『元の、新たな、狭間な世界』
「___とまぁ、この様な内容にしたのだが……何か意見はあるかい?」
「……んじゃ、一つ質問良いか?」
「あぁ、勿論さ。」
机一つ挟んだ先には、その年齢に見合わない素晴らしい発育をした紅魔族の少女……基、紅魔族随一の作家を名乗る女。
偉そうに椅子に座り手元の紙に書いてある文字を読み終わり、此方のターンがやってきたためまずは一つ疑問を解消する事に。
「お前は確か、今書いてある小説の内容の評価をして欲しいんだったよな。」
「そうだね。」
「……何で俺?」
本当に何故俺なのか、あるえはキョトンと首を傾げると困った様な顔で口を閉じる。
俺とあるえの接点は、精々めぐみんの友達、つまり友達の友達……ほんの少しだけ面会があった位に過ぎない。
ましてや過去コイツとは初めて紅魔の里に行った時の事により、お互いあまり良い印象を持っていなかった筈だ。
事実、こうして呼び出されるまで本気で喧嘩を売られたのかと思い態々高い金を払って魔法を封じる魔道具を買ってきていたと言うのに……無駄金になってしまっている。
「何故……その疑問に答えるとすれば、この物語の主役だから……と答えておこうか。」
何処か芝居掛かった口調と身ぶり手ぶり、流石紅魔族だと言わんばかりだ。
しかし、俺が物語の主人公……とはどう言う事なのか。
あるえから受け取った紙に書かれた文字の羅列に目を通していくと、其処にはどれも見覚えのある事象ばかりが書かれていた。
これはつまり……。
「俺の……いや、俺と彼奴等の物語って事か?」
「その通り、見事魔王討伐に成功したカズマ達への私からのお祝いだと思ってくれたまえ。」
「いや、お祝いつったって…。」
飛ばし飛ばしでまぁまぁな数のある紙を見通していくと、確かに俺と彼奴等が今までしてきた数々の行いを綴っているのだが、どうも脚色されていたりそもそも全く違う事をしていたり、真実とは懸け離れている事が多々見られる。
「何か言いたそうだね、構わないさ。その意見を私は貰いに来たのだから。」
「ならよ、まずこれ……俺の可愛い妹であるアイリスが省かれているのはどう言う事だ。」
まず目に入ったのはアイリスの名前が全く無かった事、これでは俺が魔王討伐を頑張るモチベの一つが無くなってしまっている。
「他にもめぐみん……いや、めぐみんらしき人物の口調が何処か変だったり……これじゃめぐみんと言うよりお前じゃないか?」
「ふむ……あまり意識しているつもりは無かったのだが。寧ろ、私からしたらその物語のめぐみんの方が正しい様に見えて仕方が無いのだがね。」
「眼帯のせいで良く見えて無いんだろ。」
他にもバッサリと消されている所があったり、やけに黒髪ロングキャラが多かったり、『不死王の手』等と言ったとんでもチートスキルを俺が使っていたり。
これじゃ俺なのに俺じゃない感じだ。
「質問に答えていくと、まずアイリス王女はこの物語に不要だと判断したのさ。」
「……何だと?」
「まぁ落ち着いてくれカズマ、事実アイリス王女と君に合った事と言えば簡易的な食事会だけだろう?君達の冒険譚に必要か、と問われればなくても構わない部分であるのもまた事実……違うかい?」
……確かに、魔王軍を倒したり、だとかそう言う派手な事をした訳ではない。
強いて言えばクリスと義賊しに行った位……たが、それを明かす理由にもいかない。
これはあるえなりの優しさなのだろう、この物語は良く其処まで知っているなと褒めたくなる程には精密さも兼ね備えている、ならば俺達が泊まっているその日に義賊に入られたのも知らない訳が無い。
つまりこの事実をそのまま書けば、今まで俺と彼奴等の活躍を綴っていた冒険譚に不要な失敗と言うノイズが入ってしまう事になる。
これだから紅魔族は嫌いになれない。
「……まぁ、お前の言いたい事も理解は出来るよ……優しさも。」
「………。」
髪をクルクルと人差し指で巻きながら此方を見つめる。
だが、それでもやはりアイリスは必要なのだ。
「別に俺が意見しても、てか俺の考えを聞きに来たんだよな?」
「あぁ、先程の様に何か不満があるなら言ってくれたまえ。」
「ならよ、アイリスを追加したらもっと面白くなるって言ったらどうする?」
その俺の言葉にピクッと反応、髪を巻いていた指が止まる。
これだけ改変しているのだ、事実と言う名の改変を加えても……まぁエリス様は怒らないだろう。
最悪悪い方向に行ったらクリスに責任を押し付ければ良いし、俺はあくまで助手に過ぎないのだから。
「確かにあの日、俺達は義賊にしてやられた……なら、俺が義賊って事にすればどうだ?」
「……ッ!!」
「何故魔王を討伐出来る程の俺達のパーティーを抜け出せたのか、その義賊の正体は……。」
あるえの作家魂に火が付いた。
「カズマその人が……義賊そのもの…!!成る程成る程!!良いアイディアだ!!」
フンフンと先程のクールな様子は何処へやら、目を爛々と赤く光らせ必死にメモをするあるえ。
……何かこれ、楽しいな。
「他には…他には何かあるかいッ!?」
「そうだな……これ、義賊ってのはあくまで俺は助手に過ぎずに……もう一人の銀髪の方、アイツの正体はとある女神ってのはどうだ?」
「女神…!!し、しかしそれでは信者達の目にこの内容が留まれば非難されないか…?」
もう全部言っちゃうか。
「これ、実は恵まれない子達にお金を寄付するってのはあくまで善意で、本当の目的はまた別の事がある事にする……ってのは?」
「ほう……して、その目的は一体…?」
「神器、お前も聞いた事はあるだろ?俺の様な黒髪の奴等が持ち込んだ神の手に掛かった道具……所有者の居なくなった危険な神器、それを回収……そして、それを女神様へと持ち帰るのが目的…!!」
本当にそうなのだけど。
「………!!カズマ、君には作家の才がある…!!もしカズマが紅魔族であったのなら、私は随一は名乗れなかっただろう…!!」
嬉しくねぇなあんま。
だがここまでヒートアップするあるえも初めて見た、唯でさえ関わりの無かったのにこんなに打ち解けれる人間は初めてだ。
……案外、コイツとも最初の出会いが悪かっただけなのかも知れない。
そんな事を考えながら、我を忘れ時間が段々と過ぎていくのも肌に感じながら互いに物語のアイディアを出して行く。
とは言っても、俺はほぼ真実を嘘みたいに話すだけなので俺に想像の才能はないのだが……目の前でこんなにも喜ばれたら、つい口も軽くなってしまう。
そんなこんなで殆ど俺の視点から見た魔王討伐までの真実を話し終え、互いに息をするのも忘れる程熱中していたのか息を整えつつ椅子に腰を下ろす。
「ふ、ふふっ…カズマ……君とは長い付き合いになりそうだ。」
「…そうか……そりゃ良かった、こっちもお前とは仲良くなれそうだったからな。」
「時々思うんです、私とあるえは何処か似た雰囲気を感じる……と。」
「……まぁ、皆同じ様な者だろ…なぁアクア?」
「………え、えぇ私もそうだと思うわ!!うん、でも唯似てるだけだと思うわよ!?け、決して実は改造された人間……だとか、そう言う訳じゃ無いと思うわ!!」