誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中 作:覚絵テネ
グラサージュという人間にとって、将来とは常に暗く不吉なものだった。
その原因は自己への自身欠落、あるいは学習性無気力に起因する。
やることなすこと、何一つうまくいった試しがなかった。
音痴で、数学が理解できず、文章を見ていると頭が痛くなり、外の社会に関心を持たず、公式は覚えられない。逆上がりだってできない。コミュニケーションに自身もない。何の長所もない落ちこぼれ。だからって開き直って何もせずに生きようとしても、忘れ物、ミス、そういうのものが人の数倍はあった。
面白いことだ。人間としての基本性能が何一つ普通に達していない。なのに、芸の一つも覚えられない。
未来に何の望みもない。かと言って、人間というものはそう簡単には死ねない。誰かがある程度強制的に終わらせてくれるまで。また、何もなしに死ぬことなんてできない。人は、自分の生きた痕跡を刻まずにはいられない。
☆
「どうです3秒で考えた悲しき過去。なんか聞き入ってくれましたけど……タンザさんに心当たりがあったりしますかあ?」
豊満の少女は部屋に入ってきた狼を、両手を広げて出迎える。夜更けにも関わらず、髪や服は手入れが行き届いている。
「ああ、装いですか?だって、人生に一度のハッピー
目の前にあるものが明確な死だと理解しても、狼狽える気配など微塵もない。いっそ輝くような笑みを見て、■■■はやはりこの人は苦手だった、と思った。
自分が行くところまで行くにしても、このようにはなりたくない。……いや、ならなくてはならないのだが。人の不幸を笑い、餌食にできる強い人間に。
「あなたに入れるのが正解でしたか。いや、それにしてもいくつか説明がつかないんですが……羅刹さんは相方を巻き込む気で火を起こしたんですか?本当に人狼欠け?」
「どうにでも言ってください。あなたはどうしようもなく敗者です。」
「確かにぃ。それに、謎に悉く回答を求めるのは現代人の悪い癖です。」
タンザの瞳は暗闇の中で紅に輝いていた。狼のような真一文の虹彩。加えて後頭部に二組目の耳が、両手足の指からは鉤爪が、四肢は鴨鹿のように引き締まり、莫大な運動能力を得ている。
なるほど、これこそ運営が仕掛け、バステトが勘付き、そしてタンザが隠し通したものだろう。外部の凶器をいくら洗ったところで無駄だったわけだ。
「とにかく抵抗はしますね。その方が格好いいですから。」
グラサージュは鋼鉄のハンマーをタンザの胴体磨けて振り抜く。スピード、パワー、間合いの取り方、何一つ減点要素の見当たらない堂に入った一撃。先手を取られた時点で常人には回避不能の一撃。
彼女は〈狩人〉。指名した人物が襲撃対象に選ばれた場合、部屋のロックを解除して戦闘に参加することができる。プレイヤー以外にも、幾多の頭蓋を打ち砕いてきたグラサージュはこの役目を引けたのは幸運だと考えていた。
タンザの鼻をハンマーは打ち据える。獣の急所と言えばここ。熊でもここをやられると悶絶せずにはいられない。しかしタンザは獣とは違う。思わず目を瞑ってしまっても、予測で手を振り抜くことはできる。
返す刀にグラサージュの首を手刀で飛ばす。グラサージュは生首になっても笑顔を崩さなかった。こう言う姿にタンザはひどく心を動かされる。
「でも、そっち側に私も行きます。」