『清楚な御嬢様はギャルな世界』
「___だぁぁぁぁクソがっ!?一生端で待ってんじゃねぇよ!!」
「はぁ?バッタのお前が言うなよ!!」
手元のレバーをガチャガチャ動かしながら相手の媒体に野次を飛ばし合う。
時刻は平日の昼頃、高校生である俺達は普通ならつまらない授業をダラダラと聞き流している筈……まぁ、そんな事は気にするだけ無駄であろう。
高校生なのだ、サボりにサボるのが学生の義務である。
だから今ゲーセンで友達と格ゲーに勤しんでいる……と、相変わらずなバッタ戦法の友達のキャラを撃ち落とし俺の勝ち……ダンッ!!と台パンの音が響き渡る。
「はい勝ちぃぃぃぃ!!じゃ、奢れよDqs10〆金槍くん?」
「ちっ!んでコテハンの方で……台死守しとけよ。」
「あいよ。」
そう言って不良らしく金髪に染めた髪を揺らし自販機へと進むDqs10〆金槍……改めダスト、ハーフの同級生だ。
最初はカツアゲでもされるのかと思っていたが……同じオタ趣味同士今日も今日とて学校をサボっていた。
対戦相手の居なくなった格ゲーの媒体を目の前に、暇を持て余した俺は残りの資金を確認。
これだけ有れば今日は時間を潰せるだろう、ダストが居ない間に誰か俺の相手をしてくれる奴は居ない者か……そんな事を思いながら辺りを見渡していると、ふと見覚えのある服を見掛ける。
アレは……俺の高校の制服じゃねぇか。
しかも顔に見覚えもある……良いトコを出てる才色兼備、高嶺の花って言われてる女……此れ又ハーフのエリスって奴だ……確か。
辺りをキョロキョロと見渡すソイツから顔を逸らし帽子を深く被る、何でこんな時間にこんな所にあんな奴が来ているのかは知らないが、同じ制服だとバレれば何か言われるかも知れない。
お硬い人間とはソリが合わないのだ。
S-DATを取り出しお気に入りの曲を流す。
早くダスト戻ってこねぇかなぁ……何て思っていると、俺の居る媒体に近付く人間が一人。
イヤホンをつけていなかった耳に聞こえた足音に釣られそちらに目を向けると、先程の同級生に良く似た銀髪の女が此方に来ていた。
と、咄嗟に顔を逸らしてしまう。
服は思いっきりギャルギャルしい私服、片耳にピアスを開け俺と同じく帽子を被り店内を彷徨きながらも着実に俺の座る媒体に脚を向けていた。
エリスさんと言い目の前のギャル女と言い、何故こうもあの女に似ているのか……どうも顔を合わせ辛い。
「ねぇ、キミ。」
「……んぁ?」
無視したい気持ちを抑え関わりたく無いですよアピール全開にしながら顔を上げる。
ギリギリ此方から向こうの顔が見えない様に帽子のブリムで隠しながら返事。
「今対戦相手居ないの?」
「まぁ……そうだけど。」
「ふーん?ならさ、アタシとやろうよ。」
此方の返事を待たずに椅子にドカッと座る。
向こう側で50円が入る音が聞こえる……まぁ、ダスト全然帰ってこないし一戦位なら良いか。
此処ら辺りのプレイヤーは殆ど倒してきた俺だが、目の前の女は初めて見た。
もしかしたら上手いかも……何て淡い期待を抱きつつ俺も50円を入れる。
キャラ選択を終え、ラウンド1……先ずは様子見とばかりに互いにガン待ち。
痺れを切らし此方に迫る相手キャラに牽制しつつ、球を撃つ作業。
「……チッ。」
と、向こう側から舌打ちが聞こえる……コイツ、かなり短気だな?
ガチャガチャと苛立っているのが分かる位にレバーの音で此方に威嚇、お熱いお相手に冷水を垂らす如くガン待ち。
そんなこんなでラウンド1終了が迫る時間……相手の甘えた飛びに合わせ対空、そして体力差で一本先取。
「ふーん?まぁ、良いけど。」
何が良いのか知らないがラウンド2、またも画面端で様子見を続ける俺。
球を撃つ、対空、撃つ、対空、撃つ、その繰り返し。
「……好きだねぇ端っこ!!もう其処に住んじゃえばっ!?」
見え据えた煽り、を凌駕する怒り。
ただ淡々と心を無にして繰り返す作業の様なゲーム内容、ジリジリと減る相手の体力ゲージを眺めながらこの後にビビりつつ留めを刺す。
「あ…。」
そう相手の女が言葉を溢した画面の先には、PERFECTと出た圧倒的実力差。
互いに無言の時が流れると、急に立ち上がる銀髪の女。
「おいおいリアル格闘ゲー厶は勘弁してくれ。」
「違う、そう言う訳じゃない。」
此方側に回って来ると、先程居た媒体にチラリと顔を覗かせる。
「……そっち詰めて、ほら、早く!」
「えぇ…?な、何だよ急に……!」
ギャルギャルしい風貌とは裏腹に、ケバい香水の匂いなど感じず寧ろ女性特有の心地の良い匂いを感じざるを得ない。
それ程までに身体を近付け半分ずつ椅子に座って来る……こ、コイツ俺が童貞なのを分かってしているのか…?
途轍もなく強い奴との戦いの時と同じ位に鼓動が早くなるのを感じつつ、隣に座る女から意識をなるべく逸らす。
チラチラと向こう側の媒体を確認しつつ、俺を盾にするかの様にピタリと肩を付け息を潜める。
「___あれぇ…?さっきまで居た筈じゃ……。」
何処か困り顔のお嬢様、エリスが先程ギャルの座っていた媒体近くでキョロキョロと辺りを見渡す。
やがてお目当てのモノは見つからなかったのか、諦めた様に溜め息を吐きながら店を後にして行った。
...その間ピッタリと俺と肩をくっ付け伏せていた隣のギャル、俺の心はバーンアウト。
自分でも分かる位に顔を真っ赤にさせているのを自覚しチラリとギャルの方へと顔を向けると、そこには安堵した溜め息を吐いていた。
「ん、ありがと...キミ、もしかしてアクセル高校?」
「え?あ、おぉ...そうだけど...。」
「ふーん。ねぇさんと一緒なんだ...キミもサボり?」
キミも...って事は、彼女も又同じくサボりなのだろう。
コクリと頷く...と、彼女はパァと顔を輝かせ己の小銭入れを取り出すと机に置く。
「だったらさ!さっきのやり方教えてよ!!キミ、結構強いでしょ?」
「ま、まぁここら辺じゃ負け無しだな...うん。」
「さっすが!アタシ最近このゲーム始めたんだけどさぁこのキャラを練習したくて...!!」
先程までのピリピリとした雰囲気は何処へやら、まるで子犬の様に、嬉しそうに。
俺もこう教えてくれと頼まれるのはそう多くない、故に嬉しい半分緊張半分と言ったところだろう。
しかし相手が可愛すぎる、俺には刺激が強すぎる服と相まって心臓の音で彼女の声など耳に届かない。
「っと、キミ名前は?アタシはクリス。ベルゼルグ中学の三年生!宜しく!!」
ベルゼルグって言えば...かなり近場の中学校ではないか。
そりゃここに通っているのだから近くて当たり前であろう、中学生にしては少し大人びた彼女に圧倒されながら、俺も口を開く。
「お、俺はアクセル高校の一年。カズマ...よ、宜しく!」
「アッハハ!!声上擦ってるじゃん!」
バンバンと背中を叩き急に馴れ馴れしくなったクリスと名乗った彼女...最近の中学生はこうなのだろうか。
一年しか変わらないと言うのにジャネギャを感じつつ、柄にも無く髪の毛を気にしながら帽子を被り直す。
「宜しくね!先輩!」
屈託のない笑顔に、俺は格ゲーで荒んだ心が浄化されていった。
「あれ?ダスト君?」
「ゲッ!?何でお嬢様が此処に居んだよッ!!」
「あ!ちょ、ちょっと待って!!...もう、どうせ居るなら妹を探すのを手伝って、って言おうとしたのに...。」