誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中 作:覚絵テネ
☆カメラ:羅刹
(んー?餞別ってやつかもね。)
そうタンザに笑う。
投票が終わった時、羅刹はやっと肩の荷が下りた気がした。
羅刹がはじめて、デスゲームをプレイしたときは本当に楽しかった。理不尽だらけで周囲は怖くて、毎秒心臓が張り裂けそうで。だからこそ、これまでにない密度でなにかに取り組むことができた。
やっと自分の居場所を見つけたと思ったし、何日かかるゲームでも一瞬に感じた。でも、所詮はゲーム。のめり込むには限界があって、そこをすぎると苦痛が増してゆくのだ。とくに、今回はひたすらに苦痛だった。薄々気づいていた、死に場所を求める気持ち。ラットのせいで、それが確信に変わってしまっていた。
無理もないと自分では思うのだが。
結婚もせず、子供も作らず、家も買わず。何も積み上げられなかった人生。そこから逃げるためにのめり込んだのがゲームだった。
......正直、ゲームだって好きなわけじゃない。ゲーム以外が嫌いすぎるだけ。他人が関わったものに触れたくもない。
でもそれでも死ぬのは嫌で、何とか作り上げたのが『ゲームにだけは一生懸命になれる自分』だった。
手遅れの人生、とっとと終わらせたいものだった……が、流石に理由もなく首を括れない。デスゲームを通じて、多くの人を手にかけてしまった。自分ではそう思っていなかったが、羅刹は意外と罪悪感を感じる性質らしい。
罪悪感に足を取られて、スリルに夢中になれなくなるくらいには。
しかし、今更罪滅ぼしなんてできないだろう。そう思っていたところに、現れたのがタンザだった。
妹のためにお金を稼ごうとする、ニュービーの少女。今度こそ、と思った。見ず知らずの彼女を生還させ、ハッピーな人生を送らせる。そういういかにも善人らしい死に方なら、命を捧げれば、誰かのために祈るなんて真っ当な行為も、24人を直接、208人を間接的に手に掛けた自分でも許される気がした。
☆
円卓に仕舞われていく投票用紙を見て、これで良いんだと思った。
羅刹はここで死ぬ。首をつられ、無様この上ない姿で死ぬ。でも、良いんだ。
「……タンザちゃん。妹と幸せに。おじさんの祈りはそれだけ。ありがとう、君のおかげで救われたよ。」
「………。」
羅刹にはわかった気がした。ラットが自分の前で死んだ理由も、自分がこれまで生きてきた理由も。
気持ち良いのだ。愛を知らない孤独な少女のためとか、家族との再開を願う健気な少女のためとか。それっぽいお題目を見つけ、殉教するのは無上の心地よさであり……救いになる。自分の全てが赦された気がした。一生忘れられないトラウマも、自分の殉教が決まった瞬間笑い飛ばせる過去に変わった。もはや死は救いだった。
ゆっくりを息を吸って、その宣告を待つ。
GMが唇を開いた。
ただし、羅刹の予想を正反対に裏切る形で。
『それでは、結果を発表します。タンザ様:2票。バステト様:1票。ゲームの結果が確定しました。村人の勝利になります。』
その場の誰もが、猫背のタンザを見た。
予想外の頃に、かきりは困惑と恐怖に顔を歪ませている。
「はっ?……なんで?ボク、バステトに入れたぞ!?いや、結果が勝ち……!?何、何が起こっている!?ボクが、盤面を完全に支配した筈……」
羅刹はきっと、世界で一番、間抜けな顔だった。顔の動かし方がわからなくなって、口をぽかんとあけたままタンザの方を見る。
「……なんで?」
最後の最後に、全ての人間の鼻を明かしたタンザは笑っていた。会議前までの、自分に誇りを持って胸を張っていた彼女はもういない。涙と鼻水を垂らし、自分の膝に向かって暗い笑みを浮かべている。
「ふふ…………自己投票ありですから……。初日やってらっしゃいましたよね。」
「なんでって、そういう事じゃねぇだろ!どうして自害みたいなマネしてんだ!?私が___生きなきゃならねえだろうが!」
死の淵から追いやられて、羅刹は醜く昂って、タンザを怒鳴りつけた。
「何だ、他人に生かしてもらうことに罪悪感でも生じたのか!?なんでテメェら善人ってやつは、誰かのために自分を犠牲にする!?ふざけんな、ふざけるんじゃねぇよ!私がそんなことで喜ぶと思ってるのか!?ちげぇよ!無様さらして惨め晒して自分自身でさえ肯定できなかった無様な人生に、この先も暗い暗いだけの人生を終わらせたくて!でも、このために生きてきたんだって笑って迎えられる最後が欲しいんだよ!なら死なせてくれよ!なんで、こんなゴミクズに慈悲なんか……!」
「羅刹様……やめて……これ以上、醜態を……」
羅刹の吠える姿に威厳なんかなかった。筋肉が乳酸を生み出さなくなり、疲労を回復しないまま紫になって死んでいく。傷もないところで血管が破れて不規則な出血を繰り返している。
死者よりもよっぽど醜い姿を見て、『必死に生きようとする羅刹』に当てられていたバステトは膝の上で拳を握って震えている。
その姿を見てタンザは嗤い、「ああ……慈悲……なんかじゃ……ありません。」
凍るような瞳で告げる。
「........あなたなんかの命で生き延びたって、全く嬉しくない。自分を知れってやつです。」
「へ?」
「羅刹さん。私は、私なりに頑張ろうって思えたんです。エドウィンさんが死んであなたが死んで、自分より価値のある人がずっと死んでいって。……自分は、もしかしたらゴミクズじゃない気がして.......このゲームで生きていってやろうと思えました。」
少女は笑う。表情筋に染み付いた歪な笑み。卑屈に、目に見えない誰かに媚びるような。
「でも、違った。最初から最後まで誰かの掌の上。……梯子を外された、っていのはまさしくこういう気分のことを言うんでしょうね。私は結局、誰かに生かされないと生きていけない人間でした。」
GMが何か宣言をする。でも、そんなの耳に入らない。
少女は最後の一歩の前にくるりと振り向いて、花が咲くように笑う。その一言が脳裏に焼き付いた。
「私は……あなたの死のダシになんか……なってあげません。『あなたたちの意表をついた』細やかな勝利を胸に逝きます。勝手に一人で死んでください。」
羅刹ができることは何もない。燃え尽きる機会を逃した星はぽっかりと口を開けたまま。
星と信じていた羅刹が、ただの燃えカスだと知ってしまったバステトは泣き崩れ。
自分こそが星だと信じていたかきりは歯が割れるまで食いしばって。
彼らは眼の前の光景を見た。15人目の羅刹が殺した人間だった。
『羅刹は死に場所を奪われ、かきりは命よりも思いプライドを傷つけられ、バステトは羅刹に2度もその願いを踏みにじめられました。システムとは真逆ですが………あえて言いましょう!この勝負、タンザの一人勝ちです!』
GMはこの宣言とともに、観客に幕引きを宣言した。
デスゲーム2〈ファースト・トライアル〉 BADEND
いよいよ終幕ですね