異世界南極条約~険悪五種族の冒険者たちが仲良く魔界を冒険するお話~   作:東雲佑

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4.功徳と肉と読書と改造、あと運動して寝ろ。

「どうぞギンペーさん、オキアミの佃煮です。マオちゃんにはお肉多めで、タローさんにはおにぎり。このオイルボトルはPさん用のですよね?」

 

 芝生に広げたレジャーシートの上で、エンジェラがランチボックスの中身を紙皿に取り分けている。

 

 アーケード街で依頼(クエスト)目的を達成したあとで、五人は近くにある『トコロザワシミンコウエン』に移動していた。

『ダサイタマ』はエリア面積的には小規模なセクターだが、その狭い範囲の中に盛りだくさんのロケーションを抱えているのだ。ここから徒歩十分ほどの場所には『ナガトロ・キャニオン』という風光明媚なフィールドダンジョンも広がっている。

 

「ありがとうエンジェラ」

「サンキューにゃん」

「ピガガ、チョウダイシマス」

 

 手渡された料理や合成燃料を各人は礼を言って受け取るが、しかしエンジェラを手伝おうとする者や、はたまた「そんなことしなくていいよ」と止める者は一人もいない。

 こうした甲斐甲斐しい振る舞いが、結果的には彼女自身の為になることを知っているからだ。

 

「エンジェラ、さっきは守ってくれてありがとな」

 

 味の染みたシスコ・オキアミを割り箸でつまみながら(フリッパーでどうやって箸を握っているのだ?)、ギンペーが言った。

 

「……だが、あんなことはもう二度としてくれるなよ? あれでもしお前さんに怪我でもされてたら、そのときオレやP3COがどんなに悲しい気持ちを味わうか、少しは察してみろ」

「……はい、ごめんなさい」

 

 真剣なトーンのお説教に、天使の少女がしゅんとした顔になる。

 そんなエンジェラの様子にギンペーは、「しかし正味な話ありゃたすかったぜ! なぁPの字!」と、一転して朗らかな口調で場の空気を切り替えた。

 

 お説教やお小言を言っても、相手が反省したと見れば必ずフォローを入れてくれる。それがみんなの兄貴分(メンター)ギンペーあんちゃんなのである。

 

「ソーデス! エンジェラサン、Thanks(さんくす)、アリガトデシタ!」

「うにゃうにゃ。誰も怪我しなかったし、結果オーライだにゃん」

「そうそう。それに結果オーライといえば、嬉しい誤算もあったんだろ?」

 

 タローが言う嬉しい誤算とは、例の『功徳(くどく)』のことだ。

 天使族には善行を積むごとに加算される『功徳』と呼ばれる種族固有パラメーターが存在する。

 他者への親切や自己犠牲的な行動によって獲得されるこのポイントは、天使族の代名詞たる法術の使用に必要となるほか、レベルアップやスキルの取得にも使われる万能のリソースなのだ。

 

 身を挺して仲間を守ろうとした先ほどの行動は、かなりの高功徳をエンジェラに積ませたのである。

 

「今回は回復(ヒール)も使ってにゃいし、功徳マル儲けだにゃん!」

「……どんな功徳も裸足で逃げ出しそうな生臭え台詞だが、確かにそういうことだな。消耗がなかったぶん収支はまるごと黒字、しかもぶっとい黒字だ」

「ねぇエンジェラ、もうかなりの功徳が貯まってるんじゃないか? ほら、この前俺の為に大事な(クレイン)を使ってくれた、あのときにもまとまった量が入ったんだろ?」

 

 そろそろ使い道を考えてもいいんじゃないか?

 そう水を向けたタローに、エンジェラは唇に指を当てながらしばし考えを巡らせて。

 

「んー……やっぱり、もう少しだけ貯めておこうと思います。新しいスキルやレベルアップは魅力的ですけど、いざってときにみなさんを助けられなかったら悲しいですもん。

 個人的な成長や達成よりも、わたしにとって大事なのはみなさんですから」

「にゃあああ、一言ごとにさらなる功徳を積むつもりにゃのかお前はぁぁぁあ! うちのエンジェラはこういう子にゃんですぅぅぅ!」

 

 マオがエンジェラに抱きつき、親友の黄金色の髪をわしゃわしゃとなで回す。天使の少女が嬉しそうにきゃーと悲鳴をあげる。

 

 ところでいまのマオの発言は、いみじくも真理の一端に触れていた。

 天使族の功徳システムは偽善の心を明確に見抜く。つまり、善行を施した際に『へへへ、これでポイントゲットじゃあ!』みたいな不埒なことを考えていると、獲得される功徳量はその下心の分だけ減算される。

 反対に、エンジェラのように無心で親切や善行を行う者には、功徳獲得量にプラスの補正がかかる。

 

 要するに、エンジェラが人よりたくさん功徳を積む優秀な天使である理由は、突き詰めて換言すれば『エンジェラがこういう子だから』というマオの言葉に行き着くのである。

 

 

   ※

 

 

 天使族のそれはいましがた説明した通りだが、この世界において、人類の成長の仕組みは種族ごとにまったく違っている。

 たとえば。

 

「そんじゃま、小鳥ちゃんの分までお前さんにレベルアップしてもらわんとな。そういうわけだマオ、もっと肉食え、肉」

「うにゃああ、それシスコの牧場で飼ってる養殖ハムスターの肉だにゃ! それ食ってももう経験値入らないにゃ!」

 

 食事のたび、仲間たちはやたらとマオに肉を食べさせたがる。そこには『マオはメシを美味そうに食うから』という以外に、もう一つの理由がある。

 ケモミミ族は肉を喰らうことにより成長する種族なのだ。倒したモンスターや家畜の肉を食べることで彼らはレベルアップやスキルの獲得を行う(正確には同じケモミミ族でも、ネコミミ・イヌミミは肉を、ウサミミは草・野菜を食べることにより)。

 それ以外の方法ではケモミミは成長しない。

 まさに、You are what you eat――あなたはあなたの食べたものでできている、なのである。

 

 他にも、以前にも少しだけ触れたが、賢者の種族であるペンギン族は書物を読むことにより能力を伸ばす。

 ロボ族はボディの強化改造およびパーツの換装によって性能アップや機能の変更を行う。

 

 最もオーソドックスな成長システムを有するのは人間族で、彼らはモンスターとの戦闘から直接経験値を獲得する。十分な経験値を積んだうえで一晩ぐっすりと眠ることにより人間族はレベルアップするのだ。

 寝る子は育つ、である。

 

 

 五種族の人類はそれぞれの仕組みと方法で自らを強化する。

 危険な魔界大陸の攻略を進めるために。

 

 だが、ならばその『魔界攻略』それ自体は、いったいなんのために?

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