『不満な世界』
___魔王が俺達の手によって討伐され早一月が経った頃、魔王以上に厄介で、凶悪で、難解な事件に俺は巻き込まれていた。
...いや、やろうと思えばそれはもう即刻に解決出来る問題でもあるのだが。
「___聞いていますか?何度も言いますが、私はこの関係に異議を申し立てたいのです!!」
時刻は昼頃、珍しく早起き出来た俺は良い気分でリビングへと階段を降りたその日、俺は早起きした自分を恨んでしょうがない。
目を爛々と赤く輝かせ、見るからに怒っていますよと主張するめぐみんが席へと付き俺を見つめていた。
その目力に思わず押され颯爽と己の部屋へと戻ろうとも考えたが、此処で蜻蛉返りしては後で何を言われるか分からない。
ビクビクと身体を縮こませ台所へと食糧を取りに足を一歩前に出したその瞬間___
『___カズマ、話があります。』
そう言われ俺は何の抵抗もせず椅子に座ったは良いものの...熱く語るめぐみんを前に言葉を飲んでいた。
「...と、言うと?」
「私達は!一体!!どう言った!!!関係とッ!!言えるのですかッ!?」
ダン!ダン!ダン!とリズム良くテーブルを叩きながら声を大にするめぐみん。
「そりゃお前...なぁ?」
「なぁ?とは何ですか!!なぁ?とは!!答えになっては無いではないですか!!」
「まぁ...一緒に風呂に入った仲、とか?」
などと冗談混じりにチラリと目線を向けると、それはそれは蔑んだ目で見つめ返してきていた。
成る程、ジョークは通じないみたいだ。
此処は真剣な場であると改めて理解した俺は、先程の問いの答えを考える。
と言っても、もう答えは決まっているみたいなものではあるが。
「...友達以上恋人未満、つーか...まぁ、うん...恋人、だと思います...はい。」
「何でちょっと自信無さそう何ですか...それに、私はまだ恋人だと思っていません。」
「えっ!?」
フンっと鼻息を鳴らしふんぞり返りそう答えてくる、まさかまさかの予想外な答えに動揺せざるを得ない。
そんな...俺の勘違い...?いやいやでもあの時も、あの時だって...!!
「そもそも、カズマは私に対して返事をしてくれていないではありませんか!!」
「いや...!そりゃお前、わ、分かるだろ!?」
「嫌分かりません!!サッパリ一切合切分かりません!!カズマは巷ではツンデレ、私は鈍感系と揶揄されている通り私は何も理解していませんッ!!」
誰だ俺をツンデレキャラ認定した馬鹿は。
しかしそれよりも、無い胸を張って理解していないと言ってくるその姿には最早尊敬すら覚えてしまう。
正直言って俺がめぐみんに告白に対して曖昧な返事、そも返事すらしていない理由は...まぁ、うん。
ほら、恋愛漫画ってちょっと遠回しな表現も使われる事が多いし...此処はめぐみんに折れて欲しい、俺にもプライドと言うものがあるのだ。
「決めた!ぜってぇ返事しねぇから!!俺達はもう恋人、はい解散!!」
「何子供じみた事言って意地張ってるんですか!!さっさとカズマが私の告白に返事をすれば良いだけでしょう?」
ぐぅの音も出ない正論、しかしニートを甘く見てはいけない。
数多の正論と言う正論を無視し己を突き通してきた男なのだ、俺は。
「何でそんなに明確にしたがるんだ!ほら、見えない美しさってのもあるだろ!?」
「はぁ...私は何故こんな男を好きに...?」
「あー!俺も何でお前みたいなロリッ娘好きになったんだ...!!」
溜め息を吐き呆れていためぐみんを見下ろしながら、俺は売り言葉に買い言葉...しかし、それは相手が望んでいたそのもの。
目を見開き俺の言葉を耳にしためぐみんは...それはそれはもう嬉しそうに、顔を綻ばせていた。
「そーですかそーですか!!カズマも私の事が好きと言うんですね?いやー良かったです!!これで晴れて、私達は恋人と言う事で良いでしょうッ!!」
「い、いやちがっ!!さ、さっきのは...!!」
「おやぁ?一体何が違うと言うのでしょうか!!カズマは私の事が好き、私もカズマの事が好き、それで良いでは無いですか!!」
自分でも分かるくらい顔が熱くなるの感じる。
ニヤニヤと悪い笑顔を浮かべながら此方ににじり寄ると、至近距離で俺を見上げてくるめぐみん。
「...な、何だよ。」
「素直に、嬉しいと言ってみてはどうですか?」
「...。」
それでも尚、未だ照れくさい俺は顔を背けていると...ギュッと俺の両手を握る感触。
悪い笑顔では無く、心底嬉しそうに...初めて紅魔の里に行って泊まったあの日の夜の様な、そんな笑顔。
「...そりゃ、嬉しいけどよ...。」
「けど?」
「...やっぱ照れくさいって言うか、実感が無いって言うか...。」
っと、両手を離しギュッと抱きしめるめぐみん。
背中に回された手は俺を優しく撫でると、心臓の音を聞く様に耳を胸へと当ててくる。
こんなに密着したのは久々、初めて?であった為かなり心臓の音がうるさかったであろうに...嫌がる素振りも無く、聞き入れる様に。
「私は知っていますよ。カズマの初恋が酷い失敗をした事も、カズマがツンデレな事も、面倒くさくて、悪い事ばかりして、すぐ別の女性に現も抜かして。」
...。
「それでいて、本当は初恋をそこまで引き摺って無いけれど私がこう言ってるからそう言う事にしておこうと考え、私の背中に手を回そうとする...そんなカズマが、私は大好きですから。」
バレていた。
また別の意味で顔を赤く染め上げようとしていると、ガバッと頭だけを動かし俺を見上げるめぐみん。
「カズマは臆病ですから、私から言って私から結論を出して欲しいのでしょうが...それだと面白く無いです。」
「...もうこの際だからハッキリ言うが、俺もめぐみんの事がだ、大好き...だから、めぐみんに従う方が楽って言うか...。」
「それは私も同じです。カズマにして欲しいと言われた事は叶えられる限り全て叶えますし、髪だって伸ばします、胸も...まぁ、とどのつまり私が言いたいのは、これからは私達で考えなければいけないんですよ。」
私達、か。
今までは各々各自での考えで動いていた。
しかし、恋人になるってのはそう言う事だ。
相手の事を友達以上に考えながら、お互いにお互いの求め合うものを失わぬ様に。
それを理解しているからこそ、俺は照れ臭いや初恋などの建前を欲しているのだろう。
心の底では分かっているのだ、ただただ...怖いと。
何をすれば良いのか分からない、手探りで正解を導き出さねばならない現状に、俺はビビっているのだ。
だからこの手を背中に回せない、だから言葉を濁したい、だからめぐみんの目を見えない。
彼女が今どんな気持ちでどんな表情で、そんな事柄を確認するのが怖いのだ。
自覚してからは、それがより一層酷くなるだろう。
...だが一つ誤算だってのは、相手がめぐみんであったと言う事だろう。
「まぁ安心して下さいカズマ!!私はカズマの事が好き過ぎるあまり盲目的思考になっています!!なのでカズマがどんな情けない姿を晒しても、私からすればそれはとても可愛らしい恋人の姿にしか見えませんから!!」
「それは...大丈夫なのか?」
「?えぇ勿論。だってカズマですから!」
それはある種の信頼か、信者か。
馬鹿らしい発言にクヨクヨと今まで俺は何を悩んでいたのだろうかと過去の己に呆れてしまう。
めぐみんはそう言う奴なのだ、彼女は強い。
実力的にも、本質的にも。
俺が好きになっためぐみんの好きな俺が失敗する訳が無い、と考えれば少しナルシスト的思想であろうか。
しかし怖がる必要も無いのだろう、何故なら俺は俺でめぐみんはめぐみんなのだから。
情けないから何なのだ、めぐみんはそんな事で俺を嫌いにはならない...筈。
少なくとも、俺達の出会いは印象最悪なスタートであったのだから。
「さぁカズマ!恋人である私が今して欲しい事を当ててみて下さい!!」
「...キス、とか...?」
「良いですねムードもへったくれも無い...って、何拗ねてるんですか。良いでしょう!恋人になって最初のキスにムードを求めて何が悪いと言うのですか!!そもそも私に抱きつかれた時にそっと優しくすれば良かったのですよ!!」