『長い生きする世界』
「___あ、お久しぶりです冒険者さん。」
「おう。」
何時ぞやのレベリングで使ったダンジョンに、今日は俺一人で挑みに来ていた。
あれだけ大量の魔物が居たこのダンジョンは、ウィズやバニルの協力を得て一度ダンジョンの王であるヴァンパイアの部屋へと来た事があった為ルートは覚えていた。
その為『潜伏』スキルと『逃走』スキルをフル活用でここまでダッシュしに来たのは良かったのだが……二十階層にあった筈の部屋が十九階層へと繰り上げられていた。
まぁ、二十階は俺が魔王との戦いで壊したから当たり前なのだが。
今回此処に来た目的は二つ、未だ回収仕切れない量のある財宝をバニル達に持ち帰るのと、ヴァンパイアとの世間話。
「そう言や作物はちゃんと育ってんのか?」
「あぁ聞いて下さい!!この前私の畑を荒らすとんでもない輩が居たので少し痛い目に合わしてやろう……と、近付いたんですけど。良く見たらドラゴンと人間との間に出来た女の子だったんです!!」
ドラゴンと人間のハーフ……そんな者も居るのか。
過去見た事のあるエリフやドワーフはなんちゃってに過ぎなかったのを思い出し、その子も又ちっちゃい角が生えてる程度何だろうと思ってしまう。
それ程までに俺はこの世界のファンタジーを信用していない。
此れだけ長生きしても尚昔と感想が変わらないのだ、もう期待するだけ損だろう。
「それで、その子はどうしたんだ?」
「何やらその子の飼い主?を名乗る方が後から現れて、謝罪とエリスを少々頂いて去って行きましたよ。」
「ドラゴン娘の飼い主ねぇ……ちゃんと躾しておいて欲しいもんだ。」
取り敢えず手頃に持ち帰れそうな物を漁っていると、ふと懐かしい物を見つける。
「ん?これ……なぁ、何処で見つけたんだこれ?」
「え?あぁそれはですね。」
俺が指を差した先には、懐かしの爽やかスマイルを思い出す女神様印の協力な大剣……魔剣グラムが立て掛けられていた。
ミツルギ……結局アクアに相手にされなかったな。
生涯アクアだけを思い他の女を作らなかったその心意気は称賛するに値するだろう、世間ではもっぱら勇者の右腕的立ち位置として伝えられているが。
俺の右腕は良くも悪くも……あの三人だけである。
「これは確か私の畑がある田舎の工場に捨てられていた物ですね、見ての通り少しさびてしまって居たので誰も必要としなかった見たいで……凄く協力な魔力を感じるだけに残念です。」
これは確かかれこれもう………かなり前に所有者から放棄されている、だと言うのにこれだけの錆で止まっている所を見るにやはり神器と言うのは凄まじいのだろう。
身を持って体験してきたからこそ、さっさとエリス様に渡すべきだと言うのは理解しているのだが……。
「……もう会ってくれねぇよなぁ…。」
「何か言いましたか?」
「いや、独り言。」
この身体になってから、見るからにクリスとしても見掛ける事が減ってしまった。
此方からテレポートで天界に飛んで会いに行くのも考えたが、もし他の女神や天使に見つかれば問答無用で消されてしまうかも知れない。
まぁエリスの立場を考えればそれも当たり前なのだが、やはり寂しさを覚えなくもない。
アクアは偶に顔を見せに来るのと比べれば……もう少し寛容になって欲しいと思うのもまた我が儘なのだろう。
アクアに渡してどうにかして貰う事にしよう。
「そう言えば、バニルさんやウィズさんはダンジョンの製作に成功されましたか?」
「いや、相変わらずまだまだ資金集めしてるよ。ウィズの浪費癖もまぁ多少は落ち着いて、て言うか俺が管理してるからもう少しで取り掛かれると思うけど。」
「成る程……あぁ、そう言えば言うのが遅れましたね。おめでとう御座います。」
俺の左手の薬指を見ながら微笑むヴァンパイア……そっか、まだ報告出来ていなかったな。
当初は正気かと周りの皆に反対……いや、反対されたのは決して結婚の事では無いが。
無茶を通してウィズと結ばれる為、まぁそれなりに苦労してしまった。
あれだけ面倒くさい事はしたくなかった主義だったのだが……やはり、恋は盲目なのだろう。
「しかしそう考えれば冒険者さん、等と気安く呼ぶ事は出来ませんね。」
「……まぁ、今は冒険者じゃ無いしな。けどフレンドリーで良いよ、数少ない友達なんだから。」
長寿の話せる生物、とだけで俺からすればそいつはもう友達だ。
これ以上俺より先に旅立つ友達をもう見たく無いからな。
俺を知る人間が次々に旅立ち……見知った顔と風景は変わり、俺の存在が忘れられていく。
かつて挨拶を交わした友も、物言わぬ存在へとなってしまう。
そんな気持ちは何時になっても慣れないのだ。
「それじゃあ引き続き今のままで居ますね……って、良く良く考えればこれ私殺されませんかね?」
と、急に物騒な事を言い始めるヴァンパイア。
「……急に何だよ。」
「いえ、今此処には私と冒険者さんだけじゃないですか?」
そりゃまぁ一応ダンジョン最下層な訳だし。
ボス部屋に雑魚敵が居るのはあまり良い気持ちにならない、この世界の強者は基本的にタイマンを望む騎士道精神があるのだ。
かつての魔王がそうであった様に、その考えは魔物界にはとても浸透しているのだ。
まぁ冒険者からしたら知ったこっちゃないが。
「そしたら、冒険者さんのお嫁さんのあのリッチーに殺されるんじゃないかと思いまして。」
「ウィズはそんな事しねぇよ……多分。」
「多分っ!?じゃあ駄目じゃないですか!!」
温厚なウィズであるが、それは俺と籍を入れた後も変わり無かった。
……が、一度、ほんと一度だけ出来心で年老いたダストと共にサキュバスの店に久々に入ろうと話になり入った事がある。
その代わり映えの無い店内に何処にそんな元気があるのか興奮していたダストと、俺を知る数少ない生物と言う事で金を落とす為久々に利用した……そんなある日。
ダストと別れ魔道具店に入るなり笑顔を絶やさなかったウィズの顔がスンッと落ち着き、俺に近付いたと思えば……いや、これ以上は思い出したく無い。
ただバニルが昔ウィズと戦った時の様な雰囲気を纏っていた……と溢していたのを見るに、相当怒っていたのだろうと予想出来る。
そんなウィズが一度とは言え手を焼かされた下等生物、そんなヴァンパイアが自分の旦那とダンジョン奥深くに二人っきり……まぁ大丈夫だろ。
ちゃんと財宝を回収するって言う大義名分があるし、何も如何わしい事はない。
目の前でアワアワと慌てるヴァンパイアを落ち着かせ様と立ち上がり……。
「うぉっ!?」
「あぁっ!!」
足元に置いたままにしていた魔剣グラムの柄に脚を引っ掛ける。
「きゃっ!!」
可愛らしい悲鳴と共に俺に押し倒される形となったヴァンパイア、あれ……こんな感じの展開日本の漫画で見た事があるな。
「いっつー……大丈夫か?」
「え、えぇ冒険者さんも大丈夫で……す…か…っ!?」
「ん?……あっ。」
ベタ、その一言に尽きる。
俺が魔道具店に置き忘れていたのであろうちゅんちゅん丸片手に奥の部屋の扉で立つウィズ……俺達を見下ろしながら。
何時の間に来ていたのか、何故このタイミングなのか、色々と神に文句を言いたいのだが……まずは一言。
「……ご、誤解だ!!」
「『カースド・クリスタルプリズン』ッ!!」
ウィズの冷たい目と共に、唯でさえ冷たくなかった俺の身体が固まる事になった。