誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中   作:覚絵テネ

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二日目-朝 襲撃結果と人狼の悪意

『皆様、まもなく朝時間でございます。役職持ちの方々は部屋にお戻りください。村陣営の方々はまもなく自室のロックを解除いたします。』

 

「...えへ.......結局、一睡も…………………うふ…。」

 

 タンザが眠気覚ましにシャワーを浴びていた。なんか、空気の重さを感じた。物理的な重さもそうなのだが、何か息苦しい感じがする。

 

「………というより、暑いような?」

 

 パチパチ、炎の爆ぜる音がどこかから聞こえた気がした。

 

______まさか。人狼だって、プレイヤー。みんなと変わらないような部屋に住んでいるはず。

 想像が正しいなら……まずい、みんな焼け死んでしまう。あるいはそれでも良い、ということだろうか?

 

 骨ばった身体にタオルを回し、ドアノブに触れる。鋼鉄のドアが焼けるように熱かった。

 

「……まさか、放火?!」

 

 言ってる間に、部屋の温度がどんどん上がっていく。シャワーから出るのも熱湯に変わっていく。湿気で空気火傷を起こしそうになり、急いで水を止めた。

 

「GMさん!?火事ですよ!げ、ゲームなんて中止なのでは!?部屋のロックを解除してください!」

 

『タンザ様、これはルールの範囲内です。ゲームは中断なく続行されます。』

 

「へぇ……っ!?」 

 

 ☆ 

 

 朝時間が始まり、ドアが解錠されると同時に廊下へ転がり出た。しかし、さらなる熱気に襲われ、立ち眩みを覚える。ごうごうと、天井に届くほどの火が廊下を燃やす。昨日までの読み合いごと全て灰にするように。絨毯に火薬か何か練り込まれたらしく、猛烈な勢い。シャワーを引っ張ってきて水を汲むが、止まる気配がない。ジリジリと足場は小さくなっていく。

 

「詰みですよタンザさぁん。短い生涯でしたぁ。」

 

「グラサージュさん!」

 

「けほ………ルールは昼間の暴力禁止。つまり、夜間に放火すればOK。燃料は武器庫の重火器から調達したか。くそ、ケアできる敗因だったなあ。」

 

 両隣の...十字路の東部屋の二人が、比較的火の弱いタンザの部屋前に合流する。初日の二人から漂っていた圧倒的な悪のオーラ。それだけに、諦めムードにリアリティがあった。

 

「かきり……さん。そんな、終わりみたいな……」

 

「終わりだよ。……もう数十秒で酸素がなくなる。逃げ場もねぇ。人狼は自分の部屋には火が回らないようにしてるだろうね。」

 

「大喜利しませぇん?お題は『炎に飛び込む直前に焼け死ぬ直前に一言』。」

 

 二人に反論しようと口を開いた途端、熱気が喉に入ってゲホゲホとなった。

 

(嫌だ……こんなところで……)

 

 意識を失う前の瞬間だった。それは雷光に見えた。一瞬遅れて眼の前を突風が吹き抜ける。よもや人狼か、襲いにきたのか、と身構えたが違うらしい。

 

 その少女は間違いなく人の形をしていた。ただし、チーターだった。ただの人が手足4本で機関車並みのベクトルを生み出せるわけがないからだ。

 

「あれあれあれー?ひ弱なお嬢様方、諦めるにはまだ早いでしょー?」

 

 現れたのはバステトだった。彼女の四肢は膨張し、血管が浮き出ている。1人だけ少し世界観が違った。

 

「……山猫か。いいぞ許す、ボクたちを助けろ。お前が村人なら頭かずはまだ減らせないはず。」

 

「恩を恩と捉えられない子は哀れでございますー。」

 

 軽い調子だった。猛烈な速度で加速し、火の中に突っ込む。自殺ではない。凄まじい衝撃波を削しながら火の中に突っ込み、吹き消していく。ただ2度の跳躍で燃え盛る業火は掻き消された。

 

 

「いや〜、オラ死んだと思ったぞぉ!センキューな、バステト!」西部屋から救出された凪羽がニカッと笑う。

 

「礼には及びませぬよ、食えませぬし。その分信用してくださいまし、ねー?」

 

「ば、バステトさんのその身体能力は………?」

 

「PSでしてー。」絶対に嘘なのだった。

 

 消火が終わると、かきりが話を進める。

 

「しかし、らしくなって来たね。どんなキレた奴が人狼してんのか、そしてどんな間抜け面を見せてくれるのか。」

 

「うむ、僕様のふわふわヘアーを焦がしたのはどいつだー!!」

 

 凪羽と同じく西部屋からひよ太郎も合流した。集まっているのはひよ太郎、グラサージュ、タンザ、凪羽、かきり、バステト。どうやら火災では誰も死んでいないようだ。

 

「この6人はバステトが居なければ焼け死ぬ寸前だった。つまり人狼ではないだろう。」

 

「じゃあ……………人狼はあの二人………」 

 

「どんな反応すっかなー?オラわくわくすっぞ!」 

 

「ええー……羅刹様はここをどう切り抜けるつもりなのでしょうねー?」

 

 誰が言うでもなく、二階北、最も火の遠いところに向かって少女たちは歩みだすが、部屋に到達する前に徐々に減速してゆく。まるで、目的の扉が魔王の部屋であるかのように。取り調べに来た刑事のように、ガンガンガン!とバステトが激しくノックするが、返事はない。

 

「ご開帳でしてー!」

 

 クリスマスプレゼントを開く子供のように、輝く笑顔で勢いよくドアを押し開く。息を呑む。その、先には。

 

 ______下着姿、まるで寝起きのように床に倒れ、悶絶する羅刹がいた。

 

 額が赤く染まっている。四肢の包帯も緩み、まるで寝起きを装っているようだ。

 

 「………」羅刹は足をくの字に折り曲げ、目尻に微かな涙が溜まっている。上目遣いに非難めいた視線を送るが、周囲反応は冷淡だった。

 

「ここで寝たフリが通ると思うなよー!」

 

「どっひゃ〜!オラ、おめぇの面の皮の厚さにはおでれぇたぞ〜!」

 

「え、何?おじさんの知らないところで……。」

 

 羅刹は青白い顔を困惑に歪める。ホントに何がなんだか分かっていないようだ。

 

「言い訳は議論の場で聞こうじゃないか。まずはもう一人の人狼を起こしに行こう。」

 

「………???かきりちゃんは語気を強くしてれば押し通せると思ってるんだったね?」

 

 羅刹は咄嗟に反論したが、誰もロクに聞かない。

 

 北の個室は3つ。らむね、羅刹、そしてエドウィン。村人たちはエドウィンが羅刹の相方に違いないと胸を弾ませながら、ドアを明ける。

 

 一番に、嫌な匂いが鼻をついた。焼き肉をした時のような、焦げたタンパク質と脂質の匂い。けれど、牛や豚にはない、本能的に忌避する香りがその中には入っている。

 

 ピンクの部屋だった。そういう色調の家具が多いとかではなく、360度どこを見てもピンクで染め上げられていた。元々はクラシックなインテリアが上品に調和した、ゴシック調の落ち着いた色合いの部屋だったのだろう。しかし、ショッキングピンクが文字通り360度に飛び散っていた。参加者は皆、自分たちの血液はこの色だと知っている。

 

「なんだいこれは?ペンキでもぶちまけたのかい?」

 

「…………死体…………」

 

 ピンクペーストに凪羽が触れるが、その湿った感触にすぐ指を引っ込めた。達人たちも疑問符が溢れた。部屋には、所々大きめの肉塊が落ちていて、骨や髪が混ざっている。

 

 グラサージュが踏み出して、指でペーストを救う。

 

「ペロッ。これは......人肉ですね。ああ……ペースト状に潰され、部屋中に撒き散らされて。それによって部屋中がショッキングピンクで染まってるんですぅ。」

 

「……人間の......することじゃない。」よろけたタンザを凪羽が支える。

 

 しばらく議論を交わしたが、村人たちは、人狼ではなく……占い師……エドウィンの死を認めざるを得なかった。

 

『初日夜の犠牲者を通知します。エドウィン様、エドウィン様が昨夜お亡くなりになられました。彼女が遺した手がかりを元に議論を進めましょう。議論は2時開始になりますので、お手洗いを済ませてからお越しください』

 

「まずは凶器を分析するか。……なんで君たち、そんな白々しいものを見るような目で見るの?」 

 

「ふふ、何故でございましょー。それより、凶器は何だと思います?」

 

「部屋にあるのはコレだけだな。マスケット銃。でも発砲の痕跡はない、それどころか火薬が掻き出されたあとがある。この火薬で何を意味しているのか……」

 

「うふふ。」

 

「……さっきから何なんだ。」

 

 羅刹とバステトが睨み合う一方で、タンザは仲裁するように息を吸って話し始める。人前だが、思っていたより言葉を紡ぐことができた。

 

「火事………です。」

 

「火事?」

 

「北の部屋にだけ火が届かないように、放火されていたんですよ。みんな焼け死ぬところでした。」

 

「……そっか。今朝は貧血気味で、ちょっと気づけなかったな。」

 

「貧血気味、で気付けないことありますか。羅刹さん、部屋見せて頂けます?」

 

「いいけど。」

 

 羅刹の部屋に、特に変わったことはなかった。火薬がこぼれ落ちていたりもしない。

 

「私が預かった武器は大振りなナイフだ。放火に使うマッチとかはないよー?」

 

「火なんてどこからでも調達できますから、無罪の証拠にはならないですねぇ。それより、シャワー室が濡れているようですが。」

 

「夜中に浴びたからな。」

 

「ふぅん……火の対策ではなく?」

 

「火事ね。被害者としても関与してないから何も言えないんだよな……。」

 

「これは何だー?めちゃくちゃ放火の証拠に思えるがー!」

 

 排水溝を漁っていたひよ太郎が、なにか燃えカスのようなものを摘みだした。

 

「なんだろ……前のゲームの残り物じゃない?」

 

 羅刹はとくに疑いを晴らせない。その様を、バステトがじっと見つめている。

 

「羅刹さまー?大丈夫ですかー?」

「大丈夫って、何が?」

「いえ、調子でも悪いのではとー。なんとなく、受け答えにキレが無いと言うべきでしょうかー。」

「そうかな……そうかも……てかハメられてるぽいし……」 

 

 さておき、タンザはどうしよう。

 

 一回の他の施設を見て回るべきか。

 

 あるいは、ほかに怪しい人がいるならその人の部屋を探すべきか。2つくらいは回れそうだが……

 

 ☆

 

▶武器庫へ

 

 武器庫には、既に大勢が集まっていた。

 

 タンザと同じ思考のようだ。武器庫には銃身が歪められた銃や刃を折られた長剣などが残骸の山を作っている。その残骸の山からは、薬莢や火薬といったものが全く見当たらない。

 

「クソ、僕様の開発したスライムが……」

 

「これを燃料に放火したーということでしょうー。」

 

「羅刹の部屋からあまりの火薬とかは見つからなかったか?」

 

「いいえー。先程から3人組で羅刹さま含め全員の部屋をチェックしましたが、火薬は見つかりませんでしたー。」

 

「チェッ、そこまで迂闊じゃあないか……」

 

「あははー残念でございますねー!」

 

「……バステトさん、なんだか機嫌がいいですね。」

 

「左様ですかー?自覚はありませんでしたがー。そうですね……わたくし、言ってしまえば羅刹様のファンなのです。だからーこの嫌疑を向けられた状態をどう切り抜けるのかー、楽しみで仕方ありませぬー。」

 

 ☆

 

 ▶墓場へ

 

「……………」

 

一回の墓場に向かっていると、階段に蹲っている羅刹を見つけた。……寝ているのだろうか?

 

「羅刹さん?」声をかけてみると、死人のように真っ青な顔を上げる。

 

「……あ?………ああ、タンザちゃん。どうかした?」

 

「いえ、気分が優れなさそうだったので……」

 

「ああ、安心して。すぐに治るから……」

 

 そういうと、自分の部屋にヨロヨロと歩いて行った。とても探索できる体調じゃなさそうだが………休んでいる訳にもいかないだろう。なにせ、彼女が放火の犯人として今一番疑われているのだ。 

 

「……ん?」

 

 何か、言い争っている声が聞こえて、そちらの方向へ階段を登る。

 

「はーいーるー!」

「入らせない。」

「しーらーべーるー!」

「調べさせない。」

 

 金梟が、かきりの部屋を調べさせろと言い争っていた。かきりは意固地に拒否しているようだ。白なら見せればいいのに。

 

「何を……されているんです……?」

 

「あ、タンザ!聞いてくれ、こいつが部屋を調べさせないんだ!怪しいことがないなら調べられても平気なハズだぞーーー!」

 

「はん、無神経で感受性に欠けた人間の言だね。僕の部屋を好き勝手漁られるのは僕にとって体の内部を弄られるに等しい屈辱だ。それなら死を選ぶ。」 

 

「あはは……」

 

 確かに、共感できないでもなかった。

 タンザにも踏み込まれたくない部分っていうのはある。それを侵されるだけで死を選ぶ理由になるくらいの恥部が。

 

 さておき、言い争ってるだけでは物事が進まないのは明らかで。

 

「うーん……じゃあ代わりに私の部屋……見ます?」

「……む……まあ、一応見ておくぞー!」  

 

 ひよ太郎はタンザの部屋を一通り見て回ったが、怪しいものは何もなかった。

 

 

「ひよ太郎さんは頭がいいんですねぇ。」

 

「うむ、大天才だからなー!リアルでもノーベル賞3回取ってる!」

 

 どう返したものかしばし迷った。大胆な嘘なのか、あるいは。ひよ太郎の物品を扱う手つきには、確かに医者や研究者のような繊細さ、知性が感じられた。

 

 本棚の上に飾られている標本をマジマジと見ている。

 

「ひよ太郎さん、それは壊さないんですか?中に何か入ってるかも。」

 

「何を言っている!これは絶滅した、あのマナグロノチョウの標本だぞーー!!!本当なら解剖したいところだ!壊すなんてとんでもない!おい運営!これは学術的にほんっとに貴重なものだからな!!!!カメラ外で回収しとけーーー!?!?」

 

 両手をわなわなと震わせて絶叫するひよ太郎。

 

 タンザはひよ太郎との関係性が深まった気がした。ゲーム風に表現するなら

 

♥1/3

 

って感じだろうか。

 

『生きている皆様、まもなく議論の時間です。広間にお集まりを。』

 

 どうやら探索は時間切れのようだ。

 戦闘なんて穏便な。ここは野蛮な議論で全てを決めよう。




ゲームは(適当な範囲で)壊してる時が一番楽しいんですよ
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