『将来の夢は...な世界』
「___カズマさん、カズマさんは昔なりたかった事とかあるかしら?」
「...。」
「私はあるわ。昔、それも遠い昔の事だけれど...お嫁さんになりたかったの。」
家はどここ◯亀の中川位デカい家に、大量のメイドとバトラーを雇って、旦那の為に家事を手伝う...何て事はなく、ただただぐーたらと過ごす日々。
旦那の偶の休日の遊び相手を務め、友達とお茶会を開き高級な物を買い揃える...そんな理想的な日々。
...今にして思えば、何とも現実味のない馬鹿らしい夢だったのだろうかと呆れてしまう。
そんな夢を持てるのは人間だけ、私は夢を持つ土俵にすれ立てない側なのだ。
「...結局直ぐに諦めちゃったけれど、お嫁さんって言う者には少しばかり憧れは残っていたわね。」
「...。」
「ま、もしカズマさんがまだ返事が出来る元気があれば今頃『お前は汚物の方の汚嫁だろ』...何て失礼な事を言ってくるかも知れないけど。」
容易に想像出来てしまう、私の夢を聞いて鼻で笑い飛ばし酷い言葉を浴びせるこの男の姿が。
「昔、ダクネスやめぐみんが死んじゃう前にも聞いた事があるの。そしたら何て言ったと思う?」
「...。」
「二人とも、私と同じお嫁さんになりたいって...意外よね、ダクネスは想像付くけれどめぐみんまでそう言うとは思わなかったわ。どうせ魔王になりたいだと言うと思っていたけれど...ま、罪深いアンタのせいよ、きっと。」
事実、あの二人がなりたかったのはお嫁さん...ではなく、正しくはカズマのお嫁さんだろう。
あの二人がカズマに惚れていたのは周知の事実、寧ろなぜこの男はどちらか選ばなかったのか不思議でしょうがない。
日本であれだけ絶望していた癖に、いざ己が選べる立場になれば小心者に...何とも酷い男だと言いたくなってしまう。
「まぁ今更どうこう言っても仕方がないわね、喋る元気のないカズマさんの夢を当ててあげるわ!!...そうね、意外にもカズマさんも旦那さん!!とかどうかしら?」
「...。」
「それも専業主夫、今時珍しくないものね...家事スキルだけは達者なカズマさんにはお似合いね、きっと。」
美味しい料理を並べ帰宅した妻の目の前に広がる光景、あの憎たらしい顔と綺麗な部屋...うん、ギリ嬉しいが勝つだろう、多分。
もしカズマが私の専業主夫であったのならば...日々の暴言も軽く受け流してあげていたのかも知れない。
いや、ちょっとだけ手が出てしまうかも知れない。
「因みに偉大な私の後輩であるエリスの夢はバストアップよ、珍しくあの子が酔っ払っていた時に聞いた事があるの。...あ!もし死んじゃってエリスと会った時に私が言ってた事バラしちゃ駄目よ?本気で怒るとあの子怖いんだから。」
「...。」
「...ま、アンタが死んじゃう方が怖いんだけどね。」
めぐみんも、ダクネスも、魔剣の人も、皆んな。
私を覚えている...と言って良いのだろうかは分からないが、もう残るはカズマとウィズ、それに仮面の悪魔だけ。
あの二人に関しては別に覚えられる方が不快な為どっちでも良いが、カズマは別。
数桁年、天界の頃に居た頃はあっという間に過ぎた年ではあったが...此処にこうしてカズマ達と一緒に居た日々は、長く濃く感じた。
そんな日々を、人を、忘れると言うのは非常に悲しい事である。
「そう言えばカズマさん知ってるかしら?今の子供達のなりたい職業ランキングに、冒険者が上位に食い込んでるらしいわよ...何故なら、あの勇者の右腕として活躍した伝説のサポーターサトウカズマが己に課した重み、つまり縛りプレイで魔王を倒した...何て言う言い伝えがあるせいらしいわ。」
「...。」
「因みにその元になった絵本を書いたのはあるえよ、あの子脚色の女神様ね。有る事無い事書き足して言ってたわ。...本当の勇者はカズマさんなのにね。」
それでも、カズマは勇者と言う地位に興味を示さなかった。
それ所がその地位を魔剣の人へと譲渡しようとしていたのだ、勿論断られてはいたが。
本人曰く金だけ欲しく、地位はいらない...らしい。
いらないのであれば私が貰ってあげると散々言ったのだが、何故か私にはくれなかった。
「お陰でギルド職員も困っていたわ、上位職に就ける子達も皆冒険者を選ぶんですもの...何だか、アンタに此処に連れ落とされた時とは真逆の光景ね。」
そんな事ももう早数十年前、時代の流れとは嫌なものだ。
「因みに次いで人気の職業はアークプリーストよ!何でも、そのサポーターと組み合わせると強い...何て言う理由らしいわ、何とも失礼なものよね。所詮はアークプリーストが無ければまともに戦えない冒険者の癖に。」
「...。」
「それと一番人気はアークウィザードよ、そりゃそうよね!全ての始まりであり、終わらせた職業何て巷では言われてるらしいわ。今の時代ならめぐみんももう少し生きやすかったかも知れないわね、皆ちょっと中二病ですもの。」
あるえが脚色している部分を抜いても、元から人気の高い職業ではあったのだ。
それに、強いと言う事もあるのだろう。
減った紅魔族を増やす様にアークウィザードが増えていく、やがて紅魔族と言う言葉も忘れされていくのだろう。
それは...少し寂しい様な、滅んで当然なような。
めぐみんには申し訳ないけれど、あの街の人たちは少し、ほんの少し頭がおかしかったのだ。
私の信者ほど賢ければ、また違った未来が待っていたかも知れないが。
「クルセイダーは...何とも、人気とも不人気とも言えない職業って言われてるわ。私たちからすれば、ダクネスが居なきゃとっくのとうに皆んな死んじゃってるって言うのにね。」
「...。」
「あ!ダクネスで思い出したのだけれど、この前アイリスちゃんの八十歳のお誕生日パーティーにお呼ばれされた時、身の程知らずの男が私に話しかけてきたのよ。」
外見はそこそこ優れていると言えるだろう、黒いタキシードに身を包んだ細身で筋肉質の男。
何やら貴族間ではそこそこ有名な出らしいのだが...生憎、覚えてあげられるほど存在感があった訳でも無かった。
そんなガキンチョを相手にしてやれる程、私は暇ではないのだ。
先程から沈黙を貫く目の前の老耄が、それを物語っている。
「...しかし、カズマさんは本当に長生きね。アンタの面倒見る為にお酒も、ギャンブルも、全部絶ってるって言うのに...はぁ。」
「...。」
「...ちょっとくらい返事しなさいよ...クズマさん。」
面倒と言っても、さしてする事がある訳でもない。
りんごの皮を剥き、時折り様子を見て、脈を測り、話し掛ける。
最初こそ合槌を返したり、向こうから話を振ったりと特段悪い事は無かった。
しかし時というものはやはり残酷であり、日に日に弱るカズマを目の前に私は何をしてやれないのだ。
「アンタは何度聞いても答えてくれなかったわね、誰も選ばなかったその理由。生涯童貞ヒキニートを貫いたその理由...知りたくてしょうがないじゃない。」
だが、めぐみんやダクネスは何処か納得している様子だった。
あの二人は最後まで元気であった、事切れる間際でさえ私と談笑していたのだから。
あの二人に問いた事がある、選ばなかったカズマを恨んでいないのか...と。
だが帰ってきた答えは同じであった、選ばなかったのではなく、選ぶ必要がなかったのだ...と。
いったいどういう意味なのかは分からないが、二人してそう答え満足そうに。
だからこそカズマに聞いているというのに、結局この男も答えず終い。
「......ア...。」
「...えっ!?ど、な、何か言ったかしら?カズマさん!」
「...アク...ア。」
久しぶりに聞いたカズマの掠れた声は、確かに私の名前を呼んでいた。
良かった、まだ覚えておてくれていたのだ。
「えぇアクアよ!女神アクア!!私がどうかしたの?」
そう良くカズマが呼ばれた時に己の名前を呼んでいた様に、いつの間にか癖ついた、真似を。
ヨロヨロと持ち上げられた右腕は、真っ直ぐと伸びきっていない人差し指を私に向けながらゆっくりと口を開く。
「...おまえ...だよ。...アク...ア...。」
「...?どう言う事...かしら?」
ポトリ、そう力無く腕を下ろすとそのまま...カズマは、眠ってしまう。
私はゴクリと生唾を飲み首元に指を添える...そうか、やっぱり。
「...結局、何が言いたかったのか分からず終いじゃない。」
俯きもう開ける事のない口を閉じ寝転がすと、私は手紙を書く。
宛は、アイリスちゃん。
案内も私がやる、でもその前に...まずは、知らせなければいけない。
それが私がこの世界に来て、最後の仕事なのだから。
「...大丈夫ですよカズマさん。ちゃんと伝わってますって。」
「何処がだよっ!!俺最後聞こえたからなっ!?結局分からず終いじゃねぇか...って!!」
「ま、まぁ落ち着いて下さい。ほら、先輩が来るまで新しく考えときましょうよ...口説き文句。」