出ていった後で、タンザは少し後悔した。次があれば、もう少し彼女の話を聞いてみてもいいかもしれない………。
■凪羽との関係が進展するのを感じた。
♥1/3
☆
「役のある皆様は行動を開始してください。」
ドアは分厚い鋼鉄製で完全防音。かつ、一度締めると夜間は電子ロックがかかっていて人間の手では開けられない。人狼の襲撃対象にならない限りは安全というわけだ。ベッドは家にあるものとちょうど同じ硬さだったが、毛布を被った所で到底寝られる気がしなかった。でもちょうどいい。タンザクだって勝たなくてはならないのだ。ささくれのある椅子に座る。引き出しの中のペンを使って、自分なりに役職を整理していく。
書き始める前に、エドウィンの手を取らなかったことがふと脳裏に浮かんだ。……もしも、ほんとにもしも明日あの人が死んだりしたら、忘れられなくなるかもしれない。
☆
「このゲームには、必勝法がある。」
暗がりの中で少女たちは嘯いた。昼間とはまるで別人のようだ。
「ああ、ああ。それで構わない。相応のリスクを呑むことにはなるがね………私が。君はメリットを享受するだけでいい。さあ、間抜けどもをあっと言わせてやろう。開けた口を割いて4つに千切ろう。」
☆
次の朝。エドウィンが無惨な姿で発見された。