スケルトンの群れへと突っ込んでいく。ざっと数えたところ全部で3体。それぞれ弓持ち、剣持ち、盾持ちだ。
先手必勝、近場にいた盾持ちのスケルトン一体に殴りかかる。しかし、カンっという音と共に盾ではじかれた。
「お、思ったより硬い?」
「スケルトンナイトは攻撃力こそ弱いものの、護りを固められたらやっかいな相手です!」
目を丸くした俺に、後ろからシモンの声がかかる。このまま押し切ろうかとも考えたが、分が悪そうだ。
「ん~......、えいっ!」
アンネの引いたらしい矢がスケルトンアーチャーに突き刺さる。だが、骨だけの体に的確に当てるのは難しいようで、致命傷には至らない。その時だった。
「い"っ......!」
後ろにいたはずのシモンが声をあげる。
「大丈夫か!?」
そう言って背後に気を吊られたのがマズかった。その一瞬の隙をついて剣持ちのスケルトンが後ろへと回り込む。
「きゃっ!」
咄嗟に割り込もうとしたが、俺の動きよりも早くスケルトンがミアの腕を切った。ギリギリで致命傷は回避をしたみたいだが、むき出しの肌からパックリと切れた肌が見える。兄ちゃんとの模擬線も、かつてスラムに居たときも、基本的に戦場には自分一人だったので混乱した戦況に狙いが定まらなかった。
「みなさん、一旦引きましょう。ペチャが後ろを抑えておきますよぉ」
腕の傷を抑えながらミアが言う。こんな時でも、あのテンションは変わらないみたいだ。
「そうだね! 「引きぎわが大切」ってししょーも言ってた!」
それにすぐに反応したのはアンネだった。見た目通りの軽い身のこなしで敵から距離を取る。
「馬車まで戻ったら大丈夫だと思う!」
そう言うと、アンネが土埃が舞っていることで見通しの悪かった周りを弓ごと一気に振り払う。ようやく周りの様子がしっかりとうかがえるようになった。スケルトンが5体。弓持ちが2体と剣持ちが2体。さっきより増えている。どうやら、どこかに隠れていたか何かのスケルトンがシモンの肩を撃ったみたいだ。
「シモン、ミア、無事か!?」
「僕は大丈夫です! それよりも、早く引きますよ!」
俺の返事を待たずにシモンが走り出した。それに遅れないように着いて行く。
「ペチャ~、頼みましたよぉ」
殿を努めるぺちゃが地面の砂を勢いよくまき散らした。それと同時に再び視界が悪くなる。良く見えないが、スケルトンは追ってこれていないようだ。そのまま、全速力で馬車まで走りきる。
「お前ら、だ、大丈夫か!?」
馬車の物陰から顔を出したおっちゃんが手招きをした。馬車の裏に隠れて息をつく。
「はぁ......、助かったぜ......」
「ビックリした~! とりあえず手当しなくちゃ!」
その言葉にハッとして鞄から救急キットを取り出す。軽い応急手当だけど、ないよりはマシだろう。
「ペチャも手当しましょうねぇ」
どうやら、ペチャも無事に逃げられたようだ。各々傷ついた箇所に手当てを施していく。
「大丈夫だったか? ......無理そうなら一旦ドーンに戻るぞ」
おっちゃんが難しそうな顔をして話しかけてきた。確かに、思った以上に敵の数が多かった。だけど、ここで引くのは__
「え~!? ダメだよ! ここ通らないとサザンに行けないんでしょ!」
おっちゃんの言葉に真っ先に声をあげたのはアンネだった。結構しっかり怪我を負ったというのに、そんなのもう気にしていないようで今すぐにでも飛び出しそうな雰囲気だ。
「そうですねぇ。お師匠様に頼まれたご用事をこなせないのは困ります」
「............確かに、ここで引き返って「出来ませんでした」なんて言ったら何をされるか分かったもんじゃない」
ミアもシモンも、引き返すという選択肢はないようだ。
「ん! 俺も賛成! それに、このまま逃げて帰りたくねぇ!」
俺の言葉に、おっちゃんがため息をついた。
「分かったよ......。つっても、どうすんだ? そのままじゃさっきの二の舞いだろ」
確かにおっちゃんの言うとおりだ。奇襲されたとはいえ、考え無しに突っ込んでいったら、また後ろから崩されてしまうだろう。せめてもう少し前を張れるやつがいればいいのだが......。
「あまり、これを使いたくはなかったんですけどね。......みなさん、ちょっと待っててください」
黙って考えていれば、難しい顔をしたシモンがコートの胸ポケットから何かを取り出した。そのまま、それを地面に置くと何かを唱え始める。それと同時に、地面に置かれたそれから謎の煙が立ち込め始めた。
「うぉっ! なんだ!?」
強い光に一瞬目をつぶる。次の瞬間、目の前にはスケルトンが立っていた。
「す、スケルトン!?」
「これは僕が召喚したスケルトンなので皆さんに攻撃してくることはありません。安心してください。......これで多少布陣は整いましたかね」
はぁとため息をつきながら、シモンが立ち上がる。
「お前、ネクロマンサーだったのか」
「一応......」
ネクロマンサーと言えば、あまり都市部では見たことが無い。そもそも難しい知識が必要で、スラムにはそんな勉強をする奴なんていなかったというのもあるが、それ以上に世間からは若干疎まれているからだ。シモンが隠していたのも頷ける。
「ねくろまんさぁって何ですかぁ?」
「えっとね、キラキラして、ぶわ~ってするカッコいいやつだよ! 頭のいい人しか出来ないの!」
「そうなんですねぇ。かっこいいです」
......まぁ、どうやらこいつらは気にしていないようだが。俺も実際に見るのは初めてだから、ドキドキする。噂では聞いたことがあるが、本当にアンデッドを呼び出せるんだな。
「あまり世間からは好かれていないですけどね。それより、こんなに微笑ましく歓談している場合ではないのでは!」
どうやら、シモンは素直に誉め言葉を受け取らない質らしい。こんなちっさいのに、ここまで見事に術を使えるのはかなりすごいとは思うが、これ以上言っても無駄だろう。
「そうだね。あ! その前にお薬飲んでおかない?」
そう言うとアンネがバックから回復薬を取り出した。さっきから見ていると、かなり戦闘に慣れているらしい。「師匠」と言っていたし、弓を持っていたところを見るに普段からモンスターを相手しているのかもしれない。
「んっ、苦い~.......やっぱりコレ嫌いかも......。あ、シモン君もいる? ししょーから二つ貰ったから」
アンネが鞄からもう一つ回復薬を取り出す。よく見れば、シモンの怪我はあまりちゃんと手当されていなかった。戦いと縁遠そうな坊ちゃんであれば納得だ。
「まぁ、あるに越したことはないですが.......いいんですか?」
「ん?」
「師匠からいただいたと言っていましたが、貴重なもn「あ! そっか! 苦いの嫌だよね!」え、いや......そう言うことでは......」
「ごめんね、今私甘いもの持ってないんだ。お薬飲める?」
「飲めますよ! 貴方と同じ15なんですから子ども扱いしないでください!!!」
シモンの大きな声が響いた。
「え? ......同い年だったのか? てっきり年下かと」
「ちょっと!? ジルクさんまで!?」
「皆さん同い年なんですねぇ。ふふふ、なんだか親近感を感じます~」
この口ぶりからして、どうやらミアも同い年らしい。こっちは年上だと思っていたから驚きだ。何を食ったらこんなにデカくなるんだ?
「......さっきまでボコボコにやられてたやつらだとは思えねぇな。よし、頼んだぞお前ら!」
ははは、と少し引き気味に笑ったおっちゃんが肩を叩いてきた。言われなくても分かっている。
「任せとけって! 馬車代のこと忘れんなよ!」
そう大きく返事をして再び道へと飛び出した。さっきは複数人での戦い方に慣れてなくて突っ走ってしまったが、同じミスはしない。
「俺とスケルトンが前を張るから、みんなは後ろで援護してくれ!」
盾と剣を構えると、剣持ちのスケルトンへと向き合った。さっきの攻撃からして、剣を持ったスケルトンが厄介だ。弓持ちは後ろへと下がっているようで手は出せないし、とりあえず前の敵を倒したい。俺が前線を維持をしていれば、敵後衛にいた弓持ちがさっきと同じように矢を放った。それぞれ、隣にいたペチャとスケルトンに当たる。
「大丈夫か!?」
「ペチャはこれくらいじゃやられませんよ~」
さっきは見えていなかったが、このペチャというモンスター、思ったよりも固いらしい。頼もしいく感じる。そのまま背を任せて剣持ちのスケルトンへと向き直るが、押し切るには力が足りなそうだ。下半身に力を入れて剣に体重を任せる。
「ジルクさん、そのまま押し切ってください!」
背後からシモンの声が聞こえたと同時に、何やら呪文を唱える声が聞こえた。
「ひとたびの瞬きを、ふたたびとせよ――《ヘイスト》」
それと同時に体が軽くなった感覚がする。いつもよりも早く一歩を踏み出せるような、そんな感じだ。
「よーし、隙を作るからそのままやっちゃってよ!」
アンネの撃った矢がスケルトンの一体のバランスを崩す。
「私たちも負けてられませんねぇ。ペチャ〜、体当たりですよぉ」
ミアがスケルトンの一体を撃ち抜いたかと思えば、それに合わせてペチャがスケルトンを押し倒す。俺もこうしてはいられない。
「よっしゃ! 攻めるぜ!」
シモンの魔法のおかげで体が軽い。勢いのままに目の前のスケルトンを切りつける。すかさずペチャが押し倒したスケルトンにも切りかかり、頭を落とした。切り落とされたスケルトンはしばらくカタカタと音を鳴らしていたが、次第に動かなくなっていく。
「このまま押し切るぞ!」
前に残った盾持ちのスケルトンへと対峙すれば、それに合わせて矢が2本飛んできた。バランスを崩した相手を見逃すほど稽古に手を抜いているつもりは無い。一気に畳みかける。そのまま盾持ちのスケルトンの頭と腕を切り取った。ガシャンという音と共に、砕けた骨が地面に転がる。味方のスケルトンが矢を防ぎながら前線を押し上げた。
「奥のスケルトン、やっちゃうね!」
アンネはそう言うと、前へと飛び出す。弓の届く範囲のことは分からないが、名一杯弓を引くと、後ろに居たスケルトンの頭を撃ち落とした。
「すっげぇな、アンネ」
「えへへ、よし! 残り一体だよジルク君!」
言われずとも体は動いていた。後衛相手であれば敵ではない。
「おらあぁぁぁぁぁぁ!!!」
下半身に力を込めて剣を振るう。上から下に勢いよく剣を振り下ろした。弓ごとスケルトンを切り伏せる。上半身の骨が砕けたスケルトンは、それと同時に力を無くしその場に倒れ伏した。
「......なんとかなった? つ、疲れた~!」
「お疲れ様でした」
シモンが術を解除したのか、召喚したスケルトンが塵になって消えていく。
「戻しちゃうんですかぁ?」
「流石に街に連れていくこともできませんし......」
「あんな感じで戻っていくんだな」
そっちを見ていれば、アンネが倒れたスケルトンの方に向かっているのが見えた。
「アンネ? 何してるんだ?」
「ん~......難しいなぁ......。あ! 出来た! 見てくださいししょ......あ、ししょーいないんだった」
まだ形の残っているスケルトンから何かを取り出すと、嬉しそうにこちらに見せてくる。その手を見てみれば、形の良い骨が一本握られていた。
「これ、竜の牙......ですか?」
「竜の牙?」
「はい、僕がスケルトンナイトを呼び出したときに使ったのを見ていたでしょう。その時に触媒にしたものです」
「そうなんだ! ネクロマンサーが使うやつなんだね。それじゃあシモン君にあげるね!」
「え、じゃあ、まぁ......ありがたく受け取りますけど......」
アンネはそのままシモンに竜の牙?を手渡すと、徐に懐からメモ帳を取り出した。何かメモを取っているらしいが、それよりもあれ、紙だよな? もしかしたら、アンネの師匠とやらは金持ちなのかもしれない。
「いや~、助かったよ。お前らすごいな」
どうやらおっちゃんが馬車をこっちまで動かしてくれたみたいだ。障害物のなくなった道をゆっくりと馬車が通る。
「まぁな! これでも修練してるからな!」
褒められたことが少し照れくさくて、咄嗟に誤魔化す。
「冒険者......とかじゃないんだよな?」
「え!? 冒険者に見えた!? やった! 冒険者だって!」
「冒険者として活動した経験はありませんけど......」
「むしろ違うのか? それだけの腕があったらサザンでも冒険者としてやっていけると思うけどな」
まじまじと俺たちを見ながら、おっちゃんは顎に手を当てた。
「まぁ、私はお師匠様と一緒にいられればいいので~」
「暮らすところもあるしな......。別になるなんて考えたこともなかった」
『冒険者』......サザンではよく聞いた言葉だが、自分がなんて考えたこともなかった。どちらかというと、冒険者の財布をどう盗むかの方があの頃は重要だったしな。
「まぁ、なんだ! お疲れさんってことで。まだ先は長いし、これから暗くなるだろうから寝てていいよ」
おっちゃんが馬車の荷台を指さしながら言った。
「そうしましょうか~。ペチャ~、一緒に寝ようねぇ」
ミアがペチャを抱き上げながら荷台に入っていく。
「ひと段落したし、馬車代も浮いて儲けたし、ゆっくりするか!」
「そうだね! あ! 私良いもの持ってるよ!」
「良いもの......ですか?」
「もしかしてアレか?」
「折角ならみんな一緒に遊ぼ!」
首を傾げるシモンを横目に、さっきアンネが取り出していた謎の置物を思い出す。使い方がいまいち分からず一抹の不安を抱えながらも、ガタガタと揺れる馬車の中、俺たちは聖都サザンに向かうのだった。