誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中   作:覚絵テネ

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ビギニング(終)

『俺の命は、お前が殺した.....みんなが紡いでくれたものなんだァァァー!!!』

 

 そう言って、主人公は『自分を生かしてくれた仲間への感謝』を胸に敵を倒す。希望に満ちた世界に歩み出す。羅刹が長年追ってきたゲームシリーズの終わりだった。

 

 ああ、ゲームもやはり追っていた時が一番楽しかった。羅刹はゲーム機を踏み潰す。焦げ臭い音が僅かに鼻腔を擽る。火事になるかも、と思ったがそれより優先すべきことがあった。

 

 歩き出す。タンザへの、自分の死場所を奪った少女への復讐のために。

 

 

 101回目のゲームのあと、全身の痛みが止まなかった。特に、毒ガスの作用で喉が犯されていた。一呼吸ごとにひび割れた粘膜の隙間に空気が吹付け、直接カミソリを当てられたような痛みに襲われる。もう全力の運動なんて出来ないだろう。肝臓も壊れているから、食事も満足に取れない。

 

 デスゲームを無傷で終えたことはない。それを99回繰り返し、羅刹の体になお致命的な破綻はなかった。逆に言えば、致命的でないダメージは尽く網羅していた。もうハズレくじしか残っていなくて、それを2回引いたのだ。

 これからも、仮に、デスゲームに参加するなら、その度致命的に羅刹の体は破壊されてゆくだろう。だからデスゲームに参加するという生き方も選んではいけない。本来は。

 

 そして、この期に及んでも羅刹は自分が死のうとは思っていなかった。だって、羅刹はまだ納得していない。自分自身が何のために生まれてきて、何のために生きるのか。それを唯一の特技であるゲームに求められなくなった。元々以前ほど楽しめなかったのはそうだが、その資格をバットマナーという形で自分自身で奪った。

 

 他にあるとするなら目の絵で絵筆を取る少女に他ならなかった。見ているだけで惚れ惚れするような情熱の持ち主。薄汚れた羅刹の眼の前で、同じく目にクマを作った少女が    と筆を動かしている。相変わらず、その音を聞くたびに救われた心地になる。

 

 ゲームの最中から、なんとなく悟っていた。

 彼女のためにタンザは命をかけようとしたのだ。自尊心がなくて、何かを願うことさえできなかった少女が一歩を踏み出そうとしていた。けれど、その決意を羅刹は踏みにじった。

 

 そしてその願いさえも、奪おうとしている。勝手に叶える、と言えば少しはマシな気がするか。

 

「この絵の報酬、決めてなかったね。」

 

「……」

 

「どうだい。キミの治療費、おじさんに出させてよ。5億円、流石に一括じゃ払えないけどね。」

 

「その提案……本気でも……お断り……。」

 

 タナバは目をスケッチブックから上げなかった。

 

「お姉ちゃんが何で消えたのか、わからないほど馬鹿じゃない。……私よ。夢のために……危険なことをした………。それを無視して、他人のアナタに助けを求められるほど厚顔無恥じゃない。」

 

 義理堅い答えだった。だからこそ彼女は羅刹を魅了するのだろう。

 その誠実さを、踏みにじることだとしても口に出す。

 

「おじさんは、キミのお姉さんがどうなったのか知っているよ。」

 

 そのことを言った途端、タナバが目の色を変えた。羅刹は目に投げつけられたペン先をキャッチする。

 

「お姉ちゃんを、何処に……!」

 

「答えない。知りたければ、描いてよ。院長さんから聞いてるよ。3年だっけ。治療を受け続けて、立派な絵かきになってもらう。」

 

「うるさい!そんなことより……」

 

「うるさい、で押し通せるほどキミは強いのかな?」

 

 殴りかかる右手をそっと止める。

 

「キミは貧弱で、政治力もなく、まだ一介の絵描き見習いでしかない。」

 

「……っ」

 

「これ、貰っていくよ………キミの夢を見せて。」

 

 その為なら、おじさんは生きていけるから。口の中でそうつぶやきながら、彼女の描いていたスケッチブックから1枚拝借する。

 

「お金は院長さんに渡しておくからね。」

 

 ……やはり、タナバの絵を見ていると救われる。これは、奇跡なのか。あるいは、羅刹の極限に追い詰められた精神状態が作り出した錯覚なのか。いや、そこは問題じゃない。大事なのは、納得だ。このためになら生きられるという、納得。

 

 タンザ。キミの生きる意味、捨ててしまったなら……いいよな貰って。

 

 羅刹は空を見上げる。彼女はやっと見つけた。自分が何のために燃え尽きるのか。久しぶりに口座の明細を確認する。貯金は一切していないから、前のゲームの報酬である一億ちょうど。アレと同等の戦いをあと4回くぐり抜けなきゃいけないわけだ。体はとっくに壊れかけ、尚も弱まっていくばかり。

 

 それでも、目的を見つけた羅刹は晴々としている。

 その目的がどうしようもなく困難で、当てもない、不安と絶望に満ちたものだとしても。

 

「ありがとう。君たちのおかげでまだ生きたいと思えるよ。」

 

END




ビギニングって名前ですが終わりです!!!
書いて、投稿させてもらってとても勉強になりました!!!!!
こんなところまで読んでいただいたり、評価・感想をしていただいた皆様に全霊の感謝を......!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=331834&uid=402137
投稿は続けるつもりなので、また拙作を読んでいただけるとうれし〜限りです。
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