『人とは違う世界』
女神。
人とは違い神と表現される程の力を持った生物。
幸運を司る神、怠惰と暴虐を司る神、傀儡と復讐を司る神、様々な神がこの世には存在している。
かく言う私もその神の内の一人……水を司る女神である。
そんな唯の人とは違う神は、時に人を手助け、時に人に天罰を下す存在。
意志はあれど自由はなく、人よりも存在で言えば上ではあるがそれ相応のデメリットも存在する。
だが……考えれば考える程、神と呼ばれる存在は果たして本当に神なのか?……そう言う疑問も浮かび上がる。
過去カズマに話た時、『いや、神は神だろ。』と呆れ顔で言われた事を思い出し無償に手に力が入る。
皆私がその様な事を言うのはあまり想像し難いのか、何処か心配そうな表情で私を見つめる事に関して悲しい様な、腹の立つ様な……。
「先輩、手が止まってますよ?」
「………。」
「せんぱーい?アクアせんぱんい!!」
手をブンブンと振り私の安否を確認する……後輩のエリス。
私がこうして仕事に手を付けないでいると、それを咎める様に何時も良いタイミングで目を覚ましてくれる。
「また考え事ですか?」
「……えぇ、どうもここ最近は集中が続かないのよ……はぁ。」
溜め息が漏れてしまうのも仕方が無いだろう。
誰も真剣に聞いてくれない私の悩み、一人で考えるのも限度があるものだ。
一行に解決しない問題をずっと解かされている感覚、気持ちが悪いったらありゃしない。
「………やっぱり、私達の事について考えていたんですか?」
「そうよ。エリスも少しは疑問に思わないの?私達は一体何なのか、何処から産まれ何をする為に、本当に今している事が私達の役目なのか……そもそも、何故役目を他人に決められなくちゃいけないのかしら。」
人を超越した存在だと認識が広まっているが、私から言わして貰えばこれは進化なのではない……退化だ。
人よりも多い寿命があっても、ただ退屈な毎日を過ごすだけ。
人よりも強い力を持っても、それを他人に対して酷使するだけ。
女神アクアとしては完璧な存在なのかもそれないが、私個人アクアとしては余りにも面白く無い生物だ……神と言う者は。
「……あの頃に戻りたいわ。」
「……先輩…。」
いちいち外界の様子を見て、資料を書いて、上へ方向して……それの繰り返しな毎日。
あの日々は違った。
毎日が新鮮で、見た事はあれど感じた事は無い数々の物に触れ、今まで媚を売られた事はあれど…貶された事など数える程しか無かった私を泣かせる鬼畜で、どうしようもない男との日々。
頭が良いのか悪いのか分からない天才魔法少女や、素晴らしいスペックを全て無駄にするとんでもない趣味を持つ女の子……そんな皆との毎日。
借金して、問題起こして、泣きついて、豪遊して、自堕落で、自由に、周りを気にせず、ただただ皆でしたい事だけをしていたあの日々が……実に恋しい。
皆楽しい日々を送って、そのまま幸せそうに……だと言うのに、私は何故またつまらない日々を送っているのだろうか。
「……私も皆の所へ行こうかしら。」
「ッ!!だ、駄目ですよ先輩っ!?ほ、ほら久々にアクセルの街に行って…!!」
「私の事を覚えている人間何て居ないわよ……精々、あの悪魔とウィズ位でしょう……それに、嫌でも皆の事が頭に思い浮かぶわよ彼処は。」
あたふたと手足を動かし引き止めるエリスを見ていると、こんな事を考えるのすらも馬鹿らしいとも思う。
だが、やはりそれ以上に寂しいと言う気持ちが勝ってしまうのも事実。
「あの、引き止めて何ですけど……もういっその事、先輩も人間になったら良いんじゃないですか…?」
「……あんたねぇ、それどう言う意味が分かってるの?」
真剣な顔でそう打診するエリス、ハッキリ今の発言は私達女神間ではタブーとされる話の内の一つ。
私達女神が人間になると言う事は、とどのつまり……一人の男性と、営みを行わなければいけない。
これだけ長く生きていれば其処ら辺の男など赤ん坊と変わらない様に見える私達が、唯一良いと思えた男でも気付けば直ぐに老いてしまう。
更に相手が私達自身も好きにならなければいけない、そんな超狭い関門をくぐり抜けて……初めて、私達は女神と言う呪縛から逃れられるのだ。
そう安々と人間にはなれない、だと言うのにこんなに真面目な顔で私に提案するのは……私が人間になれる人物が心当たりにある他ならない。
私もその相手には気付いている、気付いているのだが___
「___カズマはどーせ又日本で義の姉妹と宜しくやってるわよ!!フンッ!!だから私は魔王討伐の功績はあの蘇生だけで良いって言ったのよ!!」
「せ、先輩…。」
心当たりのある男……佐藤和真、何を思ったのか私と言う存在がありながら好き勝手に人生を謳歌している人物。
何故あんな男を好きになってしまったのか、何故あの男は私が悲しむ事ばかりするのか……左手の薬指を触りながら物思いにふける。
「で、でもそろそろ何じゃないんですか?ほら、出発してからかれこれ二十年は経っていると思いますよ…?」
「そうね……久々に顔も見たいし、そろそろ呼び戻すのもアリかしら。」
だから、そんな馬鹿な男を好きになった馬鹿な私はあの男に馬鹿な事をするのも許されるだろう。
あの男がだらけきった顔で架空の姉妹に会いに行くのも自由だが、良い所で私が邪魔を入れるのも自由だろう。
だから……あの男が二十歳になったその瞬間、天罰を下すのも自由だろう。
ちょちょいと水晶を動かしカズマが居る世界を覗いてみる……と、丁度良いタイミングだったみたいだ。
「うわ……見てよエリス。あの男、誕生日だってのに目の前のケーキに目もくれず姉の方の胸ばっかり見てるわよ。」
「アハハ……まぁ、カズマさんらしいと言えばカズマさんらしいですね……。」
「フンッ!!そろそろ戻ってきなさい……よっ!!」
バースデーソングを歌い終わったその瞬間、カズマの座る椅子の足が一本折れ……そのまま後ろに転倒、運悪く柱の角に頭をぶつけ……失神。
このままカズマは息を吹き返す事は無いだろう、だから迎えに行ってやらねばならない。
山積みの仕事から目を逸らし椅子から立ち上がると、カズマが呼び戻されるであろう部屋へと急ぐ事に。
……と、何処か顔を綻ばしたエリスへ振り返る。
「言っておくけど、私は人間になる気は全くないわ!!もし、本当に寂しくなったら……そうね、カズマを神様にすると思うわ!!」
「……先輩らしくて良いと思います!!では、カズマさんも連れてきて仕事を手伝わせましょう!!」
良い考えだ、昔は自分の仕事は全て自分でやると言って聞かなかった頑固者が今では……やはり、私程の偉大な女神と居れば影響もされてしまうのも仕方が無い。
いそいそと手鏡で前髪が崩れていないか、服に埃はついていないか、簡易的に確認を終えると咳払い。
神からすれば二十年等本当に微々たる時間に過ぎない……が、それはただただ過ごす場合に限る。
私からすれば、カズマを待つこの二十年間は実に退屈で、長く、寂しい毎日である。
と、魔法陣が白く光りだす。
その光景はもう何度も見てきたと言うのに、胸の高鳴りが止む事はない。
暫しの間白く光っていた魔法陣、やがて光を無くしていき……そこには、げんなりとしたカズマが立っていた。
折角愛しの私が迎えに来たというのに、とても失礼なやつだ。
「お帰りなさいカズマさん!」
「おぉ……ただいまアク…うぉっ!?」
思わず抱き着いてしまったのも仕方が無い、何せ寂しかったのだから。
「何だよアクア、お前らしくないな。」
「……寂しかったんだもの。」
「あー…何だ、また考え事か?」
頭をガシガシとかきながら私の悩みを聞くまでもないと言わんばかりに的確に当ててくる……やはり、カズマはカズマだ。
久しぶりに感じるカズマの匂い、感触、全てを堪能する様に首元に顔を埋める様に抱きついていると……太腿に何か突起物の様な物が当てられる。
「……カズマさんは相変わらず変態ね?」
「しょ、しょうがねぇだろ!?だ、大体えっちな事が出来ないから別の世界に発散しに行っても良いって約束だったのに……お前が何時も良い所で俺を戻すから結局溜まっていく一方何だからなっ!?」
「あー聞こえない聞こえない、変態の言葉は耳に入らないわー。」
「てめっ!!」
久しぶりの再会だと言うのにぎゃいぎゃいと言い合う私達は……それはそれで良いものだと、私は思う。
でもカズマさんには我慢を強いてしまうのも仕方が無いとも思う。
これは、私がカズマさんを想っているからこその……ちょっぴり、可愛らしい独占欲なのだから。
本当は私から抱き着くのも恥ずかしい、けど、それ以上に、カズマが私以外を見るのも悲しいもの。
我が儘で、ちょっぴりお馬鹿で、可愛い私を好きになった……カズマが悪い、そしてそんなカズマを好きになった私も……悪い子だ。
「……アクア様、元気にしてるでしょうか?」
「あの駄女神の事を考える暇があるのならば少しは儲けを出してはくれぬか?」
「そ、そんな諦めた様子で言わないで下さい!!私だって頑張ってるんですよっ!?」