誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中 作:覚絵テネ
識別名:白野に言わせてみれば、世の中のみんな必死すぎる。どうして、人を傷つけてまで私欲を満たそうと思えるのか。デスゲームに参加したのは、自分が死ぬだけで利益を得られる人間がいるなら、それでもいいと思ったから。
☆
識別名:ラットにとって、世界の人々はみんな敵だ。気を悪くさせないように手を尽くしているのに、いつもラットを嫌い、大事なものを奪う。
(でも、それは違うんだろうね。)
客観的に見れば、ラットはへこへこしているけど配慮はできておらず、肝心なところで地雷を踏み抜くクズなのだろう。25年生きてやっとその事が理解できた。でも、どうすればいいのかわからない。わからないからこんなところに来た。
言えることが一つあるなら、こんな所で、何も希望を見いだせないで死ぬのは嫌だと言うこと。
☆
〈生存人数 48〉
白野はふらふらとした足取りで森を出た。追いかけようとした羅刹は違和感で足を止める。
直後、銃声が響いた。白野の薄く軽い体がふっとよろめき、ウサ耳が2枚まとめて砕け散る。飛び散る血と肉片は人体改造の成果か、割れたガラスみたいにキラキラしていた。
貫通した銃弾は地面に激突すると、一瞬遅れて星空のようにガスと閃光を発生させる。これは知ってる。スナイパーライフル……識別名:ムーンスレイヤー。コンクリートの壁も貫通する破壊力がある。
数m先で、白野が力無く横たわる。瞬きをしていない。耳を撃ち抜かれたことによる即死に違いなかった。
左手のスマートウォッチから合成音声が聞こえる。
『白野が死亡しました。』
〈生存者:47〉
白野の超然とした態度は、命を顧みられないだけだったか。何にせよ、やる気が無いのは味方に来て欲しくはなかったな。
それより、ナイフが力なく彼女の手から落ちている。
(ただ殺られてすごすご逃げてきました、じゃあの3人がっかりするよねぇ。せめてアレだけでも回収させてほしいけど。)
鍋の蓋を握りしめ、白野の亡骸に駆け寄った。ナイフを貰えばすぐ離脱しようと思ったが、強く握ったまま息絶えている。
もたついている間に、額にチリチリとしたものを感じた。羅刹ほどになると『殺気』というやつが大体わかる。ムーンスレイヤーとは別の銃で狙われているようだ。
(狙撃者の姿さえ分かれば避けられるのに。)
殺気が爆発した瞬間、鍋の蓋で頭を守る。受け流すイメージで、予測される射線に対してナナメに。
再び銃声。
衝撃は重い。鍋の蓋が粉々に砕け、持っていた方の手に激痛。弾は逸れて地面に埋まったが、左手の皮膚が裂け、ショッキングピンクの血が噴き出した。
次は防げない。だが、流石に三発目は来ないはず。羅刹は走り、ナイフを拾う。防御を捨て、茂みに飛び込む。危機は去ったわけではない。もし相手が自分と同じレベルのプレイヤー4人と組んでいたら、こんな簡単な攻撃で済むはずがない。もっと冷酷な追撃が来るだろう。
頭を掻きむしりながら3人のもとへ戻る。
(あーもう、初手で味方一落ち。萎えるなあ、みんなパニクってないといいけど。)
「おーい、みん……」
羅刹は顔をしかめた。
悪い予感は当たった。しかも、最悪の形で。
「......あっ.......ぐが、テメェ......」
ルーシーが地面に倒れ、血走った目でラットを睨んでいる。肩には電極が刺さり、髪は逆立ち、肉の焦げる匂いが漂う。ラットは震える手で、撃ち終えたテーザー銃、スパークバニーをルーシーに向けていた。
「う、うるさい!お前が、お前が悪いんだ...!」
パニックの先の同士討ち。最悪のケースだ。もう羅刹たちはチームとして立ち行かない。
……いや、さらに悪くなるかもしれない。
「赤燐!」ラットとルーシーから距離を取っていた赤髪に吠える。争いを止めなかった怒りなどではない。赤燐は背後に迫るものに気づいていなかった。
「おい!赤燐さんってば!」
「落ち着け落ち着け落ち着け……賢く、賢く立ち回るんだ、私はダイヤクラス、いつもMVPだぞ、狙いを定めて撃つだけ、狙いを定めて撃つだけ……」
呟きながら顔を掻きむしる赤燐の肝臓に2本のナイフが突き立てられた。
「ぎ、ぎぃぃぃっ!?!?」
赤燐はようやく逃れなければと思ったらしい。弾かれたように走り出すが、髪を掴まれ強引に振り向かされ、その真っ白な首筋に深く刃を入れられる。
「……っか………」
悲鳴も上げられなくなって赤燐は崩れ落ちる。周囲の白い雪を大量出血が禍々しく染めていく。肝臓、頸動脈、喉。急所を3つ破壊されている。たとえここが集中治療室でも救命は不可能だろう。
「ナイス、あに」「ナイス、おとーと」
下手人は瓜二つの少女。白髪に金色の瞳が印象的な彼女らは、互いを褒め称え両の手のひらでハイタッチ。
殺しを日常にしているものの仕草だった。