『サトウじゃない世界』
ダクネスが領主代行として仕事に手を付け始め早三日。
この三日間部屋に籠りっきりであるが故俺は暇と言う暇を持て余し、庭で執事達と運動に励んでいた。
サッカー、野球、バスケ、俺の知る限りのスポーツはあらかたやり終え午後のティータイムを楽しんでいると、ダクネスが窓から此方を見下ろしているのに気付いた。
何処か青白く暗い顔色で俺を微笑んでいるダクネスに、自分の置かれた状況と比べると些か心が落ち着かなくなってしたった。
そんなこんなで適当に間食を作り死にかけのダクネスの顔を見に行ってやろう、そう言った想いを胸に俺は扉に音を鳴らす。
「入れ。」
何処かぶっきらぼうな声色の返事を受けると、俺はゆっくりと扉を開ける。
と、顔を上げたダクネスの仏教面には笑みが戻った様だ。
「何だカズマか、どうしたのだ?」
「あぁ、どうやらお疲れの様だからな...旦那様が料理を持ってきてやったんだ。」
「...それは、どっちの旦那様だ?」
フッと笑い掛けるダクネスのその言葉に、俺はハタと気付く。
そうか、俺が旦那様と言うとイグニスさんも対象になるのか。
何てしょうもない事に気付いたは良いものの、どうやら思ったよりも疲労困憊の様だ。
事実俺の前だからか笑みを保とうとはしているが、物言わぬ雰囲気からは疲れを感じざるを得ない。
コツコツとダクネスの方へと近付き間食を机の上へと置くと、俺はダクネスの綺麗な金髪に頭を乗せる。
少し驚いた様に疲れた目を開くが、直ぐにその瞼を閉じると俺に頭を預けてコテンと...まるで猫の様に頭を胸へとグリグリ押し付ける。
これはダクネスと付き合い始めてから知った事だが...どうやら、見掛けに寄らずかなりの甘えん坊の様だ。
見掛けと言うか普段の行いのせいでかなり意外だった反面、これがギャップ萌えかと何処か腑に落ちる所もある。
それに何より...惚れた女が甘えてくるのを嫌がる男が何処にいるのか、と言う話ではあるのだが。
「...少し横になれダクネス。ほら、『ヒール』」
これで多少はマシになるだろう。
そう思いながら肩を貸し側に置いてある仮眠用のベッドへと転がすと、無言のまま俺の腕を掴み見上げるダクネス。
これは...離れるな、とでも言っているのだろうか。
領主代行の仕事は殆ど任せっきりである為、こうしたダクネスからの要求は喜んで受け入れてはいる...受け入れてはいるのだが。
いかんせん、こうムラッとくるものもあってしまう。
「......カズマ、流石に私も疲れているのだが...。」
そう言って苦笑しながら俺の下半身に目を向けるダクネス。
「んっ!?あ、あぁ勿論分かってるから...な!!ほら今はゆっくり休んで...おわっ!?」
「フフッ...私も悪い女だな、全く。」
妖艶な笑みで目の前で浮かべながら、俺をその疲れ切った身体の何処に秘めていたのか物凄い力でベッドへと引き摺り込む。
もう付き合って何年も経ち、挙げ句結婚までしていると言うのに...俺は未だダクネスに責められる事に慣れていなかった。
ギュッと力強く俺を抱き締めると、抱き枕の様に抱え込んでしまう。
...何て生殺し、悪い女だ。
俺の周りにはそんな女しか居ないのだろうか、ダクネス然りめぐみ___
「ぐぇっ!?」
突然俺をへし折るかの様な力で抱き締めてくる。
「...今、別の女の事を考えていただろう。」
「あー、女の勘ってやつ?」
「あぁ、女の勘だ。」
困った事にダクネスは実に嫉妬深いらしい。
甘えん坊で嫉妬深く、容姿端麗実家は太く健康的な身体付き、果てに魔王討伐に貢献したクルセイダー...コイツは一体どれだけの属性を盛り込むつもりだろうか。
世間知らずなお嬢様には少し教育が必要なのかも知れない、男の生殺しは思っている百倍辛いと言う事を。
そのせいで他の女を考えるのも仕方が無い...とは言わないが、少し甘めに見ても良いだろう。
思い出くらいは許して欲しいものだ。
こうしてダクネスと向かい合いながら抱き合っていると、ふと俺の方へと向き直る。
「カズマ...何か、昔話をしてくれないか。」
......昔ダクネスは良く母親に寝る前に話を聞かせてもらっていたらしい。
当時から甘えん坊であったダクネスは、母の死と同時に甘えん坊であった自分とは決別、その頃から今の様に真面目で頑固な性格へと変わっていったとイグニスさんは言っていた。
つまりドMは元からだったと、あまり肯定したく無い事実を目の当たりにもしたが...生い立ちを聞いて尚の事ダクネスがより一層可愛く見えてしまう。
こうして疲れ切った日や、どうしても甘えたい時、この様に俺に昔話を求めてくる。
その要望に応えない程、俺はクズでは無い。
「そうだな...じゃあ今日は、耳無し芳一って話をしてやろう。」
「あぁ、頼む。」
うろ覚えではあるが、簡易的に覚えている限りの内容を語り部口調でダクネスに聞かせる。
最初はコクリコクリと頷きながら聞いていたダクネスだったが、展開期で何やら察したのか物語の最終章では俺をジト目で見上げる始末。
こうして語り終えた俺は実に満足気にダクネスを見下ろすと、呆れた様に、少し怒った様に頬を膨らませジト目で俺を見つめていた。
「...誰が怖い話をしろと言った。」
「あれ?苦手だったっけ。」
「そう言う訳じゃないが...はぁ、もう良い私は寝る。」
何処か拗ねてしまった様に背を向け不貞寝...実に可愛らしい事だ。
ついこうして意地悪したくなってしまうのも、仕方が無いだろう。
「まぁそう怒んなって、ララティーナ?」
「ッ!!」
後ろから手を回しダクネスの名を呼んでやると、ビクッと反応しつつも此方に振り向かない。
そりゃそうだろう、結婚してから俺がダクネスをララティーナと呼ぶ時は___
「___カズマ様!!ダスティネス•フォード•カズマ様はいらっしゃいませんか!!」
...良い所だと言うのに。
のそりと起き上がり顔を真っ赤にしながら必死に目を瞑るダクネスに見下ろしつつ、声のする扉へと向かい開ける。
「...ハッ!お取り込み中の所申し訳ありません!!先程、アイリス王女様からの手紙が届いたとの知らせが...」
「悪いダクネス俺行ってくるわ!!ちゃんと寝て身体休めろよ!!じゃっ!」
後ろから冷めた目線を受けつつ、俺はアイリスからの手紙を受け取りに郵便箱へと足を走らせる...。
「___その、宜しいので?」
「...あぁ、元々私は眠る予定だったからな。一応アイツが隠している変な店の名刺は燃やしておけ、部屋の角の二番目の棚に入ってるからな。」
「...は、ハッ!!」