ザ・少年漫画。熱血。それが俺にとってのカスパルの印象だった。
やたら早食いだったことは覚えている。リンハルトは「まあ見た目通りの人だよ」と言っていたので俺のイメージとそう離れることはないだろう。
あと俺が知ってることはというと……前に父上の死亡フラグ折ったことあるじゃん。あの女の子の親戚らしい。俺はこの情報原作で見てないぞ?
メリセウス要塞で俺とカスパルは対峙した。あいつはいつだって努力して、真っ直ぐで。……でも今目の前にいるのは、斧を振り下ろす殺意むき出しの戦士だ。
重い一撃が目の前に振り下ろされる。
ちょっと待て。これ掠っただけで死ぬんじゃないか?
勢い任せの斧。離れようとするが、向こうも距離を詰めてくる。
「真正面から来いよ!」
「いや死ぬだろ!? 正面から受けたら即死だよ!!」
ラファエルに筋肉量で挑むみたいなもんだ。
直感が告げる。ここで使うのはリザイアじゃない。オーラだ。なんでかっていうと死ぬから。説明になってないって? そうだな。まあ、あれだよ。リザイアは長期戦に適してるけど一撃で肉体を保たなくさせる相手には不向きだ。相手は並みの将じゃない。
「なんかこう……あれな感じで!」
崩れた詠唱、雑な祈り。けど俺の場合、それが成功しちまう。
白光がほとばしり、カスパルが一瞬たじろぐ。
だけど、彼はすぐに攻め込んでくる。
「逃げてばかりで守れるもんがあるのか!」
「逃げるわ! 生き残るのが最優先なんだよ!!」
「食らえ!」
追い詰められるほど詠唱が雑になる。先生に昔言われたことがある。でもそれは悪い事でもないらしい。俺の場合、詠唱の雑さが結果に悪影響を及ぼすことがほとんどないのだとか。
じゃあもう考えるのはやめる。
適当に連打していればなんとかなる。前世のアクションゲームでもそんな感じでラスボスを倒したことがあった。
「急に勢い強くなったじゃねえか……!」
それでもカスパルは魔法弾を斧で弾き飛ばしながら迫ってくるので一瞬たりとも油断できない。
永遠に続くかと思うほどの応酬。
正直、どちらが勝ってもおかしくなかった。
だけど俺は、その瞬間だけ奇跡が起きたように。
すべてが遅く見えた。
普段は何も考えずに置く、魔術の対象座標。
「……当たる」
今だけは確信があった。時々起こる、生命を繋ぐ核の部分を直接壊すような感覚。魔法という遠隔的手段でもはっきりとわかる、『人を殺した』という実感。
カスパルは驚いたような顔をしたまま崩れ落ち、二度と動かなかった。
普段ならあと数発、サンダー辺りを撃ち込むのだが。俺はそれが必要ない事を理解していた。
人を殺したというのに、俺にあったのは「ようやく勝てた」という爽快感。
思わず笑みがこぼれる。一度の失敗も許されない猛攻を乗り切ったのだから。
息が荒い。手は震えている。けれど心臓が高鳴っている。
「ははっ……!」
勝った。俺は、生き残った。
荒い息が耳に響く。膝が震えている。だが心臓はまだ高鳴っていた。
カスパルを倒すために必要だった過度な集中が、今は途切れて。
その慢心を断ち切るかのように。
横合いから突き抜ける風の刃。皮膚が裂け、熱い血が飛び散る。
石床を転がり、呼吸が喉で引っかかった。
「……え?」
耳が、まだ轟音で痺れている。
視界の端に、緑の髪が揺れるのが見えた。
彼は冷ややかに、氷のような声音で告げる。
「君には、眠ってもらうよ」