異世界南極条約~険悪五種族の冒険者たちが仲良く魔界を冒険するお話~   作:東雲佑

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10.異世界南極条約(完)

 魔界から出土する文書には、しばしば『地球』という名の異世界が登場する――ギンペーはそう語りはじめた。

 

「異世界なの?」

「ああ、完全に別の世界だ。なにしろこの『チキュウ』は球体の上に海やら陸やらがへばりついてるんだぜ? 異世界か、じゃなけりゃ駄法螺(だぼら)じみたファンタジーだ」

 

 ギンペーは続きを語る。

 

 球状世界『地球』にはもともと五つの大陸が存在していたのだが、ここにあるとき、六つ目の大陸である『南極』が発見された。

 五大陸と無数の島々の国家は(そう、地球という球体の上には百を超える国家がひしめいていたのだ)それぞれに第六大陸に関心を示したが、しかし南極は、地球人類にとっては生存すらおぼつかない過酷な環境を有していた。

 

「にゃんか、そっくりな話を知ってる気がするにゃ……」

 

 結局、南極は発見から百年以上に渡って特定の国の領土とはならなかった。調査隊の派遣は継続的に行われていたが上げられる成果は地道なもので、さらに、この百年の間には世界をバラバラにしかねない二度の大戦争があった。

 

 動きがあったのは、二度目の大戦が終結してから十数年後のことである。

 この頃、大戦争を生き残った世界は、大戦の中で生み出された『最終兵器』の脅威に震えていた。『最終兵器』を保有する国同士がにらみ合いを続ける中、いつその緊張が飽和して世界の終わりがおとずれるものかと、全地球が怯えていたのだ。

 

 そうした時代を背景に、南極にまつわるとある条約が締結されたのだ。

 

「ピガガ! ジョウヤク!」

「やっぱりこれ知ってるにゃ! 似てるにゃ!」

「わたしは、『最終兵器』というのが気になります。いったいどんなに恐ろしい武器だったのでしょうか……」

「世界を終わらせるような兵器だから、きっと想像もできないほどの威力だったはずだよね。たとえ小型でも」

 

 初期署名国となる十二カ国の協議により球状世界に生み出された多国間条約は、五種族の人類が暮らすこの世界で結ばれた条約とそっくりだった。

 ただし異世界で結ばれたそれは、『国家同士の相互不信』『各国の野心と打算』の産物であるこちらの世界の条約とは、根源にある精神がまるっきり正反対だ。

 

 たとえば、地球最後の大陸を誰のものでもない無国籍な大地として保護する為の『領有権主張の禁止』。

 たとえば、最終兵器をはじめとする兵器開発とその実験に待ったをかける『軍事利用・軍事行動の禁止』。

 そして、対立する国同士の調査隊員にも南極大陸内においての自由な交流を保証した『科学的調査の自由と国際協力の促進』。

 

 緊迫する世界情勢の中で結ばれたその条約は、国際的な平和と協調への祈りで満たされていたのだ。

 

「……その素敵な条約に、なにか名前はあったのかい?」

「あるよ。そのまんまシンプルに、『南極条約』だ」

 

 

   ※

 

 

 休憩を終えた五人がダンジョン探索を再開してから、三十分ほど経っていた。

 パーティーが2Fフロアへの接続通路である『エスカレーターホール』に辿り着いたとき、そこにはすでに他の2パーティーの面々が揃っていた。

 

「第一さん、第二さん、お疲れ様です」

「おお、第三も来たか」

「うっす、おつかれ」

 

 五人を代表して声をかけたタローに、難しい顔で相談を交わしていた二人のリーダーが反応する。

 第一・第二パーティーともにリーダーは人間族で、メンバー構成もタローたち第三パーティーとほぼ同じだ。

 どちらのパーティーもペンギン族の代わりに前衛のケモミミ族を一人増やしているという点を除いて。

 

「第三も上のフロアに進むつもり……なぁ、そっちのネコミミの子、なにかあったのか?」 

 

 型どおりの挨拶を交わしたあとで、第二パーティーのリーダーが案じる顔つきとなって言った。

 タローの背後では、号泣しているマオをエンジェラとP3COが慰めている。

 

「いえ、ちょっと前に摂取した成長アイテムの副作用で……たまにこうして生前のオジキを思い出して悲しくなっちゃうんです」

「そうか……魔界のアイテムは思いも寄らない状態異常(バッドステータス)を引き起こすからな。大丈夫なのか?」

「はい、ご心配には及びません。どんなに深い悲しみもいつかは必ず癒えますから。

 それよりも……みなさんお揃いで、なにかあったんですか?」

 

 タローが話を振ると、二人のリーダーは途端にまた難しい顔を取り戻した。

 

「俺たちも第二も、そろそろ一階の探索は切り上げて二階に上がろうと考えててな」

「それでここに来たんだが……ほら、見えるかあれ」

 

 そういって指さされた先は、エスカレーターを登ったすぐ先。

 二階フロアの入り口に、大型のこじらせ系(ミュータント)モンスターが鎮座していた。

 

「俺たちがこの階段を上ろうとすると、あのモンスターが突風で押し戻してくるんだよ」

「それ以外の攻撃はしてこないんだけどな。しかし何度試しても突破もできないもんだから、こうしてむざむざと立ち往生してるってわけだ」

「――なるほど、話は聞かせてもらった」

 

 そこで、それまで黙って聞いていたギンペーが会話に参加してきた。

 ペンギンの伊達男は周囲の地形と上階のモンスターを鋭く一瞥したあとで。

 

「まずあのモンスターだが、姿形や行動の傾向からしてスフィンクスと見て間違いないだろう。問いかけに対して正しい答えを示せない者の前に立ち塞がる番人だ」

 

 おお! っと二人のリーダーが声を揃える。

 ギンペーはさらに続ける。

 

「次に、あんたたちが階段と呼んでいるこれは、正しくは階段ではなくエスカレーターという代物だ。現在は稼働していないが、本来は自動機構によって利用者を労力なく運搬する昇降機でな。

 で、これらのことを総合して考えると……」

 

 わずかに数秒考えを巡らせた後で、結論を口にする。

 

「奴は過剰なエスカレーター・マナーを他者に強要した者の成れの果て……名付けて呼ぶならば、さしずめ『エスカレーター・スフィンクス』といったところか。

 あんたたちは『エスカレーターでは歩かない』という禁忌に触れていた、だから通行を許可されなかったんだ」

「そ、そういうことだったのか……!」

「では、突破のためにはどうすれば!?」

「そうだな……まずは三人のロボの力を借りて一時的にエスカレーターを再稼働させる。無事エスカレーターが動いたら、誰かがマナーを遵守しつつ上にあがるんだ。それを目の当たりにした瞬間、スフィンクスは存在意義を見失って自滅するはずだ」

 

 作戦はすぐさま決行される。

 3パーティーのロボ族が電力を供給すると、エスカレーターはほどなくして本来の力を取り戻した。

 模範的利用者となる役目には第一パーティーのリーダーが手を上げた。

 

 危険な任務に挑まんとする男に、最後にギンペーが念押しする。

 黄色い線の内側に立て、しっかりと手すりにつかまれ、そして左側は急いでる人の為に空けておけ……と。

 

 緊張の十数秒後、人間族の男は見事巨大ダンジョンの2階フロアへと降り立った。

 次の瞬間、断末魔をあげて滅びていくスフィンクスとは対称的に、十五人の人類は快哉を叫んだのだった。

 

「すごいぜ……! 流石は賢者の種族だ! やっぱり、ペンギン族抜きでダンジョンに挑むなんて――!」 

「無謀だった、とか?」

 

 興奮した口ぶりの第二リーダーにタローが言った。

 その言い様に、エンジェラがくすっと吹き出し、いつの間にか泣き止んでいたマオがにゃふふんと笑い、P3COがディスプレイにニッコリマークを点滅させる。

 

 そんな仲間たちにやや遅れて、ペンギンの伊達男はクールかつダンディに笑いながら、「やれやれ」と肩をすくめた。

 

 

   ※

 

 

 ギンペーが語ってくれた『南極条約』の物語は、仲良し五人組の絆をさらに深めたようだった。

 

 物語の中でみんなが特に気に入ったのは、球状の異世界においてその条約が成立する直接のきっかけとなったのが、南極大陸の調査研究隊員たち――冒険者たちの起こした運動であったという点だった。

 

 

【1959年、核戦争の脅威が高まり続ける冷戦のまっただ中に南極条約は締結された。条約締結の機運を高めたのは、それに先駆けて南極で行われた科学調査隊による国際協力プロジェクト『国際地球観測年』の成功である。】

 

 

 この物語はなかよし五人組を大いに触発して、少しばかり大それた夢を彼らに語らせた。

 いつか自分たち冒険者の手で、魔界大陸の条約にも第四条を付け加えてやろう、と。

 

 いまはまだ夢でしかない四条目の条項は、ズバリこうだ。

 

 

 ――第四条.魔界大陸における種族間の交流・協力は、制限されることなく自由に行ってよい。

 

 

 

「ねぇギンペー」

「なんだ?」

「もしもこの先、魔界人類の生存者が発見されたら……そしたらその誰かとも、こんなふうに国も種族も関係なく仲良くなれるかな?」

「ふっ、バカヤロウ。

 

 ――そんなもん、当たり前じゃねえか」

 

 

【2025年現在、発足時にはわずか十二カ国からスタートした南極条約には五十八カ国が名を連ねており、加盟国の数はいまもなお増え続けている。】

 

 

 

 

 

異世界南極条約/完

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