えーっと、もうそんな時期なんですね。シルヴァンの兄が槍を盗んだやつ。
といってもマイクランとはお互い顔と名前を知ってる程度で大した交流はない。俺が病みに病んでた四年間もシルヴァンと違って一度も会いに来なかったし。まあ、好かれる理由もないし当然ではある。向こうもシルヴァンが懐いてるやつなんかに会いたくないだろうし。俺が懐くように仕向けたんだけど。
***
塔の上で待ち構えていた賊にリザイアをぶち当ててやれば、あっさりと倒れていく。
「あまり前に出すぎるな」
先生に指摘されて退く。するとフェリクスも、
「そうだ。下がっていろ。兄上は心身が薄弱だからな」
「フェリクスお前……。否定はできないけど」
俺と違って四年間毎日進み続けたお前は偉いよ。うん。
あくまで前線の回復に徹しつつ、戦況を見る。シルヴァンは活き活きと敵を引き付けているように見える。けど、多分本調子じゃない。一撃食らったのを回復してやりつつ、俺の側にすり抜けてきた敵はサンダーで撃ち抜く。
シルヴァンの奴、ここで無理するなとか言ったら無理なんかじゃありませんよ全然って笑うんだろうな。
最上階。ついに奴の元へたどり着いた。
「兄貴、さっさとやっちゃいましょう」
シルヴァンの声にマイクランの怒りが飛んだ。
「貴様も俺から奪うのかグレン!」
「えっ、俺?」
待て。俺が何を奪ったよ。全く身に覚えがないんだけど。
俺がマイクランから奪ったものなんてあったかなあ。
幼少期の思い出をひっくり返して探すけど、全く浮かびやしない。これ加害者は覚えてないけど被害者はずっと根に持ってる的なことか?
意図的に攻撃したことはないはずなんだけど、何か見て見ぬふりとかはしてしまったのかもしれない。シルヴァンを構うのに必死だったから。今更謝る資格なんてないけど。
「シルヴァンの兄は俺だろうが!」
なんか予想外の言葉が来たな?
「それは知ってるけど」
「何が兄貴だ」
「え、あ、まあ」
この人それで怒ってたの? 弟を取られたって? シルヴァンのこと大嫌いだからそういう怒り方はしないと思ってた。何であれ自分のものが奪われることに敏感ってことかな。理不尽だな。
ため息をつきながら俺は答える。
「シルヴァンが『優しい兄』を求めたのはなぜかわかるか?」
紋章がないのは仕方ない。お前はお前で苦しんでいたんだろう。だけど。
「兄の座が空白だったからだ」
お前が弟を虐げなければ、シルヴァンはそもそも兄貴分なんて必要としなかったんだ。
「頭を撫でられたことなんて一度もないと言っていた」
「不自然な怪我を癒してやったのも今思えばそういうことだったんだろうな」
シルヴァンの名誉の為に転んだことにしてやったけどさ。
「お前が捨てたんだよ、マイクラン」
一瞬、マイクランは言葉を失った。
その横でシルヴァンが、信じられないものを見るような目をしていた。
俺は自分でも驚くほど穏やかな声で続ける。
「……だから俺が拾った。ただそれだけのことだ」
魔獣と化したマイクランを倒す。とどめは俺のサンダーで討ち取ると、辺りには重い空気が流れた。そりゃそうだよな。魔獣になるなんて俺以外の誰も予想してなかっただろうし。
紋章を持たない奴が英雄の遺産を使うとこうなっちゃうらしい。なんでだっけ。俺に知識が足りなすぎる。
女神様が授けた力、みたいな感じなんだっけか? 強大な敵と戦うためとか?
そんなのいる?