『貰われる世界』
「___すいませーん!!依頼出したいんですけど。」
「あら?珍しいですね、どの様な依頼でしょうか?」
今日も今日とてガラ空きの他の受付を無視し、長い列を待ってルナさんの所へと足繁く通っていた。
周りの受付の目線が痛いが、その冷たい目線を無に帰す程に取り分け胸がデカいのが悪いのだ。
俺は懐から三日三晩考え何とか完成させた依頼書を取り出すと、ルナさんへと渡す。
実に珍しいと驚いた目で俺から受け取ると、良く目を通し読む...と、読み終えたのか顔を上げ一言。
「...何ですか?これは。」
「依頼です、俺の。」
「それは分かっています、内容を聞いているんですよ。」
何か不満でもあったのだろうか。
「内容って言っても、ただ困ってるからその事象に見合った解決者を求めてるだけじゃねぇか。」
「えぇそうですね、では此処に書いてある文字を一言一句読み上げて下さい。」
少し呆れた様に依頼書を返してくる為、お望み通り俺は読み上げる事にした。
「えーと?『急募!!胸はEカップ以上、細身で養ってくれるお姉さん!!今なら莫大なお金が付いて来ます。』...何だ誤字の一つでもあるのかと思ったじゃないか。」
「一言一句誤字であって欲しかったんですが...取り敢えず、申し訳ありませんが此方の依頼書は張り出せません。」
何と、何の躊躇いも無く依頼書は押し返されてしまった。
「ちょっと待てよ!この依頼書の何処に問題があるってんだよ!!」
「...そもそも此処は婚活会場ではありません、そして一番の問題は本当に現れるからです...それも大量に。」
「何だ良い事じねぇか。」
俺の言葉に溜め息を付き頭を抱えてしまう。
胸が机に乗せられ思わず其方に目線がいってしまうが、俺を真面目な目で見つめるルナさんに思わず逸らす。
「カズマさんからしたら、良い事かも知れませんね。...しかし、貴方の思っている以上に貴方の価値は高いのです。魔王討伐の肩書きもそうですが...莫大な富、名声、さらにパーティーメンバーの力、どれを取っても一級品ですから。」
「フッ、そんなに褒めても何も出ないぜ?」
「...側だけですが。」
一言余計な事が聞こえた気がするが、ルナさんはつまり人が押し寄せてパンクしてしまう事を危惧しているのだろう。
俺からすれば日々押し寄せる名も知らぬ奴等や、コネを作りたいと傘下に入れる為に来る貴族、そう言った連中から離れるついでに好みの女性を探せたら良いなぁ...程度にしか思っていなかったのだが。
ルナさんが言うからには間違い無いのだろう、俺は渋々依頼書を仕舞いこむ。
「...あの、次の方が待っているので早く退いて頂いても...?」
「まぁ良いじゃ無いか、あいつら全員用事があって今暇なんだよ...お前達も別に良いよな?」
後ろで待っているであろう冒険者に投げ掛ける。
「早くどけよカズマ!!」
「ルナさんを独占すんじゃねぇっ!!ただでさえハーレム気取りの癖によぉ!!」
「最強の最弱職(笑)さん早く退いて下さる?」
...。
スッとエリスを取り出し後ろに放り投げる。
「「「カズマ様万歳ッ!!!」」」
「良し。」
「...この街は本当に大丈夫でしょうか?」
あのデスロイヤーを退かせた街だ、大丈夫に決まっているだろうに。
改めて向き直ると、先程まで呆れた様に見ていたルナさんは何処か顔を綻ばさせていた。
「...?どうされましたかカズマさん。」
「...いや、何でも無い。そんじゃそろそろお暇させて」
と、去ろうとした俺の腕を掴んで来る。
思わず振り返ると、イタズラ成功と言わんばかりにクスッと笑いながら腕を伸ばしていた。
「お話、するんでしたよね?」
「...あ、あぁそうだったな。うん、何を話そうか...。」
「フフッ...どうされたんですか急に、初めて貴方を見た時みたいな。」
と、俺が初めてこの世界に来た頃を思い出す。
...確かに、俺の秘められた可能性が覚醒するかもと緊張していたが。
現実は非常、俺を憐れんだ目でルナさんが見ていたのも思い出す。
しかし今やこうして世間話をする仲に、あの頃からは考えられないな。
「しかし随分と変わられましたね...エリスを物乞いしていた立場から、今や振る舞う側に。」
「いやいやあれは俺じゃないからな!?アレはアクアの野郎がだな...!!」
「えぇ、ですが劇的な変化を遂げたのは変わっていませんよ?」
そう言って何か可笑しのか思い出し笑いなのか、クスクスと昔話に花を咲かせる。
「カズマさんは非常に珍しい経歴の持ち主ですからね、アクセルの街で一番の借金持ちから、一番のお金待ちにまで上り詰めて...やはり、運が良いだけありますね?」
「まぁなぁ...少なくとも、冒険者を目指しに来たのに商売人を勧められる位には運が良いからなぁ。」
「此方としてはあのステータスで冒険者になれ、と言うのはあまりにも酷でしたから...しかし、人生何があるか分かりませんね。」
本当にその通りだろう。
唯のニートであった俺が今やこの街の、世界の救世主に...。
その実態は仲間の力に頼ってばかりの、とてもじゃ無いか後世に語れる程の活躍では無かったが。
もし、この世界が更に発展し魔王討伐までの授業があるとするのならば...俺の名前が端にでも乗れば良い、と思うのも傲慢なのだろうか。
「何やら遠い目をされていますが、何かお困りごとでも?」
「...いや、ちょっと昔の事を思い出してな。本当に此処までくるとは思ってなかったから。」
「フフッ...そうですね。今だから言いますが、私も貴方が魔王を倒すとは全く思っていませんでしたよ。」
その言葉につい笑みが溢れてしまう。
「おいおいギルド職員がそんな事言って良いのかよ?」
「良くはありませんが...私も、魔王が倒されて何処か気が抜けてしまっているのかも知れませんね。」
...そうか、もうギルド職員の仕事は減っていくだけなのか。
俺が魔王を倒した以上、このまま残党狩りを行うだけ。
新しい魔王が現れないままどんどん魔物が減っていくと、俺達冒険者の仕事も無くなっていく。
お互いに持ちつ持たれつな関係にも、終止符が打たれるのだ。
そう言う観点がすれば、俺は世界に喜ばれる恨まれる存在でもあるのかも知れない。
「...何やら深く考えられていますが、少なくともこの街の人間は皆...貴方に感謝しかしていませんよ?」
「そう言ってくれると助かるな...ルナさんは今後どうするんだ?」
ふと、何の気無しに問う。
本人も偶に言っていたが、俺と同じく結婚相手を探しているらしい。
「そうですね...先ずは、貰い手を探す所からでしょうか?」
「なら詳細教えてくれよ、良かったら俺が紹介するぜ?」
冒険者から貴族まで、幅広く交友のある俺の身内を探せば...多分、ルナさんの求める男の条件に合致する人間の一人や二人は存在するだろう。
「ほ、本当ですかッ!?で、ででではジャティス王子とか...?」
「...それは無理だ、悪いけど。」
成る程、何故結婚出来ないのか分かった気がする。
この人見掛けによらず理想が高い、と言うか高すぎるのだ。
しょうがないモテてきたから分からないのだろう、もしくは俺が紹介するから上積みを期待しているのか...。
「まぁ、取り敢えず特徴だよ特徴、好みの特徴から俺が割り出してやるよ。」
「貴方が割り出した相手にマトモな方が居るとは思えませんが...まぁ、先ずは紳士な方が好ましいですね。」
紳士...大半の男が候補から外れる、やはり貴族になってしまうな。
「次に...身長は私よりも高く、大人で...と言っても、特徴はこれ位でしょうか?」
「紳士、高身長、大人...そんな男は存在しない、てかもう別の女性とくっ付いてます。」
「ウッ...!そんな事は私が一番理解していますよ...!!」
強いて言えばバニルが該当するが...そもそも性別無いしなにやら、バニルとはまた別の関係であるらしい。
「ま、お互いに理想の異性を探すのは苦労するってこった。俺が言うのも何だが時には妥協も必要だと思うが?」
「していますよ、妥協。ですが本当に不思議な事に結婚出来ないんですよ、えぇ本当に不思議ですが、何ででしょうか?」
...これはアレだな、遊びまでならアリってやつだな。
非常に最低な考えではあるが、何と無く理解出来る気がする。
もしルナさんと結婚した時は...うん、悪くは無いが確かに予想は付かないな。
「...ま、まぁいつかは見つかるだろ、うん。」
「そうですね、それに最悪見つから無かった時は...責任、取ってもらうつもりですから。」
そう言って俺に微笑み掛ける。
責...任...?
それは相談に乗った事か、魔王討伐の事か、定かでは無いが...一つ分かるのは。
己の身に悪寒が走った事。
「...そ、そろそろ仕事の邪魔になるし俺はお暇させてもおうかなぁ...?」
「そうですか...では、気長にお待ちしていますね?」
「何をっ!?」