『非暴力を目指す世界』
「___よーし良いか!?今から触れるからな、良いなっ!!」
「っ!!は、はい…!!」
何時も以上に、ツアーよりも気を引き締めやる気を出すシエロを目の前に俺も深呼吸。
良い加減男性恐怖症を治さなければ!!そう意気込みこうして特訓する日々……未だ改善の予兆は見られない。
つまり俺は今から殴られると分かってシエロに触る理由だが……何処のドMの御嬢様だと言いたくなる。
いっその事ウィズの魔道具で男になる副作用の欠陥品を探した方が良いのじゃないか、そう思える程に俺はシエロの拳を受けてきた。
避けようと頑張るも、何故か避けた先に膝、肘、拳、様々な身体部位が顔目掛けて飛んでくる……やっぱりわざとじゃないか?こいつ。
そう邪推してしまうのも仕方が無いだろう……そう心の中で悪態付くと、ゆっくりとシエロの素肌である手に触れようと___
「___ッ!?いゃっ!!………ッ!!」
叫びながら殴ろうと……するその手を自分の口元へと持っていき、ギリギリ踏ん張っていますよと言わんばかりに身体を震わせる。
……遂に、遂にシエロが男と触れられた…ッ!?
正直傍から見れば俺に手を握られ涙目で抵抗しようにも出来ない少女、と中々に危なげな絵面ではあるが……それ以上に、一瞬触れるだけでは無く我慢しつつも素肌で触られようと手を上げないその数秒に俺は価値を見いだしている。
こんな事は初めてだ……コイツ等をプロデューサーして早どれだけ経っただろうか、ファンや俺に近寄られるだけでもビクついていたシエロは今や触れられる様に…!!
「……や、やっぱりいやぁぁぁぁぁッ!!」
「ガッ!?」
等と油断していたからだろう、今まで顔や鳩尾に飛んできていた暴力は……その弱点目掛け物凄い速度で蹴り上げられる。
視界が真っ白にフラッシュバックしたと思うと、最早痛すぎて痛みを感じない領域に突入………いやだ!!この後徐々に徐々に玉にダメージが入って気分が悪くなるんだ!!
そう分かっているからこそ、今は意識を手放す事に決める……意識があるから痛みを感じるのだ。
オロオロとやってしまったと計りに狼狽えるシエロへと目を向けると、俺は親指を立て一言。
「……成長、だな…。」
「プ、プロデューサーさんッ!?」
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……何だろうこの柔らかい感触。
後頭部に感じる暖かく、柔らかい感触を楽しみもうと頭を動かし___
「___っ!!」
うーん実に心地良い、と言えるだろう。
今までウィズやアクアの膝枕を受けてきた身としても、これは格別に素晴らしい……最早高級枕其の物だと言えるだろう。
そんな高級太腿の持ち主を確認しようと瞼をゆっくりと開け……。
「……プ、プロデューサーさん…?」
慌てるように頬を赤く染め照れ臭そうに俺を見下ろすシエロ。
成る程、つまり俺はこの後理不尽に殴られるのだ。
結局まだまだ恐怖心は残っている状況、これだけ近くに男が居て何をやっても触れた判定になるだろうこの距離。
だが甘んじて受け入れよう、先程の記憶にある限り進歩はしているのだから。
ゆっくりと瞼を閉じ今度は何処へ暴力が飛んでくるのか今か今かと怯え………数分が経った。
……おや?
「………シエロ、どう言う事だ?」
「え、えっと……多分、ある程度は直った……と、思うんです……じ、事実!今もこうしてボクの膝に男性が居るこの状況でも…!!嫌悪感は拭えませんけど、我慢はある程度効く様になってきました…っ!!」
「そうか、そうか……。」
オロオロと、とても嬉しそうにそう告げるシエロに思わず涙を流してしまう。
これでやっとマトモに握手会を開けれる、触れ合いが、ファンが、金が増える…!!
「良しシエロ、早速他にも試しに行くぞ!!」
そう言って身体を起こしシエロの手を握る……良し、殴られない。
複雑そうな顔をしながらも俺の手に引かれ立ち上がると、口元を隠し顔を逸らす。
……やはり、顔には出るのだろう。
其処をファンに見せないようにしている、と言うアイドル精神に感服しつつ引き続きシエロの手を引き路地裏を出る。
触れ合う練習をしていたのは昼時であったのを覚えているため、夕暮れ時まで経った時間を見るに随分と長い時間シエロの膝を借りていたみたいだ。
「あのーすいません!」
通りすがりの男性に声を掛けると、悪い意味で目立っている俺の顔を見て若干嫌そうな顔をしつつ…俺の後ろに居るシエロに気付き立ち止まる。
……そんなに嫌われる様な事をしただろうか。
「実はちょっと今実験してて……この子と握手してくれませんか?」
「……逆に良いのか?」
そりゃそうだ。
シエロの様な可愛い子と握手出来る、しかも無料で……何かしら疑ってしまうだろう。
しかし男と言うのは実に単純なもので、どれだけ怪しかろうと下心に逆らえるほど出来ていない。
おずおずと差し出したシエロの手を鼻の下を伸ばしながらチラチラと俺と見比べ、ゆっくりと人差し指通しが触れ___
「___ッ!?い、い、いやぁぁぁぁぁッ!!」
「あれーッ!?」
何時になく気合いの入った拳を姿勢良く男性に叩き込むと、先程までニコニコとしていた顔のまま塊意気消沈……何故だ、一体何が何だってんだ。
「うぅ…っ!!プ、プロデューサーさん…!!」
「……つ、次だ次!!コイツはほら、下心見え見えだったからな…!!」
と此方から絡んでおいて酷い暴言だと分かっていながらも、それ以上にこの結果を認めたくない気持ち一杯で道行く男性皆に声を掛ける暴挙に出てしまった。
……まぁ、結果は言わずもがなだろう。
如何にもオタクそうな奴も、ムキムキな冒険者も、工事帰りの親方も、どんどんとシエロの下に倒れていく。
やがて積み上がった最早死体と変わらない男性の山に思わず目元が痛くなってしまう。
「……まだ、早かったか……。」
「ほ、ほんとにごめんなさい…!!」
そう言って謝るシエロ……これは、俺が少し期待し過ぎたのが悪いのだろう。
そりゃそうだ、そんな短期間で治る症状に悩まされたりしない。
あの瞬間だけでも緩和されたと言う事実があるのだ、後は地道に、本当に地道に直るのを祈りながら練習していくだけだろう。
涙目でションボリしているシエロに何か飯を奢ってやろうと、手を差し出す……いや、差し出してしまった。
「まぁ、美味いもんでも食って今日は寝よう。また明日、明後日、明々後日、練習すれば良いさ。」
「プ、プロデューサーさん…!!ボク、もっともっと頑張って直してみせます…っ!!」
と、熱い握手を交わす。
「「あっ。」」
咄嗟に空いた手で見を縮めこませ庇う、慣れたものだ……油断した時に来る不幸等。
そう思いながらシエロからの暴力を耐えようと……耐えようと、耐えようと、何時迄経っても飛んでこない拳に不審に思う。
手を除けシエロをチラリと確認すると、顔を赤くさせ何かに気付いてしまったかの様に困り顔で交わされた握手を眺めていた。
……何だ、何が我慢のトリガーだ?
「……シエロ…?」
「……え、えへへ……ボク、とっても単純見たいです…!」
ニヘラと顔を綻ばせ、ギュッと強く手を握る。
そのまま数分も経たない内に、元々赤かった顔がのぼせた様にどんどん顔を赤くさせるとプルプルと震え初め……ま、不味い…!!
「や、やややっぱりいやぁぁぁぁぁッ!!」
「ぶへぇっ!?」
分かりきった結末を迎えた。
「……カズマさん、ボクよりすっごく手がおっきくて………何だか、変な気持ちだなぁ…。」
「…?何独り言言ってるのよシエロ……ってえぇ!?ちょっとリア!!流石に生物を放置はアタシ擁護出来ないわよ…!?」
「ん?何を今更、私の部屋はまぁ……人より少し汚いのは分かっていた事だろう。」