誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中 作:覚絵テネ
死が決まっても、大して心は揺れなかった。前回のゲームで一緒になったバステトへの義理も果たしたし。
ゲームの才能は最初から無いと自覚していたし、命なんて最初から気にしてもいない。
凪羽は別に、大した理由があってデスゲームをやっている訳ではない。借金もないしそこまでスリルに飢えているわけでもない。...そう、本当に何となくで居着いている。でも別にデスゲームの中では、マイノリティではないと思う。自分の将来とかについて、一度よく考えてみたほうが良かったのかもしれない。でもめんどくさいし、抽象的なことを考えるのは苦手だし、一緒に悩んでくれる人もいなかった。気がつけば、40年生きてデスゲームで日銭を稼いでいた。
『そんなんだから、お前は〈一流〉にはなれねぇんだよ。』
凪羽の先輩がそう言っていた。ガサツで無遠慮で共産主義者で差別主義者で反出生主義者で攻撃的、総じて性格が悪すぎる人だった。でも嫌いじゃなかった。
『お前は呑み込みが早い。運動神経も良い。けど〈芯〉がない。』
今ならその意味が分かる気がする。経験では圧倒的に勝るはずのタンザに勝てる気がしなかった。それはきっと、凪羽に戦う理由がないからだ。あんなに目をギラつかせて魂を削ってまで戦う理由がない。そういうのは、しんどいし。
負けて死ぬのもむべなるかなー、って。
...でも。ふと、小学校の記憶を思い出した。
小学校では、取り憑かれるように本を読んでいた。図書室の借りた数によって、表彰されるからだ。そのスコアを傘増しすることが、幼い凪羽の真剣に取り組むべき命題だった。
結局、途中からスマホゲームにのめり込んでしまったけれども。もし。そこで挫けずに読書でも何でもやり通していたら、こことは違うどこかで笑っていたのだろうか。
☆カメラ:現実の凪羽
信じられないほど静かに穏やかに、凪羽の命は終わっていく。頭の中に白いモヤが貼ってきて、そしてそれはもう晴れることはない。痛覚も過剰な快楽もなく、干したばっかりの布団に沈み込むように意識は沈み、もう浮き上がることはない。その丁重な葬られ方にぞっとする。
どれだけの人間が苦しんだ果に、これがあるのだろう。
「いやー味方すまねぇ!けど、頑張った方じゃねえかあ?おら、あそこから勝つのって無理やりタンザでも吊れなきゃ無理だと思うだ!」
「あれ、自白ですかぁ?」
「え?どっちとも取れるんじゃねえかなあ……?」
「冗談ですう、冗談。でも、誤魔化しててもわかりますよ。……悔しい、ですよね?」
「は?オラは満足してっぞ、人生。」凪羽は花の咲くような笑顔で、グラサージュの挑発に返す。
「ちぇっ。」
思った通りの反応が得られなかったのか、グラサージュはおとなしく引っ込む。死者愚弄が趣味なんて気持ちわりぃ。
……まあでも、本気で腹が立っているわけではない。プロレスのようなものだ。みんな強気な言葉を使うことで、自分にさえ本心を押し隠している。
「……だから、そんなに嫌わないでくれぇ?」
凪羽が人生で最後に見たのは、眼鏡の少女。彼女は俯いて、目を合わせようともしてくれない。彼女だけはずっと本気だった。自分の命に血して真摯に向かい合っていた。そんな彼女だから、凪羽もガラになく厚くさせられてしまったのかもしれない。
「冗談じゃん……なあ、本気にすんじゃねぇぞ……なあ、冗談だからさ……。」
無視されたまま、凪羽の命は終わっていく。喉が引き攣って、呼吸がままならなくなり、瞼が重くなっていく。
「なあ……ひっ……グスッ……おい、こっち見てよっ…ゲホッ!ゴホッ、ひっ、ひっひっ……………………ぁ…………。」
薄れゆく意識の中で、見上げた眼鏡の少女はこちらを睨んでいた。それが本心から恐ろしかった。ここには死にたい奴と死んでもいい奴の終着点。自分のために怒れるやつなんていないと思っていたのに。
(嫌わないでよ……。)
☆
グラサージュは気まずそうに黙っていた。凪羽の処刑が終わり、全員が円卓から解放される。
「……終わらない、のか。」
凪羽が狼だという主張は、この結果をもって覆された形になる。ショコラもかきりも、タンザに不信感を持ったかもしれない。けれど、タンザの心に波一つ建てなかった。
もう結果は決まりきっているのだから。
(アァ、吊っちゃった。あなた達にとって、それは地獄への片道切符なのに)
「タンザさぁん……?」
惜しげもなく生足を晒し、ちょうどいいくらいの甘い匂いがする少女。首を傾けてこちらにはにかんでくる。タンザは反応しない。
「タンザくん。あとは残り一人、なんとか無事に終わらせたいものだがね……。」
曖昧に頷くと、タンザは迷いのない足取りでその場を歩き去った。
ああ、一文字違えば彼女はかざり。それに相応しい無能さと言えるだろう。
いけないことだとわかっている。
まずいことだとわかっている。
カッコよくもないとわかっている。
だから、タンザは溢れ出す笑みを抑え込み、一人廊下の闇へ消えていった。
☆
▶墓場へ
処刑から少したち、タンザの心は冷え切って、鋼鉄のように硬くなったはずだった。……けれど、それを見る時ばかりはやや躊躇いがあった。
(……きっと……あなたを見るのは最後。らむねさん……)
棺桶を開く。安らかな死に顔を最後に見るはずだった。予想外の焦げ臭い匂いが立ち上っている。
「………は?」
そこに合ったのは、バラバラになった肉片。一瞬、エドウィンの棺を開けてしまったのかと思った。
直ぐに次の棺を開く。そこにあったのも……また、肉片だった。
嫌な予感がして、全ての棺の蓋をひっくり返す。
「………………なんで?」
羅刹とらむねの死体が……いや、元々ぐちゃぐちゃに死んだひよ太郎とエドウィンでさえ容赦はなかった。4体の遺体は尽く爆薬か何かで損壊されていた。