MTG版TCGホビーアニメ(システムに欠陥あり) 作:名無しのプレインズウォーカー
本当はこっちを2話にしようとしましたが、使用デッキが面倒なのと、書いててストレスがたまったので一旦お蔵入りしたものです。なので冒頭は1期から2期の間のイメージですが、ゲームプレイ自体は1期途中でやっています。
変なデッキを使ってるので、プレイ面やルール面で間違っていたら教えてください。
「先輩、もう帰りですか? もう一戦やりましょうよ」
「ダメです。札姫ちゃんも帰りなさい」
「え〜。ならウチに泊まっていってください」
「あのね。高校生は勉強しなきゃいけないんですよぅ。将来の自分の食い扶持は、自分で稼がなきゃいけないんですから。デスクワークができる程度の学力を身につけるのは大変なんですぅ」
「先輩ならMTGのプロになって稼げますって! ここでさよならを言うより、ウチでおはようを言いましょう」
「あ〜もう! 離しなさい!」
ダル絡みをして覆いかぶさって来る札姫ちゃん。相変わらず中学生とは思えない身体だ。頭に乗っかる、あるいは挟まれる形になるのだが、服越しでも明らかに感触が違うし、そこだけ重い。
光の加減によっては、微妙に青く見えるロングヘアが私の顔にかかる。当然のようにほんのり甘そうな、いい匂いがする。手入れ大変だよね、絶対。自分は面倒で、美容室で他の髪型を薦められても断固としてショートだもん。
ベースが白で、所々黒い髪が生えてる自分とは色々と真逆である。体臭だってこんなんではあるまい。
今ではこんな仲だが、最初はマトモに話すことすら出来ず、警戒心MAXの野良猫のようだった。特に歩夢くんが絡むと、その時は良くても後が酷かった。
「かわいいなぁ。かわいい」と、うわごとのように呟く札姫ちゃんに抱きしめられるワタシ。
彼女に揉みくちゃにされながら、どうしてこうなったんだと、きっかけになったトラブルを思い出していた。
札姫ちゃんが鮫トレの現場を見て、義憤に駆られて返してもらうために挑んだ所、見事アンティ勝負に負けたのを見た。
生憎『レガシー』にデッキは家に置いていて、『モダン』のデッキしかなかったが、流石に見なかったことには出来なかった。ちょうど『レガシー』のサイドに入れずにいた『否定の力*1』をストレージに入れていたため、今度はそれを餌に私が挑んでいる。
目の敵にされていても、歩夢くんの幼なじみがやられるのは気分が悪い。それに彼女は勘違いしてると思うんだ。
歩夢くんにそんな気はありませんって。人の恋路を邪魔してウマに蹴られる趣味はないですよぅ。
「ワタシがお願いしたことなので、先攻はお譲りしますよ」
「殊勝だね。今更何言っても条件は変わらないけど。キープだよ」
「そうならないように精々頑張りますよ。キープで」
相手が片付けていた時に、チラッとショックランドが見えた。となると相手も『モダン』相当だから、何とかなると思うんだけど。こればっかりは運もある。仕方がない。
だからこそ、こういうのが不思議でしょうがないんだよね。どんなに強くたって、負ける時は負けるんだもん。
「『神聖なる泉*2』をショックイン。『ミシュラのガラクタ*3』を0マナで、2枚出す。アーティファクトが2枚あるから青1マナから『湖に潜むもの、エムリー*4』。出た時の効果でトップから4枚カードを墓地に送る。『ミシュラのガラクタ』をサクッて、そっちのデッキトップを見るよ。おっと、これ3枚目だね。失礼。へー。緑主体のビートダウンデッキかな? ターンエンド」
「すいませんが墓地の確認をさせてください。あと勝手に他人のデッキに触るのは、やめた方が良いと思いますよ。宣言されれば自分に見えないように、トップ位公開しますから」
「え~、でもすり替えとか怖いじゃん? 次からはそうするよ。 墓地確認ね。まぁいいよ。どうぞ」
「なら3枚目からカードを弾きながら見るのは、やめてもらえます? カードが傷つくんで」
「悪いね。トップ取り損ねちゃって」
粘着質な笑みを浮かべている。断りもなくデッキを触った挙句、恐らくわざと間違えて3枚目のカードを開けたのだろう。そこからカードパチパチ弾きながらトップまで見た。そして墓地のカードを手渡す時、わざわざ手を触りながら手渡してきやがった。気持ち悪っ! 女とみれば見境なしか。ここまで露骨だと演技でやってるんじゃないかと思う。
それはそうと墓地のカードに『飛行機械の鋳造所*5』があった。 恐らく『ソプターコントロール』か。あるいは『ウルザソプター』と言うべきかもしれないが。『親和』じゃないなら十分間に合う。札姫ちゃんもしばらくゲームは出来てたっぽいし。
「ではターンもらいますね。アップキープに『ガラクタ』のドローの解決どうぞ。ドローからメインフェイズ。」
「はいはい」
それと先攻1ターン目なのになんで『ガラクタ』をさっきのメインで起動した? 1ターン目にピーピングが飛んでくると、見られる手札が増えるから、大体は後攻のアップキープに使うのが定石だ。『暗黒の儀式』からの『オークの弓使い』でも警戒したのか。
ドローは『若き狼』、悪くない。でも出番は後だ。今の手札だと『致命的な一押し*6』も『エムリー』に当たらないから手を進めよう。
「『草むした墓*7』をショックイン。『緑の太陽の頂点*8』。X=0でキャスト。通ります?」
「なんだそれ?」
「勝手に触られたくないので口頭で説明しますね」
カードに確認しようと伸ばしてきた手をテーブルに押さえつける。努めて平常心で話しているが、苛立ちは隠し切れてないだろう。プレイは何時もより気を付けてやらないと。
「効果は支払ったX以下のマナコストを待つ緑のクリーチャーをデッキから探してフィールドに出します。その後唱えた『緑の太陽の頂点』をデッキに戻してシャッフルします。今回ですと0マナの緑のクリーチャー出てきますね」
「……ふーん。いいよ? でも0マナの緑のクリーチャーなんているの?」
「X以下のクリーチャーを探すなので、見付からなかったことにするのも適正ですが、今回は緑の0マナのクリーチャー、『ドライアドの東屋*9』を戦場に出します。このカードは緑の1/1のクリーチャーであり、緑1マナを出す土地です。そのため土地でありながら召喚酔いの影響を受けます」
「よく分かんないけど『ラノワールのエルフ』出したようなもんね。何もないならターンもらうよ。ドローして『島』をおく。早速『エムリー』の効果を使うよ」
「どうぞ」
『
「『エムリー』をタップして墓地の『ソプター』を唱える。で、『ガラクタ』起動。トップ見せて」
「っ……」
「これですね。確認どうぞ」
相手にだけ見えるようカードを捲る。後ろで札姫ちゃんが息をのんだのが分かった。言いたくても相手のデッキを公言するのは良くないから、言いたくても言えないのだろう。
ループのキーパーツだもんね。嫌になるのも分かるよ。
「じゃあ。ターンエンド」
「アンタップ、アップキープにスロートリップを解決してください」
「んじゃドロー」
「ドローしてメインフェイズ。……緑のビートダウン、ね」
間違ってはいないが、今引いたこれを見てそう考えるとなると、このデッキを知らないのだろうか。『若き狼』だけならともかく、こっちは割りと特徴的なカードのはずだ。
「『森』を置いて『東屋』と『森』から『根の壁*10』」
「いいよ。てか、このターン何もないから」
「そうですか。では『草むした墓』から黒。『根の壁』に0/-1カウンターを置いて緑を出して『毒物の侍臣、ハパチラ*11』を出してターンエンド」
「ビートダウンデッキがそんなのんびりしていいのかなぁ? 『フラッドファームの境界*12』置いて、2マナで『弱者の剣*13』」
「どうぞ」
重要カードである『ハパチラ』出したのに反応は芳しくない。なら間違いなく知らないだろう。これで三味線を弾いているのならワタシの完敗だ。授業料として『否定の力』1枚くらい、安くはないがしょうがない。
しかし『弱者の剣』か。雰囲気的に最後の1枚は持っているのかもしれない。『ソプターコンボ』部分だけなら、このデッキは結構なんとかなる。
「ターンエンド」
「……ターンもらいます。ドローからメインフェイズに入ります」
『エムリー』の効果を使わなかった。理由があるのかもしれないが、ほぼ100%舐められてるね。これ。じゃあ持ってるんだな。最後のパーツ。
「あのカードは! その……」
「分かってるよ。札姫ちゃん。『飛行機械の鋳造所』が1マナで『弱者の剣』を生贄に捧げると、1/1の『飛行機械トークン』が出てきて、それに反応して墓地の『弱者の剣』が反応してまた場に出る。『飛行機械の鋳造所』はタップ能力じゃないからマナが続く限りループ出来る。いわゆる『ソプターコンボ』」
「知ってたの!? でもそれだけじゃ……」
「そこに『最高工匠卿、ウルザ*14』がいると青の無限マナ、無限ライフ、無限トークンが成立するんだよね。あと『ウルザ』が5マナでデッキをシャッフルした後、デッキトップを開示してそれを無料で唱えられるから、無限マナがあればデッキの呪文を全部唱えられるってコンボ」
「へえ? 知ってるんだ」
「『ソプターコンボ』自体は昔からありますし、『アイアンワークス』でたまに採用されていましたからね。必要パーツが多い上にオーバーキルだったのと、その枠に潤滑剤や防御札入れた方が強いということで、トーナメントシーンでは採用されない場合が多かったですけど。そのあと『クラーク族の鉄工所』が禁止になって完全に消えましたし」
『弱者の剣』禁止解除後もイマイチ活躍できなかったが、『モダンホライゾン』登場の『ウルザ』がエンジン部分になり、『ウルザ』の単体性能そのものが優秀だったから復活したデッキタイプだったはず。『オーコ』との嚙み合わせが良すぎたのも原因だけど。
「こっちはこっちでやるしかないよ。札姫ちゃん。『新緑の地下墓地』を置きますね」
「……! フェッチランド」
男の目の色が変わった。今更フェッチランドに反応しないでよ。こっちは『ショックランド』の2点バーンにイライラしてるのに。なんでライフ大事なデッキで、アンタップインするだけで自分に2点ダメージを受けるカードを採用しなきゃならないのか。『モダン』でも『デュアルランド』使わせてくれ。再販していいから。
立ってるのは1マナ。手札的に通らないとリカバリーは難しそうだ。警戒すべきは『呪文貫き』や『金属の叱責』、それと0マナのカウンター。採用されるとしたらそれこそ『否定の力』や『Will』、もしくはそれから確率は落ちるけど『否定の契約』。
ただあのデッキは無色の『アーティファクト』が多い関係で、青いカードを要求するピッチスペルは案外打ちにくかったりする。それこそ手札に『ウルザ』しか青いカードが無いとか。
……エンドフェイズ次第か。
「『根の壁』に0/-1カウンターを置いて緑を出します。『若き狼*15』をキャスト。レスあります?」
「ないよ」
「ならターンエンドまで」
「じゃっ、そっちのエンドフェイズに『ソプター』起動。1マナ払って『剣』をサクッて『飛行機械トークン』を出すよ。ねえ君」
「なんですか?」
「言われたカードは返すし、君の『否定の力』も要らないからさ、ボクが勝ったら付き合わない?」
……あぁ。なるほど。体の良い金づるになると考えたか。
「良いですよ。ただワタシが勝ったら、カードを返すついでに、金輪際こういうことしないでくださいね」
「いいよ」
「ちょっと何言ってるんですか先輩!」
えっ? 札姫ちゃんが初めて先輩って呼んでくれた。すっごい嬉しいんだけど。
「大丈夫。こんなチンチクリンに欲情する変態なんていないでしょ。多分、金づる扱いですよ」
「やだなー。そんなんじゃないって。良いプレイするから、ちょっとほれちゃってさ」
「ちょっと程度で彼女にしないで欲しいですね」
「あれ? もしかしてキミ、恋人=結婚って考えるタイプ? 色々経験ないでしょ」
「当然でしょうに。こんなのを好む輩は小学生か幼稚園児、或いは塀の中の人間ですよ」
ワタシと付き合うとか少なくともまともじゃないでしょ。見た目だけじゃなく、中身的な面でもね。ワタシが付き合うだけで、このクズの犠牲者が減るならやぶさかではない。
「そういう問題じゃないでしょ!」
「あっ。なんかあっても札姫ちゃんは絶対関わらないでね。意味なくなるから」
でもその前に。
「『ソプター』に対してレスポンス」
「おっと除去? 『クローサの掌握』とか?」
「限定的過ぎてメインには入れられませんよ。『地下墓地』アクティベートして『沼』残りライフ17。土地をフルタップ」
自分フィールドのクリーチャーは3体。ギリギリ届く。
「『召集』コストとして場のクリーチャー3体をタップ」
「『召集』?」
「緑のトリプルシンボル出しつつ、X=4」
『召喚の調べ/Chord of Calling』*16
「……効果はなに?」
「効果はX以下のクリーチャーをデッキから探して場に出します。今回だと4マナ以下のクリーチャーになります」
「4マナ以下……チッ、『アウフ』かな」
それが思い浮かぶくらいの知識はあるんだ。でも『アウフ』だったら流石にX=2で打つよ。
「で、通ります?」
「……通るよ。次のターンは勝てないかな」
「そうですか。ならデッキからクリーチャーを出します。出てくるのは、このマッチアップに一番ふさわしいカードですよ」
「一番ふさわしい?」
「えぇ」
『スランの医師、ヨーグモス/Yawgmoth, Thran Physician』*17
「『ヨーグモス』……。カード化されたことは知ってたけど……。効果は?」
「プロテクション(人間)。ライフを1点払い、クリーチャー一体を生贄に捧げ、クリーチャー最大1体を対象に-1/-1カウンターを1個置きます。そして1ドロー。黒2マナを払い手札を捨てることで任意の数パーマネントを選び増殖を行ないます」
「「クリーチャー1体を-1/-1カウンターと1ドローに変えるわけね。ふーん。じゃ、『ソプター』解決するよ」
ここまで来てまだ気が付かないか。分かりにくい動きではあるんだけど。
「待って。そこにスタックを積んで『ヨーグモス』の効果をアクティベート。ライフを1点ペイ、『若き狼』を生贄に捧げて、『エムリー』に-1/-1カウンターを乗っけます。1ドロー」
「いいよ。『若き狼』の『不死』の分もあるから、3回起動すれば『エムリー』は落とせるか」
「では『エムリー』が0/2に。-1/-1カウンターが乗ったため『ハパチラ』が誘発。1/1の『蛇トークン』が生成され、『若き狼』が+1/+1カウンターが乗った状態で復活。再び1点ペイして『蛇トークン』を生贄に捧げ『エムリー』に-1/-1カウンターを乗せます。1ドロー」
「……ん?」
「--1/-1カウンターが乗ったので『ハパチラ』が誘発。トークン生成。再びライフペイのあと……」
「待って」
やっと気づいたか。
「効果間違ってない?」
「適正な処理ですよ。『ハパチラ』のトークン生成能力は-1/-1カウンターが乗った時に誘発なので」
「『ヨーグモス』はタップ能力じゃないの」
「『ウルザ』にターン1付いてないのに、『ヨーグモス』にターン1付くわけないじゃないですか。別にタイミング指定もありませんし。ちなみにここに『血の芸術家』あたりがいると無限ドレインが発生します。『ウルザ』と対になる感じでいいカードデザインでしょう?」
「……」
「もう工程は省略で良いでしょうか? ライフペイして対象は『エムリー』。状況起因処理で『エムリー』が墓地へ。1ドロー。『ソプター』解決どうぞ」
「1/1の『飛行機械』が出る。墓地の『弱者の剣』が出て装備」
「『剣』誘発にレスポンス。『飛行機械』に-1/-1カウンター。1点ペイして1ドロー」
「……ただ『弱者の剣』は場に出るよ」
「ターンどうぞ」
「ボクのターン。……でも所詮はクリーチャーコンボでしょ。『島』置いて、まず『トーモッドの墓所*18』。そして白2マナと青1マナを含む4マナ」
『至高の評決/Supreme Verdict』*19
「打ち消されないクリーチャー全破壊呪文だよ」
全体除去に、『親和』カウントを稼げる軽量墓地対策。どちらのスペルも比較的手が出やすい金額で販売されている。コントロール系のチョイスとしても妥当な所だ。人としてやってるところはともかく、構築はちゃんと練られている。
「レスポンス。『ヨーグモス』をアクティベート。蛇トークンを生贄に捧げて、『若き狼』に-1/-1カウンターが乗って+1/+1カウンターと相殺。再び『不死』が発動します。蛇トークンも生成。これをまず2回やりますが、『トーモッド』はどうしますか?」
「……ここでは使わない」
墓地は空にしたいってわけね。どうせ他のクリーチャーでドローに変換出来るから、そっちの方がこっちも痛いね。
「2点ペイして2ドロー……、ん〜惜しいな。もう2点ペイして2ドロー、大分良くなったかな。残りライフ8」
「んじゃ『評決』を解け……」
「まだありますよ。『根の壁』をアクティベートして緑1マナ。手札の『耐え抜くもの、母聖樹』を捨てて『魂力』を起動。『ヨーグモス』が伝説のクリーチャーなので緑1マナで使えます。対象は『ソプター』」
「っ! 『否定の契約』。それを打ち消す!」
「『魂力』は起動効果ですから、そもそも通常の打ち消しの対象に出来ません」
呪文みたいな挙動するけど、あくまで土地の起動効果だからね。インチキ臭いのはたしか。
「……そうだった」
「『母聖樹*20』解決なら、『ソプター』破壊しつつ『基本土地タイプを持つ土地』を場に出してください。『基本土地タイプを持つ土地』なので『島』や『平地』だけじゃなくて『ショックランド』や『諜報ランド』、各『トライオーム』でも持ってこれますよ」
「……『神聖なる泉』をタップイン」
「では『評決』の解決ですね。ワタシのクリーチャーが全て破壊されます。ちなみ『東屋』もクリーチャー扱いなので破壊されますね。『若き狼』の『不死』に対してレスは?」
「『墓所』を起動。そっちの墓地を全部追放」
「分かりました。『若き狼』は追放されます」
「ターンエンド」
「ではアンタップ、アップキープ、ドロー。メインフェイズ」
手札は11枚。立て直しは十分可能。『ヨーグモス』か『機能不全ダニ*21』引けたら良かったんだけど、代わりに手札はほぼ緑だから突っ張れる。
「『ウェイストウッドの境界*22』をセット。2マナ『アガサの魂の大釜*23』をキャスト」
「墓地追放に起動効果コピーか……。墓地が空なら……通るよ」
「なら、2マナで『根の壁』」
「通る」
「『根の壁』から1マナ出しつつ『若き狼』」
「通る」
ここから勝つには次ターン『ウルザ』キャストは必須条件だからね。『否定の契約』のコストは支払ってられないはず。
「なら……『歩行バリスタ*24』を0マナでキャスト」
「『バリスタ』を0マナ……?」
「通るなら0/0の『バリスタ』は状況起因処理でそのまま墓地へ。ターンエンド」
1枚は『否定の契約』もう1枚は『ウルザ』。ここから勝つには、墓地対策を潜り抜けつつ、ループを完成させるしかないはず。
「『最高工匠卿、ウルザ』を唱えるよ。場に出た時に『構築物トークン』が出る」
「どうぞ。一度やってみたかったんですよね。この対決。生憎本人同士は会えませんでしたが」
「僕は会いたくなかったけどね。『島』を置いてターンエンド」
「そっちのエンドフェイズに『大釜』を起動」
「はいはい『ソプター』ね」
「いえ、対象はこちらの『バリスタ』」
「……そう? なら、なんもないよ」
「『バリスタ』が『大釜』によって追放。+1/+1カウンターは『根の壁』にでも乗せましょう。ならドローからメインまで」
盤面は『根の壁』に『若き狼』。ループを作るにはまだ足りない。だから仕掛ける必要がある。
「『根の壁』からマナを出しつつ。3マナで『異界の進化*25』。コストとして生贄に捧げるのは『根の壁』。通るなら4マナ以下の『クリーチャー』をデッキから出します」
「どうせ『ヨーグモス』が出てくるよね……! 『否定の契約』」
「ノーレスポンス。『異界の進化』は打ち消されます」
これで場には『若き狼』のみ。『ヨーグモス・コンボ』はこのターンできない。
「コンボ狙ったのかも知れないけど、『狼』で殴ってから、そっちをコストにして『アウフ』持ってこようとした方が良かったんじゃない? 通っても通らなくても、次のターンの盤面はそっちの方が強いよね? とっとと『ソプター』追放してたら、『大釜』も使わないだろうし」
「そうですね。そういうプレイもあると思うんですけど。今回はこれで良いんです。『大釜』を起動。対象は墓地の『根の壁』」
「? 見ての通りなんもないよ」
「では『根の壁』が『大釜』によって追放。+1/+1カウンターは『若き狼』に載せます」
「2/2/にして殴るのかな?」
さて、これで準備は整った。
「……ん?」
また視線を感じた。札姫ちゃんはワタシの手札をガン見してるから、多分違う。
怪しい人はいない。気のせいか。
「ところで、このデッキがなんて呼ばれているか知っていますか?」
「……『ヨーグモス』とかじゃない?」
「近いですね。『ヨーグモス・コンボ』、ストーリー背景から取って『ヨーグモス医院』なんて呼ばれ方もしますが、私が一番好きな呼び方は、『ヨーグモスコード』という名前です」
「『ヨーグモス』と『調べ』を合わせてってこと?」
「そうですね。メインの勝ち手段、メジャーコードはアナタが見た通り『ヨーグモス』によるコンボを目指し、相手の盤面を制圧しながら手札を増やしてドレインのループを完成させるルート。マイナーコードとして、それが間に合わない、あるいはメタられる場合は『調べ』に代表されるサーチでメタカードや、相手の対策カードへの解決策を探しにいくシルバーバレット戦術も備えてます。アナタの警戒した『溜め込み屋のアウフ*26』も入ってますよ。あとは鈍った所を普通に殴る感じですね」
「コンボ一辺倒かと思ったけど、意外と器用なんだね。コンボ成立のためのパーツ数は、こっちと変わらなそうだけど」
「マイナーコードは他にもあります。キーになるのは『アガサの魂の大釜』。クリーチャー追放することで、場のクリーチャーに+1/+1カウンターを乗せることができます。+1/+1カウンターが乗ったクリーチャーは、このカードによって追放されたクリーチャーの起動効果を得る。これが文面以上に強力かつ厄介でして。例えばフィールド以外でクリーチャーとして扱う『プレインズウォーカー』、『グリスト』を追放すれば、+1/+1カウンターが乗ったクリーチャー全てが、『グリスト』の起動能力を使えます」
「それはスゴイね。で、この状況も何かあるの?』
「はい。『グリスト』は1枚追放で成り立つ、フェアよりのコンボなので、別で説明させていただきました。今回のも含めて、実はあと2種類ほどマイナーチェンジがあるんですけど」
これに関しては開発チームが意図して生み出したのか、それともMTGの長い歴史が生み出した偶然なのか、どちらなのかはワタシには分からない。
知っているのはルール上可能ということだけ。
「まずは【+1/+1】の乗った『若き狼』の『大釜』で追放している『根の壁』の効果を起動。【0/-1】カウンターを置き、緑1マナを生み出します」
「全部のクリーチャーがタップ不要のマナクリーチャーになるのは怖いね。でもまだ2/1だから『狼』の『不死』は発動しない。無限マナにはならないけど?」
そう。これだけだと、ただ1マナを生み出すだけ。問題はここから。
「次に追放されている『バリスタ』の効果を発動。【+1/+1】カウンターを取り除いてプレイヤーに1点ダメージを飛ばします。そして1/0になった『若き狼』が状況起因処理で墓地に送られ、『不死』の効果で【+1/+1】カウンターが乗った状態で戦場に戻ります』
「……は?」
うん。ワタシも最初はそうなった。でも正しい挙動なんだ。
正しく『バグではなく仕様です』なんだよ。
「おかしいでしょ。タフネスが1になった時点で【+1/+1】カウンターは相殺される。 だから『バリスタ』の効果は使えないハズ……!」
「たしかに【-1/-1】カウンターが乗る場合は【+1/+1】カウンターと相殺されます。『ヨーグモス・コンボ』で『不死』持ちが戻って来てループするのは、これを利用したものですから」
MTGをそれなりにやってきた人間ほど、違和感を覚えるポイントだ。だが、ここで『根の壁』の能力を良く見てほしい。
「でも『根の壁』が置くのは【0/-1】カウンター、【+1/+1】カウンターとは相殺しないんですよ。つまり1/0のクリーチャーに【+1/+1】カウンターが乗ってる状態なんです。だから『バリスタ』の効果で【+1/+1】カウンターが取り除けて、1/0になった『若き狼』の『不死』が誘発、戦場に戻る。何もなければ緑の無限マナと無限火力ですが、対抗手段あります?」
「……僕の負けだ……」
「はい。『コーリ鋼の短刀』と『テフェリー』は返すよ」
男から2枚のカードが返される。特に傷は無い。
「はい。札姫ちゃん。『短刀』の方は、鮫トレされたって子に返してあげて」
「あ、ありがとう。先輩……」
「すぐに行ってあげて」
「分かった! 本当にありがとう! 先輩」
元気よく駆けていった。あの様子なら大丈夫かな。しかし『ソプターコントロール』ね。たしか採用候補にあったよな。
「たはは、負けちゃった。 鮫トレなんてするもんじゃないね」
「本人達が満足してるなら口出すようなことでもないんですけどね。間違いなくレアカードではありましたし。いつ跳ねるか分からないのがMTGなので」
「しかしキミ、強いね。これでもそれなりだと思ってたんだけど」
「そりゃ『ウルザ』積んだ『ソプターコントロール』ならその辺の子は相手にならないでしょ。はい。これ」
「? これは……」
入れ替え候補を入れてるストレージを探していたら、目当てのカードがあった。
「『ポータブル・ホール』と『発展のタリスマン』。持ってるなら別なのにしますよ?」
「いや。持ってない。鮫トレして中学生相手にアンティ勝負した挙げ句、セクハラまがいのことした僕にくれるのかい?」
「このままだとアナタがカードをあげただけになりますよね? そもそも鮫トレとアンティ勝負、本心でやってました?」
「なんでそう思うの?」
「だって、あっさり返してくれたじゃないですか。それを恒常的にやってる人間が、そんな潔いわけないですって」
やる前は現実と妄想を混同してそうな思い込みの激しい輩だったが、今は少し気弱でオタクっぽい、真面目そうな青年に見える。職場であんまり喋らないけど、自分の仕事はやってくれるし、頼まれると断れないタイプの。
何より。
「デッキが思ったより真摯だったんですよね。何というか。制限の中でも、なんとか良いものを作ろうとしてる気配がしたんです」
そりゃベストな構築ではないだろうが、そういう輩が使ってるパワー順の寄せ集め感は感じなかった。そもそも『ソプターコンボ』のパーツは、『ウルザ』以外は性能の割に安価だ。『アーティファクト』メタも『墓地』メタも刺さるせいで、人気があまりない。
それを言うと『ヨーグモスコード』も、あんまり立ち位置は良くない。どちらとも『モダン』では悠長なコンボデッキだから、大抵は揃う前に『ボロスエネルギー』や『親和』に殴り落とされるか、メタカードを前にモジモジしている間に挽回不可能になっている。
「……聞いても信じてくれないかもしれないけど、昨日フードを被った人に声を掛けられてから、さっきの瞬間まで夢を見ていたような気がしてるんだ」
「何か理由がありそうですね。あの子に説明するんで、詳しく事情を聞かせてもらっても?」
「あぁ。立ち話もなんだし、どこかに入ろう。お礼に奢るよ」
「……ホテルには連れ込まないでくださいよ」
「あの。ホント勘弁してくれるかなぁ……」
「ウォルター。面白い素材を見つけたそうだが」
「ええ、坊っちゃま。弟様も既に接触しています。2体1とは言え弟様が追い詰められていました。それと妙に鋭くてですね。呼吸を読むのに慣れが必要そうです。監視は私自身が行います」
「そうか、任せる。今はとにかく素質のあるものを見つけなくては。巻き込まれてから動いては遅いからな」
人体実験を繰り返し、悪逆非道の限りを尽くした『ウルザ』の物語におけるラスボス。『ファイレクシア』の『機械の始祖』の人間だった頃のカード。効果は背景ストーリーを生かしたものだが、最も意識されたのは様々なデッキで活躍し、その中でも、史上最も美しいサイクルコンボデッキと言われた『ピットサイクル』のエンジンパーツである往年の名カード、『ヨーグモスの取り引き』だと思われる。
概要を読むと墓地対策を兼ねつつ、自軍のクリーチャーを強化するおまけ付きの墓地対策カード。
だがこの大釜に、MTG30年以上の歴史が煮込まれると、とんでもないキメラを生み出す。
ホビーアニメ特有の悪役ムーヴを書くのがキツくて、途中から日和りました。これを書ける自分がキモくて辛くなってくるんですよね。スカッとする話を期待してた方、申し訳ない。こんな書いてる時点でそのあたりは割り切れよとは思うのですが。
『ヨーグモスコード』はルートの派生が多すぎて最適解がわかりません。
流石にネタ切れ気味です。踏み倒しにフェアデッキ、ループコンボと書いたので次はロック系なんですけど、『スタックス』の勝ちゲームなんて塩も塩ですからね。『抵抗の宝珠』から『三なる宝珠』、『絡みつく鉄線』を置くだけのゲームなんて見たい方いらっしゃらないでしょうし。あとは1ターン目『月』とか。
盛大な前振りから『月』1枚で終わるのは面白そうですが、TCG小説としてどうなんだという思いが拭えません。
あとは歩夢くんや札姫ちゃんあたりに『ストーム』や『エターナルブルー』使わせる案もありましたが、どっちも極端すぎて構成困難と判断しました。
他にも変なデッキはありますが、書いてる人が使ったり、あるいは見たことがあって、話を聞けたのがこの辺りなので、ちょっと限界です。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。もっとクソミソに言われると思っていたのですが、想像以上に好意的に受け止めていただきました。
現役引退問わず、懐の広いプレインズウォーカーの方たちに感謝申し上げます。
どうでもいい話ですが、この多元宇宙のヨーグモスは自身を機械化する際、何を以って『完成』とするかを検証するために、いくつか実験を行いました。その際、『未完成』の定義を『完成』させるため、いくつか作品を生み出しました。そして最後に自身を機械化する際、自らの『未完成』にあたる部分をある素体に押し付けたそうです。
『未完成』の素体には、微かで不安定ながら『灯』を宿す個体がいたそうです。