俺はクロニエやソロンの一味ではない。俺だけが知っていることを暴露して、なんとか信用してもらおう。
そう思ってぶちまけた「ディミトリに味覚がない」という真実は見事に空振りした。
当の本人によって否定されたからだ。
それでも話を聞いただけではまだ半信半疑だった。
アネットの料理を食べて、俺は思ったことがある。
今回は味付けに失敗してしまったようだが、今日はこれを逆に利用しようと思う。
「アネット。これをちょっと実験に使わせてくれ」
「え、どういうこと?」
「確かめたいことがあるんだ」
この『砂糖と塩を間違えちゃったやつ』を……。
ディミトリに食べさせる。
「……砂糖と塩を間違えたのではないか?」
秒でバレた。
「味覚あるんだな」
「だからそう言っているだろう」
俺がどっかで見た情報は嘘だったのか? 俺はインターネットのデマに踊らされていたのか?
逆になぜ味覚がないと考えたなんて聞かれてしまえば答えに窮する。
「食べ方を見て、なんとなく……?」
「お前の勘は鋭いが、今回ばかりは違ったようだな」
勘とは……呼べないんだよなあ、これが。
***
「手が込んでいて、俺たちの為に作ってくれたのがよくわかる。とても嬉しいよ」
言葉選びが上手いなぁディミトリ。味の話全くしてない。いや、このディミトリは不思議なことに味覚があるんですけどね。じゃあ味の話になってないのはただの偶然?
ドゥドゥーやアッシュの料理を美味しく食べるディミトリを見ていると俺としては良かったと思うものの、何がディミトリの味覚を変えたのかは全く思い当たらない。俺の知らない間に誰かが何かをしたんだろう。駄目だ、何一つ具体的じゃないぞ。誰が何をしたのかが大事だってのに。俺は食欲が死んでる事はあったけど味覚を失ったことはない。
そういえば栄養不足でなるかもと聞いたことがある。ずっと無茶な生活してたらそうなるのか。じゃあ放浪期にいつの間にかなくなってたの? もっと前だったような気がするんだけど。
ストレスかなあ? 大体の不調はストレスで説明付くかもしれないって誰かが言ってたような気がする。そりゃディミトリにストレスがあるかないかでいえばめちゃくちゃあるだろうけど、だったら今も味覚がない状態じゃないとおかしくないか?
二人とも料理人になれると語るディミトリに、それは確かにありだなと俺も頷く。俺が引きこもっている頃に作ってくれたダスカーの甘味はどうだ。あれなら毎日でも通うぞ。
え、家はどうするのかって? 何言ってんだよ、フェリクスが継ぐだろ。
「それは……お前に紋章がないからか?」
「いや? 関係ないけど」
「俺は修道院で働きたいと思ってる。戦争が終わっても復興にはまだまだ時間がかかるし、孤児だって増えちゃっただろ。そういった子たちが安心して過ごせる場所を提供したいんだ」
「自分で選んだ道なんだな。いいと思う」
***
【後日談】
王ディミトリは、人が紋章の有無によって人生を諦めることのない国を目指し、数々の改革を進めた。
その信念の根底には、かつて兄のように慕った一人の男――フラルダリウス家の長子グレンの姿があったという。
王はその名を大きく語ることはなかった。だが、親しい臣下の前でぽつりと「尊敬する人だった」とだけ口にしたことがあると伝わる。
一方で、彼にまつわる奇妙な逸話も残されている。曰く、グレンはしばしば「ディミトリには味覚がない」と主張していたという。
国王が食事を楽しみ、料理人に感謝を述べる姿を見れば、これほど荒唐無稽な話もない。
だがその話は、かえって両者の親密さを物語る笑い話として、民の間に広まっていった。
番外編案
-
ベルナデッタ(引きこもり)
-
ヒルダ(みんなの兄とみんなの妹)
-
リンハルト(もしかしたら仲良く)
-
フェリクスの反抗期の話
-
幼馴染組以外の青獅子の絡み