あのフレーチェって人、どっかで見たことあるんだよな。
……思い出して、俺は絶望した。
なんで忘れてたんだ俺。転生してから10年以上経ってるからとはいえ、それでも許されないだろ、これは。
我が父ロドリグの死亡フラグだぞ、あれは。
***
正直、父上のことは苦手だった。
引きこもる前までは立派な父親だと認識していたんだ。紋章の有無を重要視する王国貴族に生まれた中で、俺達兄弟を平等に育ててくれた。それってこの世界では決して簡単な事じゃない。『俺』は前世の記憶があるせいで紋章の有無なんかで扱いを分けるのくだらないと思っちゃうけど、それって結局あの世界の論理だろ。紋章という概念がない世界で生まれた価値観がフォドラで一般的なわけがない。紋章のない俺を息子として誇ってくれたことで、俺は父上に救われていたのだと思う。
けどさ。あの日……生き残って気づいちゃったんだ。『主君を庇って立派な最期を迎えたグレン』はこの世界のどこにも存在しないんだってこと。
何もできない俺が一日を無為に過ごすたびに、父上は俺を見限ってきたんじゃないかという疑念が拭えない。騎士らしくいなきゃ。家族を殺されるって経験をしてもなおディミトリの傍で支え続けたドゥドゥーという例がいるから余計に自分が嫌になる。
俺は恵まれてるのに。もっと苦しんでいる人がいるのに。生まれに翻弄されたり、自分の手で家族を手にかけたりした奴がいるのに。
ちょっと大怪我した程度のことで家から出られなくなった情けない男を父上はどう思ってるだろうな。
俺なんかがしぶとく生き残っててごめん。『グレン』でいられなくてごめん。
でも、いつか、誰かの代わりに死ぬことくらいはできると、そう思いたい。ああ、無理かな。生き延びちゃったんだもん。また命惜しさに全てを放り出すに決まってる。
***
俺が白魔法を学んできたのは、まさにこの瞬間の為にあったと思えるほどの一撃だった。
聖なる光で敵を焼き尽くす上級魔法オーラ。それは対象を、一分の狂いもなく撃ち抜いた。
「……どういう、ことだ」
ディミトリの唖然とした表情。
「何故殺した」
それが明確な過ちだったと気づいたときには遅かった。予定ではディミトリを狙う刺客を返り討ちにするつもりだった。そうしたらきっと父上も褒めてくれる。貴族として、騎士として、務めを果たしたと言える。そう思っていたのだけれど。
でも現実はそうじゃなかった。
早すぎたのだ。
「……あ」
狂気に陥って民間人を殺害した。今の自分が置かれた状況を見て。
俺はその場から逃げ出した。