『羨望する世界』
___それは、本当に、何の気なしに...ふと、周りを見回した時。
他に話し相手が居ないか、パーティーメンバーの奴らは来てないのか、俺の事を陰から好いている女の子は居ないのか、そんな色々な気持ちが混ざっていたのだろう。
酒樽片手に後ろを振り向いた時、その光景は俺の目線を固定させた。
白いと言うよりかは銀色に近く、遠目から見ても綺麗だと言える顔立ちに貧相な身体、腰にはお高めなダガーに臍の見えた露出の多い服。
俺のメインヒロインであり、女神であり、義賊であり、お頭である...クリス。
そんなクリスが今、顔を綻ばせ実に愉快そうにある一人の人物と談笑していた。
ソイツはこのギルドやこの街では見た事の無い男で、装備も今や平和となりつつあるこの世界では過剰では無いかと言える程、見るからに高そうで、強そうで、そんなミルルギみたいな男。
背中しか見えないその姿、座っていても分かる背の高さ、その男も又...楽しそうにクリスと向かい合っていた。
そんな稀に見ない光景に思わず目を見開き硬直してしまう。
何やら後ろからダストが喋りかけてくるが、少なくとも俺の耳には届かないであろう。
何故ならば、己の心臓の音の方が煩くて仕方がないのだから。
「___気になってるんでしょ?あの二人の事。」
と、肩に腕を回しながら少し酒臭いリーンがそう俺の問う。
バッとリーンの方へと振り返る俺の反応にケタケタと愉快そうに笑うと、流し目で向こうに目を向けつつ内緒話だとばかりに口を手で覆う。
「...あの男の方、昔クリスさんとパーティーを組んでたらしいよ...それも、結構な期間活動してたらしい...!!」
「...へぇ...。」
「珍しいよね!基本的に一人行動、パーティーを組んでもそのクエストだけってのが多いけど...あの二人って何かあるのかな...!!」
まるでゴシップを手に入れた記者の様なテンションでそう嬉々と俺に教えてくれるリーン。
...へぇ、あの男とねぇ。
何時もの数倍のペースで酒を浴びるクリスを尻目に、ワタワタと身振り手振りで止めているのだろうか、男の方も前屈みになりクリスを心配そうに見つめていた。
...興が冷めた。
ガタリと音を立てトイレへと向かおうと席を立つ。
ビクッとビックリしていたトランプタワーを立てているゆんゆんには悪いが、そんな事を気にしてやれる程俺に余裕は無かった。
そのままトイレの方へと向かおうとすると...配分を間違えたのだろう、顔を真っ赤にしフラフラとそのまま男の方に倒れる様にクリスが___
「___えっと、どちら様でしょうか?」
「...。」
「...あれぇ?どうひてかふまふんあふはりぃいるのぉ!?」
馬鹿みたいなテンションと呂律でベロンベロンに酔っ払っていたクリスを、俺は倒れない様に支えていた。
少し困惑気味のやっぱりイケメンであった男に一瞥すると、クリスを見下ろしながら肩に手を回す。
「...帰るぞ、アクア...先輩がお呼びだってよ。」
「えぇぇぇぇっ!?おめんねぇー!あたひかえらなは!!」
「え、えぇ...お気を付けて。また会いましょう。」
そうイケメンスマイルでクリスに微笑むと、酒が回った頭と俺の嘘によって二つの意味で気分の悪いクリスを引き摺り出す。
クリエイト • ウォーターで作った水をクリスに飲ませると、すっかり夜になった街の風にクリスを当てる。
騒がしいギルドから聞こえる小さな騒音を耳に、階段へと座り込ませたクリスはボーっと空を見上げでいた。
...俺は何をしているのだろうか。
何の考えも無しに、一体何のために、俺はクリスを連れ出したのだろう。
自分でもよく分かっていない己の行動程恐怖するものはないと自覚しつつも、そうせざるを得なかった。
例えリーンに変な事を言われなくても、俺はこうしていただろう。
俗に言う、これこそが、醜い醜悪的感情である___
「___ねぇ。」
酔いが冷めたのだろうか、呂律を取り戻したクリスが俺をまっすぐ見ながら問いかける。
「カズマくんって結構...嫉妬深いんだね?」
「っ...!!」
何処か嬉しそうに、ニンマリと悪い笑みを浮かべながら俺を下から覗き込むクリス。
何とか顔を隠し背けようとも、顔を見ようと覆い隠した手をこじ開けようと力を込めてくる。
「いやーお頭冥利に尽きるなぁッ!!カズマくんってばちょーっとお頭様が別の男に話してただけで、自分の立場が奪われる!!何て危機感抱いちゃってさぁ!!」
「ち、ちが!!そう言う事じゃッ!!」
「分かってるよ。」
フッと先ほどまでのふざけた雰囲気はどこへやら、否定しようと覆い隠していた手を退けクリスの方へと目を向ける。
両手を後ろに回し、俺をはにかむ様に笑みをこぼしながら月を背景に立ち尽くす。
そんな光景に生唾を飲み込むと、コツコツとクリスが此方へと近付いてくる。
「アタシはカズマくんのメインヒロインなんでしょ?だったら、ライバルが現れたって不思議じゃ無いんじゃない?」
「...俺は女性向けは読まないぞ。」
「あれそうなの?...まぁどっちにしろ、物語はもう最終章だと思うけど。」
そう言って一歩、又一歩と近付いてくる。
「カズマくんって卑怯だよね、戦い方も生き様も、自分は良いんだもんねぇ。」
俺の目の前まで立つと、その場で歩みを止める。
もう目と鼻の先と言わんばかりの至近距離で。
「でも、もう言い逃れ出来ないね?」
「...。」
「後はカズマくんが一歩踏み出すだけ。散々色んな女性を振り回して、逃げて、追いかけて、また逃げて...そんなカズマくんにはもう二つの選択肢しか残っていません!」
ニコッと笑い両手を広げると、最後と言わんばかりな思い雰囲気を醸し出す。
「一生逃げるか、一生アタシと居るか、結局カズマくんはどうしたいの?」
「俺は...その...」
「めぐみんやダクネス?それともアクア先輩?アイリスちゃん?ゆんゆんちゃん?」
俺は...俺は...!!
「...クリス...が、良い。」
「フフッ、知ってる。」
「___よ!お疲れ!!」
「ふぅ、こんな真夏に随分とまぁ重装備させますね...お陰で汗でびしょ濡れです。」
「アハハ!まぁ汗も滴る良い男、って事で!!...良い加減、あの男には決めてもらわないといけなかったから。」
「...まぁ、逃げているだけではどうにもなりませんから。お陰で僕もアクア様にアタック出来そうですし。」
「まぁ勝算は薄いと思うけど、頑張ってねぇ。」