MTG版TCGホビーアニメ(システムに欠陥あり) 作:名無しのプレインズウォーカー
元から断つのは分かりますが、これ茶単とイゼットがくり上がってくるだけな気が。
まあ下は仕方ないと思いますが、スタンダードの禁止に大釜が入ってないのは気のせいですかね?
「『税血の収穫者*1』で攻撃だ』
「受けよう。残りライフ10」
「ターンエンド」
「では私の番だ。『沼』を置き、まずは『致命的な一押し*2』を『税血』に」
「……破壊される」
「続いて黒3マナ『ヴェールのリリアナ』*3だ。早速忠誠度能力を起動。-2で布告、対象は君だ」
「択なんてないんだよなぁ……。『キキジキ』*4が墓地へ」
黒フードの男……、本名
「先輩、手が止まってますよ」
「あぁ、ごめんなさい。『未練残り』*6キャスト。対象は『脂牙』*7、通りますか?」
「『三歩先』*8で打ち消します。打ち消しますけど……」
「うん。2枚目の『未練残り』。レスありますか?」
「……通ります」
「『脂牙』蘇生。通れば『パルへリオンⅡ』*9が戻ってきますが?」
「……負けました。なんで2ターン目に『パルへリオンⅡ』が落ちて3ターン目『脂牙』で、4ターン目『未練残り』2連打は積み込み疑うレベルですよ!?」
「あはは。札姫さん散々だね。でも実際にはあり得る。そうでしょう?」
「学くんの言う通り。予選会は10ゲームのBO3だから、絶対にこういう『どうしようもない』負けは必ずあります。そういう時、切り替えられるかどうかです。変に焦ったり、引きずってプレイが歪んだり突飛なサイドボードをすると、余計な負けを引き込みますよぅ」
「う……。分かりました。いくら理不尽な負け方をしたからって、墓地対策ばっかりする訳には行きませんよね」
「まぁ。それはワタシ自身にも言えるのですが」
どうしてもこういう速いデッキを見ると、最大値を基準にしがちだけど、統計的に見ると何度もはないからね。ワタシも『ドレッジ』あたりとやると『虚空の力線』を投入したくなるけど、実際は他のデッキへの勝率が下がるから、そういうのは避けた方が総合的には良かったりする。ちなみにこういった計算的な部分は、自分より学くんの方が強い。
なによりこの世界で最大値のデッキを組めるプレイヤーは多くない。
「あと札姫ちゃんはメインで何を見るかも重要ですね。受けのデッキだから。どれを一番重く見たいですか?」
「うーん。色問わず『ミッドレンジ』は絶対多いですよね?」
「『コントロール』は『ミッドレンジ』に対して元々強いからそれ以外ではどうでしょう?」
「今の『パルへリオンシュート』と、あとは速い『バーン』あたりは思いあたります」
「学くんは?」
「僕も似たような感じです。あとは墓地対策で見れるとは言え、打ち消しだけでは対処が難しい『イゼット・フェニックス』*10。手札破壊の多い『黒単』でしょうか」
2人の感覚は悪くない。特に一度墓地に送られると、打ち消しでテンポが取り切れない『イゼットフェニックス』相手にメインを取るのは厳しいだろう。
「大体合ってるね。墓地利用系は軽量の墓地対策で何とかするしかありません。軸ずらしはしてくるだろうけど。白は『安らかなる眠り』*11があるから、大分マシかもしれません。速いデッキは軽量除去もそうだけど、メインの全体除去枠を『至高の評決』から『一時的封鎖』*12にするだけで大分マシになると思いますよ。『サリア』が入ってくる『人間』デッキも大体そう。最近『パイオニア』でも出てきた『ハンマータイム』*13も除去多めで乗り切りましょう。問題は打ち消せないものを使ってくるデッキなんですよぅ」
シンプルに打ち消せない呪文もそうなんだけど、除去や手札破壊を駆使してもほぼ触れないカテゴリーがある。それは
「上環境だとそうでもないんですが、土地が勝利手段のデッキはキツくなります。『パイオニア』だと『風景の変容』*14を使うデッキだとわかったら打ち消しの使い方は注意が必要です。大体土地で察しがつくんですけど」
「そのデッキは知りませんね……。ちなみに先輩なら何を打ち消します?」
「メイン戦の話なら、ただの土地加速系はスルーですが、『洞窟探検』や『異邦の詩人』*15は対処が必要です。メインコンボパーツですから。ただ同時に単品なら何とかなりますので、打ち消すのは組み合わせやタイミング次第で、基本的には出てから除去で良いと思います。『湧霧の村』*16が無ければ『喝破』は『ルグラ』にあてたいですね。妨害の難しい土地からのリアニメイトを何とかしたいので。あと、インスタントタイミングでの大規模追放も効くので、サイド後は相手の軸ずらしを警戒しても良いかもしれませんねぇ。『モダン』以下と違って、打ち消すタイミングが無くて負けるのは、余程のかみ合わせがじゃないと起きないので、知識さえあれば何も出来ずに負けるということはないと思いますが」
初手から『樹上の草食獣』*17が出てきたらほぼ確定。今だとシミックカラーの時点で警戒していいんじゃなかろうか。たまに『人間』デッキの時があるけど。打ち消しの枚数は限られているし、毎回引ける訳じゃないから使うタイミングは吟味しないと。ブラフとしてさもあるようにプレイするのもあるが、ブラフというのはこっちのデッキの理解度が高いプレイヤーにしか通用しない上、相手にある程度余裕がある状態じゃないと、通用しないんだよね。そしてそういう状況になった時点で大体負けるので。ゲームの転換点をゲーム中に気付けるプレイヤーはそう多くない。
素直にプレイの精度を上げたり、カード知識を体感で覚えた方が余程練習になる。そういったものは必要な時になったら自然と身に付いているものだ。
「札姫さん。一応ボクがそれを使う気だから、何回かやってみない?」
「もちろん.ちょっと付き合って」
こっちは何とか身になる練習になりそうだ。さて、あちらはと
「『絶望招来』*18だ。どうする?」
「いや無理だろ! 負けだって!」
どうやら決着がついたようだ。藤宮弟は兄を前にした時とは打って変わって、冷静な年長者として振る舞っており、歩夢くんはあの時の勝負師の顔はどこへやら、完全に諦めているし飽きている。
「中々勝ち切れませんか? 歩夢くん」
「パイセン。シングルはともかくマッチ戦が全然ダメなんだよ」
「今回は実力差を知るために、『ラクドス』カラーでやってみたんでしたっけ?」
盤面の土地もそうだが、墓地を見れば『思考囲い』*19や『致命的な一押し』が見えている。とりあえず一般的な黒要素は確かめられているようだが。
一時は敵対したが、ユース部門の国際大会出場をかけて……までは行ってない。ユース部門への選抜対象になるためには指定強化選手にならねばならず、それになるには最低でも国内選手権への出場が最低条件であるため、彼を(もしかしたら自分をその気にさせるためかもしれないが)出場させるために、藤山弟が直々に鍛え上げている所だ。
プレイングもそうだが、集中の仕方が上手い。かれこれ2時間もやると歩夢くんみたくなるものだが、彼はそれをおくびにも出さない。内心は知らないが。
最初こそ疑っていたが、ワタシの顔を立てて一旦は信用してくれた。その後は割りと素直に指導を受けている。
「なんつーか。手も足も出ない訳じゃないけど、勝てねーんだ」
「手札破壊呪文の使い方が雑だな。単純に一番強いカードを抜くのが正解ではない」
「『黙示録、シェオルドレッド』*20以外なら何抜くんだよ」
あー、グッドスタッフ対決のハンデス何抜く問題ね。あれ難しいよね。
「んー。グッドスタッフ対決ですと手札破壊の使い方が難しいですよね。人によってはハンデス呪文は全部抜くという方もいますから」
「マジで? でもこのデッキ、エンチャントを触る手段がほぼ無いんだけど?」
「序盤の手札破壊や、明らかに何かしようとしている前なら強力だが、ミッドレンジ同士だと最後は引いて出すの繰り返しになりがちだ。そうなると途端に無駄になる。土地は仕方がないし、除去はまだ構えられるが、手札破壊が機能するのは、基本的にその構えた除去だけになる。それはあまり強くない」
特に『思考囲い』は2点のライフロスが発生する。強いカードではあるが、フェアデッキ対決だと、そのライフロスがバカにならなかったりする。『シェオル』の誘発一回分と考えると結構重い。
「でも『囲い』うったのは序盤だからなぁ。あの時は『不浄の別室』もなかったから一番強いのを落としたんだ。除去はクリーチャーが複数いたから何とかなりそうだったし、『一押し』はあったから軽量クリーチャーは省いてよかったと思う。だから『囲い』で負けた訳じゃないと思う」
「なるほど。では歩夢くんが先手後手の差が無くなったタイミングはいつだと思ってますか?」
「やっぱ『リリアナ』出てきたところか? プレインズウォーカーに当たる火力を持ってたけど、結局そのあと巻き返せなかった」
「最近は3マナソーサリータイミングの布告除去が効きにくい環境ですから、抜ける場面が増えましたが、依然として中速以降のデッキには脅威です。プレインズウォーカーがマウント取るのに優秀というのもそうですが」
『モダン』でもそうなんだけど、3マナの布告除去が刺さりにくい場面が増えたからね。だからと言って『瞬速』持ちにしていいわけではないけど。
「もう少し一般的な所で話しますと、フェアデッキ同士の場合、1ターンで2アクションを取られ始めたら、先手の優位は無くなってきていると考えていいです。後攻のアドバンテージである1ドローのアドバンテージが機能し始めたということですから。場面と状況次第なのであくまで目安ですけどねぇ。例えば後攻1ターン目に『極楽鳥』*21を出されて、処理できないで返した後、3マナのクリーチャーやプレインズウォーカーを出されたら相応の切り替えしが要求されるでしょう?」
「2ターン目とは言わねえけど、3ターン目『カーン』*22の時代はかなりきつかったな。今は禁止だけど」
「『ストンピィ』とは違うが、速いターンに1つでも多くのマナが使えるのは大きいな。特にMTGにおける3マナ域は1枚で2枚分以上の仕事をするものも多い。早期に出ればゲームを決定づけるものもある。ただ後半にマナクリーチャーを引いても、状況は変えられん。それなりの割り切りは必要になる」
「確かに『寓話』も『別室』も3マナだもんな」
藤山弟の言葉に頷く歩夢くん。こういう時にすぐ例が出てくるあたり、センスはあると思う。中には2マナでアドバンテージの概念をぶち壊すカードもあるが、それは一旦放置で。
こうやっていると良い師弟関係に見えるが、お互いに拘りが強いから構築回りはすぐ喧嘩する。今回も「いいから回してみろ」と、藤山弟から無理矢理押し付けられる形で『ラクドスミッドレンジ』を渡されていた。コイツからしてみれば実際に使うかどうかは別として、一回相手の視点に立って欲しいという意味なんだろうが、言い方があるだろう。お前の方が年上なんだから。
「使われた時はただ強いとしか思わなかったけど、『囲い』は使うたびに迷うし、『税血』も除去にするかクロックにするか、『血トークン』も除去用に残すか、手札を回しに行くか、迷いどころ多いぞ。これ」
「ワタシも最初に『モダン』をやった時は『ジャンド』を使っていたので分かるんですが、最低でも3~4択はありますから。それを毎試合判断するのは難しいので、手に負えないデッキになっちゃったんですよねぇ。仮に正解だとしても引かれたり、それでも負けたりして、ハンデスの択についてしばらく悩むからメインで使うのはやめました」
「除去や打ち消しと違い、相手にマナを使わせている訳ではないからな。あくまで一番通らせたくない道を塞ぐだけで、迂回路でも間に合うのであれば効果は薄い。カードの価値が似ているミッドレンジ同士で、手札破壊呪文が抜けるのはそういった理由だ」
「長丁場で戦う以上、多少脆くても負荷のかからないデッキを選ぶのもアリだと思いますよ。サイドボードが重要なミッドレンジは、ただでさえ一本目が取りにくいので、そこも苦しい所です。それをカバーできるのが『ハンデス』なので、大抵の『ミッドレンジ』に黒が入ってるんですよ」
『ミッドレンジ』は強くても苦しい場面が多い。イージーウィンというのはほとんどないし、どれだけ捌いても引かれたら負けの場面は往々にしてある。そう考えるとある意味一番難しいデッキだ。単純な難易度というより、総合力という面で。択が限られている方が案外割り切って戦えるから、実は安定したりする。
「だから『デルバー』や『デスタク』位が、ワタシはやりやすいんですよね。割り切って動けるので」
「『デルバー』は兎も角、『デスタク』って基本は白のクリーチャーデッキだったよな? 詳しくは知らねえけど、『レガシー』でそれは結構キツイ側じゃ?」
「確かに大体苦しいですが、難易度の大部分が相手の理想ムーヴへの妨害に偏っているから集中しやすいです。あとクリーチャーデッキなおかげで、妨害している内にクロックが揃っていくので、ちょっとした拍子に攻め手になれます。デッキ内の大半をサーチ出来るカードがありますから。2枚目以降の妨害も確保しやすいですし、ピッチスペルの『孤独』も持ってこれます。これと『サリア』のおかげで主流以外のデッキへのガードは固めですね。どうしようもない負けはありますが、あんまり万能だと、使い手も困ってしまうんですよぅ」
クリーチャーなら『剣を鍬に』や『孤独』が、非クリーチャーには『サリア』や『魔女の結界師』で大体解決する。理不尽な負け方はするし、特別強いデッキではないが、トータルで勝ち越せばいいのなら悪いデッキでは無い。
「そう考えると手札破壊は向いてないかもなー、オレ。『コントロール』が簡単とは思わないけど、実は見た目より回しやすかったりする?」
「ミラーや一部の例外相手を除いて、ゲームレンジを長くするという分かりやすい目標がありますからね。ただしメタを構築段階で意識しないといけないので、そういう面で難易度は高いです」
要は何でもできるから強いデッキという訳では無いのだ。一部のパワーカードを除けば、択が増えればミスもしやすい。フリーの1試合ならまだしも、リーグ形式の長丁場ではそういった間違えやすいデッキを使える人間は限られている。万能ということは、それを全部使わないと勝てないということの裏返しだから。『ヤソコン』なんて、その最たるものである。
「これはアーキタイプとは少々異なるが、デッキは大きく分ければ二つに分けられる。自分の勝利条件を満たすデッキと、相手の勝ちの目を潰すデッキだ。自分がどちらが得意かを知らなくてはいけない」
「……どゆこと?」
藤山弟の発言がどうもピンと来ない歩夢くん。理想構築が難しいこの世界で、この考えに至る人間が異常なだけとも言える。ただ、この感覚自体はTCG、特にマナの概念を持つ数が限られているタイプのカードゲームでは重要だったりする。
「自分の手を進める計算が得意か、相手を妨害する方に思考リソースを割くのが得意か、その違いですよ。ワタシはどちらかと言えば後者ですね」
「私は前者だ。適正に関してはひたすらやっていく内に、体で理解して初めてといったところか。余計な話になるが下環境になればなるほど、その境界は曖昧になる。加えてカードパワーの関係でフェアデッキだろうと、趨勢が決まるまでメインの動きを弾けるデッキがほとんどだ。選択肢が簡単なものもあるが、自分と相手の速度を天秤に掛けなくてはいけない場面は少なくない」
「ピッチスペルなんてその最たるものですからね。……話を戻しましょう。少なくとも自分のデッキが環境的に攻めていいデッキか、構えなきゃいけないデッキかの理解は大事ですね。『パイオニア』だと実質的な最速キルターンは3ターン目が目安でしょうから。それが出来るか、出来ないならそれを相手が可能かを判断できるかの知識は最低ラインだと思います」
「知識は憶えるしかないし、自分がどっちかはひたすら数をこなすしかないか。でも質問なんだけど、自分のデッキの理解度ってどうやって測るんだ?」
TCG永遠の問題来たな。こればかりは個人の主観だから何とも、と言うしかないんだけど。それでも私個人の感覚を可能な限り言語化すると。
「ワタシも具体的な答えは無いのですが……、まずは主流デッキに対する動きが分かっていること、さっきも言った通り、速度感は重要です。その上で分かりやすいのは、初手で勝つビジョンが見えること。そしてマリガンの時は、それより強い6枚のハンドがすぐに感じられることと、後手で勝ちうるハンドの判断が出来ることでしょうか」
「……1日中その集中力保たなきゃいけないわけ?」
「だから『感じられる』ように、ですよ。時間をかければ誰でも出来ますが、そんなことしていたら制限時間もそうですが、シンプルに疲労が溜まるので。そこを出来るだけ機械化したいんです。だからグッドスタッフ系は難易度が高いんですよ。特に手札破壊が絡むのは分岐がすごく多いので」
コンボ系やアグロは絵合わせ要素が強いから、初手の判断が楽だ。コントロールやランプは序盤を凌いで後半決めるという絶対的な流れがある。
ただ『ミッドレンジ』はその要素がかなり少ない。0では無いが、速度がそうでもないから相手に負荷をかけることも出来ず、適当な除去でテンポも取れずに処理されるのも多い。薄皮1枚のアドバンテージを重ねて一手差で勝たなきゃいけないゲームが多いこと多いこと。
自分の場合何となく動けそうなハンドをキープして、何となく負けることが多かった。だからもうちょい分かりやすいデッキに、変えざるを得なかったんだけど。多分手札破壊で勝つより、手札破壊で負けたゲームの方が多かったと思う。『デルバー』は1マナの強クリーチャー+打ち消し、『デスタク』は『薬瓶』+刺さりそうなクリーチャー、『フィリア』+ETB能力持ち(可能なら追加で除去)っていう明確なペア、というか基本のキープ基準が分かりやすい。
……ペアで思い出した。
「そういえば明佳さん。本当に明後日のパーティ、行かなきゃいけませんか?」
「……先日のとおりだ。頼む。デッキを持って何時もの恰好で来てもらえば、あとはこちらで準備する」
「……はぁ。恥かいても知りませんよ」
本っ当に行きたくないが、こんな小娘に土下座までしてきたら流石に断れない。
「パーティ?」
「数合わせで呼ばれたんですよ。ご飯奢られに行ってきます」
「いいなー。オレも連れてってくれよ、師匠」
「都合の良い時だけ師匠呼びするな。……連れていきたい処だが、今回は予約が埋まってしまった。次の機会があれば連れて行ってやる」
「マジか。じゃあ楽しみにしてるわ」
「で。なんでワタシはこんなドレス着せられてるんですか?」
「……それは貰ってくれ」
パーティ当日、時間通りに指定された場所に着くと、直ぐにバスにゃんに連れていかれ、芸能人の楽屋染みた、いや、それは適切ではなかった。それよりは小さいが、遥かに豪奢で上品な部屋だったのだが、自分の知識不足でそれを正確に表す言葉を知らなかった部屋に通された。
「こちらが坊ちゃまの彼女様におられます。見てのとおり庶民ではあられますが、あとはメイド長にお任せいたします」
「お初にお目にかかります。メイド長の鬼山と申します」
そこから先はよく分からないうちに着替えさせられていた。途中
「まずサイズの確認を……、やはりウエストが想定より細い。魚崎め、見誤りましたね」
「……パーティで食べるために朝抜いてきたからだと思います」
恥ずかしくなって顔を逸らしてしまったが、何が面白いのか『まぁまぁ』と笑みを浮かべる鬼山さん。それにますます顔が熱くなるのが自分でも分かった。
というより、どうやってワタシの個人情報を調べた?
「職業柄魚崎やわたくしは、目測と服の構造から推算可能です」
「何それ凄い。けど、セクハラでは?」
ワタシの呟きは笑顔で黙殺された。
「ちょっと、これ肌出し過ぎじゃ……。肩どころか胸までスース―するんですけど……!?」」
「露出は肩までに留めようかと思いましたが……、バックレスも試してみましょう」
「いや、そんなの無理ですよぅ! ワタシのドラム缶体型で、どこに留めるんですか!?」
それドレスっていうよりただの布でしょ!
「ご謙遜を。意外と何とかなるように作られておりますし、お嬢様は小柄ですが、このウエスト差で寸胴は無理がありますよ。特に背中のラインは同じ女性として羨ましい程です」
「だからワタシにそんなの似合わな、わぷっ」
有無言わさず脱がされ、次のドレスを着せられた。
「……酷く倒錯的な仕上がりですわ。我ながら恐ろしいセンスです。こちらはメイド陣だけで楽しみましょう」
「何やってるんですか。貴女も変態なんですか?」
背中どころかお尻のあたりまでスース―する。これ、色々見えてない!? というよりいつの間にか私の下着が畳まれて、自分じゃ絶対買わないものを着せられている。
「冗談ですよ。思ったより時間が出来たので、思い切ったものも試してみただけです。処理の時間が丸々余ってしまったので」
「修学旅行で一人だけ生えてなくて煽られた陰キャの話します?」
「それは煽られたというより……失礼いたしました。これはやりすぎですが、こちらはどうでしょう」
その後もあーでもないこーでもないと、着せ替え人形になる羽目になった。面倒だったのは事実だが、コイツが絡む都合上、それなりの催しなのは思いつくべきだったし、ワタシへ負担をかけないようにいつもの恰好でと言ったのだろう。第一こんな綺麗なドレスなんて用意できない。最後は紺色のもので落ち着いた。背中は……、思ったよりガッツリスリットが入っている。
「これはしょうがないと思いますよ。庶民には準備が難しいものなので。むしろ準備してもらって、ありがたいと思ってます。流石に高額過ぎて貰う気は起きませんが」
「それくらいは当然だ。迷惑をかける分、貰ってほしい」
「そうなんです。そこなんですよ」
バスにゃんが聞き捨てならないことを宣いおった。
「なんでお前の彼女扱いになってるんですかね?」
「すまん」
んー、眼を逸らして謝られても誠意を感じないなー。自覚があるのはいいことだが。
「本当にすまないと思っている人間は目を見て謝るんですよぅ? オラ。顔上げろ」
「本当に、申し訳ない。しかし正直に言ったら君は来てくれなかっただろう?」
「確かに本当のことを言われたら断ってましたけどねぇ。それとこれとは話が別ですよー? そもそも無理無茶頼んでおいて、断られるからという理由で自分の非を棚上げするのは不誠実ですよねー?」
「…………ごめんなさい」
こういうデカい家特有の事情があるのは容易に想像できるが、たかがTCG仲間になんちゅーもん頼んどるんじゃ。お前のことなんだから、選択肢なんていくらでもあるだろうが。
「なんで一番ない選択肢をわざわざ選ぶんですか。お前は」
「それは違う。君が一番だ」
「はいはい。言い訳は結構。乗り掛かった舟です。まぁドレスを貸してもらった分くらいは働きますよぅ。で、何をすればいいんですか?」
浮気した男ってこんな感じなのだろうか? 経験はないから分からないが。そんなことよりコイツが何でこんなことをしたかである。確かにトンチキなヤツだが、こんな手を使うとなると余程追い込まれているのだろう。
「……実はボクには妹分がいてね。兄貴分であるボクに、未だに幻想を見ているんだ……」
要約すると今日のパーティで初恋を終わらせてくれとのこと。齢は中学3年生。藤山弟は、自分はそんな高尚な人間じゃないのに、凄い持ち上げてくるは、やたら付きまとうはで大変だそうだ。
藤山弟の気持ちは分かるが、あの顔で小さい頃から面倒見てくれる兄とか、そりゃ憧れるわな。当たり前だが良家のご令嬢で、家同士の仲も悪くない。年の差も一回りは離れてないし、周囲からすれば成立すれば万々歳なのもあって、何となくの距離感がずるずる続いているようだ。
こっちからすれば「脳焼きの責任取ってもらってやれよ」と言ったが、コイツ曰く、「このまま結婚したら家庭でまで外向けの仮面をかぶらなきゃいけないなくなる」と、嘆いていた。兄さんが言った通り、ボクは元々怠け者の泣き虫なんだと。
夫婦なんて結局のところ他人だぞ。亭主関白は令和じゃあり得んからな。と言っても、家の中で猫被るのと、素を出してたまに怒られるのは違うだろうと反論された。脳内お花畑め。
どんだけ男にとって都合がいい女だよ。世界の半分より欲しいわ。そうツッコむともの凄い目で見られた。
で、現在。突然の彼女の登場にブチ切れた妹分ちゃん、玲愛さんに勝負を挑まれた。中学生なのにワタシより身長が高いし、明らかにスタイルが良い。そして良家のお嬢様らしく礼儀作法も完璧である。この子振るとかどんだけ贅沢者なんだアイツ。
「このようなかわ……、コホン。方はお兄様に相応しくありません!」
と言われたが、全く以ってそのとおりである。人違いどころか、場違いも甚だしいので警備員の方に連れて行って欲しい。
面倒くさいしとっとと負けようと思っていた所で、藤山弟が裏手からちょいちょいと手招きして呼んできた。
「なんですか。面倒なことはさっさと終わらせたいんですが」
「デッキを貸す。『Doomsday』の使い方は分かるだろう?」
「別にいいですよ。負けても痛くも痒くもないので」
「そういう訳にはいかない。君が負けたら、恐らく話が一気に進む。だから頼む」
「ワタシには関係ありません。第一なんであんな良い子を振るんですか」
「そこは否定しない。……ただ仮にこのまま結婚したら、彼女は多分幻滅する。思い描くものは得られないし、ボクも耐えられずにいずれ破局する」
なんだ。分かってるじゃん。正直に言えばいいのに。
「そこまで分かってるなら正直に話せばいいじゃないですか」
「それは……」
会場に入った時から渋い顔していたが、それが更に苦渋に歪む。
「はぁ……。それが優しさなのかプライドなのかは聞かないでおきます。人にやってもらう以上文句は言わないで下さいよ」
「待て、玲愛のデッキは恐らく『ヴィンテージ』の『逆説ストーム』*23だぞ。流石に君でもきびしいだろう?」
「キツいですけど、分かってるなら手はあります。『レガシー』デッキであることを伝えて、先攻貰えば何とかなるデッキは持ってますよ。……ホントは使いたくありませんが。プライドの高い優柔不断野郎の手は借りません」
ワタシの背中にそれ以上は何も言ってこなかった。言い過ぎたかもしれないが、これぐらいは許せ。ワタシもちょっとイライラしてるんだ。
「ではよろしくお願いします。玲愛さん」
「……お願いいたします」
うーむ敵意丸出し。なんでこんな役割をこなす羽目になっているのか。
「先攻いただきまして、マリガンチェックしますね……。マリガンで」
「……キープいたします」
「再度7枚引いて……今度は大丈夫かな。1枚戻します。アンタップ、アップキープ、ドローはなし。メインに入って早速0マナ」
『虚空の杯/Charis of Void』*24
「えっ……」
これが通ると各『Mox』と『Black Lotus 』が全部打ち消されることになるが、果たして。
「手札の『ギタクシア派の調査』を追放してライフを1点ペイ、『Force of Will』!」
「はい。では『虚空の杯』が打ち消されます」
出来れば通って欲しかったけど、こっちだけでもなんとかなる。
ということでMTG崩壊RTAはっじまーるよー。まず2マナランドを置きます。
「『古の墳墓』*25をプレイ、そのまま2点ダメージを受けて無色2マナから『厳かなモノリス』*26」
「……通りますわ」
「では『モノリス』から3マナ」
『三なる宝球/Trinisphere』*27
「――」
あ、固まった。これ通ると絶対に1ターンは動けないからね。『Black Lotus』がただの3マナのマナフィルターになる。
「通りますか?」
「と、通りますわ……。もしや、どちらもフル投入でございますか?」
「『レガシー』では無制限なんで。ではターンエンド」
観衆がざわつき、玲愛さんも明らかに狼狽している。先ほどまでピンと立っていた綺麗なプラチナブロンドのアホ毛が、心なしか萎れた気がする。
「ど、ドロー頂きますわ。……『汚染された三角州』をおいて、ターンお譲りいたします……」
「ではアンタップ、アップキープ、ドロー。メインフェイズに入って、『ウルザの物語』*28を置いてターンお返しします」
「っ! エンドフェイズに……、いえ。そのまま頂きますわ。ドロー、『Tundra』置きまして、ターンお渡しします」
「ではターンいただきましてドロー。メイン入りまして、『物語』が2章に」
おっ。2枚目の土地あるか。『ヴィンテージ』は土地の枚数が少ないから、土地1から動けなくなることもままあるけど。なんとなくアホ毛も元気になってきたか?
こっちのドローは強いが、今動けるカードではない。更に3枚目の土地が出ないから、完全にはゲームを決められないか。
「『墳墓』から2点受けつつ、3マナ。『世界のるつぼ』*29を出してターンエンド」
「私のターンですわ。ドロー、……薄皮1枚繋がりました。『島』を置き『三角州』をアクトし1点ペイ、『Underground Sea』。3マナで『Mox Ruby』*30を唱えて、手番をお譲りいたします」
「ではターンいただきます」
次ターン4マナ出ちゃうか。この状況の負け筋って『修繕』*31からの『荒廃鋼の巨人像』*32なんだよね。手札だけだとちょっと対処が怪しいが、さて。
「ではドロー、あっ」
4積みとは言え引いちゃった。これ『物語』サーチは『多用途の鍵』で確定だ。これ。『真髄の針』*33もドロー次第でありかと思ったけど。
「メインに入って『物語』からマナ出しつつ、3章解決します。レスありますか?」
「ありませんわ」
「では持ってくるのは、『多用途の鍵』*34。1マナ払って『鍵』で『モノリス』をアンタップ。『モノリス』より3マナ出して、『墳墓』で2点受けつつ計5マナの内4マナ」
『ヴィンテージ』だと制限だけど『レガシー』だと4枚使えるからね。許して欲しい。
『大いなる創造者、カーン/Karn, the Great Creator』
「はぁっ!? ちょ、ちょっとそれは無法が過ぎませんか!?」
あっ。お嬢様でもそういう言葉使うんだ。
「『レガシー』では無制限なんで。早速忠誠度能力を起動、効果は……+1の方にしましょう。対象は『Mox Ruby』。クリーチャー化した『Mox Ruby』は状況起因処理で墓地へ。手札より『不毛の大地』*35をプレイ。即アクティベート、対象は『Underground Sea』」
「そのまま墓地へ……」
「次ターン『不毛』使ったあと、『液鋼の塗膜』*36持ってきて『島』割りますけど、どうします? 続けますか?」
「……コンシードいたします……」
「ありがとうございました。って、なるわけありませんよね」
「当たり前です……! あんなのマジックではありませんわ!」
んー、それを言われると否定できないのが辛い。『茶単』の中でも、『スタックス』ってそもそもマジックさせないデッキだから。元々歩夢くん達にこういうデッキもあるよって、体験させるために組んだだけなんだよね。見てた方もドン引きですよ。
おい藤山弟。なんでお前が『やめなされやめなされ。惨い殺生やめなされ』みたいな顔をしている。この惨状、元はと言えばお前のせいだからな。
「まぁワタシとしても良いゲームだったとは口が裂けても言えませんねぇ。ですが、貴女が明佳を見る目も似たようなものかもしれませんよ」
「どういう意味ですか」
「アイツは貴女が思ってるような完璧なお兄様じゃありませんよ。電波で天然気味のどこにでもいる近所のあんちゃんですから」
「あの方を侮辱するのは許しませんわ!」
「いや、だからそういう所ですって」
面倒くさい。もうちょいぶっちゃけるか。
「だって無関係の女子高生襲った挙句、拉致して兄貴とBO5し始める馬鹿なんて早々いませんって」
「そんなデタラメを……!」
「まぁ。貴女の言う完璧な兄と言うのも、間違いなくあの人ですけどね。別にそこを否定する気はないです」
「その通りです! 兄さまはそれはもう……って」
ちょっと思考に隙間が出来たね。今なら言い方次第で話を聞いてくれるかな。
「要はかわいい妹分の前ではお兄ちゃんは格好つけたいんですよ。男の見栄ってやつです。貴女だってあの人の前では良い恰好したいでしょ?」
「それは……確かにそうですが」
よしよし。聞き耳持ってくれたな。もう一押し。
「それはあの人も同じですよ。あなたのその背伸び分の気持ちを酌みつつ、一度話してみた方が良いんじゃないですか? 随分お騒がせしました。冷静になるともの凄く恥ずかしいので退席させていただきますね」
最後まで面倒を見る気はない。あとは2人で解決してくれ。
……そういえば折角来たのに何も食べてないな。ドレス返したらやけ食いして、領収書おくりつけてやる。
後日。
「あのですね。2人の仲が折り合いついたのは喜ばしいことですし、感謝の気持ちを伝えたいのは分かりますが、あの時のドレス一式に加えて貴金属送るのはやめてくれません? 正直言って引きます。パーティのご飯分くらいは喜んで奢られますけど」
「すまない」
「貴方のような馬鹿との距離を玲愛さんが見直せたのは良いことですし、正直に向き合ったのはまぁ、凄いことだと思います。ワタシには到底無理です。あれから玲愛さんが訪ねてきて『おねえさま』と呼ばれたことに関しても、今は置いておきましょう」
「……本当にありがとう」
「で」
床に視線を落とす。一人の成人男性が首を垂れて蹲っている。
「なんで貴方のお兄さんは土下座してるんです?」
「……折り入って頼みがある。昔の女と一悶着あってな……」
「帰れ」
攻撃時に飛行と警戒を持つ4/4の天使トークンを攻撃している状態で生成するため実際の打点は13。機能すれば強いが、8マナと重く、出たターンではほぼ仕事をしないということから、評価は低かったが上述の『脂牙』が神河で登場したことで評価は一変。『パイオニア』で随一の速度をもつコンボデッキのキーパーツに躍り上がった。
他にも『教主』や『ハーフリング』等、かなり上位互換に近いカードはあるが、独自の強みがあるのは確か。
ちなみに何てことなさそうな+も一部カードとロクでもないシナジーを形成する。常在能力は更に『マイコシンスの格子』が組み合わされば地からマナが出せなくなる。その『マイコシンスの格子』もアーティファクトのため実質1枚コンボ。あんまりな惨状に『マイコシンスの格子』は『モダン』で禁止に。なんだコイツ。
元々は『Mox』を持ってないプレイヤーが『ヴィンテージ』で遊べるようにと言うことで刷られたそうだが、実際は自分で『Mox』を並べた後に出せば、相手の『Mox』だけ縛れる。各『Mox』からマナ加速してこれをX=1で置いて、その『Mox』を使わないデッキを封殺するという想定の真逆の事態が発生、めでたく『ヴィンテージ』で制限に。
豊富なマナ加速が前提の『ヴィンテージ』においてこれを許すとただの蓋閉じゲーになるため制限カード。何なら閉じた蓋を上から押しつぶしてくる。
そういやクソゲーやってなかったなと思い執筆。そしたらあんまりなことになったので前置きを書いたらこんなことに。
あくまで私見です。適当なこと言ってます。筆者の腕は先月のタイムレスBO1で、白単回してミシック1300位いかないレベルの腕しかありません。パワー不足と言えばそこまでですが、もうちょい良い構築あったかなと。それこそミッドレンジは扱いきれません。
流石にもう書けないと思います。ネタ投げてもらえばなんかやるかもですが、期待しないでください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。