『半分は猫、もう半分は……な世界』
邪神ウォルバク。
その人知を超えた力を使いこの世界の人々を恐怖に陥れた主犯格の一人。
優れた魔力と美貌を持ち、怠惰と暴虐を司る邪神であり……俺のパーティーメンバーの一人であるめぐみんの師匠。
その素晴らしい力を使いめぐみんを頭のおかしい爆裂道へ陥れた張本人である。
そんなウォルバクは過去、とある事情で仲間達と手を組みめぐみんの手で殺した……殺してしまった筈……だったのだが…。
「……なぁ、これお前の半身だよな?」
「なーお。」
猫の癖に空を飛び、炎を吐く、そんな猫であるちょむすけが珍しく俺と共に外を散歩していた時、徐ろにちょむすけが路地裏へと進む為後を着いた結果……。
「あー……おい、起きろ……おい!」
「……んぁ……。」
ちょむすけの半身であり、殺した筈のウォルバクがゴミ箱を背に寝っ転がっていた。
気持ち良さそうに睡眠を貪るウォルバクのその姿、流石怠惰を司ると言った所か……暴虐な胸を揺らし目を細める。
状況が掴めていないのか、俺に揺さぶられ意識を取り戻したは良い物の未だ夢から覚めて居ない様子。
ボーッと俺を見つめながらちょむすけに顔を舐められる。
掛け布団変わりにしていたのか青いビニールの様な物を胸元まで上げると一言。
「……夢…よね。」
「二度寝すんな。」
またもや睡眠を貪ろうと部屋でゴロゴロする自分自身を思い出しつつ、ビニールを取り上げぶるんと揺れる胸に目がうば……ウォルバクの意識を取り戻させる。
のそのそと身体を起こし周りをキョロキョロ、やっと状況が掴めたのか俺を見上げながら呟く。
「どう言う事なの…?」
口癖なのだろうか、寝起きのカスカス声で少ないウォルバクとの対話の中でも多々見られたその一言でゲンナリと顔を顰める。
どう言う事か、此方が言いたいものだ。
「まぁ取り敢えず水でも飲めよ、声枯れてるぞ。」
「あ、ありがと…う……。」
『クリエイト・アース』で簡易的なコップを作り上げ、其処に水を注ぐ……一体どう言う原理でこのコップは固まっているのだろう。
もしこの力を持って現世へと行ければ食料だの何だのの問題を全て解決出来るだろう。
ちびちびと猫のように水を飲むウォルバクを眺めつつ、今後の事を考える。
先ずは何故、ウォルバクがここに居るのか。
あの時確実に殺した筈、本人もそのつもりであるからこその先程の反応だったのだろう。
もう一度倒すかどうかは……まぁ、今は一旦保留。
まずはウォルバクの口からあった事を伝えてもらい、状況整理からだ。
「……ぷはっ…!!……何だが、久しぶりに水を飲んだ気がするわ。」
「その様子だと腹も減ってるだろ、取り敢えず適当に食ってから話そうぜ。」
「…助かるわ。」
ちょむすけをウォルバクから引っ剥がし抱きながらウォルバクを適当な店へと案内する事に、特徴的な赤い髪と瞳、街中で晒すのはどうかとも思ったが……まぁ魔王も倒されてるし別に良いだろう。
本当に近場の店へと入店、縮こまり出来るだけ目立たない様にしているウォルバクと奥の席へと座る。
抱いていたちょむすけを降ろし撫でながら注文を待つこの時間、お互いに落ち着いた為話す事に。
「取り敢えず、お前は俺達に倒された……それは間違い無いな?」
「えぇ、あの子の魔法をこの身で受けたもの……未だに覚えているわ。」
何処か遠い目をしながらそう答える。
懐かしむ様な、嬉しい様な、好意的雰囲気で思い出しているのを見るに二人を会わしても問題無さそうだ。
「それじゃあ、何故お前は生きて彼処に居たんだ?」
「分かる訳ないでしょ。唯でさえあの瞬間、視界が真っ暗になったと思ったら……次に意識を取り戻したのは今ですもの。」
そう言って店員から出された水を口に含み一息……どうやら、簡単そうな問題じゃ無さそうだ。
「それじゃあまぁお前が倒されてからの間に起こった事、と言ってもまぁ分かるか。」
「えぇ……倒したのね、本当に。」
「あぁ……何で倒したと思う?」
その俺の言葉に予想だにしなかったのか、ギョッと目を見開き俺を見る。
「それを私に聞くって事は……まさかだとは思うけど、爆裂魔法で倒したの?」
「お前とめぐみんには感謝しかねぇよ。」
「しかも貴方が……っ!?……アハハッ…!全くどう言う事なのよ本当に。」
実に愉快そうに涙を拭う、間接的にではあるが自分のせいで魔王が倒された訳だが……何か、アイツあんまり慕われて無かったのだろうか。
自分の主が倒されて笑われると言うのは地獄から見てどう思うのだろうか、恨むのか、不甲斐無さを、嘆くのか……今度エリスにでも聞いて見よう。
と、注文していたご飯が運ばれてきた為店員から受け取った大量のご飯を机に並べ腹を鳴らすウォルバク……何で食べないんだろ。
「……別に俺は気にしなくて良いぞ?別に腹減ってないし。」
「いえ、猫舌なのよ私。」
成る程。
ちょむすけを撫でながら二人…二匹、を見比べる。
半身、そうウォルバクは言っていた。
そう考えるとやはりこの猫がウォルバクが復活した原因に関係しているのだろうか、頭を擦り付け本物の猫撫で声で甘えるちょむすけを撫でる。
人のコップに入った水を勝手に飲む所すら可愛く見える、動物と言うのはズルいものだ……ウォルバクが手に付けない冷めていく料理を加熱している所を除けば。
思いやりでやったのかも知れないがウォルバクが悲しそうな目で見ているぞ、折角食べれそうだったのにお前のせいでまた待つ羽目になりそうだ。
と、誇らしい事をした気持ちなのか喉を鳴らし頭を擦り付けてくる……顎をちょいちょいと撫でてやる。
「随分と好かれているのね?」
「ん?あぁ、何かな。」
「一応私の半身の筈なのだけれど……凶暴性は何処へいったのかしら。」
凶暴性、なぁ。
「爆裂魔法で砦を破壊してたお前に全部吸われたんじゃないか?」
「フフッ…そうかも知れないわね。」
そう言ってウォルバクもちょむすけを撫でる。
あの時は嫌がっていたが、どうやら猫の本能、半身としての本能だろうか……今はもう敵意は感じないのか受け入れていた。
「……まぁ、何故私がここに居るのかは分からないけれど……もう、あの時の様な事はしないわ。」
「……だと助かる。」
「魔王も倒され、今や多分貴方が英雄として扱われているのでしょう?」
外に顔を向けるウォルバク、そちらに釣られ俺も顔を向ける……と、どうやら俺達をチラチラと見る奴らが数人。
内の男性諸君は殆どウォルバクのルックスだろうが……まぁ、気分が良いからそう言う事にして置こう。
「これからどうしましょう……暴虐の限りは尽くしてきたし、次は逆に神として施しでもしようかしら?」
「神は神でも邪神だけどな。」
やっと食べれるのかもう一度冷めてきた料理に手を付けつつ、俺の言葉に目を逸らす。
「ま、まぁ良いじゃない……ほら、英雄様の仕事みたいよ?」
クイッと顎を向けた先、どうやら本当に俺のファンらしい女冒険者二人組が近付いて来ていた。
もうかれこれ魔王を倒して三ヶ月、最初こそ俺のファンを名乗る奴等が大量に来ていたが今はもう見る影も無かった筈だが……どうやらまだ居たらしい。
ウォルバク含めて彼奴等を奢れるエリス持ってたっけなぁ……財布を確認して居ると小走りで二人組が傍まで近付いて来る。
「___あ、あのすいません…!!」
「サトウカズマさん…ですよね…!?」
そう言ってグイグイと顔を寄せる二人組……な、何だコイツラ俺の事好きなのか…?
初対面でここまでグイグイ来た奴は初めてだ……全く、モテる男と言うのは辛いものだ。
「ま、そうだが……どうしたんだお嬢ちゃん達?」
「やっぱり!!あの、私達昔依頼でモンスターに襲われてた所を助けて頂いて…!!」
「はい!!もうあの時は駄目かと思いました……でも!!その時カズマさんのパーティーが助けに来てくれてそれで私達…!!」
……な、何だ本当に。
どうせまた奢ってだの何だの言われると思っていたが、何やら本当にファンらしい。
俺を見る目が物語っている、過去ルナの野郎のせいでけしかけられた偽物のファン達のせいで半信半疑で居ざるを得なかったが……何やら、考えを改めなければいけなさそうだ。
キラキラと憧れを見るかの様な目で俺を見つめる二人の頬は何処か赤く、恥ずかしそうにしながらも憧れを前に興奮を抑えきれないと計りに……フッ、ミツルギもこんな気持ちだったのかな。
「あ、あのそれで私達言いたい事があるんです!!」
「フッ……まぁ何でも言ってくれ、俺に解決出来ない事は無いからな。」
「そ、そうなんですね…!!それじゃあ…あの、手……大丈夫ですか…?」
手?
二人で俺を手を指差し少し引き気味で俺の右手を見つめる。
大丈夫か、どう言う意味なのだろうかと下を向く……と、ちょむすけが小さな炎で俺の手を炙りながらガジガジと噛み付いてきていた。
………。
「!?!?!?!?いっっっっってぇぇぇぇぇぇッッッッ!?はぁ!?な…!!あ、あちゃちゃちゃちゃッ!?」
「……なぁぁぁおッ!!」
ちょむすけの首根っこを掴み俺の右手を使い物に出来なくしようとするのを阻止、直ぐ様『クリエイト・ウォーター』で冷やしつつ『ヒール』で応急処置。
コイツ…!!何処が凶暴性が無いだ凶暴性の塊じゃないか!!
プイッと顔を逸らし不機嫌ですよと言わんばかりに尻尾を立て唸る、一体全体何だったんだ。
「っ!!おい!!お前の半身どうなってんだっ!?今までこんな事してこなかったのにお前が来てから……ハッ!!まさか…?」
「……悪いけど、私は何もしてないわよ。……まぁ、今この子が何を考えているのかハッキリと分かるけれど。」
仕方が無いと計りに首をやれやれと振りながら料理を頬張るウォルバク。
「なら!一体!!何を思ってっ!!こんな事してきたんだッ!?」
モグモグと飯を平らげつつ飲み込み終え一言。
「嫉妬、俗に私以外の女にデレデレしないで!!……的な感じかしら。」
「……お前メスだったのか。」
「なっ!!」
心外……だと言いたいのだろうか、驚いた様に鳴きワナワナと震える。
……いや、にしても今までコイツの前で色んな女性にデレデレしてきただろうに……何を今更。
不機嫌マシマシと言わんばかりに項垂れるちょむすけを撫でつつ、何時の間に居なくなったのか先程のファン達に思いをはぜる。
はぁ……折角久々に本当のファンに会えたのだが。
落ち込んだ俺の雰囲気を汲み取ったのか、自分で気付つけた右手を舐めてくるちょむすけ……いやまぁヒリヒリして痛いから止めて欲しいのだが。
にしても、コイツこんなに目付き悪かったっけ……。
「___はぁ、ビックリした……。」
「ね、確かにデートを邪魔しちゃったのは悪かったけど……。」
「本当にね、あんなに睨まなくても良いのに……彼女さん。」