誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中 作:覚絵テネ
ゲームが始まって早々に、死亡のアナウンスが連続する
『Erikaが死亡』
『スザクが死亡』
〈生存人数 48〉
〈残り時間 70:02〉
☆
雪が勢いを増し、しんしんと降る孤島の森。 羅刹をはじめとした五人は___やる気のない白野を引きずるようにしながら___次の補給ポイントを目指す。開始から二時間しか経っていないというのに、三人の消耗が深刻だった。道すがら手に入れた防寒着を優先的に装着させているのにラット、赤燐、白野は常に遅れて隊列を乱しがちだった。
「羅刹さん、躊躇いなく歩きますね。」鼻息のかかる距離からラットがぼやいた。
「.....うん、他のプレイヤーの気配はしないから。」
「地雷とか懸念しないんですか?」
「ああそういう……」
おそらくラットが想像しているのは、序盤からバタバタと人が死んでいくタイプのデスゲームだろう。
「安心して、そんなチープな罠は経験上ない。この運営は理不尽な死より、エンタメを重視するから。」
「ふぅん……。」
納得したんだかそうではないんだか、微妙な感じでじとっとこちらを見てくる。私に初見の相手を心酔させるようなカリスマ性はないからね、しょうがないね。
「おいコラ。お姉ちゃんにどういう目つきだゴラァ!」
「ひっ!?」
妹こと他人・ルーシーに睨みつけられ、ラットは一瞬で黙り込んだ。私の子分ポジを確立したいらしい。
やりすぎだと思ったが、あまりきつく咎める気にはならなかった。ルーシーは最後尾を歩いている。ややリスクのある立ち位置だと説明したのだが彼女は進んで引き受けてくれた。『任せて!お姉ちゃんの体力を維持するのが優先でしょうから』とのことだ。尽くす姿勢には好感が持てる。できるだけ死なせたくないものだが...。
でも、これだけは言っておかなきゃいけない。
「ルーシー、このゲームであることをした奴は確実に死ぬ。何だと思う?」
「え……わかった!油断したやつ!」
「それもあるけど...答えはバッドマナー。例えば不要な拷問とか……そう言うのが行き過ぎた奴は確実に死ぬ。例外はない。」
「えー?ルーシー、何もしてないよぉ?」
「咎めたわけじゃなくてね。とにかく気をつけて。」
そろそろ何かが起こる時間帯だ。
「あれ、何です...?」
一番早く気づいたのはラットだった。いい目をしている。
近づいてみると草むらの中に少女が倒れている。服をほとんど剥ぎ取られ、五体を広げたままぴくりともしない。死体だった。四人が恐慌に陥ったりする前に、冷静に進み出て脈を測る。うん、冷たい。
「みんな、この子の体を探らせてもらおう。銃とか弾薬とかを持ってる可能性もあるから。」
と言いつつ、羅刹はしばらく静観しよう。他の四人が死体に対してどういう扱いをするのか。
「本当に死んでます?死んだはずのが実は生きてた、とか定番じゃないですか。頭とか潰した方が……」
...静観するつもりだったが、ラットが石を持ち出してきたので慌てて止める。
「いや、そういうことはしない方がいい。それもバッドマナーだから。」
「ば、バッドマナー?」
「殺し合いにこそ意外とマナーが大事なんだよ。」
さっきから何言ってんだこいつ、とラットの顔に書いてあった。
問答している二人をよそに、赤燐が恐々と手つきで死体を調べ始める。
「何も持ってないな。死因もわからない。出血も首絞めの跡もないし。うーん...」赤燐は致命傷がありうる箇所を手早く確認していく。口より先に手を動かす、羅刹的ポイント+1だ。
「耳じゃない?」閃いたルーシーが指を立てた。
「耳だって?」
死体には兎耳がなかった。代わりに白い糸が頭頂部から伸びている。
「みんな、ウサ耳で色々聞こえるでしょ。神経が通ってるってこと。神経を引き抜かれたらどうなるかな?」
「ああ、そういえばルール表にも……『!!!大きな耳は引っこ抜かれないように注意!!!』と書いてあったね。...まさか、だよ。」赤燐は顔を青くした。
「うーん、試してみよっか。」
「...はい?...ちょ...」
ルーシーがラットに歩み寄り、頭に手を伸ばす。そしてウサ耳をつねった。
「ぎっ!?ああああああっ!?」ラットは痛みにのたうちまわる。
「あはは、おもしろ……でも、ゾッとしないね。知ってる?ウサギの耳は人間の3倍敏感らしいよ。その神経を傷つけられたり、引っこ抜かれたりしたら、人間は...」
「...ショック死か。糞、趣味が悪い...。」
死因の謎が解けたにも関わらず、空気は重い。そりゃそうだ。寝ている間に脳を弄られ、ウサ耳と即死スイッチを埋め込まれている。生理的嫌悪感は爆弾を埋め込まれた方がまだ低いだろう。仮初にでも笑顔の羅刹とルーシーが異常なのだ。
「......ひっ、いや、いやあああああ.......。」
ラットが消え入りそうな声でその場に倒れ込む。
「まあ、そんな気にしないでいいと思いますよ。どっちかっていうと、初心者の皆さんが付け入る隙を作るための措置だと思うんで。」
気休めの言葉を言いつつも、羅刹は四人の仲間を品定めしていく。死体を扱う様を見れば、そいつのことがだいたいわかる。
ルーシーは多分生き延びる。発想が柔軟で、場慣れもしている。人を傷つけるのに抵抗がないのはちょっと怖いが。
赤燐は積極性があるが、それだけに磨耗するのが早い。ダメそう。
ラットは非常に警戒心が高いが、デスゲームだから...という訳ではなさそう。多分、常に気を張ってきた人だ。警戒心が長続きすれば、あるいは暴発しなければ生き延びるかもしれない。
で、ここまでマジで何もしてない白野。三人が死体を調べている間も木の皮を意味もなく削いでいた。あんまり見たことがないタイプだった。
☆
〈生存人数 48〉
〈残り時間 69:30〉
正午。太陽が中天に昇り、しかし空は暗いまま。他のプレイヤーがレーダーに映ることもないまま二つ目となる補給ポイントに到着した。
「お姉ちゃん、任せてー!……よっとぉ!」
ルーシーが羅刹に代わり、片手でコンクリートの蓋を開ける。中には幾らかの食料と水、防寒着、そして...フード?頭の部分が非常に大きく、耳を隠せるようになっている。防具か。銃を防げるようにも見えない。正直優先度は低いが....
「ああ、耳を防御するための...。」
言い終わらないうちに、フードを誰かがかっぱらった。...ラットだった。制止も聞かずに自分に身につけて、こちらから距離を置く。
「はぁ?お前マジでいい加減に....」
咎めるルーシーに対し、ラットはキッと睨みつけた。
「…………っ、私だってもっと協調性のある行動がしたいですよ、でも、でもあなたがひどい口を利くから、耐えられなくて……」
その表情は早くも決壊寸前だった。下手に刺激するわけにはいかず、なあなあにする。結果的にこれは裏目に出た。殺気立つルーシーとラット。その余波を受けて赤燐はさっきからチーム内でも息を殺している。
羅刹はなんとか雰囲気を変えようとするが、そこにさらなる追い打ちがかかった。
白野が突然こう言い出した。
「ねえ、もういいよ。僕めんどくさくなっちゃった、もう行くから。あとは勝手にやってて。」
彼女はそう言うと、踵を返して歩き出した。羅刹が慌てて声を掛けた。 だが、白野は振り返らないまま遠ざかる。
「ちょっと白野ちゃーん!?待ちなよ、一人じゃ危ないって!」
ここで彼女を引き止めなければ、一人、また一人と去っていくのは目に見えている。しかし、本能が足を止めさせた。側にある木に身を隠す。
直後銃声が鳴り響いた。