Super Alchemy Dog -DEN-   作:フォーゥメノゥアーケミスツ

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めでたしめでた……あれ?

 吾輩は犬である。名前はデン。メス。

 ここが「鋼の錬金術師」の世界だとわかったとて、吾輩は犬である。真理を見たと言えど、錬金術が使えるようになったといえど、犬は犬。言葉も届けられなければ危機を知らせることもできぬ。というか今がいつかわからぬ。

 イシュヴァール戦役は始まっている。が、吾輩が「おーとめいる」になったのがつい最近のことで、この金髪兄弟の帰りも最近で。

 原作においてはその内乱が終わった二年後に人体錬成をするはずである。

 

「水35L、炭素20㎏、アンモニア4L、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素……」

「それが、大人一人分として計算した場合の人体の錬成成分、なのね」

「おう。だが、ここまで判っているのに実際に人体錬成に成功した例は報告されてねえ。"足りない何か"がなんなのか、何百年も前から科学者が研究を重ねてきて、それでも未だに解明できてないんだ」

 

 吾輩、聞いたことのある台詞に耳がピンと立ってしまったである。

 しかもそれを金髪兄弟だけでなく「うぃんりぃ」までもが言っている。それが……とても恐ろしい。

 

 なんとか思考を中断させる。そのつもりで「うぃんりぃ」に飛びかかろうとして。

 

「……けど、これで錬成された人は、いつのその人になるの?」

 

 その言葉に、止まった。

 

「いつ……ってのは?」

「そのままの意味だけど。……たとえば、あたしのご先祖様を人体錬成するとするじゃない。その人を示す情報がなんだっていいなら、あたしの爪とかでも良いわけでしょ」

「まぁ……それだと情報が足りなくなるように思うけど」

「でもそれって、いつのご先祖様が錬成されるの? 全盛期? それとも死ぬ直前? 生まれた直後? あ、大人一人だから……成人した時、とか?」

 

 それは「うぃんりぃ」の素朴な疑問。あるいは彼女が「おーとめいる」技師であるから、かもしれない。

 年齢と共に「おーとめいる」も変えて行かねばならない。成長しないそれには常に個人情報が付き纏い、もし付け替えたものを残しているのなら、彼女らであれば「いつ頃使っていたおーとめいるであるか」もわかることだろう。

 

 彼女の問いに。

 金髪兄弟は……呆けた顔をしている。

 

「……死ぬ直前、だとしたら……もう一度殺すだけ、か」

「それって、ボクらが殺したのと同じだよね……」

「大人一人分っていうけど、個人差は絶対あるでしょ。男女じゃ内臓も違うんだし。そう考えると、子供の時に手足を失った人を人体錬成したら、それが生えた状態で錬成されるの? あと、記憶は? 死ぬ直前以外が錬成されるんなら、そこから死ぬまでの間の記憶は失われちゃうの?」

 

 怒涛の疑問である。彼女がまだ錬金術について素人だから、という部分は大きいのだろう。

 それでも、そういう「別角度からの視点」は……金髪兄弟にとって新鮮なものであったらしい。

 

 二人はうわ言のように言葉を漏らす。

 

「なぁ……アル。もし……母さんが錬成できたとして」

「うん。……病気の時の母さんなのかな。それとも、父さんと出会った時の……ボクらのことなんか知らない母さん?」

「あるいはクソ親父とすら出会う前の……何も知らない女性、ってことも、あんのか」

 

 困った顔で。泣きそうな顔で。

 二人は頭を掻いて……何度も何度も言葉を零して、確かめ合って。

 

 そんな二人を見てか、「うぃんりぃ」はばつのわるい様子を見せた。

 

「ごめん。……あたし、変なこと言っちゃって」

「いや。……必要な気付きだった。少なくともオレたちは、もう一度母さんに病気で苦しんでほしいなんて思ってねぇ」

「ボクたちのことを知らない母さんに会うのは……怖いよ」

「……二人は、トリシャさんを蘇らせようとしてたんだ」

「ああ。けど、今そうやって言われて、考えが変わった。少なくとも病気に罹る前の母さんで確定させることができない限りはやっちゃダメだ。そう思える」

「うん。それに、そう考えると"足りないものが何か"も……少しわかる。むしろ"足りないものだらけ"なんだって」

 

 お……おお?

 まだ危うさはある。人体錬成を諦めてはいない。だが、少なくとも確実に踏みとどまった気配はある。

 吾輩が何をせずとも、だ。

 

「ウィンリィは? ……サラさんとユーリさんのこと」

「馬鹿にしてんの? あたしは医者の娘よ。人が蘇らないことなんて、あたしが一番よくわかってる。っていうか、アンタたちがいつも言ってることじゃない」

「オレたちが?」

「錬金術は現実の科学の延長線上にしかない、んでしょ。医学だって現実の科学の一つで、その延長線上に死者蘇生があるとは思えない。それに……」

 

 こちらを振り返る「うぃんりぃ」。手招きはされていないけれど、触りがっている気配を察知して……寄り添いにいく。

 

「感情とか心とか、記憶とか。……そう簡単に再現できちゃったら、今こうやって苦しんでるあたしが馬鹿みたいでしょ」

「……」

「……」

 

 再度ぽかんと呆ける兄弟。

 よくぞ言った。「うぃんりぃ」の成長に吾輩は鼻高々である。犬なので元から鼻は高いのだが。

 

 感情も心もたかだか電気信号の一つだと宣う者がいるが、本当に馬鹿を言えである。

 勿論その側面もあろうが、それだけではないからヒトは笑うし泣くし怒るのだ。

 吾輩はそう信仰している。

 

「……っし、アル!」

「……うん、兄さん」

「びっくりした、何よいきなり大声出して」

「これ以上突き放されるわけにゃいかねえからな。もっともっと勉強しなきゃいけねえってなったんだ。……んで、ウィンリィ。オレたちに機械鎧の話、もっと聞かせてくれ」

「正直に言えば、さっきまでは……錬金術のために機械鎧を学ぶつもりだった。けど、そうじゃないんだ。ボクらはどっちもちゃんと知らなきゃいけない。錬金術も、機械鎧も、そして……医術も」

「オレたちにも、お前と同じ道を歩ませてくれ」

 

 それはもう告白であるが。

 ……とはいえ幼年。金髪兄弟も「うぃんりぃ」も遠回しな告白を告白として捉えるアンテナは有していない様子。

 

 ただそこには、決意だけがあった。

 

「つか、そもそも生体錬成も碌に学ばずってのがあり得なかった。そこも詰めていかねーとな」

「……あんたたちって、本当にいつもそうよね。勝手に悩んで勝手に納得して……。振り回されるこっちの気持ち、考えたことあるの?」

「う。それは……すまねえ」

「でも、そうじゃないとあんたたちらしくないか。……医者になる、なんて……もしこの場だけの軽い言葉だったら、あたし許さないから」

「わふ」

 

 いやぁ僥倖僥倖。

 まさかこんなにも早くすべての懸念が解消されようとは。

 めでたしめでたしとはまさにこのことだ!

 

 

 

 

 とはならなかった。

 

「失礼。私はアメストリス国軍大佐、ロイ・マスタングという者で──」

「帰んな。軍人に開ける門戸はないよ」

 

 どこから噂が漏れたのか、どんな噂が漏れたのか。

 この田舎も田舎なリゼンブールに彼がやってくる。

 

 しかし、吾輩のことで「軍人がおかしな真似をした」と考えている「ろっくべる」家の人々、及び金髪兄弟がそれを取り合うことはない。

 

 ──そう、思っていた。

 

「待ってくれ、ばっちゃ」

「エド、奥に行ってな」

「あの場で……納得こそしたけどよ。デンをあんな目に遭わせたやつのことは、知っておきてえんだ」

「エド……」

 

 くぅん……。既にあの気づきの日からそれなりの日数が経っている。

 そこへ来てのこれ。国家資格を取得しなければ人造人間に見つかることもないし、扉を開けていないので監視がつけられることもない。加えて人柱が足りないだろうから国土錬成陣自体発動しないのではないか。

 そう楽観視していたのだが……これは。

 

「話が見えないのだが……」

「……わかった。茶くらいは出してやる。……だが」

「ああ。アル、頼めるか」

「うん。ウィンリィは絶対に近づけさせないよ」

 

 まぁ、それが妥当か。彼女にとって軍人はトラウマだろうから。

 

「おいで、デン」

「わん」

 

 この話し合いが、果たしてどうなるのか。

 

 

 

 結果らから言うと、金髪兄弟も「うぃんりぃ」も国家錬金術師にはならなかった。

 国家錬金術師は軍の狗。原作で「ますたんぐ」が彼らを国家錬金術師に推薦したのはあくまで手足を取り戻す一助となれば、という思いからのことであり、「飼い犬の足を奪ったやつを知りたいから」という理由ではダメだったらしい。

 良いことだ。ただしそれはそれとして「ますたんぐ」がそれらしい噂を集めてくれると約束したのだとか。「ぴなこ」や金髪兄弟は「良い軍人もいるのかもしれない」と言っていたけれど、吾輩からすると恐怖しかない。

 なぜ? 現時点の兄弟、あるいは「うぃんりぃ」にどうしてそこまでの価値を見出す。

 それとも……吾輩が人柱候補になり得るとわかっている、とか?

 

 そんな考えがぐるぐると頭を巡り、ここ最近は食事もままならなくなっていた。

 

 恥ずかしい話だが、「うぃんりぃ」たちはそれを老いではなく病気と捉えたらしい。すぐにいくつかの検査をされ、しかし首を振られ……であれば、と。

 

 兄弟と「うぃんりぃ」の夢のことも兼ねて、近くの小さな町にいるという生体錬成に長けた医者に吾輩を診せに行く次第となった。

 

「わぅん……」

「ふむ……。怪我や病気の類ではないね。ただ、気分……そうだな、人間でいうところの、落ち込みや恐怖に近いものが彼女を占有しているように見える。たとえばそう……最近は抱きしめてあげられていないだとか、彼女を疎かにする時間が増えただとか、そういうことに心当たりはないかな」

「……あります。最近は……我慢しててね、っていうことが……増えた、かも」

「すまねえ、オレたちの覚えが悪いから……」

 

 そっちに行くのかー、となった。

 違うのだ、落ち込むな「うぃんりぃ」よ。吾輩はそういうことで悩んでいるわけじゃ、

 

「あ……あの、マウロ先生」

「なにかな」

「その……ボクたちに生体錬成のことを教えてほしいんです。その、不躾なことだってわかってますけど……」

 

 マウロ。そう呼ばれた優しい目をした医者は、しかし途端に眼光を鋭くさせる。

 

「私が生体錬成に詳しいと、誰から?」

「噂で。……隠していたってんなら、すまねえ。オレたちは……デンの診察も勿論だけど、それ目当てで来たんだ。これ以上触れてほしくない話題ならやめるよ」

「噂……そうか、噂になってしまっていたのか。隠れてやっていたつもりだったのだが……」

 

 マウロ。……あ、ティム・マルコーか。

 だとするとここ、相当危ない場所か? 彼を連れ戻すためなら、人柱候補ですらない錬金術師見習いの子供三人なんていともたやすく蹴散らされておかしくない。

 

「……いや、構わない。生体錬成を覚えたい理由は……教えてくれるかな」

「オレたちは三人で医者になるんだ。医術の面からも生体錬成の面からも機械鎧の面からも、すべての面から患者を助けられる医者に」

「そのために今勉強をしていて」

「わかった。そういう素敵な理由ならば、構わない。ただできることならこれ以上私に生体錬成の腕があることを吹聴しないでほしい」

「勿論だ」

 

 ま、まずい。何分良い人だから余計にマズい。

 

「ウゥ……grrrrrRR……」

「っと、落ち着けよ、デン。さっきの話を聞いてウィンリィまでとはオレたちも思わねえさ。……オレとアルは、医療に関しちゃウィンリィよか大分遅れてる。そこの溝を埋めるためにはこうやって師事するのが一番だ」

「ウィンリィに教えてもらっていると、ウィンリィが学べないからね。……ウィンリィも、それでいい?」

「あたしに許可取ることじゃないでしょ、それ。……でも確かに、最近デンに構ってあげられなくて……寂しい想いをさせちゃってたんだなって思ったから。……あたしのスパルタが嫌でマウロ先生のとこに、ってわけじゃないでしょうね」

「ち、違うよ!」

「ははは……私もスパルタかもしれないよ」

「どんとこいだ。スパルタ具合で言えば師匠(せんせい)に勝ることはねぇだろうし」

「確かに……」

「話に聞く限りじゃあんたたちの師匠(せんせい)ほとほと化け物みたいなんだけど」

「間違っちゃいけえよ」

 

 とんとん拍子に進んでいく話。

 吾輩は……「うぃんりぃ」さえ守れたらそれでいい。だが、金髪兄弟が失われても「うぃんりぃ」はまた泣くだろう。「ゆーり」と「さら」を失い、吾輩まで失いかけて、この兄弟も、など。

 耐えられるわけがない。

 

 何か……何か策を講じておくことはできないのか。

 

 何か──。

 

 

 

 列車に揺られて窓の外を見る。

 

「エドとアルが恋しいの?」

「くぅん……」

「大丈夫。前と違って今度は近いし、噂も届きやすいでしょ」

「わふ」

 

 結局何もできなかった。

 人造人間たちの石像を錬金術にて作り出す、なんてことも考えられたけど、そんなことをすれば危機感を覚えることを通り越して吾輩たちと人造人間の関連性を疑わせることになるだけだ。

 そうなったが最後、兄弟の欲する知識は遠のく。

 

 見守るしかない。原作と同時期までは少なくとも見つかることは無いと……そう信じて。

 

「帰ったら一緒に勉強しようね、デン。あいつらに置いていかれないためにも」

 

 願わくは、何事もありませんように、と──。

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