俺は焼き菓子を貪りながらどうにか生き残る方法はないか考える日々を送っていた。
ダスカー行き前日に失踪でもするか。そんな事をしたら二度と家には戻れないだろうし、一人で生きていく自信もない。フェリクスだったら剣の腕を活かして傭兵にでもなればいいけど、俺は成長が止まってしまったらしいから。
それに、俺が消えた結果ディミトリが死んだらそれこそ原作崩壊だろ。そうしたら何が起こるかなんて何一つ読めなくなる。そもそもあいつに死んでほしくはないし。
女神様助けてください。俺の運命をどうにか変えてください。いや努力はするけどね? でもね、あるじゃん。努力だけじゃどうにもできないこと。色々頑張って、最後の一手は運に頼るしかないって、そういう状況。
あれから剣を鍛えてるけど、フェリクスに全然勝てなくなっちゃった。俺向いてないのかなあ。
するとフェリクスが俺に何かを差し出してきた。
「やる」
お菓子、追加で貰ってしまった。本当にいいの? お前の分だろ。
「俺は甘いものは好かん」
「ありがとな! 今度肉分けてやるから」
フェリクスはこう見えて食べっぷりが可愛い。つい与えたくなってしまうのは兄という存在に産まれてしまった業なのかもしれない。
「食の好みが変わったか?」
「そんなことないよ」
俺はね、前世からずっと甘党。ブラックコーヒーとかは割と無理です。そういえばコーヒーに似た飲み物がフォドラにもあるらしいけど、ミルクと砂糖をドバドバ入れちゃおうかな。ちょっとヒューベルトにドン引きされるかもしれない。エーデルガルトに害を加えるわけじゃない(今のところはね)から許して。
前世ほど甘味が充実していない事をちょっと寂しく思うこともあるけど、コーラの作り方とか知ってるわけでもないし。それに、焼き菓子ならいくらでも食べれるしな。こういう時、貴族でよかったと思う。あまり食べすぎると父上がその分訓練をとか言ってきそうだけど。
***
「あなたは白魔法に向いているわ」
イングリットから予想外の指摘を受けた俺は目を丸くした。
「そうか? 確かに少しは使えるけど」
「毎日祈っているでしょう。フェリクスから聞いたわ」
自覚はなかったけど、そうだったらしい。
「兄貴、試しに俺の怪我治してみてくださいよ。この前女の子を追いかけたら転んじゃいまして」
「何をやっているのシルヴァン?」
本当に女の子を追いかけただけかと疑問を呈したくなる傷だったが、黙って回復しよう。シルヴァンはそういうの踏み込まれたくないだろうし。
女神様に祈りを捧げる。助けてくださいソティス様。どうせ今頃は原作主人公の中にいるんでしょうけど。俺の声届くかわからないけど。心で叫ぶ。いい感じになれー!
すると光が舞って、シルヴァンの傷が治っていく。原理は全くわからないが。これがね、教本を読んでも理論が全く頭に入ってこないんだな。結果的に魔法は使えるから困ったことはないんだけど。
「ありがとうございます、これでまた可愛い子に声かけられますよ」
イングリットは呆れているが、ひとまず解決した。よし。
という事があって、俺は白魔法を極めることにした。これはやたら周りが勧めてきたからっていうのもあるんだけど、もうひとつ深刻な悩みがあってのことでして。
普通に育成したら原作通り死ぬんじゃね?
いやあグレンの原作通りがどうだったかなんて知るわけないけど、まさかこんなガチ後衛なわけないだろ。俺の偏見ではソードマスターとかパラディンっぽい。最終ホーリーナイトはワンチャンあるかな。めっちゃ光属性な気がする。
性格だって知ったこっちゃないけど、まあいい人だったんだろう。ディミトリを庇って死ぬくらいだからな。まさに理想の騎士って感じの。悪い噂全然聞かないもん。
という事で死にたくないばかり考えてる良い人とは程遠い俺は、白魔法の練習を始めるのであった。