誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中   作:覚絵テネ

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四日目 昼-議論

 タンザは大きく息を吐いて、二人を見据える。

 

 やるべきことは決まっている。そして小細工もしなくていい。カラスを見て、あれは黒だというくらい明確でわかりきっている作業だ。悠々と構えていると、かきりが議論の火蓋を切った。

 

「時間は限られてる。まず。」

 

「言う必要ありますかぁー?わたくしの占い結果は、かきりさん白。ですから………お前が人狼でしかあり得ねぇんだよ!!!!」

 

 髪を掴んで、吠えるバステト。丁寧な態度が嘘のようだ。昨日までのタンザなら気圧されていただろう。

 

 でも今は違う。トドメを刺さない範囲で追い詰める余裕すらある。

 

「あは。まず、バステトさんは絶望的に占い師ではあり得ない。狂人エドウィンさんが占い騙った上で、初日吊られやすそうな位置だったわたしを囲うというミラクルが起こってるんですよ?なら、エドウィンさんは真実を告げずにはいられなかった真占いと考えたほうがスマートですよねぇ!?」

 

「確かに、私が偽占いなら、初日のタンザちゃんは囲わないな。」

 

「エドウィンは占い位置の分からない無能だった!それだけだァ!それで、お前がベグ噛みをした!」

 

「それは物理的にありえますけど、それだけじゃないですかぁ?真占いをワンチャン噛めるかもって襲撃したバステトさんの姿が目に浮かびます。」

 

「じゃあ、次の日私が狼なら占いCOした理由は何だ!?真占い意外にあんのかよ!」

 

「それはバステトさんがド低能だったという他ないんですけどぉ……」

 

 ド低脳。漫画で学んだ語彙だが、自分で使うのは初めてだ。

 

 言ってしまった。言ってやった。いつも言われる側だったのに。タンザの顔が興奮で真っ赤に染まる。

 

「はぁ!?ふざけんな、回答になって……「そもそもぉ。」」

 

 を纏った声が、バステトの反論を封じる。

 

「そう言うなら、潜伏占いはセオリー外ですけどぉ?バステトさんは潜伏してまで結果を残したんですかねぇ?どう思います?」

 

「………っ。」

 

「はいかいいえで答えてくださいよぉ!まさか!まさか!まさかですよぉ!?自分の命は危険に晒したくないぃ!でも非論理的な行動をしたから、逆張りだけど信じてほしいぃ!そんな、嘘にしても都合の良すぎる言葉を吐こうって訳じゃないですよねぇぇ!?」

 

「ぐっアァ……アァアァアァアァ!!!!」

 

 バステトは髪を振り乱して絶叫する。かきりも、判断しかねるという様子で静観している。その姿を見るたび、タンザの腹の中にキュンとするのを感じた。面白い。自分より強いと思いこんでいたやつを!騙して、蹂躙する!!!これが、楽しい!!!!!!!!!

 

「じゃあよぉ!なんでお前が確定した霊媒なら、今日まで生き残ってる!?!?」

 

「それは簡単。グラサージュさんが狩人だったんじゃないからですか?……ところで。」

 

 でも、そろそろトドメだ。

 

「バステトさん目線は、とっくに破綻してるんですよ。」

 

「……ぅぁ」

 

「うん、その通りなんだよね。今日が来た時点でバステトはボクにとって、絶対に敵だ。」

 

「……っ。」

 

「ええバステトさん目線を整理してみましょう。まず、エドウィン、ひよ太郎、グラサージュは人狼ではありえない。その可能性があるのは、吊るされた羅刹、凪羽、らむねさん。吊るされた中に人狼はいますか?」

 

「……あ……。」

 

「あら、質問が難しいでしょうか?まず、羅刹さんと凪羽さんは人狼ではないですよね。バステトさん自身が白を出してるんだから。」

 

「……」

 

 「じゃあ、らむねさんが人狼なんですかね?……違いますよねぇ!じゃあ、霊媒は誰だって話になりますから!」

 

 「一応ひよ太郎や羅刹、ショコラが霊媒で死んでいった可能性もあるけど。あいつらははっきり違うって宣言してたからね。多分。」

 

 机を叩き、覆い被さるように背を伸ばしながら攻め立てる。

 

「破綻してるんですよォォォ!あなたは!どうしようもなく敵なんですよォォォ!!!」

 

 真占いが破綻しているのだ。長く整っていた爪を意地汚く齧ることしかできなくなっている。

 

 かきりはタンザを疑うことはできても、バステトを信じることはできない。

 

 何故、こんなことになっているのか。

 

 ☆

 

 初日の夜。

 

 エドウィンは忙しく歩き回り、タンザは自室で震えていた。

 

 サボりたい、訳ではなく。

 

「悪いが、君は部屋で待っていてくれないか。」

 

「え、でも悪いですよ……」

 

「もし夜中に歩き回った痕跡があったりすれば、君が疑われる。そして君が疑われることは俺が疑われるということだ。勝利のため、動かないことが最適だということもある。」

 

 こういう会話があった。

 

 エドウィンが放火などの準備を進める間、タンザは少し震えながら、しかし頼もしく思いながら彼を待っていた。初めてだった。悪いことを、誰かと共有するのは。

 

「待たせたな。悪かった。」

 

「い、いえ。運命共同体ってやつですから。」

 

「……悪いが、それは違う。」

 

「それで、誰を襲撃し……」

 

 話を聞くため、猫背の体を起こした。それは偶然で、エドウィンの重心がブレたのを察知した訳ではなかった。

 

 それでも左肩が火箸を押し当てられた時のように熱く、痛くなる。

 

「■っギャアアア!?な、なんでなんですか……あなたが……こんなこと……」

 

「恨んでくれたまえ。君が疑われるのは俺が疑われることだからな。まあ、そもそも明日が来ないのが最善だが……うまくいくか……」

 

 迷いのない瞳で、エドウィンが近づいてくる。

 

 その瞳は迷いなく、冷徹に見えた。が、やはりどこかで迷いを捨てきれていなかったのだろう。その右足に、放火準備をした際の火薬がついたままだった。鼻が麻痺していたにしても。

 

「羅刹、バステト。グラサージュの名前も聞いたことがある。彼らに対抗するためには、俺も品性を捨てなければならない。」

 

「ひっ――!」

 

「だが許せよ。世の中とは奪い奪われるものだ。飢えた野良犬にやられたと思いたまえ。」

 

 タンザ同様、エドウィンにも二組目の耳が生え、四肢は人間を軽く引き裂く膂力を与えられている。

 

「あっ――」

 

 問題があるとすれば、エドウィンが既に受けていた傷だった。50回のゲームで、初めからボロボロだったのだ。大して、タンザの体に満ちていた圧倒的な飢え、渇望。技術立ち回り状況観察力。全て上回ってなお、最後に立っていたのはタンザだった。

 

 エドウィンが目を次に開いたときには、タンザの両腕が、自身の腹の中を引き裂いていた。

 

「――エドウィンさん。私、奪われたままは、嫌です。」

 

「――参ったな。夜道に、飢えた狼に出会ったということか。」

 

 それだけ呟くと、息のあるうちから目を閉じて動かなくなった。悪態の一つもつかないのが怖くて、瞼がもう開かないようにと、無防備な顔面に拳を振り下ろした。目、鼻、歯――一つ一つの組織の存在が崩れていく感触は、一生忘れないだろう。

 

 エドウィンの死体は異常に肥大したり、ゆっくりとだが再生しようとしていたりして、これは残してはならないものだとタンザにも分かった。だから潰した。人狼の筋力で。潰して、跡形もないくらい粉々にした。

 

 トイレに流そうとしたが、肉塊を持ち上げてシャワールームに向かったあたりで涙が止まらなくて歩けなくなった。

 

 結果的にそれは、市民たちの議論を見出すことにもなり、またエドウィンがタンザを処理している間に燃え始めるように仕掛けていた放火もタンザの味方をした。

 

 部屋に戻った後のシャワーは、自分を攻める石の礫の用に感じられた。

 

 ……一方、冷静な部分が言っていた。これはチャンスだ、と。人狼であるはずのエドウィンが襲撃された。これを利用すれば、タンザは無敵になれる。羅刹と同じ、デスゲームの中でだけ輝く才能が、光始めていた。

 

 ☆

 

「――っ撤回する。羅刹様の占い結果は黒だった...でした。」

 

「――へぇ。破綻はしないけれどもね。」

 

 なるほど、羅刹が黒の時、バステトは破綻ではなくなる。バステトは息を整えて、苦しくても机上にタンザを睨み返す。

 

 でも苦しい、流石に苦しい。200%敵だったのが、99.9%敵になったような感じだろう。

 

「相手にしなくていいですよぉ?かきりさぁん……さあ、狼を吊るしましょう!」

 

「キミ、すごく増長するね……さしものボクも引いたよ。……まあでも、8割分かったよ。今から、それを10割にしよう。」

 

「なんです?」

 

「そうだね。まずは前提をひっくり返そうか。僕は狂人だ。勘違いしているようだけれど、ね。」

 

 タンザの余裕の表情が、曇る、煙る。

 

「僕は確かに、人狼がどちらなのか決めあぐねている。......助太刀すべきご主人様がどちらか、という意味でね。」

 

「.....あぁ?」

 

「だから、二人とも、自分の黒要素をあげてよ。黒い方に味方するからさ。今のところ、バステトがご主人様っぽいかな?」

 

 タンザも、バステトもその可能性を考えていなかった。二人揃って、石のように黙り込んだ。

 

 かきりが狂人?本当に?

 

 なら、エドウィンのトリックを話すべきか?いや、揺さぶりをかけているだけかもしれない。

 

「な、何を……」

 

「わからない?ボクは狂人。今日はPPなんだよ。」

 

「……悪い冗談でして……」

 

「うん、冗談。」

 

「「……は?」」

 

「はは、面白いなあ。いや、デスゲームを観戦する奴らってこんな気分なのかね?これは、確かに癖になる。......必死に真を主張するキミたちには悪いがね。ボクは持っているんだよ。神の一手をね……さぁ、ご入場願おうか。」

 

 キィ、と扉は開く。

 

 そんなはずはない。プレイヤーはすでに円卓の中に入っている。GMも。そいつは、幽霊のように。まさしく半死半生の姿で入ってきた。現れた少女は足首まで届く紫髪。首元、手足に巻かれた包帯。大理石のように白い、冷たさを予感させる肌。

 

「そんなに見られたらおじさん照れる。」

 

 羅刹だった。

 

 ☆

 

 紫の少女は遅遅と歩みを進める。粘ついた喉からひゅうひゅうと苦しい呼吸音を響かせ、全身に重りが付いているかのような足取り。まるで墓場から蘇った死者のような姿。

 

「…………!?死んだ、はず……」

 

「いや、処刑された時はまじに死ぬかと思ったよ?YOU DIEDって赤文字が浮かんだもん。」

 

 タンザがいくら目を皿のようにしても、まさしく、生きている羅刹その人だった。

 

「……なんなんです、これは?」

 

「――おかしいことは何もしていないよ。解題しよう、鮮やかなる解決のために。」

 

 かきりは悠々と語りだす。その姿を見て、タンザは彼女をコントロールできていたのは単なる勘違いだと断じざるを得なくなった。思えば、三日目以降急に媚びるような態度になった気がする。

 

「さて、このゲームにおける処刑は『10分間かけた毒ガスを吸わせる』という処理で行われる。つまり必ず死ぬって性質じゃないワケ、バステトへのペナルティと同様にね。じゃあ後は簡単だよね、そこで死ななきゃいい。それだけで彼は死亡者判定になりあらゆる生者への束縛をすり抜ける。当たり判定もない、行動制限もない。無敵の人が出来上がるってワケ。」

 

 勝ちを確定させたように、羅刹は口元を緩める。彼女の発言を制限する砂時計はもうない。

 

 「……お待ちくださいましー。10分も毒ガスを吸わされて、何で生きてるのです?」

 

「ヘムロック。ドクニンジンと言ったほうがわかり易いかな、植物室にあったやつ。脈拍、代謝、体温を低下させ、擬似的な仮死状態に入ったんだ。」

 

 通常、人体は心臓が止まると10秒毎に蘇生率が1%低下してゆき、1分後には永続的な脳機能低下。4-5分後には全身に深刻な後遺症。10分で確実な死…に至るとされる。ただ、そこはこのデスゲームのために改造された体だ。この体は、自然に壊死も腐敗もしない。かといって、血流が滞って無事な訳もない。

 

「ああ、植物室から盗まれていた薬物……。そういう効能も……いや、それにしたって成功する保証なんてどこにもない……そんな方法、あなたらしくない……」

 

 バステトは納得のいかない表情だった。

 

「だって、はっきり言って最悪の勝ち方でして。あなたならそんな方法を踏まずとも、盤面を掌握して勝てたはず。こんなの、不必要に派手で、スマートで、失敗する可能性が高い。華々しく勝つことしか考えていない。これまでのあなたみたいな、気持ちの良いプレイじゃない。」

 

「別に、101回目のゲームなんだ。死んで同然生きて偶然……それに加え。正直、マトモに戦える精神状態じゃなくてね。割と苦渋の決断だったよ?かきりちゃんは恐らく村で、噛まれなさそうだったから。」

 

「おいおい、それはどういう意味かな。まあ、タンザちゃんに取り入った手段を褒めてもらったと思うことにしようかな。いやあ、対立軸が分かりやすすぎて、神輿としても退屈な子だったね!」

 

 貴重な議論時間を使い、まるでピロートークのように朗らかに笑う二人。バステトの顔にも生気が戻っていく。3人とは対象的に、タンザからは荒い息ばかりが漏れる。

 

 もうタンザに捕食者の気迫はない。自分の意思が通用している訳ではなくと知ってしまった。目に見えないように締め上げらているように、呼吸をするのも手一杯。トドメをさされるだけの状態。なのにかきりはさらに甚振るように。

 

「あれ、ちなみに今となってはどうでもいいが……もしかして、凪羽は狂人か?もしかして、御主人様の位置を間違えて議論を無理やり変えようとして吊られたのか。」

 

「…………へっ?」

 

「だとしたら無駄死に極まれり、でございまする。本物の人狼は議論を支配しようとしていたのですからー。……人狼にアプローチをしていたのに、反応がないから……御主人様ではないと見做したのでしょう。嗚呼、人狼にもう少し知性というものがあれば……。」

 

 凪羽は……狂人?タンザの味方だった?………………………………………………………それを……………………………釣り殺したのは………………………何度も話しかけてくれたのに気付かなかったのは………………

 

「うっ、うっうわあああああああああああああああああ!?!?」今度こそタンザの心が粉々に砕け散る音がした。これから流すはずだった一生分の後悔が流れ出ている気がした。

 

「とかく、誰が人狼か、はっきりわかっているのですね。」バステトは話を進めようとする。

 

「うん、蘇生してからは夜間外出やりたい放題だったから。人狼がグラサージュの部屋に出入りする姿もハッキリ捕えてる。」

 

 羅刹が告げる。  

 

「...人狼はお前だ、バステト。」

 

「......はい?」

 

「........あぁ?」

 

 真実はもちろん違うし、それを羅刹が踏まえられていない筈がなくて。

 

 バステトはアルカイック・スマイルを浮かべ、たっぷり10秒ほど息を吸って。

 

「ふっざけんなああ!?!?!?!お前、お前、何なんだよ!?狂人か!?人狼なのっ!?」

 

 叫ぼうとした彼女は、喉を抑えて黙り込んだ。砂時計はとうに落ちている。

 

 涙を抑えた瞳で三人を睨みつける。彼女からすれば、羅刹の動きは利敵としか思えない。自分の憧れていたプレイヤーに最悪の形で2度も裏切られ、そのまま死んでいくのはどんな気持ちなのだろう。

 

「気の毒だが、このゲームに参加するということはそういうことだ。ボクは100%の証拠を手に入れた。うん、GM、もう投票時間に入ってもいいぞ。」

 

 唯一満足げな表情を浮かべたかきりが促す。

 

『タンザ様はいかがですか、議論、発言時間が残っておりますが。』

 

「......何なん、ですか?」

 

 タンザは答えず、羅刹に問いかけた。どうして勝ちを譲るような真似をするのか。目尻には涙が溜まっていて、媚びるように口角を上げたり下げたりしていた。

 

 それは感謝とは程遠い。

 

「......んー?餞別ってやつかもね」

 

 満足げに、らむねにだけわかるように囁いた。

 

(おじさんのことは気にしないで。元々、未来あるプレイヤーの経験値になれればそれでよかったんだ。タンザちゃんのような尊き良心とセンスのあるプレイヤーの糧になるなら、それで。)

 

「さあ、早く投票してくれよ、タンザ。」

 

 

 『投票に入る前に、観客の皆さんと今回の役職を振り返りましょう。』

 

 村人:羅刹、かきり、ひよ太郎

 狩人:グラサージュ・ショコラ

 占い師:バステト

 霊媒:らむね

 狂人:凪羽

 人狼:エドウィン、タンザ




ちなみに、拙作一番の推しはバステトです
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