俺は王家なんて概念的なものに本心から忠誠を誓ったことはないよ。
ただ、ディミトリの友達、ってだけ。向こうがまだそう思ってくれているならの話だけど。
そんなこと言ったら皆に呆れられちゃうかもだけどね。
***
俺はフェリクスにこう言い放ったんだった。
「ディミトリは生きてる」
「なぜそう言い切れる」
「……説明できる理由はないけど。でも、生きてるよ。きっと」
「兄上が言うと本当に生きている気がしてくるな。昔から勘だけは鋭かった」
***
早く見つけなきゃ。5年もかけたくないな。皆苦しんでるし。
いやでも、どうやって探せばいいのこれ?
帝国軍が残酷に殺されてる場所とか?
でも俺の身分というのは、案外動きづらいものだと気づいた。
俺に任された仕事は領内に逃げてきた旧王国民を保護すること。
生死不明のディミトリよりも確実に生きている人間を優先すべきだというフェリクスの言葉に反論できなかった。実際その通りだ。目の前で飢えている人を見捨てるなんてできない。
……でも、その間にディミトリが死んでいたら?
俺が何かを知らずのうちに変えてしまい、致命的な食い違いを引き起こしていないとどうして言い切れる?
そんな焦りを抱えたまま、俺は逃げてきた人々に「聖者」とか「セスリーンの再来」と呼ばれていた。
はは、笑える。俺はただ、死にたくないと祈り続けていただけなのに。
こんな俺に縋るしかないほど、皆追い詰められてるのかと思うと怖かった。
ところで、訳の分からない噂を聞いたんだけどあれ何? 教えてその辺の人。
「俺が教会の人造生物?」
「グレン様の白魔法は、理屈を超えているゆえに」
「意味がわからないってこと?」
「そうなりますな」
意味不明は学校でもよく言われたなあ。ローレンツと魔法の勉強会をしたときは「君は真面目にやっているのか! それでも貴族か?」って怒られた。クロードが「そいつに体系的な説明とか求めても無駄だぜ」って言ってくれて落ち着いたけど。
「もしそれが本当なら、俺もっと別の家で育てられたと思うんだよな。例えばセテスさんの隠し子とか」
「確かに」
自分でもこの例えはどうかと思うけど。
***
俺は弟に尋ねた。
「そういえばさ、フェリクス」
「なんだ」
「アイギスの盾ってあるじゃん。使わないの?」
「使わん。重い」
そう来るか。確かに速度を重視するフェリクスの剣技には向いてないかも。
「じゃあ俺使っていい? 父上も使わないみたいだしさ」
場の空気が凍った。
「はあ!? 何を戯けたことをほざく」
めっちゃ止められた。
「愚かにも程があるぞ貴様。マイクランの二の舞を踏むつもりか」
え?
……あ、そうか。
俺、紋章ないんだったわ。
「でも少しくらいなら」
「良い訳があるか」
フェリクスが睨みつけてくる。
「まかり間違って魔獣にでもなってみろ、それを討伐する俺の苦労はどうなる」
「ごめん」
「大人しく後ろで治癒だけやっていろ」
「わかったよ」