『舞台は地球な世界』
人生の転機、それは皆それぞれ全く違う場所、時、タイミングで起こるだろう。
俺の人生の転機は三度ある、一度目は幼稚園の頃...幼馴染の女の子と結婚する約束をした事。
二度目はその女の子が年上の先輩に寝取られ、学校に行かなくなった事。
そして三度目は......そう、たった今目の前で起こっている。
「___私の妹を助けて頂き、本当に有り難う御座いますッ!!」
黒髪ロングの小柄な女の子、歳は一つ程下だろうか?同じ高校の制服を見に纏ったその子はとても端正な顔立ちをしており、街で見かければ一度二度振り向くだろうと思う程。
深々と頭を下げるその子に見惚れていると、ふと我に返る。
「...あっ、い、いやいや大した事はしてないですよ!!...まぁ、妹さんが無事で良かったです、はい。」
そう吃りながら答えチラリと病院のベッドへと目を向ける、と其処には俺が感謝される事態へと至った張本人である妹さんが見舞いの林檎をバクバクと貪り食っていた。
.....一応引かれ掛けて、俺に突き飛ばされて入院してるんだよな?あまりにもその面影を感じない姿に本当に大した事をした自覚が湧いて来ない。
「いいえ、嗚呼して大好きな果物を今も食べられているのも...貴方のお陰です、あまり大それたお礼は出来ませんが、こうしてお詫びだけでも申し上げたかったのです。」
妹を微笑ましい様に見ながらそう俺に告げる彼女は、やはり姉心だろうかとても嬉しそうにしていた。
...そうだな、家族がそう言ってるんだ、それを俺が否定するのも野暮だろう。
「そ、それじゃあ俺はそろそろ行くよ...!うん、後は家族水入らずって事で...。」
「あ、待って下さい!!」
良い加減照れ臭い為、本来の目的であった新作ゲームを買いに行こうと病室の扉に手を掛けると、その子に呼び止められる。
何だろうか、正直もうこれ以上の会話は緊張して心が保たないのだが。
ましてや相手は特大の美女ときた、こうした事故が無ければ関わる事等まず無かった相手とこうして会話するだけでもかなり神経を使うのだ。
ましてや相手は同じ高校の生徒、後輩だろうが何だろうがバレちゃ色々と面倒くさいし恥ずかしいのだ。
「私も一緒に行きますよ、先輩。」
バレていた。
「...何時、俺がお前の先輩だって気付いたんだ?」
「?えっと、名前を見た時ですね...私、生徒会に入っているのですが名簿を見る機会があってその時に......その、記憶力が良いんですよ、私。」
それは良いとか言うレベルじゃないのでは無いだろうか。
「......い、妹さんは大丈夫なのか?ほら、もう少し様子を見てやったりとかは...。」
「あの様子なら大丈夫でしょう、あの子は昔から逞しい子でしたから。」
と、俺を見ながら先ほどまでの感謝の笑みから一転、少し目を細め厳しい表情で俺を見上げる。
「それよりも、先輩は何故制服では無くジャージなのですか?恩人である手前あまり強く言いませんが、生徒会としてサボりは見過ごせませんね。」
...不味い事になった。
まさか、本当にまさかまさかだ、運が悪いとか言うレベルじゃ無いだろう。
ジト目で俺を見つめる後輩にどう対処したものかと唸りたくなる。
やはり慣れない事をするんじゃ無かった、お礼は断ってさっさと目的地に走っていれば今頃...!!
仕方あるまい、ヒョロい身体に鞭を打とう。
「......じゃ、お元気で!!」
「あっ!?病院内では走らないで下さい!!」
そんな事は知ってるいる、だが背に腹は変えられないのだ。
こうして遠くなる背中から感じる声を尻目に、俺はGEOに走り出した.....のだが、いかんせん体力は笑ってしまう程に無い。
一個下の、女の子にすぐ様追い付かれ息切れきれの俺に若干引いた後輩は苦笑しつつ俺の顔を覗き込む。
そんな姿に心臓は二つの意味で鳴り止まない。
「...まぁ、あまり深くは聞きません。」
そう言って覗き込んでいた顔を上げると、胸元に掲げていた名札を外しポッケへと仕舞い込んだ。
「...何してんだ?」
「え?あぁいえ、私も一緒にサボろうかと思いまして。」
「???」
急に何を言い出したかと思えば輪ゴムを取り出し髪を纏めると、俺に手を伸ばし微笑み掛ける。
「さぁ行きましょう先輩!!私にサボり方をご教授して下さい。」
「はぁ...えっと、俺が言うのも何だが学校は良いのか?」
「まぁもうどっちにしろ遅刻は確定ですからね、ならいっその事サボり...とやらを経験してみるのも悪くないかも知れません。」
何てハニカミながらとんでもない事を言い始める...いやまぁ、俺からしたらどっちでも良いのだが...。
何故、俺と共に行動する事になっているのだろう。
「...じゃあ、何で俺と一緒に?」
「お礼です、妹の。ほら私って見た目はとびっきり良いじゃ無いですか?私と一緒に歩けば羨ましがられますよ?」
「そうか...。」
成る程自覚しているタイプか。
キョトンと首を傾げるその動作に見合った面の良さを武器に、お礼を俺にくれるらしい。
まぁ確かにお礼っちゃお礼に当たるのだろうが...いや、別に俺が断る理由も無いのか。
ただ少し小っ恥ずかしいだけで、どうやら俺について来るみたいだし...そこら辺ぶらついて店に入って目的の物を買い、そのまま解散...それで行こう。
「つっても、そんなに面白いものでも無いと思うけど?」
「では先輩が面白くして下さい。さぁ時間は待ってくれません、それに廊下で立ち話も邪魔ですしさっさと出発しましょう!!」
「あ、ちょおい!!」
グイッと俺の腕を引っ張り出口向けてテンション高めな後輩に引き摺られ、俺は無茶な要求にどう答えようかと頭をうねらせる。
と、そう言えば俺は後輩の名前を知らない事に気付く。
向こうは一方的に知っていると言う状況は何だか、どう言えば良いかむず痒い。
後単純に気になる。
「なぁ、お前名前は何なんだ?」
「...!!」
ビクッと動きを止めると、ロボットの様にギギギと此方に首をゆっくりと向けて来る。
何か聞いちゃいけない事でもあったのだろうか、名前に。
少し考える素振りを見せた後、ふいっと顔を背けながら後輩は答える。
「...めぐみです、恵。」
「ふーん?紅魔 恵か、良い名前だな。」
チラリと妹の病室の名前を見ていた為、苗字は記憶していた。
しかし特段変わった名前では無い、何処に言い淀む要素があったのだろうか?
寧ろ名前よりも苗字の方が珍しいだろう、こうまと読む苗字は全国に十人居るかどうかだった様な...。
「そんな事はどうでも良いです。さっさと行きましょう先輩...いや、佐藤先輩?」
...素晴らしい響きだ。
生きている内に苗字と先輩呼びされる日が来ようとは、ただ腐ってるだけでも良い事がある様だ。
神は俺を捨てていなかった。
「...何かニヤニヤとして気持ち悪いですね。」
「おいおい妹の命の恩人に何て言い草だ?」
「ぐっ...!...さっきまでオドオドと見るからに女慣れして無い感を醸し出していた癖に、もう強気ですか?」
...確かに、何故だろうか。
コイツが国宝級の顔面を持っている事に違いはない、だが何故だろうか...人と関わらない俺ですらこうフランクに行ける、得体の知れない魅力がコイツにはある。
ジトーっと俺を見つめるめぐみと名乗った女に、俺は変化させられてしまうのだと。
この時は考えてすらいなかった...。