フェリクスの兄ってこれ死ぬやつですよね?   作:Moa

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転生グレンが行くメリセウス要塞(後編)

「……カスパルを返してよ」

 

耳に入った瞬間、心臓を素手で掴まれたような感覚が走った。

 

「お前、そんな事を言うのか」

 

あの合理主義者が。不可能を不可能と切り捨ててきた彼が。よりによってそんな願いを投げつけてくるなんて。

 

返せるはずがない。もう動かないあの身体が、脳裏に焼きついて離れない。

その瞬間、俺は余程のことをしてしまったのだと、遅すぎる自覚を突きつけられる。

人を殺すのには慣れてきたはずだったのに。

 

「行けぇ!」

俺は得意のリザイアを浴びせる。リンハルトは最小限の動きで回避しながら反撃の風を返す。

相変わらず精度がエグい。全てを回避することは難しい。だが、一手でも間違えれば崩壊しかねない。

 

気分はさしずめ盤上遊戯の問題集だ。

「理詰めはまずいな……」

相手は理論の積み重ねで築かれた鉄壁。

ならば、俺は感覚だけで突破するしかない。

「俺は感じたままに撃つ! お前は計算して撃つ! どっちが速いか試してみるか!」

 

少しでも体力を吸い取ってやる。

 

「君は魔術を遊び道具とでも思ってるの?」

鋭い風が俺の頬を切り裂く。

「祈るだけでどうにかできるわけないでしょ」

 

「……違う! 俺はなった!」

息を荒げながら叫ぶ。

「死ぬはずだった未来も変えられた! 祈って、必死で足掻いて。それで俺は、生きてるんだ!」

 

沈黙。だが返ってきた声は氷のように冷え切っていた。

「僕の前でそれを言うんだ?」

 

リンハルトの瞳がぎらりと光った気がした。

知識を積み重ねても、救えなかった命を抱えた男の、底の見えない憎悪と絶望。

空気の鋭さが増す。

 

「君とは仲良くなれるかもしれないと思ってた」

魔法陣が幾重にも輝く。

「二度とそう思うことはないだろうけど」

 

視線が逸れた、その先に横たわる亡骸。

「彼と君は、似てたから」

「ん? なんだって?」

「君と話すことはもうないよ」

 

カスパル戦で感じた、全てが順調に行きそうな天に登る感覚。あれにたどり着ければきっとリンハルトも倒せる。理論上は。

だけど結局そこにはたどり着けない。『再現』しようとしてしまう。それを意識する時点で、完全には集中できていないという証拠だ。

 

そして、目の前の男は……そんな隙を決して見逃さない。

 

だから俺は諦めたんだ。

「何を考えているのかな」

ここが俺の死に場所と定めれば、やれることはまだある。

……本来ならとっくに死んでいた命だ。

でも、心臓はまだ「生きたい」と喚いている。

その矛盾ごと、ここに置いていくしかない。

 

少しでもリンハルトを足止めして周りの負担を減らす。

食らった分だけリザイアで吸い尽くしてやる。

9年前と同じだ。

 

血で滑る杖を握り直し、リンハルトを睨みつける。恨みなんかはない。あるとして逆だろうけど。理不尽だろうと、何だろうと俺は彼を止めなければならないのだ。

 

何か、たった一つを変えられればそれでいい。俺は逃げない。騎士とか貴族とか、そういう話じゃない。ただ、友達を見捨てて逃げるような奴にはなりたくなかった。

 

俺の命に意味があればいいと願った。

 

***

 

そして俺達は、激闘の末に。

視界が赤黒く揺れ、互いの姿も曖昧になりながら。

同時に倒れこんだ。

 

よくここまで持ち込んだよ、俺は。帝国屈指の頭脳派、眠りがちな天才学者に。

 

凄惨な戦場に落ちた静寂の中。

その寝顔は、まるで戦場には似つかわしくないほど穏やかで。

だからこそ残酷なまでに綺麗で、俺はぞっとしたことを覚えている。

 

 

 

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