『有言実行する世界』
「___先輩先輩!!彼処の店行きませんか!?」
「おいラミネスの真似は止めろよ......つーか、何で俺がお前の分の飯奢らねぇといけねぇの?」
そう言って悪態付く俺の前に居る男...ギース。
周りには羨ましい程に可愛い女や強いドラゴン、果てにツンデレお嬢様を侍らせるいけすかない野郎。
...まぁ、感謝もあるっちゃあるんだが。
それを上回る程にコイツは最近ツイているのだ。
つい最近までは俺と一緒で落ちこぼれだった筈なのに、何が起こったのか今や...はぁ、何処でこんな拡散が生まれてしまったのだろう。
目に付けた店の扉に手を掛け悪態付くギースを無視し店内へと足を運ぶ、するとその中には俺達以外一人の客しか居なかった。
「...おいギース見てみろよ、すっげぇ美人の女居るぜ...。」
「あん?...おぉ、こりゃすげぇ...!」
最近美女をこれでもかと視界に入れてきた俺達ですら、そんな感想を持つ絶世の美女が座っていた。
ギャップを被り店内は店内が暗くとも雰囲気で分かるその姿、長い青髪を垂らし肩と引き締まったお腹を出した服を着ている。
そんな姿見に思わず見惚れてしまうのも仕方が無いだろう...俺達はゆっくりと、相手側に気付かれない位の席から一方的に視線を飛ばしていた。
「どうするよ...おいギース行って来いよ、お前美女の相手は慣れてるだろ?」
「馬鹿言え!!ただでさえ最近はジハードやラミネスの目が怖かったってのに、アリサもちょっかい掛けてくんだよ...!!」
...ケッ!!
「はぁ...何で俺には居ないのだろうか。」
「何がだよ。」
何てギースと言い合いしていると、青髪のお姉さんが徐ろに手を挙げ......
「ちょっとー!?私コーヒーを頼んだのにまた水が出てきたんですけどっ!!」
「はいただいまー!」
そんな文句に実に元気な返事を店の奥から返す...店主らしき人物。
この店は大丈夫だろうか。
そんな事を互いに薄々感じ取っていたのかギースと顔を合わせると、ゆっくりと立ちあがろうと___
「___すいません遅れました...あ!いらっしゃいませ!!」
直ぐに腰を席に落とす。
それもそうだろう、俺達に声を掛けたその店主は実に......実に、大きかったのだ。
「ちょっとウィズったら!アンタまだコーヒーの一つも入れられない訳?」
「フフッ、そうですね...すいません。アクア様が居ないと他のお客様にご迷惑が掛かる所でしたね。」
「全く良い加減にして頂戴っ!!...って、あら?アンタもしかして...。」
旧知の仲なのだろう、二人で会話していると何の気無しに此方に目を向けた青髪の美女が此方に目を止める。
と、腰を上げ此方へと向かって来た...向かって来た!?
「お、おいおいお前また何かやらかしたのかっ!?」
「いや何で俺がやらかした前提なんだよ!!」
「当たり前だろ!最近のお前を見てるとな、何と無く分かるんだよ!!」
どうせこの美女もドラゴンだったり親の知人だったりするのだ、そうして俺はまた置いてけぼり...閃光のジョイスと言う不名誉すら忘れられ何れ一人で...。
何て嫌な予想をしていると、俺たちの前で足を止める。
予想通りの美女であったお姉さんから思わず顔を逸らしてしまい、美しさ半分またギースだと妬み半分その場の行く末を見ずに済むよう俺は顔を俯かせた。
「ちょっとアンタよアンタ、顔を上げて頂戴。」
グイッと華奢な細長い指の感触を顔に感じると、俺はその見た目にそぐわない力強さで顔を上げさせられる。
あ、あれ?
「...。」
「...え、えーと...お、俺がな、なな何でしょうか?」
「...!も、もしかしてアクア様、その子って...!?」
二人して何を言っているのだろうか。
真っ直ぐと見つめられて正直恥ずかしさでどうにかなってしまいそうな自分を抑えつつ、熱くなる顔がのぼせてしまうのでは無いかとも錯覚。
やがて数十秒みつめられると、パッと顔から手を離す。
「やっぱり!ウィズ、時の流れって怖いわね...。」
「そうですね...しかしそうですか、もうそんな歳に...。」
?訳が分からない。
「...お前、知人か?」
「い、いやぁ?二人とも会った事ねぇ筈だけど...。」
それにここまで美しい女性をそうそう忘れる筈が無い、初めて入る店でもあるし...一体誰と勘違いしているのだろうか?
だがそんな事はどうでも良い、その子には申し訳無いが役得と言うやつだ。
「あの...すいません、どなたでしょうか?」
このまま勘違いされていては少し居た堪れない為、恐る恐るお姉さんに問い掛ける。
すると何処かあっと驚いた顔を見せ、チラチラと店主とアイコンタクトと取ると咳を一つ溢す。
「えーっと...そう!貴方のお父さんの古い友人なのよ!!」
「俺の親父はもう四十過ぎてる筈だけど...。」
「...こう見えても私はかなり歳を取ってるのよ。」
苦笑いしながらそう答えるお姉さん...何処か可笑しい。
別に友人である事は否定しない、見た目と歳が釣り合わない事等何ら不思議では無い筈だ。
だが...やけに気まずそうに、それも先程まであれだけ目を合わして来ていたと言うのに今は顔を明後日の方向へと逸らす。
これは所謂...
「...親父、浮気してたのか...。」
「ちっがうわよッ!?」
「お、落ち着いて下さいアクア様...!!」
なぁなぁと店奥から出て来てアクアと呼ばれたお姉さんを落ち着かせる店主。
ウィズと呼ばれた彼女もまた、お姉さんと同じく釣り合わないのだろうか。
「じゃあ何だって言うんですか、唯の友人にしては些か挙動不審じゃありませんか?」
「...はぁ、分かった、分かったわよ。本当の事を言うわ。」
「よ、宜しいんですか?」
何処か覚悟を決めたお姉さん、すぅっと一つ深呼吸を終えると此方を見直し...
「私の名前は...女神アクア。貴方のお爺ちゃんのお爺ちゃんのお爺ちゃんの...!かなり昔の貴方が産まれる理由になった人物の...悪友よ。」
「うし、ギース帰るぞ。先生に不審者が出たって伝えなきゃな。」
「......はぁ、本当にアイツの子供ね。」
かなりヤバい人だったみたいだ、このまま怪しい壺でも押し付けられたらたまったもんじゃ無い。
何故そっちが溜め息を吐くのか理解は出来ないが、少なくとも此方方面へ行く事は当分無い事は確定した。
「...待て、ジョイス。」
「俺はジョイスじゃない。んで、何だよ?」
スッと立ち上がる俺を止めるギース、項垂れるお姉さんへと近付いて行く。
「すいませんお姉さん...いや、アクアさん。もしかして貴方の言う遠い縁とは......サトウカズマの事じゃありませんか?」
「ッ!?あ、アンタ知って...っ!!」
「ウィズ、と言う名も聞いた事があります。この三人の名前から推測するに...!」
何処の名探偵だと言わんばかりに頭を唸らせると、ビシッと俺に指を指す。
「この人は、あの有名な勇者の童話出て来る人物の名前と同じって事だ!!女神、と言うのも勇者に力を与えた存在として語り継がれている、と言う点から見るに...!!」
「...見るに?」
「自分を女神と信じてやまないヤバい奴だ、逃げるぞジョイスッ!!」
俺の腕を掴み閃光の二つ名を凌駕するスピードで店を去って行く。
去り際、何やらアクアさんの叫び声が聞こえてきた気がするが......。
「...かなり似ていましたね。」
「ほんっとに!!人を無下に扱う所だったり、アンタの胸をジロジロ見る所だったり...はぁ。」
「フフッ...ですが、何だか嬉しそうですね?」