『ヒロイン女子と主人公な世界』
荒い息を抑えながら、煩くて仕方がない鼓動を落ち着かせようと楽な姿勢を取る。
『潜伏』を発動し太陽によって作られた影へと潜む、こうして居れば見つかる事は殆ど無いと言えるだろう。
酸素の足りない震える手で『クリエイト•ウォーター』を喉へと直接...ハッキリ、余り気持ちの良いものでも無い。
だがこうしてすぐに息を整えつつ喉を潤すのにも理由がある、それは___
「___わぁっ!!」
「ッ!?!!?」
右後ろから聞こえた急な声に、俺は声にならない悲鳴を上げ後ろを振り返る。
ただでさえ走って疲れていた心臓を更に促進させたその正体...それは、してやったり顔のクリスであった。
「あははっ!カズマ君ってばビビりすぎだよ!!アタシだよアタシ。」
「...何やってんだクリス。」
「何って、カズマ君みたいな高額所得冒険者を捕まえて回ってるんだよ?」
ニヤッとそう告げるクリス、とどのつまり...俺はまたも、税金から逃げていると言う事だ。
しかし困った事に万事休す、アハハっと笑いながらもその目の奥は笑っていないのを見るに、相当踏み倒す人間を捕まえてきているのだろう。
呆れと怒りの混ざったその瞳は、決して俺を逃さないとばかりに捉えていた。
「おいクリス、そんなに俺と手を繋ぎたい所悪いが俺はそろそろ逃げたいんだが?」
一応交渉の余地アリと見て問い掛ける。
「逆に聞くけど行かせると思う?」
「...。」
「...。」
其処からは早かった、俺は手を前にクリスはロープに手を掛け『バインド』を発動しようと...
「『フラッシュ』ッ!!」
「しまっ!?そっちかッ!!」
大方『スティール』でも飛んでくると呼んでいたのだろう、しかしこの場で馬鹿正直に、しかもクリス相手に『スティール』をして一体何になると言うのだろう。
コイツはパンツを盗まれようとするべき事はしっかりする人間...人間?だ、ましてや何度も盗まれている相手...多少の心の準備はしているだろう。
だからこその裏の裏、敢えて良くある目潰しの戦法、時に基礎は全てを上回る。
「馬鹿めっ!!次は仕事中に『テレポート』して『スティール』で邪魔してやるからなッ!!」
「なっ!!そこそこ面倒くさい事を...っ!!!」
真正面からモロに光を浴び未だ回復の予兆の見えないクリスを尻目に、今回の隠れ場所を思い付く。
つくづく、クリスには...いや、エリス様には感謝しか無い。
「『テレポート』っ!!」
___________________________
「___っと、勝手に邪魔させて貰おうかな...と...?」
俺が逃げ込んだ先、それは所謂天界。
誰も来る事が出来ず、追えず、思い付かず、そんな逃走先にピッタリであろう場所へと足を踏み入れたは良い物の...。
此方に微笑みかけるエリス様が視界に映ったのを見るに、余り良い考えでは無かったのかも知れない。
「...なぁ、一体全体エリス様とクリスって何なんだ?」
「何、と言われましても...私はエリス、それだけの事です。」
何てらしい事を告げる女神様。
だが襲いかかって来ないのを見るに...やはり、彼女はエリス様なのだろう。
俺は死者が座る椅子へと腰を下ろすと、マジマジとエリス様を見つめながら頬を付く。
ニコリと笑顔を崩さない微笑みは、やがて顔を少し赤くさせるとそっぽを向いてしまう。
流石メインヒロインだと言った所だろうが、今は一つ疑問が勝ってしまう。
「結局の所、エリス様とクリスは別々の人物...つまり、二人居るって事なのか?」
「と言うより、私はエリスであってクリスである、と言う方が正解でしょうか?」
「成る程ねぇ...つまり、俺は此処に逃げるって読まれてたって事か。」
もし二人ともが違う身体を、意思を持って行動していたと言うのなら...此処にエリス様が居る事は何ら不思議では無かった。
だが身体は一つしか無いと言うのを見るに...俺の目の前でドヤ顔を決め込む可愛らしい女神は、目の見えない中先んじて此処に戻って来ていたと言う訳だ。
俺の『テレポート』と言う言葉を聞いてなのか、予め考えていた山勘なのか、真相は定かでは無いにしろ一本取られた気持ちだ。
「しかしまぁ良く俺が此処に逃げるって分かりましたね。」
「えぇまぁ...カズマさんの事はとても理解しては居るつもりですよ?それこそ、先輩に引けず劣らずな位には。」
「だから良く女神様のポーズで義賊を頼みに来るんですか?」
ギギギっと擬音の付きそうな位に首を横に向け、口をモニョモニョと気まずそうなエリス様。
まぁ分かって乗ってる俺も俺だ、お互い様だろう。
「...じゃあクイズしましょうクイズ。」
「クイズですか?」
「えぇ、俺が出すクイズに正解したら大人しく捕まってあげますよ。」
このままお互いに睨み合いをしていても状況は変わらない、俺からすればこのまま時間が過ぎ去るのを待つだけではあるのだが...俺を理解している、という言葉に少し興味を持ってしまった。
人間生きていれば多少は思う所があるだろう、自分の事をコイツはどれだけ理解しているのだろうか...と。
それが今回偶々エリス様であったと言うだけの事、その自信をへし折らせて貰おう。
「私は構いませんが、カズマさんの思っている以上に私はあなたの事を良く知っていますよ?」
「随分と自信たっぷりですね、余程俺に惚れてでもいるんですか?」
「フフフッ、ではそう言う事にしておきましょう。」
...おや、珍しい。
こう言う時エリス様は大体焦って否定してきたりするのが鉄板だが、何やら軽く流されてしまった。
何やら俺にとって良くない空気を感じ取ってしまうが、初めてしまったものは仕方がない。
己の過去の出来事を出来るだけ思い出しながら、エリス様が知らないであろう何かを頭を唸らせ考える。
日本での出来事は駄目だろう、アクアが俺の死因を笑っていた様に日本での出来事は知れ渡っている。
俺が死ぬ手続きがあったとして俺の人生を流し目でも記憶している可能性が捨てきれない、相手は一応女神なのだ。
そんな面倒臭い事はしていないとは思うが、此処は敢えて異世界に行ってからの出来事にしよう。
「では問題です、俺が初めてサキュバス店を利用した時に見た夢は?」
「...良くもまぁ女神相手にその様な問題を出せましたね...答えは何も見ていない、正確には先輩に追い払われた、でしょうか。」
ふむ、見ていたか。
ありふれた日常の一コマから出したつもりであったが、ほぼ四六時中見ていると仮定して問題無いのかも知れない。
「では二問目です。」
「待って下さい、何問答えれば良いのですか?」
「あー...じゃあ三問にしましょう。」
もっと日常で、背景に流れてそうな、そしてエリス様がクリスとして地上に居る時、そして俺と関わっていない時...。
「...俺とアイギスが一時休戦する位にデカい胸を持った女の名前は?」
「ソニアさん、でしたか。裏で待機している間に見かけました。」
「いやちょっと待て何故分かる!?ソレが分かるって事は俺とアイギスが見えてたって事だよな!?しかも俺とアイギスの会話も...え、本当にどうやって...?しかも俺殆ど関係無いよな!?」
此処まで驚いたのは本当に生まれて初めてかも知れない。
悪い意味で心臓がバクバクとなっている俺を見つめながらクスクスも笑うエリス様...いや、怖いって。
「それは...内緒です。ですがお二人が私から見えていたのは本当ですよ?態々あそこで捕まえに行くより、私が私としてステージにだった方が勝算がある、と踏んだだけです。」
「...何とも自分の美貌に自信をお持ちの様で。」
「えぇ、私は女神ですから。」
珍しい、今日のエリス様はあまり謙遜しないのだろうか。
何処か自信に満ち溢れている...実力と行動と言動が伴ったアクアみたいだな。
...そうだな。
「じゃあ三問目です、これに答えれたら大人しく捕まりますよ。」
「えぇ、逃げないで下さいね?」
そう揶揄う様に言うエリス様を尻目に、俺は深く息を吐き見つめ直す。
「俺の好きな人は、誰でしょう。」
「...。」
「どうしたんですか?俺の事を理解しているなら、先の二つの問題みたいに早く答えが出ると思いますが?」
フッ...やはり、所詮はエリス様。
どれだけ強がって自信を持っていても、今日限りの付け焼き刃の虚勢では俺に勝つ事は出来ない!
さぁどう答えても俺得になるのだから、ほら!早く!!
「...ス。」
「え?何だってぇ?」
「...リス。」
...ん?
「クリス。貴方の、カズマさんの好きな方は...クリスです。」
「...は?え、いや、ちが」
「違いませんよ、助手君。」
ニヤリと悪い笑みを浮かべたエリス様、基クリスが椅子から立ち上がり此方に近づいて来る。
「態々助手君に何のメリットも無いのに、アタシの頼み一つで嫌々ながらも手伝ってくれる。めぐみんやダクネス、先輩とも良い感じになりながら、アタシの事をメインヒロインだ何だとおちょくってくる。そうやって君は揶揄ってるつもりかも知れないけど、アタシは本気だよ?」
「お、おい落ち着けよクリス。コレはゲームだろ?分かった捕まってやる、大人しく捕まってやるから...な?」
「良いよもう税金何てアタシも払ってないし。それよりも、クイズの答えは?ほら、早く教えてよ。助手くんの、カズマくんの、好きな人をさ。」
い、一体どうしちまったってんだ?
何時ものエリス様と様子が違うと思えば、急にクリスに変身して...それで...!?
ガッシリと俺の肩を掴むと、椅子から逃げれない様に、抑え込む様に。
「ほら、カズマくんの好きな人は...誰?」
「お、おお俺の好きな、ひひひ人はッ!!!___」
「___ハッ!?」
ドクドクと五月蝿い心臓、呼吸が荒い、少し薄暗く寝っ転がっているであろう俺の背中には激痛...そうか、逃げきれなかったのか。
捕まったショックで夢でも見ていたのだろう、コツンと壁にぶつかり寝返りを打つ。
「...趣味の悪い夢だ。」
「夢じゃ無いよ、助手くん。」
「キャァァァァァァァァッ!?!!??!」
「カズマの悲鳴が聞こえてきたな、一体クリスはどうやって捕まえたのだ...?」
「少なくとも、気絶していたカズマさんを引っ張って来たのですから...あまり良い方法では無いでしょう。」
「...セナさんもそう思いますか。はぁ、クリス...あまり手荒な真似はしてくれるなよ...?」