『汚部屋世界』
___ゲンナリ、そう言い表す事しか出来ないだろう。
何時食べたのか分からない程に腐ってしまい蟻の集った食べ物、記号が羅列されたクシャクシャの紙、鼻が曲がりそうな程の異臭を放っている部屋。
そんな現状に本人は何も思う事は無いのか、俺を呼んでおいてベッドの上ですやすやと寝息を立てコン次郎と呼ばれる縫いぐるみを抱き就寝中。
開けた衣服に思わず目を向けそうになるが、欲情を上回る不快感からか怒りの方が幾分か感情を支配していた。
こんな気持ちになるのはアクアだけだと思っていたが……どうやら世界は広いらしい。
幸せそうな顔でコン次郎を締め上げるリアに轢かれた布団へと手を掛けると、支援魔法を己に掛け手に力を込める。
「よいっ……しょッ!!」
「ッ!?!?!?」
突然空中に放り出されたリアが声にならない悲鳴を上げつつ、ベッドへボスンッと落ちて来る。
目をパチパチとどうやら完全に目覚めた様で状況を何となく理解したらしい。
「よう、良い夢見れたか?」
「……もう少し優しく起こしてくれても良いじゃないか…。」
ジト目で不貞腐れた様に俺を見つめるリア。
そんなリアを無視してテキパキと床に散りばめられたゴミを一箇所へと集め、部屋の掃除を開始する。
こうしてこの部屋を掃除するのはそう珍しい事では無い。
今回に限らず今までも何度かエーリカとシエロと共に部屋の掃除に来ていたが、毎回腰が痛くなるまで掃除するのにも骨が折れてしまう。
その為周一で定期的に俺が見に来ると言う約束を行ったのだが……どうやら周一程度では部屋を綺麗にする事等不可能だったらしい。
日に日に汚くなる部屋には最早掃除しに来ているのか汚しに来ているのか分からなくなってしまう。
つまりあの二人にしてやられた訳だ。
出来る筈が無いと分かっていながら、俺に押し付ける事によって体の良い言い訳をゲット。
その結果俺だけが苦労する羽目に………まぁ、出会ったキッカケがキッカケな為あまり反論する気にもならないのだが。
と、何やらリアがモジモジとしながら此方に目線を送ってくる……ファンサービスだろうか。
「……何だよ。」
「いや……その、着替えたいから少し部屋から出てほしいのだが……。」
「目の前で着替えてろ。」
ギョッとした目で俺を見るリアから目を逸らし掃除を再開。
俺はこの世界に来てから其処らの美女と色恋に発展しているのだ、今更日本生まれ日本育ちの同郷の女に欲情するか……と言われればまぁするだろうが。
それ以上に俺の中でのリアの評価がアクアに段々と近付いているのが一番の問題である。
見た目はホットで中身はクールでも評価がアクアではどうしようもない。
と、シュルシュルと布の擦れる音が聞こえ始める。
……コイツ、本当に着替え始めるのか。
それはそれで役得な為特に咎めはしないが、俺の周りの女は殆ど恥じらいが無いと言うか……思い切りが良いと言うか。
このまま無言で着替えの音を耳にいれるのも何だがむず痒い為、何か適当に鼻歌でも歌っておこう。
そのままお互いにお互いの事に専念していると、ふとリアが鼻歌にハモってくる。
やはりと言うか何と言うべきか、アイドルをしているだけあってリアの歌声は透き通る様に心地良く耳に入る。
「……上手いな。」
「あぁ、練習しているからな。」
そのまま互いに記憶に残る日本の歌を歌っていく。
もう聞く事は無いと思っていた曲、別にその曲に特段思い入れがあるかと言われればそうでは無い。
しかし懐かしいと感じてしまう、その感覚を持ってしまうと言う事実に……胸が痛くなるのも仕方が無い。
何だかんだ言って生まれも育ちも日本なのだ。
今俺が居る所は此処であっても、もう日本では死んでしまっていても、日本を忘れる事は決して無いだろう。
そんな俺に感化されたのか、もとよりリアも同じ気持ちだったのか、互いに歌う曲はどちらも暗い曲調へと変化していく。
恋しい、その一言に尽きるだろう。
もし魔王を倒したその時は、一度日本に帰還して見るのも悪くないかも知れない。
そんな事を思っていたからだろうか、リアが直ぐ側まで来ていたと言うのに全く気付けていなかった。
直ぐ目の前で寂しそうに俺を見つめるリアと目が合うと、そのまま掃除道具を持っていた両手を握られる。
「……どうした?」
「カズマは、やはり日本に戻りたいのか?」
戻りたい……か。
「………いや、正直此方の生活の方が楽しいしな……でも、家族と会いたいってのは本音だな。」
「私もだ……向こうに置いてきてしまった家族や、同期達、日本に居た頃はアレだけ嫌いだったのに……何でだろうな。」
そのまま突っ立つ事数分、互いにある程度座れる位にはなった未だ汚さの残る床に腰を下ろす。
……こうしてリアと日本について思い耽る事もそう珍しく無い。
それによって互いにブルーになったり等はしないが、やはり同じ日本人同士深い話となると空気が重くなるのも仕方が無いだろう。
しかしそれはミツルギにも言える事だろう、そんなミツルギとリアとではどう違うのか……そう言われれば関係性と言わざるを得ない。
ミツルギとは敵対関係にはある、が何だかんだ良くやれている同郷の友達……ではリアはどうなのか。
同郷の友達、プロデューサー、そのどちらかと言われれば……今はそのどちらでも無いと言えるだろう。
コテンッと首を俺の肩に預けるリアを見れば、自ずとその正体も見えて来る。
その予兆はあったのだ。
別に俺が掃除しに行く必要は無いではないかと、俺が来ると分かっているのに何故着替えていないのかと、考えれば考える程荒い点は出てくる。
勿論気付いていなかった訳では無い、俺は鈍感系なのでは決して無いからだ。
「……カズマは、その…日本に居た頃は……こ、恋人とかは……居たのか?」
「………居なかったよ。」
と露骨に嬉しそうな表情を必死に隠そうと口をモニョモニョと動かす。
「私も同じだ……だから、と言うか、その……と、歳上のお姉さんは興味ないかっ!?」
「………ブフッ。」
「あっ!?な、何故笑うっ!!」
そうか、確かにリアは俺よりも歳上なのか。
しかしそうか……うん、これは思わず笑ってしまったのも仕方が無いだろう。
此れだけ子供見たいな所を晒しておいてお姉さんは思わず笑ってしまう、目の前で顔を真っ赤に俺を見つめるリアには悪い事をしてしまった。
だが、その言葉が何処か今までの重苦しい雰囲気を軽くした様な、重荷を下ろしてくれた様な。
「悪かった悪かった……有り難うな、リア。」
「………そ、それで、その……返事と言うか、あぁもうハッキリしてくれ!!カズマは私が好きなのか、そうじゃな___」
「___好きに決まってるだろ。」
そりゃ言い切れるだろう。
好きじゃなきゃこんな見るのも嫌な部屋の掃除に等しに来ない。
幾らプロデューサーと言えど限度はあるのだから。
そんな食い気味に答える俺に顔をパァッと輝かグイッと顔を近付けてくるリア。
「な、なら私と……!!」
「でも、悪いな……リアとは付き合えない。」
「付きあっ…!!……えっ…?」
空間に亀裂が入る様に、興奮冷めやらぬと言った様子であったリアが動きを止める。
「俺はプロデューサーとして、アイドルと付き合う事は出来ない……それは日本に居た頃から御法度だったからな。」
「そ……う、か…それは……。」
涙を我慢する様に、下に俯き言葉を漏らすリアの顔を無理矢理上げさせ目を合わせる。
これの何処か歳上なのだろうか、部屋の掃除が出来ず、縫いぐるみと一人で話し掛け、年下の言動一つ一つに一騎一縫う……まぁ、其処が良い所ではあるのか。
果たして掃除が出来ないのは何処に需要があるのかは分からないが、一先ずは早とちり気味な所は直して貰わなければいけない。
「だから、リアの名前を教えてくれ……俺はアイドルと付き合う事は出来ないからな。」
「………?………あっ!?そ、そう言う…!!ま、紛らわしい事を言うな!!」
言葉の真意を汲み取ったのか、此れ又顔を綻ばせ照れ臭そうにコホンッと咳を零す。
何をそんなに恥ずかしがっているのか、正直知ったこっちゃないが……皆の知らないその本名を俺だけが知る事の出来る優越感と言う物は非常に楽しみである。
「と言っても、そう珍しい名前でも何でもない……私の、本名は___」
「___カズマは、めぐみんやアクアとはアレだけ言い合えるのに……私の前では幾分か大人しい気がするのだが……どうなんだ?」
「………正直、日本の女性と彼奴等じゃ感覚が違うんだよ……俺は日本では生粋の引きこもりだったからな。」
「じゃあ、今は私にだけ特別に対応……フフッ……カズマも可愛い所があるじゃないか。」