『抑えが効かない世界』
「___カ、カカカカズマしゃんっ!!」
魔王討伐から早三ヶ月とちょっと、屋敷の居間では暇を持て余した俺達がチェス擬きで遊んでいた時……突如として俺の名を面白可笑しく叫びながら扉を開けるゆんゆん。
目をうるうるとさせ息を荒くしながら俺を見つめるゆんゆんには、何処か既視感を覚えずには居られなかった。
俺達四人に凝視され少し縮こまってしまったゆんゆん、大胆なのか小心者なのか良く分からない所があるな。
「……どうしたゆんゆん、また俺との子供が欲しくて来たのか?」
「うぅ…えと…そ、そうじゃなくてぇ……!」
もじもじと玄関で立ち竦み俺をチラチラと見て来る……何だってんだ。
俺の冗談発言にジト目で見てくるアクアとダクネスはスルーして、溜め息を付きながら立ち上がるめぐみん。
「はぁ……まぁ取り敢えず上がって下さい、貴方はもう少し落ち着きを覚えて下さい全く……。」
「うぁ…お、お邪魔します……。」
俯きガチなまま居間へと上がりアクアが粗茶を置くと、改めてゆんゆんと話す事に。
ずずずっと粗茶を渇いた喉に入れるゆんゆん、暫くの沈黙の後……俺を見上げ口を開く。
「えと…あの……カ、カズマさん!!」
「はいカズマです。」
ゴクリを唾を飲み込み緊張した面持ちで、尚且つ真剣な表情で俺を見つめる。
「……私、カズマさんとの……こ…子供……!!で、出来ちゃいましたっ!!」
「「「………は?」」」
え?
顔を赤くさせもじもじと俺をチラチラ見るゆんゆん、まさかまさかな事を言われ衝撃で固まる俺。
「「「はぁっ!?!?!?」」」
三人で机に乗り出し俺とゆんゆんを見比べる……嫌待ってくれ、誤解だ、違う、そんな事を思い付きはすれど先程の言葉の衝撃で口が言う事を聞いてくれない。
やがて黙りのままの俺達にガチな雰囲気を受け取ってしまったのか、何時の間に俺の背後に立って居たのかダクネスが縄で俺を椅子に括り付ける。
「ちょ…!ち、違う!!待て!!誤解だっ…!!」
「まぁ落ち着けカズマ……あぁ背凭れにヒビが……。」
「お、おおお前が落ち着けっ!?その力で俺に触るなよ……な!?」
と、アクアが揺ら揺らとしながら俺に近付く。
「失望したわカズマさん……カズマさんには今から、どんなにえっちな女性が目の前に現れても二度と機能する事の無い様に呪いを……!!」
「馬鹿言うなアクア!!ほ、本当に辞めて下さい!待って、待ってぇぇぇぇっ!?」
「待って下さい二人共!!」
ギリギリと言いながらロープも切れてしまい、俺の腕を破壊してしまうのではないかと思える程の力で椅子に押さえ付けるダクネス、そんな身動きが取れない俺にとんでも無い呪いを掛けようとするアクア……そんな二人に待ったを掛けるめぐみん。
流石天才魔法使いを名乗るだけあって違和感に気付いてくれた様だ。
少し考え込む様な格好をして居ためぐみんが顔を上げると、真剣な顔で俺を見詰め口を開く。
「カズマは、ゆんゆんとそう言う事をしたのですか?」
「してません!!断じてやってませんっ!!」
「成る程……ではゆんゆん。」
今度ほゆんゆんの方へと振り向きこれまた緊張した面持ちのゆんゆんに問い掛ける。
「ゆんゆんは、どうやったら子供が出来るのかご存知ですか?」
「そ、それ位知ってるわよ…!!」
「では、何を、どうやって……説明して貰えますか?」
とんでも無い気迫でゆんゆんに迫るめぐみん、そんなめぐみんにたじろぎながらも口を窄め唯でさえ赤い顔を真っ赤に目を光らせる。
「ちゅ……キ、キスしたら出来るんでしょっ!?」
「はぁ、それでは次は私の番です。クルセイダーの此方のマスへ……次はダクネスの番ですよ。」
「ふむ……では私もクルセイダーを此方へ……。」
先程の殺伐とした雰囲気は何処へやら、ゆんゆんが叫びながら入って来る前の雰囲気へと元通り。
ダクネスから解放されたひ弱な身体に『ヒール』を唱えながらどうしたものかとも考えてしまう。
まるで状況が理解出来ていないとばかりに頭にハテナを浮かべるアクアは置いてけぼり、話題の中心から外されたゆんゆんが助けを求める様に俺を見る……が、今ここで反応するのは色々と不味い。
ゆんゆんには申し訳ないが今はただお馬鹿な子になって貰うしかない。
やがて全身に『ヒール』を掛け終わろうとしたその時、お馬鹿であって欲しかったアクアが疑いの目で俺とゆんゆんを交互に見ながら一言。
「……キスはしたって事…?」
「良し逃げるぞゆんゆん!!」
「「「あぁっ!?!?!?」」」
何故こう言う時は気付くのか!!何故何時もは馬鹿なのか!!
『逃走』スキルをフルで発動し困惑していたゆんゆんの腕を掴み屋敷を飛び出す。
「えぇ!?カ、カズマさん…?」
「しょうがない、俺と一緒に愛の逃避行と行くか!!」
「あ、愛の逃避行……が、頑張ります…!!」
覚えてる限りの支援魔法を互いに掛けながら街中を走り抜ける。
そんな俺達に好奇な視線とヤジを受けながら、何処へ逃げたものかと考え……考え………ふと、彼奴等が絶対に来れないであろう気付かないであろう場所を思い付く。
裏路地の方へと脚を進めやがて人一人見えないであろう場所で止まり、ゆんゆんへ振り返る。
「良し、ついでに他の人にも報告しに行くか。」
「え?えっと…だ、誰にですか…?」
「ん?あぁ、もう一人の女神様……『テレポート』ッ!!」
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光に包まれた視界が段々と鮮明になっていき、見慣れた真っ白な部屋へと辿り着く。
この部屋の主を探すべく机がある方へと顔を向けると、机に置かれた資料を運ぶ途中だったのか山の様にある紙を抱えながら俺を唖然とした顔で見つめるエリス様がそこに居た。
「あれ?ここって……ん!?も、もももしかして…!!」
「よ、久しぶり。」
「………もう本当に頭が痛くなりますね。」
頭に手を置き困り果てた様に溜め息を付くエリス様。
見知らぬ場所に嫌でも目に入った存在である女神を視界に入れたまま、少し興奮気味のゆんゆんが辺りをチラチラと見渡す。
「一度だけお会いした事が有りましたね……改めて、私は女神エリスと言います。」
「え!?は、はい!!わ、わわ私はゆんゆんって名前で、え、えっとこ、此処は何処何ですか…?」
「此処は……本来生きた人間が来る事の出来ない、死んだ人間が送られる私達女神の仕事場……天界、の筈何ですが……。」
チラリとジト目で俺を見つめるエリス様、いやまぁテレポートで指定出来るのが悪いと思う。
「あの、その……お、お二人はどう言った関係性なので…?」
俺とエリス様を見比べ固唾を呑むゆんゆん。
さてどう言った関係……その答えは二つ、異世界人とその異世界人を送る派遣の様な関係、又は共犯者。
何時かは明かさなければいけないとは思いつつ、言うタイミングが今の今まで無かったゆんゆんは俺が異世界人だと言う事は知らない。
更に言えば俺をあの世界に送ったのはアクアでも無ければエリス様でも無く、名も知らぬ天使なのだ。
よってここでの俺とエリス様の関係はとある共犯者、その一言に尽きる。
「……ま、俺が色々とエリス様の手伝いをしてるんだよ……な?」
「え?あぁはいそうですね、カズマさんには色々と助けられています。」
「………その、もしかしてカズマさんって天界の人だったり…?」
と、何やら別方向の勘違いを初めたゆんゆん。
まぁ確かにここだけ聞いたら完全に只の人間じゃないよな。
「いや、れっきとした人間だよ……ゆんゆんと同……うん、同じ人間。ただ少しだけエリス様と交流のある人間だな、うん。」
危ない、紅魔族の成り立ちを知ってしまったが故危うく口を滑らしてしまう所だった。
「交流……そっか、だから魔王だって倒せたんだ……。」
まぁ違うけど否定はしないでおこう、そちらの方が後々楽そうだ。
と、俺とエリス様をチラチラとまた見比べ始めると今度は不安そうな表情で俺達に問い掛ける。
「あの、それじゃあ二人はかなり親密な仲なんですか…?」
「……フフッ…随分と可愛い彼女さんをお持ちですね?カズマさん。」
「まぁその為の報告ですから。」
そんな可愛らしい反応を見せるゆんゆんに近付き小さな頭を撫でてやると、顔を真っ赤にしながらも俯きつつ遠慮がちに頭を差し出す。
そうだ、彼奴等に自慢出来ないし街の奴らに自慢すれば彼奴等に情報が流れるし、初めての彼女が出来て浮かれ気分の俺の自慢したい欲が抑えられなかったのだ。
だからあの突撃訪問は予想外だったにしろ、少し利用させて貰おう。
そんな俺の魂胆が見え見えなのか、呆れ気味のエリス様……改め、親分に少し付き合って貰う事に。
「それじゃあこっちも改めて、コイツは……俺の彼女の______」