誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中   作:覚絵テネ

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四日目-朝 タンザという少女

 ベルクソンは人間を「工作人」と呼んだ。環境を、道具を、そして自分自身を作れるのが人間だと。

 

 キルケゴールは「今ここに存在する代替不可能なあり方こそが人間なのだ」と言う。私はどっちにも当てはまらないよなあ、とタンザはYouTuberから得た知識にため息を吐く。

 

 毎日労働、労働、労働。母親は雨のやまない日に、父親は中学校の卒業式が終わると連絡が取れなくなった。だから16のタンザが先の見えない労働。

 

 妹と認知症の祖母と三人暮らし。魂を削って稼いでも、妹の学費と治療費、親から引き継いだ借金、三人分の生活費に消えてしまう。

 

 一番の課題は、妹の治療費だった。妹の筋肉は異常発達と萎縮・壊死を頻繁に繰り返す奇病で、遺伝と感染による合併症 このうち異常発達と壊死は放置しておくと内臓が圧迫されたり、或は腐り果てて死んでしまう致命的なもの。しかしそれだけに治療は比較的安価で、タンザなら払える程度の額。問題は筋肉萎縮。海外の施設の整った病院に移す必要があり、日本円で5億円。保険適用外だが、そもそも税金は払っていない。

 

 対処しなくても死にはしない。ただし、指が動かなくなったりして、精密な動作は全く不可能になる。妹の夢……絵描きになるという夢には致命的。諦めろ、とは言わなかった。

 

 タンザは三人の生活のために自分の将来みたいなものを犠牲にしてきたが、それに不満はない。妹を支えるのが姉の役目だし。第一タンザには大した目標も夢もない。そんな人生、妹のために捧げるのに文句があるはずもない。

 

 けど。一度だけ。タナバを病院に迎えに言った時のこと。怪我が治って、花が咲いたように笑う他の女児を見て、思ってしまった。あの子が妹だったらいいのに、と。挑戦のきっかけはバイト先からの帰りだった。

 

『とあるゲームがある。死ぬ可能性はあるが、天然の女の子ならがっぽり稼げる。』と聞いた。最初はありえない、と思った。殺人なんかに関与する気もなかった。でも、タンザはデスゲームに降り立つことを選んだ。

 きっと許せなかったからだ。妹より自分を優先しようとしたことを。

 

 

 シャワー。鉢植えに水やり。

 

 タンザがまず寄ったのは凪羽の部屋だった。ついで植物園。昨日までの花々は見たものの心を動かす、宝石に劣らぬ輝きを秘めていた。でも、もう………

 

「……おや?………皆さん何してるんですか?」

 

 生存者は三人。バステト、かきり、タンザ。それがいつの間にか植物園の入口に……いや、タンザの背後に集っていた。バステトはタンザに出会うなり、湿った小包を投げつけた。攻撃本能のままに払い落とされ、中身が顕になる。……切り落とされた手だった。

 

「は、ひ、ひ。どうしょータンザさん。わたくしは証を立てましたよ。人狼なら、絶対にしません、こんなこと。さぁ、あなたも小指くらい落としたらどうですか?人狼じゃないならできますよねぇぇぇぇ!」

 

 血で染まったてらてら光る髪を振り乱し、涸れた喉で絶叫する。明らかな狂気に陥っていた。タンザには彼女が真実を言っていると分かる。

 

 大好きだった羅刹に裏切られ、それだけでも震えて立てなくなりそうなのに、加えて本当の占い師で、真実を信じてもらえない絶望と死ぬかもしれない恐怖に苛まれ。もはやバステトは哀れなくらいに弱っていた。

 

 だから何だ、その手に唾を吐く。タンザはもう、常識や道徳なんかじゃ捉えられない。

 

「……哀れですね、狼さん。」

 

「私たちは暇じゃない。さぁ、行こうか。」かきりはおかしそうに笑った。

 

「あぁ!?待てよ、待てよ、逃げるんでしょうかぁァァァー!?!?」

 

「相手にしてないだけですよ。」吐き捨てる。

 

 先の手首を、バステトの顔に投げつける。見事に転倒する無様な姿に、これまでのタンザを重ね合わせた。彼女は超人的な強さを持つのではなかったか。もうボロボロなのか。ああ、憐れ。

 

「ぶっ!?」 

 

「水に落ちた犬は打て、よく言ったものです。弱者がもがき苦しんでいる姿は………あは……アハっ!あは、ははは。うーん、悪役っぽく笑おうとしたけどうまくいきません。まだまだですね。」 

 

「なんだい、随分とイメチェンしたじゃないか。」

 

 タンザの瞳に恐れはない。躊躇いもない。すでにこの二人は、タンザの下。獲物でしかない。

 

「……ふふ……そうですかぁ?さぁ、行きましょう。哀れな弱者を吊るすために。」 

 

 もうすでに議論は煮詰まっている。さあ、円卓の間に決着をつけに行こう。

 

 

『さて、ゲームも佳境になってまいりました。皆様にサプライズです。』

 

 議論が始まる前、円卓の間に、GMの手によってトレーラーのように巨大な装置が運び込まれた。6本の縄が垂れている。

 

『敗北陣営の皆様はここに吊るされることになります。ゲーム終了時に生存していても、どうせ死にます。開始時にお伝えしておりますが、念の為。』

 

「悪趣味だなあ。」自分には関係ないが、と言いたそうに小指で顎を刺すっているかきりに言ってやりたい。

 

 お前たちは二人揃ってあそこで首を括ることになるんだぞ、と。

 

 これからのタンザはもう弱者なんかに甘んじない。もう他人の玩具なんかにはならない。誰かの金づるにもならない。

 

 誰を殺す。誰を生かす。誰を傷つけ誰を癒す。全部、私が決める。打ち砕かれよ、バカバカしき現実ってやつ。世界よ、私に慄け。憎しみであれ信仰であれ、私のために祈れ。

 

 ここを抜け出た時……タンザの新たな人生が始まる。強者としての人生が。殺してやる。私を傷つけるもの、苛立たせるもの全部。 

 

 目に映る全ての倫理・良識・スティグマを破壊し、真に尊いものを見つけ出そう。

 さあ、こんな議論は最後だ。

 彼らに破滅をもたらしてやろう、一《ウーノ》、二の(ドゥーエ)、三《トレ》にて!

 

(タナバ。今度こそ流れなんかじゃない………私の意思で、あなたの夢を守る!)




舞い上がったら......
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