『誕生した世界』
「___ッ!!もう嫌いよ!嫌い!!大っ嫌いッ!!その面二度と見せるんじゃないわよッ!?」
「いやだから...!!って、聞く耳持たずかよ......。」
プロサッカー選手並みに手を挙げ抗議の意を示すが、それを無視する様に背を向け大きな音が出る様に扉を閉める...ついでにカギも。
アクアの怒号と共に外へと追い出された俺は頭を抱える羽目になっていた。
...いや、何故こうなってしまい誰のせいなのかは自分が一番分かっている。
今日は八月二日、二日酔いで頭痛の酷い頭を抑えながら朝帰りしてしまったのが原因。
とどのつまり...俺はアクアの誕生日をすっかり忘れてしまっていたのだ。
それに気付いたのはフラフラと千鳥足で屋敷へと戻っていた道中、ふと今日が何日なのかを思い出してしまい酔いが冷めるほどに真っ青な顔で走ったは良いものの...見ての通り全然駄目。
...やらかした。
いやまぁ俺だって悪かったとは思っている。
確かに結婚してもう二桁経つとは言えパートナーである者の誕生日を疎かにしてはならない、そんな事は理解している。
ただ人間誰しもミスはあるものだ、この十年間今日に至るまで一度も誕生日を忘れていない、と言う事実を無かった事にしてはならない。
失敗も成功も、その両方を加味した上で結論を出すべきだと...俺はそう思っている。
言い訳終了さてどうしたものか。
何か買って帰るか?...いや、あの様子のアクアは断固として俺を家に入れようとしないだろう、事実十年前に一度経験している。
ならまた警察に頼るか?...いや、確か籍を入れたその時にアクアが『家は女が守る物よ!アンタは外で出稼ぎに行くべきだと私は思うわ!!』...と、いつの時代だと言いたい価値観により名義を変更していた筈だ。
打つ手無し、あの家には今アクアしか居ない...あの時の様にめぐみんやダクネスに頼る事も出来ないのだ。
詰み、その一言で俺の状況は説明出来てしまう。
何か手は無いかと未だ酔いが少し残っている頭を働かせつつ、俺はふと顔を上げると...性懲りも無く、俺の身体はギルドへと向かって行た。
いやまぁ家から押し出された以上行く当て等無いのだ、ならばこそ元凶であり憩いのギルドへと向かう行為自体は何もおかしくは無い。
ただ状況が状況なだけに、己の浅はかさに少しばかり頭を抱えたくもなる。
「...お?おいカズマが戻って来たぞ!!今日も奢ってくれるってよっ!!」
俺を見るなり嬉しそうに大嘘こくダストのテーブルへと俺も座る。
と、この時間には珍しくダストの隣に座っていたリーンにジト目で見られている事に気付いた。
「...何だよリーン。」
「べっつにー?お嫁さんの事をほったらかしで良いのかなー?って思っただけだけど?」
「何だよ、カズマお前また何かやらかしたのか?」
またとは何だまたとは。
リーンは知っているのだろう、昨日がアクアの誕生日だと。
それでいて今の俺の状況もある程度予想は付いているのだろう、呆れた様にそう嫌味ったらしく伝えて来るリーンの言葉が深く胸に刺さる。
...ま、まぁ俺に良くは無いのだが...。
「良くはねぇけど...見ての通り、追い出されちまったからどうしようも無くねぇか?」
「さぁ?あたしに言われても知らなーい。」
「おい詳しく教えろカズマ!!リーンがお前にこんな態度取る何て相当の事しでかしてるんだろ!?」
何処かワクワクした様子でビール片手に俺に催促してくるダスト...正直、気乗りしないが人に聞いて貰ったら多少は良いアイデアが浮かぶだろうと信じ身に起こった自体を説明。
最初からニヤニヤとしていたダストは、俺の話が進む度にドンドンと更に顔をニヤつかせ...最終的には、我慢出来ないとばかりに___
「___ッ!!ガハハハハッ!!!やるなぁカズマお前ッ!?そりゃ追い出されちまうのも納得だ!!」
「はぁ...ダスト笑いすぎ、にしても驚く程に予想通りだったんだけど...どうするの?」
「......どうしよう。」
片やバカ笑い、方や呆れたながら俺の話を聞く二人。
「ふぅ......ま!ショゲても仕方ねぇぜカズマ?そう言う時はだな、花束でも買って土下座して誠心誠意謝るのが一番ってんだ!!」
「あたしはそんな事された記憶無いたけどね...まぁ、花束は良いんじゃない?忘れてた誕生日プレゼントもついでに、何か案出そうか?」
「誕プレ...いやいい、取り敢えず根気強く謝るしかねぇよなぁ...わりぃダスト今日は自分で払ってくれ!......あぁ後、リーンが冒険に出たからってナンパするのはもう辞めとけよー!!」
人の境遇をバカ笑いした罰だ、コッテリと絞られるんだな。
後ろから甲高い悲鳴と魔法の音を聞きながら、俺は屋敷方面へと走り出した。
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時刻は夕時過ぎ、そろそろ家庭によっては晩御飯の準備に取り掛かる時間だろう。
俺は少量の花束と一つの小さな物を持ちデカい屋敷の下に佇んでいた。
深呼吸を一つ、物で釣るのでは無くこれはあくまで詫びと誕生日プレゼント...まずは謝る事。
良し。
懐から合鍵を取り出すと俺はゆっくりと扉を押し開け___
「___びッ!!!?!?!!くりしたぁ...お、お前ずっと玄関前で...?」
「...。」
何時から居たのは定かでは無いが、玄関前には見るからに不機嫌ですよと言わんばかりのアクアが腕を組み立ち構えていた。
思わず喉から心臓が飛び出るのでは無いかと思うほどに、ドキドキと恐怖の意味で鳴り止まない心臓を落ち着かせる。
冷めた目と無言で俺を見つめるアクア、取り敢えず持っている物を地面に置くと日本人らしくゆっくりと頭を地面に付ける。
本当に久しぶりに、俺は最大級の謝罪を行う。
「ほんっっっっっっとぉぉぉぉに!!すいませんでしたぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「...。」
まるで大袈裟かの様に見える動作と共に、心からの叫びをアクアに聞かせる。
正真正銘の謝罪、俺は自分の非を認めれる男だ。
...アクアからの言葉を待つ数秒、俺はダラダラと嫌な汗を流しているとツンツンと俺の頭を押す感触。
ゆっくりと顔を上げると、今も尚冷めた目で見下ろすアクアがしゃがみ込み俺に人差し指を刺していた。
「それだけ?」
「...え?」
「それだけなのかしら、って聞いてるの。」
それだけ...?俺はこれ以上どう何をアクアにすれば良いのだろう。
俺は何をアクアにしてあげられていないのだ...?
その言葉に更に頭をフル回転させ、汗を拭う事すら忘れ捻り出した答えは......
「...た、誕生日おめでとう...?」
「えぇ、有り難うカズマさん。」
正解、だったのだろうか。
しゃがみ込んだまま俺に手を差し出すアクアの手に恐る恐る伸ばす、起き上がらせる。
そのまま手を引き部屋へと連れて行こうと、忘れない様に花束とプレゼントを広いテーブルへと足を運ぶ。
非常に静かなその空間は、一昔前までは四人で賑やかだった頃を思い出させる。
アイツらは今、それぞれの道を歩んでいる。
そんな思い出に浸るのも程々に、俺はアクアと見合って椅子に座る。
机に置いた花束とプレゼントを冷めた目で見下ろすアクアのその姿に、思わず緊張してしまう。
「...私、カズマさんに飽きられたのかと思ったわ。」
突然そう言い出した為、思わずガタッと席を立ってしまう。
小っ恥ずかしい気持ちを抑え、俺は胸の内をあける。
「...忘れてた身で何言ってんだって思うかも知れないけど、そんな事は絶対に無い。今までも、これからも。」
「知ってるわよそれ位、だってカズマさん私の事大好きじゃはい。」
...いやまぁ、否定はしないが。
「だったら何でそんな事思ったんだよ...って、忘れてたからか。」
「別にその事はもう怒ってないわよ、朝は少し...気持ちがこうぐっちゃぐちゃになっちゃってたのよ...。」
「...じゃあ、何でなんだ?」
そう告げると何処か悲しそうに、遠い目で窓の外を見ながら語り始める。
「知っての通り、私は女神で...カズマさんとは違う時間軸で過ごしてきたわ。それは今も同じ場所で過ごしているだけで変わらない、カズマさんはまだまだ長いと感じるかも知れないけれど...私は残り百年あってもとても短く感じてしまうの。」
「つまり?」
「...カズマさんに祝われる度、私はもう一年経ったと思う反面、まだ一年しか経ってないとも思えるの...カズマさんとの時間を短いと感じないその瞬間、私は女神から気分だけでも解放された気でいた...何て、私らしく無いわね。」
フッと諦めた様に笑うその姿に、俺は心を痛ませずには居られなかった。
立ったままで居たのは実に好都合だったと思う、ゆっくりとアクアの後ろに回ると...俺は思わずアクアを抱き締める以外の選択肢は頭の中に存在しなかった。
首元に回した手を優しい手で触るアクアの目は、まだ何処か希望を捨てきれない我が儘な少女の様にも見える。
「これ、一日遅れの誕生日プレゼント。」
「...っ!これって...っ!!」
先程の自分のチョイスに思わず拍手したくなってしまう、俺が選択した今年のアクアへの誕生日プレゼント...それは、四人が写ったギルドで豪華な飯を食べる様子を捉えた写真。
わざわざ写真屋へと走った甲斐があった、当人と言う事でタダで貰えたし。
ゆっくりと写真に手を伸ばし懐かしそうに二人で眺める。
これは、魔王討伐したその日のギルドで撮られた写真。
写真の中の俺達は若く、あの時を象徴していた。
そんな光景を久しく見る事の無かったからなのか、また女神的なものなのかアクアは静かに涙を流す。
「悪かったな、寂しがり屋なお前を置いていくつもりは無かったんだ。」
「さ、寂しがり屋じゃないわよ!!」
「あーはいはいそうだな、年々俺を見る顔が悲しそうなお前は寂しがり屋じゃないもんな。」
と、少し驚いた様に目を見開く。
「あ、あんた気付いて...!!てか、分かってたなら何で昨日忘れたのよッ!?やっぱり何年経ってもクズマさんはクズマさんって訳ね!!やっぱり嫌いよ嫌い!!!」
「そ、それとこれとは違うだろうが!!」
ギャイギャイと言い始め何時もの様子に戻ったアクア。
お互いに言いたい放題言い始め...肩で息をし始めた頃、俺はアクアに提案する。
「久しぶりにアイツらの顔見に行くか。」
「...そ、それは良いんじゃない...?二人も忙しいでしょうし...。」
何処か気まずそうにやんわりと俺の提案を断る、まぁだろうな。
「あのな、ハッキリ言うけどアイツらもう俺に未練無いからな?何時までもそうやってウジウジ言ってるのはお前だけ、色々と言われるから黙ってたけどアイツらと偶に文通してるけど、お前と会いたがってたぜ?」
「はぁ!?アンタ私に黙って...!!浮気よ浮気!!」
「あーはいはいそうだな、それで?どうするんだよ?」
何とか話を逸らそうと頑張るも、本人の気持ちは否定出来ないのだ。
いや、それでも、女々しいアクアを眺めていると...やっと覚悟が決まったのかゆっくりと首を縦に振る。
決まりだな、今度手紙を送らなければ。
「久しぶりに会って女子会でもしてこいよ、そこでお前の思ってる事全部ぶち撒けてみろ...それを受け止めない程、俺達の仲間はやわじゃ無いのは知ってるだろ?」
もう縦に振っているから遅いだが、まだ何やら言いたいのかモゴモゴと口を動かす。
「う、うぅぅぅで、でもやっぱり二人からしたら私は泥棒猫な訳なのよ...!?カズマさんは知らないのよ!!女の子通しの暗黙の了解って奴がこの世にはあって...。」
「お前達は普通じゃないだろ。」
「ねぇ待ってどう言う意味?」
そりゃ女神に半人に...変態に、普通から掛け離れた奴等だろうに。
結局魔王を倒した後でも本人達は自覚する事は無かったが。
「あーもううるせぇ!!はい誕生日おめでとうプレゼントも渡した、花束は...まぁリビングにでも飾って良し!!晩御飯作るぞー!!」
「あ!ちょ、ちょっと話はまだ...!!」
それでもまだ何やらゴタゴタぬかすアクア、我が儘な子供だ。
「...もし!!良いか本当にもしだぞ?どーしても寂しくて、どーしても俺かアイツらに会いたくなったその時は!!...神でも何でもすりゃ良いだろうが。」
「...はぁッ!?」
「知ってるか?エリス様が言ってたぞ、『これ程の功績を挙げたとなればなろうと思えば同じく神でも天使でもなれる』...って、面倒くさそうだからその時は断ったけどよ。」
時折エリス様の所へ遊びに行っていたが、会う度その話を仄めかしていたのを思い出す。
アクアの事を見抜いていたのだろうか。
今日の献立の頭の中で考えずつそう伝えると、コツコツと此方に向かって来る。
何だろう殴られるだろうか?一応身構えつつアクアからの言葉を待つと、両肩をガシッと掴み顔を見合わせる。
「...それ、本気で言ってるの?」
「お、おう本気だぜ?...一応。」
「そう...フフッ、そうね!!私、カズマさんの事好きになって良かったわ!!!」
ギュッと俺を抱き寄せのも程々に、気分良さそうに鼻歌を歌いながら席に付く。
「今日は良い物を作って頂戴!!次は無いけれど、今日特別に私を祝う事を許可してあげるわ!!」
「へいへいそりゃどうも。」
俺があげた花束を自分の好きな位置へと飾りつつ、写真を眺めるアクア。
今日は、何度目かのアクアを祝う日。
寛大な心で許してくれた女神様に感謝しつつ、腕によりを掛けるのであった。