『取捨選択する世界』
「___クスッ!!プロォォォォォジョンッ!!!」
...やはりと言うべきか、その身を持って体験したからこそ言える完成された究極の魔法、爆裂魔法。
その威力は地図を書き換える所では無い、そこらの村一つ最初から無かった事に出来る程。
それでも尚まだ彼女は発展途上だと言い切り、まだまだ上へと、高みへと、この世界の頂点を目指すと...そう豪語する。
正直、アークウィザードとして一流か...と問われれば、贔屓目で見ても優秀とは言えない、が事爆裂魔法に置いてはもう彼女に勝る人間は居ないだろう。
爆裂魔法を使う人間が少ない、と言う点を除いて。
自分でも分かるくらいに呆れた顔のまま杖にしがみつく彼女に視線を向けると、何かを求める様な期待の眼差しで此方を見つめる。
「......えっと、私は今何を求められてるのかしら?」
「点数です!!今の爆裂魔法の点数、何処がどう良くてどう悪いのか、事細かにお願いしますっ!!」
「どう言う事なの...?」
大きな身振り手振りで先程の爆裂魔法の点数とやらを求める彼女。
点数...点数、か。
日課にしていると説明を受けたが、まさか点数まで付けているとは想定外、どの様な採点方式だったのかを彼に聞いておけば良かった。
私なりの、私だけの採点方式で先程の爆裂魔法に点数を付けるとなれば...。
「...そうね、魔力自体には問題無かったんじゃ無いかしら。ただ詠唱途中に少し噛みそうになっていたり、杖を構えるのが遅かったり......まぁ、八十六点...位かしら?」
「うぐっ...!!な、中々に厳しいですね...!」
元を知らないが為にこの採点が厳しいかどうかは分からないが、そう呟き残しその場に倒れる彼女を見るに...どうやら、今度彼女の実家に誠心誠意謝りに行けなければいけない様だ。
もし爆裂魔法では無く別の魔法を頑張って教えていれば...いや、過去を悔やんでもしょうがないだろう。
私はもう、過去は捨てたのだから。
教えられた通り彼女を背におぶると、来た道へと戻る。
こうして彼の仲間達に向かい入れられて早三ヶ月が経とうとしていた頃、今日は爆裂散歩とやらを経験させて貰っていた。
まるで私の罪を間近で見さられる気持ちになる為、今後は是非遠慮させて頂きたいものだが...一応住まわせて貰っている立場、文句を言える程図太くは無い。
さっさと新しい仕事を見つけるか、冒険者として各地を飛び回っても良いかと、色々とやる事を考えてはいるのだが......。
面倒臭い。
本当に、実に、面倒臭い。
ご飯は今まで見た事の無い様な物を食べさせて貰ったり、中々に広い屋敷で広い部屋を与えられ、見ていて愉快な人々との交流、こうして弟子との修行...修行...?
更に元来暴虐ともう一つ、怠惰を司る神である自分の怠惰が一気に押し寄せていた。
魔王軍に居た頃はあれでもかなり働いていたのだ......この様な環境下に置かれれば自ずと元に戻ってしまう。
「...あの。」
と、背中から声が聞こえる。
「ん?何かしら。」
「その...やはり、もう少ししたら出て行くんですか?」
「あら、声に出てたかしら。」
首を横に振り否定してくる...ならば、雰囲気や態度で分かってしまうものなのだろうか。
伊達に紅魔族じゃ無いのだなと感心しつつも、彼女の言葉に答えあぐねていた。
出て行くのか......そりゃそうだろう、何時までもお世話になる訳にはいかないのだから。
私は今まで罪無き人間に危害を加えて来ている、そんな私がそもそも今も尚こうして歩けている事が可笑しいのだ。
私はあの時、あの瞬間、確実に殺されていた...この子の手によって。
だが何が起こったのか、私はこうして生きてしまっている。
だからこそ彼は驚いた、驚いたと言う割には至って冷静ではあったが。
だからこそ彼女は涙した、己の手で殺した、殺した魔法を教えてくれた相手を......。
だからこそあの子は複雑な表情で迎え入れた、自分を、身内を、殺そうとした相手が復活したが、その相手は仲間の尊敬する人物。
だからこそ我関せずな立場であった、己の、仲間の、誰かは分からないが確実に自分にも非があるのだろうミスから背を向ける為に。
私は此処に居てはいけないのだ、決して。
そんな事を考えていたからだろうか、私の背中にしがみつく彼女の手はギュッと強くなる。
「私は寂しいです、折角、こうしてまた会えたと言うのに...また、また...離れてしまうのは。」
「...そうね、貴方には随分と酷な事ばかりしたわね。」
今までも、これからも。
「...それに、カズマだって喜んで受け入れてくれます。カズマはおっぱいが大きくて、甘やかしてくれるお姉さんが大好きですから。」
「そ、そうね...えぇ知っているわ。」
「ダクネスだって、アクアだって、この街の住民は皆優しいです...私みたいなのも受けて入れてくれ、貴方の事だって...きっと、きっと...っ!」
...彼女は魔王討伐に大きく貢献した一人である。
だがその正体は、まだまだ発展途上の幼い少女なのだ。
置かれた環境が、してきた行いが、大人びているだけで...まだまだ我儘を言っても良いのだ。
だと言うのに大人である私は、そんな彼女の願いに叶えられそうに無い。
心では分かっていても、彼女が許しても、被害者は許さない。
この街が許しても、世界が許さない。
魔王軍とはそう言うものなのだ。
元だろうと何だろうと、だからこそウィズ...あの子は非常に賞賛に値する人物である。
「それに、それに...!!」
と、込み上がる気持ちを抑えきれないと計りに顔を上げる彼女の声は、涙ぐんでいた。
「貴方は、ウォルバクは、カズマに少なからずの好意はある筈です!!」
「......私じゃないわよ、私の半身...ちょむすけちゃんの気持ちよコレは。」
未だ完全に合体出来ないが、気持ちは十分伝わってくる...あの子の恋する気持ちは本当だが、私の気持ちは其処に一つも無いのだ。
ただ仲間として、良くして貰っている身分として、感謝の意を込めた好意に過ぎない。
其処にあるのは恋愛感情なのでは決して無い、まぁ恋愛した事が無いから分からない、が正解かもしれないが。
彼女は優秀過ぎるが故に気持ちを理解し過ぎてしまっているのだ。
私だけでは無く、その奥底に見える本来読める筈の無いあの子の気持ちを...汲み取ってしまっているだけ。
私は邪神ウォルバクであり、ちょむすけでは無いのだ。
「...。」
「まぁ、少なくとも黙って出て行ったりはしないわ。何時になるかは分からないけれど、その時が来るまではこうして...貴方達と楽しく過ごさせて貰うわ。」
「......そう、です...か。すいません、取り乱してしまって。」
そう言って涙を拭い鼻を鳴らす、あぁ酷い奴だ、私は。
私の存在は、彼女に爆裂魔法として、呪いとしてこの世界に残ってしまう。
やはりあの時に死んでおくべきだった...でなければ、私は私と言う呪いの存在に気付かなかったと言うのに。
この子の、あの子の、気持ちに。
だから私は予定を早める。
その時、その瞬間まで、彼の話題は避ける様に、段々と消える様に...それが、私がするべき、私に残された、私の最後の使命なのだから。