誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中 作:覚絵テネ
☆カメラ:襲撃者たち
『AKIRAが死亡しました。』
『麺ヘラきーちゃんが死亡しました。』
『ki-boが死亡しました。』
『スンオーが死亡しました。』
羅刹たちの敗走から暫く。恐ろしいほどのペースで、脱落者が相次いでいた。その殆どは一つのチームによるものだ。
『ʚねむねむニャンコʚが死亡しました。』
『ʚばち起きブルドッグʚが死亡しました。』
『ʚどっこいしょバットマンʚが死亡しました。』
〈生存人数 39〉
〈残り時間 69:00〉
雪が舞う洞窟。血と焦げた肉の匂いが漂う中、ルーシーは後ろ手に縛られ、目隠しをされ、ひざまずいていた。
「た、助けて……」まだ生きていた。不幸なことに。もちろん温情はなく、助けに来る仲間もいない。周囲の死体がそのまま彼女の末路を物語っていた。
「捕虜の少女よ、戦場に立つなら命を捨てる覚悟位は持つべきだったな?儂は10になる前からにそのくらいの覚悟を持っておったぞ。」
偉そうな言葉に「うるせえ」と吐き捨ててやりたいが、ルーシーは縮こまってしまっていた。命への執着なんてないからこんなゲームに参加したはずなのに。
白髪混じりの癖っ毛を背中まで垂らした少女……識別名:老狼。ドラム缶に腰掛け、部下である双子と、あと二人の少女を後ろに立たせていた。
彼らの目つきを見れば分かる。デスゲームに限らずとも、人殺しで飯を食う類のものだ。
彼らの耳が敵を捕らえた。
「
「ああ、狩りにいっていいぞ。……
「「はい。」」
「お願い……助けて……」
か細い声で懇願するルーシーを、双子が憐れみをもって見つめ、進み出た。
「老狼。痛めつけるのは違うと思う。」「はやく殺して次に……」
「黙れ。」
老狼は兄に残った兎耳をぎゅっと締め上げる。
「…っ!?!?!!!……っ!……っ!!!」
神経を痛めつけられた兄の瞳がぐるんと裏返り、雷に打たれたよう倒れ込み、全身で地面をたたき、何度も何度も飛び跳ねる。
「やらかした分際で。お前たちも木に吊るして欲しいのか?」
「ご、ごめんなさい……。」
「フン。それじゃあよ、お前らにやらせてやる。実験だ。この、脳の神経につながってる兎耳。どれくらい抜いたら死ぬのか知りたい。」
まだ躊躇っている弟に代わり、兄が息を整えながら歩み寄る。「二人でやれよ。なかよくな。」
ルーシーの得体を、半分ほどの体重もない体でしっかり押さえつけた。
弟が手のひらより大きい耳をぎゅっと掴む。
「ぎぎぎ!?ま、まっ…………たす、たすけ……がっ!?」
思ったより弱い手応えと共に、ウサミミが抜けていく。
プチュ、プチュ、とその根本から水気のある何かの切れるような音が響く。そのたびに喉が痙攣し、腰が大きく跳ねる。口から粥の如きものが溢れ出て、ワンピースを濡らしていく。
「大層な騒ぎようじゃのう。万に一つも痛くは無いじゃろう?ここの運営はそういうのに敏感じゃから。」
「痛くないですっ!だ、だから、命が抜けていく感触があって、辛いんですっ!!やめ、やめ、助けてよお姉ちゃん...!」
「続けろ。そのまま、ゆ〜っくりと引き抜くんじゃ。」
敗者に容赦はなく、その耳が引き抜かれる。その根本からは、数本の白い糸が生えていた。
「………がっ!?……………ぁ、ぁ、ぁぁぁ!?!?!」
糸が切れたマリオネットのようにルーシーは沈黙した。目鼻口から泡を出したまま、それを拭おうとする気配もない。どうみても死んでいた。
「なるほど、両方抜かれればほぼ確実に死ぬ。面白い玩具じゃなあ、オイ?」
「…おっしゃる」「通り」
老狼が部下に暴力を振るうのは珍しいことではないが、今日は機嫌が悪かった。
「噂の羅刹とやらも大した奴ではないようだ。ワシの決闘を蹴りよって。」
「決闘...?」「けっとー?」
「知らんのか。」
ぴょんぴょん、とドラム缶から立ち上がって二回飛ぶ。
「これがこのゲームにおける決闘の作法だ。見えていたようだが...逃げよった。」
「...」「隊長は最強ですから...。」
くく、と笑う老狼。北アジアで20年傭兵としてのキャリアを積み、89件の戦争犯罪に関与。その悪辣なやり口で戦場にすら受け入れられなくなった。今は数少ない部下と共に姿を変えてこのデスゲームをやっている。殺人を元々天職としていた彼女らにとって、このゲームは二つの意味で児戯に等しかった。
一つはもちろん、対戦相手が素人に毛のはえたような連中しかいないこと。もう一つは、工作難度の低さ。
人工音声がアナウンスする。
〈残り人数 38〉
『サイレンスシズカ が死亡しました。』
続いて、ゲーム開始前に顎骨に埋め込んだ通信機から、骨伝導で部下たちと通信する。
『サー、敵チーム殲滅完了。』
『オーケー、こちらも殲滅完了。帰投せよ。』
質の悪い部下を戦場で探す必要はない。示し合わせて同じゲームに入り、そこからチーミング。殺戮は安易で、報酬の踏み倒しなどを警戒する必要もない。
(まったく、簡単すぎじゃよ〜。)
民家を襲っている時のようだ。気味の悪いくらい手応えがない。きっと、プロの殺し屋をこのゲームは想定していないのだろう。何時だって、世の中はマジメに生きるより、狡くハックしたほうがやりやすいのだ。
双子を連れ、拠点にしている洞窟の中へ。
洞窟の中にはところ狭しと銃器が詰め込まれていた。ナイフや日本刀、アサルトライフルやショットガン。一〇人近く殺戮して手に入れた武器はオモチャのようにカラフルだが、威力は本物。運営が想定する終盤の装備だった。加えて、防寒着やヘルメットといった装備も充実している。
常識的に考えれば、老狼たちの勝ちだった。もう危険な耳抜き合戦をせずとも、近づいた奴を片端から撃ち殺せば良い。座り込んで息をつこうとした、その時。風に乗って耳障りな音が聞こえてきた。近い。いつの間に。
「ふ〜〜〜ふふ、ふ〜〜ん♬」
美しくはあるのだが、絶望的に人に聴かせる想定をしていない調子外れの鼻歌。老狼は不愉快そうに双子を見つめる。
「私たちじゃ……ありませんよ?」「せんよ。」
「……なんじゃと?」
洞窟周辺には一通り自作のトラップがある。かかれば反応が来るはずだが…………老狼は一瞬考え、ショットガンと日本刀を腰に携えて洞窟から飛び出す。
「こんにちはー。お寒い中わざわざお出迎えいただきまして、感謝しますー。」
ぴょんぴょん、と二回跳ねる少女がいた。すでに分厚い防寒着を纏っている老狼に対し、初期衣装のワンピースだけだ。
丁寧な言葉遣いだが、その裏に人を舐め腐った高慢さがすけている。緑の髪をまとめ、サイドを猫耳のように盛り上げている。体のあちこちに刻まれた切り取り線のようなタトゥーが素直に可愛いとは思わせてくれない。
携えているのは短刀。桐の柄に長い指を絡ませて、自在に弄んでいる。
老狼は眉を寄せた。乙女の奇妙な出で立ちもそうだが、トランシーバーから部下たちからの反応が帰ってこないこと。口は動かさずに、舌の動きだけで発声する。
『おい、なぜ応答せん。疾く戻り、緑髪の女を後ろから撃て。』
「ああ、お仲間のことが気になるのですかー?これを見れば気を揉む必要はないとわかるでしょー。」
緑は、袖からポロポロと肉片をこぼす。それは、割られた顎骨だ。部下たちが通信機を埋め込んでいた顎骨。部下たちが帰ってこないこととその意味を老狼は即座に悟る。双子はともかく、奴らは10年近く戦場を生きた怪物だというのに。
ショットガンを構える。
死ね、と言う前に、ショットガンの引き金を引いていた。
ゲーム名【ホライゾン・パイオニア】。戦車の砲身のみを持ってきたような分厚い銃身、膨大な炸薬。その用途は対城。鋼鉄の壁だろうがぶち抜き、数十人を殺すことを目的とした散弾銃。一度引き金を引けば無数の弾丸が花びらのように飛び散る。いくら軌道を予測しようが、逃げ場がなくては避けようがない。〈銃弾回避〉は不可能だ。轟音。引き金を引いた老狼は舞い上がった雪煙の先に、肉塊を予想した。
「___あ?」
緑髪は、無傷でそこに立っていた。その日本刀のところどころに摩擦で焦げた後はある。まさか。いや、まさか。それは人間業ではない。
「きさま、まさか銃弾を撃ち落として――かっ」
疑問を確かめる前に、その腹部を短刀が貫通。痛みと共にその戦意をもぎ取る。
そして突き刺したままずんずんと老狼のほうに近づいてくる。老狼は喉元にこみ上げる鉄臭いものをこらえながら懇願。
「ちょ、と止まって...。」
「いいですよ。」
短刀の切っ先を木に突き刺し、老狼は木に固定された。
動けない間にその両耳を掴まれる。老狼というには似合わない、大きなウサ耳と全身が恐怖で縮こまる。身長の通りの無力な女の子に堕ちた。
「ま、まって……やめて……!」
ギチギチ、と不穏な音が老狼の頭蓋骨の中で反響する。老狼は敵の裾を震える手で掴み、上目遣いに懇願する。
「いや、死にたくない……まって、まって、痛くない……痛くないから、怖いんじゃ……」
血反吐を吐きながら懇願してもやめてもらえない。
緑髪は不気味な笑顔を崩さず、徐々に耳を引く力を強める。
「このゲーム、バッドマナーをしたプレイヤーは絶対ロクな死に方しないらしいですよー?想い人に曰く、ですがー。」
「やめ、あ……あ…………」
狼の脚が僅かに浮いた直後だった。ブチブチ、と耳が抜ける音が聞こえ、脳組織が破壊される。
「一つ訂正しといてあげますねー。
誰ともなく語る女。
隙だらけに見えるが、足音を殺して洞窟から出てきた双子の目を捉えた。双子は即座に悟る。この女は羅刹と同類。悪鬼の怪物だ。
双子の片割れは咄嗟に戦闘の姿勢を取った。
「あ、殺る気?えらいですよー。」
いついかなる時でも、双子は共に戦ってきた。兵士と戦うという意味だけでなく、鞭打ちに耐えるときも、空腹を凌ぐときも二人で耐えてきた。
弟はきっと今回もそうで、二人で一緒に死ぬのだと思っていた。
兄に後ろへ突き飛ばされるまでは。理性は、意図を瞬時に理解することはできた。しかし、感情が追いつかない。
「逃げろ!」
そのときばかりは、兄の声は、全く別物に聞こえた。
弾かれるように走り出す。自分で仕掛けた弓矢のトラップが肩を掠める。
幸か不幸か、ちょうど空が荒れ狂い始めたようだった。猫女は追いかけようとするが、吹雪に見舞われて立ち止まった。兄は銃を掲げ、その背中に躊躇いなく引き金を引くが、女の姿は一瞬ぶれるだけ。銃弾を回避してから、わざわざ元の場所に戻ったのだ。
「感動的な愛ですねー。逃がしてあげましょうか?」
「は? お兄ちゃん舐めんな。」
剣閃が二度閃き、首が飛んだ。